NARUTO/ナルサク 短編
Loveless/山下智久
「サクラちゃ~ん!」
返事も待たずに診察室のドアを開け入ってくるのはナルトだった。
「あんた、ノックぐらいしなさいよね。それに私はいま仕事中よ」
「俺とサクラちゃんの仲だから、大丈夫だってばよ」
「どういう仲よ。まぁ、いいわ。で、用件は?」
「サクラちゃんが冷たい……」
泣きまねをするナルトに呆れつつ、「そういうのはいいから」と用件を促す。
「そうそう。ヒナタへの誕生日プレゼントなんだけど、何がいいってばよ~?」
「はぁ~。ちょっとは自分で考えなさいよ」
ナルトは時々、いやほぼ毎日と言っていいほど私の元へやってきて、こうして他愛もない話をする。内容は今回のような恋愛相談の時もあれば、任務の話や昔話の時もある。仕事中にいかがなものかと思うが、偶然にもナルトがやってくるのは私の仕事が落ち着いている時がほとんど。まさかちゃんとタイミングを見計らってるのではないかと思ったが、ナルトはそんなに器用じゃないはずだから、偶然だと私の中では答えを出していた。
「ヒナタならなんでも喜ぶと思うけど」
「でもよ~、やっぱり欲しいものをあげたいじゃん。サクラちゃんは何が欲しいってばよ?」
「なんで私の欲しいものになるのよ」
「同じ女の子じゃんか」
「そうだけど……。まぁ、私だったらアクセサリーとか嬉しいかも」
「アクセサリーか……。オレもそう思ったんだけど、種類が多くて……」
「指輪が一番うれしいけど、まだ早いと思うし……ブレスレットやネックレスはどうかしら?」
「なるほどな! サクラちゃんがそう言うならそうする! ありがとうだってばよ!」
そう言ってナルトは去っていく。それと同時にいのが入ってくる。
「またナルトのやつ、来てたの?」
「うん。ヒナタの誕生日プレゼントの相談だったみたいよ」
「ふ~ん」
「何よ?」
「いや、やっぱりヒナタと付き合ってるんだなって」
「そりゃあ、そうでしょ」
「でも、知ってる? 病院の子たちはアンタとナルトが付き合ってると思ってるわよ」
「はぁ!? なんでそうなってるのよ」
「ナルトが頻繁にサクラの元を訪れてるからよ。それに、休みの日もよく一緒に出かけてるんでしょ? 病院の子たちがデートしてたって騒いでたわよ」
「ナルトは大切な仲間。それ以上でも以下でもないわ。それに、ナルトがよく私の元へ来るのは私しか相手してくれる人がいないから。先生は忙しいし、サスケくんは旅に出てるし……。ヒナタに関する相談も、ヒナタを除けば私が一番近い女だから。休みの日もデートの下見に付き合ってるだけよ」
「でも周りはそうは思っていないみたいよ。それにあんたたち、私から見ても何か距離感とかが近いのよ」
「そりゃあ、元同じ班だし、あの大戦を乗り越えたんだから当たり前よ」
「本当にそれだけかしらね~」
いのは怪しむように私を見てくるが、「……まぁ、いいわ。それよりこれ頼まれてたものよ」と言って資料を私に渡すと出て行った。いのから受け取った資料を見ながら、私は先ほど言われた言葉を考えていた。
ナルトと私が付き合ってるか……。確かに客観的に見ればそう思われるのも仕方ないかもしれない。でも、私だって前に一度“こういうのは周りが勘違いするから、やめた方がいいわよ”とナルトに注意したのよ。でも、ナルトが“嫌だ。オレにはサクラちゃんしか頼れる人がいないんだってばよ”と泣きわめくんだから、仕方ないじゃない。
それに……まわりにそう思われることに少し優越感を感じている自分がいる。だって、私はナルトが好きだから。
大戦が終わり、サスケくんへの気持ちは友愛に変わり、それと同時にナルトへの気持ちに気づいた。けれど、ナルトはすでにヒナタと付き合っていて、私の入る隙間なんてなくなっていた。それでも諦めきれずに私はナルトに告白をした。もしかしたらという希望を捨てられなかったのだ。
「ナルト……私、やっぱりあんたのことが好きなの」
「サクラちゃん……」
「今度は嘘じゃないわ。本気よ」
「それは分かってるってばよ。でも……ごめん。俺はヒナタを裏切れないってばよ」
ナルトは頭を下げる。
「ちょっと! ナルト、顔をあげて!」
「ごめん……本当にごめんってばよ」
ナルトの顔を無理やり上げると、その目からは大粒の涙が流れていた。
「泣かないで。私なら大丈夫だから! ねっ?」
「サクラちゃん……」
「いままで本当にありがとう。ヒナタと幸せになんなさいよ!」
「うん……。でも、これからも一緒にいてくれる? 俺にとってサクラちゃんは大切な女の子なんだ」
何て残酷なことを言うんだろう。でも、私はナルトを安心させるために無理やり笑顔を作る。
「当たり前じゃない! 私とアンタの仲は変わらないわ!」
そう言うと、ナルトは安心したように笑った。
ナルトには既にはっきりと振られている。それでもナルトは私を一番に頼ってきてくれる。それでいいじゃないか。たとえ仲間としか思われていなくても、ナルトのそばにいられるだけで充分。私は自分にそう言い聞かせていた。
―――――――――――――――――――――――――――
翌日もナルトはやってきた。
「また来たの? 今度は何?」
「えへへ。今日はサクラちゃんに渡すものがあるんだってばよ。はい、これ」
そう言って細長い小さなラッピングされた箱を渡される。
「ありがとう。開けていい?」
「うん!」
何だろうと思って開けると、それは桜のチャームがついたネックレスだった。
「うわぁ~、可愛い! でもどうして? 誕生日でもないのに」
「ヒナタのプレゼント買いに行った時に見つけて、これサクラちゃんにぴったりだと思ったんだってばよ! サクラちゃんがつけてるところ見たいなと思ったら、いてもたってもいられなくて……」
「ナルト……あんたってやつは……」
私は赤くなった顔を隠すため俯くと、「サクラちゃん?」と心配して覗き込んでくる。
「サクラちゃん!? 顔が赤いってばよ! 熱でもあるんじゃ……」
「バカ! 違うわよ! 照れているのよ!! あんたが柄にもないことするから!」
ナルトがあまりにもオロオロしてるため、私は思わず怒鳴る。
「!? そっか……なら、良かったってばよ」
ナルトが心底安心した表情をする。私はその表情を見てつい言葉をこぼす。
「……ねぇ、せっかくだからつけてよ」
「えっ?」
「このネックレス。早く!」
「おっ、おう……」
そう言ってネックレスを渡すと、ナルトは顔を真っ赤にして受け取り私の背後にまわる。そして、ネックレスをしどろもどろになりながらつける。こういうところはうぶなのよね。
「……終わったってばよ」
「ありがとう。どうかしら?」
私はネックレスがついた首元を見せる。
「オレの予想通り、バッチリ似合ってるってばよ!」
ナルトは満足そうに笑った。私もそれにつられて笑った。
ナルトが去ったあと、私はネックレスを見つめる。ナルトに他意がないのは分かってる。それでも好きな人からのプレゼントは嬉しい。本当だったら、受け取るべきではないのに……。でも、これぐらいはいいよね。私はネックレスをそっと愛おしそうに撫でた。
「サクラちゃ~ん!」
返事も待たずに診察室のドアを開け入ってくるのはナルトだった。
「あんた、ノックぐらいしなさいよね。それに私はいま仕事中よ」
「俺とサクラちゃんの仲だから、大丈夫だってばよ」
「どういう仲よ。まぁ、いいわ。で、用件は?」
「サクラちゃんが冷たい……」
泣きまねをするナルトに呆れつつ、「そういうのはいいから」と用件を促す。
「そうそう。ヒナタへの誕生日プレゼントなんだけど、何がいいってばよ~?」
「はぁ~。ちょっとは自分で考えなさいよ」
ナルトは時々、いやほぼ毎日と言っていいほど私の元へやってきて、こうして他愛もない話をする。内容は今回のような恋愛相談の時もあれば、任務の話や昔話の時もある。仕事中にいかがなものかと思うが、偶然にもナルトがやってくるのは私の仕事が落ち着いている時がほとんど。まさかちゃんとタイミングを見計らってるのではないかと思ったが、ナルトはそんなに器用じゃないはずだから、偶然だと私の中では答えを出していた。
「ヒナタならなんでも喜ぶと思うけど」
「でもよ~、やっぱり欲しいものをあげたいじゃん。サクラちゃんは何が欲しいってばよ?」
「なんで私の欲しいものになるのよ」
「同じ女の子じゃんか」
「そうだけど……。まぁ、私だったらアクセサリーとか嬉しいかも」
「アクセサリーか……。オレもそう思ったんだけど、種類が多くて……」
「指輪が一番うれしいけど、まだ早いと思うし……ブレスレットやネックレスはどうかしら?」
「なるほどな! サクラちゃんがそう言うならそうする! ありがとうだってばよ!」
そう言ってナルトは去っていく。それと同時にいのが入ってくる。
「またナルトのやつ、来てたの?」
「うん。ヒナタの誕生日プレゼントの相談だったみたいよ」
「ふ~ん」
「何よ?」
「いや、やっぱりヒナタと付き合ってるんだなって」
「そりゃあ、そうでしょ」
「でも、知ってる? 病院の子たちはアンタとナルトが付き合ってると思ってるわよ」
「はぁ!? なんでそうなってるのよ」
「ナルトが頻繁にサクラの元を訪れてるからよ。それに、休みの日もよく一緒に出かけてるんでしょ? 病院の子たちがデートしてたって騒いでたわよ」
「ナルトは大切な仲間。それ以上でも以下でもないわ。それに、ナルトがよく私の元へ来るのは私しか相手してくれる人がいないから。先生は忙しいし、サスケくんは旅に出てるし……。ヒナタに関する相談も、ヒナタを除けば私が一番近い女だから。休みの日もデートの下見に付き合ってるだけよ」
「でも周りはそうは思っていないみたいよ。それにあんたたち、私から見ても何か距離感とかが近いのよ」
「そりゃあ、元同じ班だし、あの大戦を乗り越えたんだから当たり前よ」
「本当にそれだけかしらね~」
いのは怪しむように私を見てくるが、「……まぁ、いいわ。それよりこれ頼まれてたものよ」と言って資料を私に渡すと出て行った。いのから受け取った資料を見ながら、私は先ほど言われた言葉を考えていた。
ナルトと私が付き合ってるか……。確かに客観的に見ればそう思われるのも仕方ないかもしれない。でも、私だって前に一度“こういうのは周りが勘違いするから、やめた方がいいわよ”とナルトに注意したのよ。でも、ナルトが“嫌だ。オレにはサクラちゃんしか頼れる人がいないんだってばよ”と泣きわめくんだから、仕方ないじゃない。
それに……まわりにそう思われることに少し優越感を感じている自分がいる。だって、私はナルトが好きだから。
大戦が終わり、サスケくんへの気持ちは友愛に変わり、それと同時にナルトへの気持ちに気づいた。けれど、ナルトはすでにヒナタと付き合っていて、私の入る隙間なんてなくなっていた。それでも諦めきれずに私はナルトに告白をした。もしかしたらという希望を捨てられなかったのだ。
「ナルト……私、やっぱりあんたのことが好きなの」
「サクラちゃん……」
「今度は嘘じゃないわ。本気よ」
「それは分かってるってばよ。でも……ごめん。俺はヒナタを裏切れないってばよ」
ナルトは頭を下げる。
「ちょっと! ナルト、顔をあげて!」
「ごめん……本当にごめんってばよ」
ナルトの顔を無理やり上げると、その目からは大粒の涙が流れていた。
「泣かないで。私なら大丈夫だから! ねっ?」
「サクラちゃん……」
「いままで本当にありがとう。ヒナタと幸せになんなさいよ!」
「うん……。でも、これからも一緒にいてくれる? 俺にとってサクラちゃんは大切な女の子なんだ」
何て残酷なことを言うんだろう。でも、私はナルトを安心させるために無理やり笑顔を作る。
「当たり前じゃない! 私とアンタの仲は変わらないわ!」
そう言うと、ナルトは安心したように笑った。
ナルトには既にはっきりと振られている。それでもナルトは私を一番に頼ってきてくれる。それでいいじゃないか。たとえ仲間としか思われていなくても、ナルトのそばにいられるだけで充分。私は自分にそう言い聞かせていた。
―――――――――――――――――――――――――――
翌日もナルトはやってきた。
「また来たの? 今度は何?」
「えへへ。今日はサクラちゃんに渡すものがあるんだってばよ。はい、これ」
そう言って細長い小さなラッピングされた箱を渡される。
「ありがとう。開けていい?」
「うん!」
何だろうと思って開けると、それは桜のチャームがついたネックレスだった。
「うわぁ~、可愛い! でもどうして? 誕生日でもないのに」
「ヒナタのプレゼント買いに行った時に見つけて、これサクラちゃんにぴったりだと思ったんだってばよ! サクラちゃんがつけてるところ見たいなと思ったら、いてもたってもいられなくて……」
「ナルト……あんたってやつは……」
私は赤くなった顔を隠すため俯くと、「サクラちゃん?」と心配して覗き込んでくる。
「サクラちゃん!? 顔が赤いってばよ! 熱でもあるんじゃ……」
「バカ! 違うわよ! 照れているのよ!! あんたが柄にもないことするから!」
ナルトがあまりにもオロオロしてるため、私は思わず怒鳴る。
「!? そっか……なら、良かったってばよ」
ナルトが心底安心した表情をする。私はその表情を見てつい言葉をこぼす。
「……ねぇ、せっかくだからつけてよ」
「えっ?」
「このネックレス。早く!」
「おっ、おう……」
そう言ってネックレスを渡すと、ナルトは顔を真っ赤にして受け取り私の背後にまわる。そして、ネックレスをしどろもどろになりながらつける。こういうところはうぶなのよね。
「……終わったってばよ」
「ありがとう。どうかしら?」
私はネックレスがついた首元を見せる。
「オレの予想通り、バッチリ似合ってるってばよ!」
ナルトは満足そうに笑った。私もそれにつられて笑った。
ナルトが去ったあと、私はネックレスを見つめる。ナルトに他意がないのは分かってる。それでも好きな人からのプレゼントは嬉しい。本当だったら、受け取るべきではないのに……。でも、これぐらいはいいよね。私はネックレスをそっと愛おしそうに撫でた。