ハイキュー‼/黒尾夢
私が自分の手を見ていると、隣の席の黒尾くんが話しかけてきた。
「何してるの?」
「昨日、推しとのグリがあって」
「グリ?」
「えっと、グリーティングのこと。よくテーマパークにいくと、着ぐるみのキャラクターがいて、写真撮ったりできたりするでしょ。それのこと」
「なるほどね。で、どうして手を見てたの?」
「昨日のグリで推しと握手したんだけど、手が大きくて私と全然違うの。もちろん着ぐるみだから本物じゃないのは分かってるんだけど、でもなんか感動したというか……」
「ふーん。つまり、昨日の事を思い出して自分の手を見てたってことね」
少しつまんなさそうな顔をした黒尾くんがいきなり私の手を包み込むようにして握ってきた。
「……黒尾くん?」
「どうですか、俺の手は?」
「えっと、その……」
「あはは、テンパりすぎ」
「誰のせいだと……!」
「俺のせいかな?」
先ほどとはうってかわって面白そうに黒尾くんは「俺の手の感想を言うまでこのままな」と私の手を離さない。
「分かった! 言うから!」
「どうぞ」
「大きくて、温かくて、けっこうごつごつしていて……」
「うんうん」
「男の人だなって……」
「まぁ、それで勘弁してあげる」
そう言うと黒尾くんはようやく私の手を離す。それに安堵すると同時に、名残惜しいと思ってしまった自分に驚く。
「あれ? もしかして離してほしくなかった?」
図星をつかれた私は、「……知らない!」と恥ずかしさをごまかすように席を立った。
――――――――――――――
女の子が教室を出て行った後。
「はぁ~、あいつの手。小さくて、柔らかかったな~」
と、机に突っ伏す黒尾がいたとかいないとか。