ハイキュー‼/黒尾夢
「私、黒尾のこと好きだよ」
「知ってるよ」
「黒尾は? 私のこと好き?」
「嫌いだったら、付き合わないでしょうが」
「それもそうだよね」
今日も黒尾は好きとは言ってくれない。
「ずっと前から好きだったの。もし良かったら、私と付き合ってください」
「俺で良ければ」
黒尾とは高校1年生からずっと同じクラスで、仲の良いクラスメイトだった。優しくて面白い黒尾に少しずつ惹かれていき、いつしかこの関係性を変えたいと思うようになったのはいつだったか。私はさりげなくアピールしつつ、ついに告白を決行。成功率は五分五分の認識だったが、どうやら神様は私に味方をしてくれたらしい。
「えっ? 本当に? 私でいいの?」
「だからそう言ってるでしょ。あっ、でも周りには秘密にしてほしいかな。変に気を遣われたり、からかわれたりするのが苦手でさ」
「そっか、そうだよね……。分かった!」
「ありがとう」
こうして、私たちは周りには内緒で付き合うことになった。
------------------------------
秘密の関係ということで、大っぴらには行動できなかったけど、メッセージのやり取りや休日のデートなど、交際は順調だったと思う。ただ、気になるとすれば黒尾は返信が遅く、デートの誘いやスキンシップもいつも私から。もっとリードしてくれるタイプかと思ったら、どうやら違ったらしい。それでも黒尾は優しく、私は付き合えただけで嬉しかったため、それを考えないようにしていた。
ある日の放課後。友達とおしゃべりを楽しんでいると、話題は恋愛の話になる。
「この前彼氏と行ったカフェがすごくオシャレでさ、今度行こうよ!」
「いいね、行ってみたい! 相変わらず彼氏と仲いいんだね」
「まぁね。あんたは彼氏とか作らないの?」
「うーん、私は良い人がいれば、かな」
本当は彼氏がいることを言いたかったが、黒尾と約束した以上そうもいかない。
「そっか~。あっ、黒尾とかは? 仲いいでしょ」
「そうかな? 別に普通だよ。お互い仲の良い友達って感じ」
「え~! お似合いだと思うんだけど」
私達ってそう見えるんだ。私は友達の言葉が純粋に嬉しかった。
------------------------------
「黒尾、いいと思うんだけどな~。いい彼氏になること決定してるし」
「……それってどういう意味?」
「私が黒尾と同中なのは知ってるでしょ? 黒尾と私の友達が当時付き合ってたんだけど、もう周りが羨むほどの仲の良さで。まぁ、主に黒尾がベタ惚れだったんだけどね」
「その話、もっと聞きたいかも」
「えっ? まぁ、いいけど……」
そして、友達の話に私は衝撃を受けた。
黒尾はその子のことが大好きだったらしく、部活がない日の帰りは必ず一緒で、朝は迎えに行くこともあったらしい。休み時間も常に2人で過ごしていて、休日のデートはもちろん、贈り物も欠かさない。さらには、人目もはばからず手を繋いだりするなどのスキンシップも多かったとのこと。
「その子によると、連絡もまめだし、ことあるごとに好きって伝えてくれるんだって。デートもリードしてくれて、色んな所に連れてってもらったとか。あ、その子に黒尾とのペアリングを見せられたこともあったかも」
「……でも、別れちゃったんだよね?」
「うん。その子が別の人を好きになって、黒尾のことふっちゃったんだよね。あの時の黒尾の落ち込みようは見ていられなかったな~」
「そっか……」
「まぁ、もう昔のことだし、黒尾も吹っ切れてるんじゃない? とにかく私が言いたいのは、黒尾がおススメの彼氏ってこと! あんた、そういうタイプが好きだって前に言ってたでしょ? だから、ぴったりだと思って」
「あはは、そうだっけ……」
私は苦笑いで返すことしかできなかった。だって、まさに私の彼氏は黒尾だから。でも、いまの黒尾と、友達から聞いた黒尾は全然違くて。どっちが本当の黒尾なの? 私はその答えを見つけられずにいた。
―――――――
今日は黒尾との久しぶりのデート。もちろんお誘いは私から。2人で気になっていた映画を観て、いまはカフェでランチをしている。
「あの場面、良かったよね」
「だな。前作のアイツも出てきたのは驚いたけど」
「あのキャラって前作も出てたんだ? 私、前のやつは見てなくて」
「確か前作は3年ぐらい前かな。そん時は……」
話の途中で黒尾が言葉につまった。
「黒尾?」
「あっ、わりぃ。まぁ、とにかく面白かったよな」
「……うん」
それから話は別の話題に。私はなんとなくだけど、前作は元カノと観に行ったんじゃないかと思った。言葉に詰まったのはその頃を思い出していたんじゃないかって。だって、黒尾の表情がすごく切なさそうだったから。私の予想はおそらく当たっているだろう。
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
いけない、つい考え事をしてしまった。黒尾は勘が鋭いから気を付けなきゃ。
「それよりさ、この後雑貨屋さんに行きたいんだけど、大丈夫?」
「いいけど、何か欲しいものとか?」
「うん。黒尾がもし良かったら、ペアのキーホルダーを買いたいなと思って。ぱっと見ペアだと分からない感じのオシャレなキーホルダーだから、それぐらいならいいかなと思ったんだけど……どうかな?」
友達から元カノの話を聞いた時に、ぺアリングとまではいかなくても、何か形のあるものが欲しいと思った私はあの後調べつくして、ようやく見つけたのだった。
「あ~、ダメとかではないんだけど……なんていうか……」
黒尾が戸惑うような表情で言葉を濁す。あっ、これはダメなやつだ。
「やっぱ難しいよね~。なんとなく思っただけだから、気にしないで! 本当のお目当てはペンケースなの。この前壊れちゃって。その壊れた原因がさ~」
私はその場の空気を重くしたくなくて、明るく笑いながら話題を変える。あからさまにホッとする黒尾に傷つきながら、私は話し続けた。
そして、ランチが終わり、買い物を満喫した後の帰り道。私は周りを見渡し、誰もいないことを確認すると、黒尾と手を繋ごうと手をのばす。その瞬間、その手を振り払われた。
「え!?」
「あっ! ごめん……」
「ううん、こっちこそいきなりごめん。誰もいないからいいかなって」
「あ~、なるほどね。俺も繋ぎたいけど、もしかしたら誰か来るかもしれないし。だから……また今度でいい?」
「そうだよね、大丈夫! 確かに気を付けなきゃだよね」
私はまた笑顔をはりつける。こういうやり取り、何度目だろう。そう思いつつ、何事もなかったように黒尾と接していると、私の家の前まで着いた。
「今日はありがとう。久しぶりで楽しかったよ」
「なかなかデートできなくて、ごめんな。学校でもあまり一緒にいられないし……」
「秘密にしてるんだから、仕方ないよ。それにバレー優先なのも分かってるから」
「ありがとな」
「……あのね、黒尾」
「ん?」
「私、黒尾のこと好きだよ」
「知ってる」
「黒尾は? 私のこと好き?」
「嫌いだったら、付き合わないでしょうが」
「それもそうだよね。それじゃあ、また学校でね」
「あぁ」
黒尾に別れを告げ、一人部屋に戻ると、ベッドに寝転ぶ。
「今日、頑張ったんだけどな……」
私は何かしら元カノへの対応との共通点を見つけたくて、とにかく必死だった。だから、ペアグッズも買おうと提案したり、外で手を繋ごうと行動を起こしたし、好きって言葉ももらおうとした。全部無駄に終わったけど。
「これってもう答え出てるよね」
黒尾は私の事が好きじゃない。優しいから、仲の良い友達だから、告白が断れなかったから。ただ付き合ってるだけの理由ならいくらでも思いついた。
だから、元カノとの対応が違くても仕方ない。それでも付き合えてるんだからいいでしょ。私はそう自分に言い聞かせながらそのまま眠りについた。