ハイキュー‼/黒尾夢
「彼女より別の女の子を優先させるようじゃ無理か。彼女はね、誰よりも大切にしないと」
「は? いきなりどうしたんだよ」
彼女とはいつものように一緒に屋上でお昼を食べていたはずだ。俺が先に食べ終わって後輩にメッセージを返してる最中に言われた言葉にスマホから彼女の方に視線を向ける。彼女は俺の方を見ずにお弁当を食べながら答えた。
「いきなりじゃないよ。ずっと私が思っていた事なの。ねぇ、鉄朗? 私はね、“恋人”って“一番好きな人、大切にしたい人”のことをいうと思うの。鉄朗はさ、私の恋人って自覚ある?」
「あるに決まってるでしょ。だから、こうして一緒にお昼食べたり、部活がない日は一緒に帰ったりもする。休日はデートだってしてるだろ」
「でも、それは後輩のあの子ともしてるよね。今日のお昼だって私とは久しぶりだし、デートももう3か月以上していない。それにいまだってその後輩にメッセージを返すのに夢中だったでしょ」
「それは……アイツが新人のマネージャーで主将の俺がサポートしなきゃいけないからで……」
「それでも一緒にお昼を食べたり、帰ったりする必要ある?」
「アイツがバレーや部の事をもっと知りたいって言うから教えてあげてるだけ。その時間もお昼休みぐらいしかないから、仕方なく。帰るのも部活がある日だけだし、アイツとは家の方角が一緒だから」
「ふーん。じゃあ、この前のデートをドタキャンしたのは? その後輩ちゃんと出かけるためでしょ。しかも、前もその前もそうだったよね」
「それは急な部活の買い出しとかに付き合わされて。俺しか気軽に頼れるやつがいないみたいだから仕方ないだろ」
俺と視線を合わせようとせず、ただひたすらにお弁当を食べながら話していた彼女とようやく目が合う。彼女の目には呆れと怒りが浮かんでいた。
「仕方ない? もうその言葉聞き飽きたんだけど。私がどれだけ我慢して、すごく寂しかったか分かる?」
「……悪かった」
「謝らなくていいよ。どうせこれからも同じこと繰り返すと思うし」
「そんなことは……「別れよう、鉄朗。いや、私と別れてください。他の女を優先させる彼氏は私は求めてないので」
「えっ? ちょっと、待ってくれよ! これからは気を付けるから」
「気を付ける? やめるとは言ってくれないんだね」
「!? もう少しだけ待ってくれ! そうすればアイツも……」
「もう少しっていつ?」
「それは分からないけど……」
「はぁ~、もういいよ。そういうことだから、さよなら」
彼女は広げていたお弁当を素早く片付け、俺に背を向けて立ち去ろうとしたので、彼女の手を掴んで引き止める。
「ちょっと! まだ話は終わってないでしょ!」
しかし、振り向いた彼女の視線があまりに冷たく、俺が思わず手を緩めたすきに彼女は無言でそのまま去っていく。俺はもうその後ろ姿をただ見つめることしかできなかった。