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NARUTO/カカサク 中編 ■Voyage

懐かしい相棒


ある雨の日の帰り道。
“拾ってください”と書かれた段ボールに入っている汚れた犬を見つけた。
雨に濡れ続ける犬は力なく横たわっており、だいぶ弱っているようだった。
私はいてもたってもいられず、その犬を抱え動物病院にかけこんだ。
先生に診てもらうと、寒さと空腹で弱っているらしく、温かくしてご飯をあげれば問題ないとのことだった。とりあえず病院で体を綺麗にしてもらい、餌もあげてもらった。

良かった。だが、一安心したとともに、次なる問題が浮上した。

ヤマト隊長は犬アレルギーなのだ。だから、私の家では飼うことはできない。
まわりを頼ろうにも、以前野良猫を保護したときになかなか引き取ってくれる人が見つからず苦労した記憶がある。一度目はなんとかなったが、二度目は無理だろう。

「どうしよう……」

病院の前で途方に暮れていると、声をかけられた。

「こんなところでどうした?」

学校から帰る途中だったのだろう。
スーツ姿のカカシ先生がいた。

「カカシせんせ~い!」

私は先生に事情を話した。
先生はしばらく考え込むと思わぬ提案を口にした。

「事情は分かった。その犬、俺が面倒見るよ」
「えっ!? いいんですか?」
「あぁ、俺の家はペット可だし、俺も動物好きだしね」
「でも迷惑じゃないですか? ……奥さんもいるのに」

最後の方は尻すぼみに呟いたので聞こえていたか分からない。

「? 大丈夫だよ。犬の世話なら実家でしたこともあるから」
「……ならお願いしようかな」
「この犬に名前はあるの?」
「まだないです」
「じゃあさ、春野がつけてよ」
「えっ! 飼うのは先生でしょ?」
「でも見つけたのは春野でしょ」
「そうですけど……」
「じゃあ、いいじゃない」

先生の押しに負けて、私は名前をつけるべく犬を見た。

種類はパグで、性別はオス。
小柄だけど、貫禄のある佇まい。
私はもう一つしか思い浮かばなかった。

「パックン!」
「パックン?」
「そう! パックン。なんかしっくりくるでしょ」
「確かに」

そう言うとカカシ先生は私から犬を受け取り、大事そうに抱えた。

「これからよろしくな、パックン」

「ワン!」

パックンも嬉しそうだ。
私とカカシ先生は顔を見合わせて笑った。



それから数日後、放課後の教室で、私はカカシ先生と書類を綴じていた。

「悪いね、いつも」
「いえ、学級委員ですから……パックンは元気ですか?」
「元気だよ。あいつ、初日から俺のベッドで大の字で寝てるし」
「なんだか想像がつきます」
「餌も高いのしか食べないの」
「何それ? 生意気な犬ね」
「本当にね。でもなんだか憎めないんだよな~」
「うふふ。仲良さそうで良かった」
「……会いたい?」
「えっ?」
「パックンに」
「そりゃあ、会えたら会いたいけど……」
「じゃあ、会わせてあげる。俺の家はさすがにまずいから、近くの公園で会おう」

そう言い手元にあった付箋にペンをはしらせると、私に渡してきた。

「これって……」

「俺の連絡先。本当は生徒に渡したらダメなんだけど、特別ね」

「……ありがとうございます」

私はカカシ先生の番号が書かれた付箋を大事に握りしめた。



先生の連絡先をもらってから、私は中々連絡できずにいた。

本当はすぐに連絡したかったけど、迷惑じゃないだろうか、最初は何て話せばいいのだろうなど、色々考えてるうちに時間が経ってしまったのだ。

悩むなんて私らしくない。
女は度胸よ、しゃーんなろー!
お風呂上がり、私は携帯を握りしめて、先生の番号を鳴らした。

1コール、2コール...
出ないのかなと思い電話を切ろうとした瞬間、「はい」とカカシ先生が出た。

「あっ、えっと...サクラです! じゃなくて、いや合ってるんだけど、春野サクラです!」

「あはは、そんなの声聞けば分かるよ。何で言い直したの?」

「いつも苗字呼びだから、名前じゃ分からないと思って...」

「あのね、生徒のフルネームぐらい俺だって分かるよ」

「そっか。それより先生はいま大丈夫でしたか?」

「うん、大丈夫だよ。お風呂上がってビール飲んでたとこ」

「先生、お酒飲むんですね」

「そりゃあ、大人だからね」

緊張していたけど、先生の声を聞いているとだんだん落ち着いてきて普段通りに話ができるようになった。

「あのですね、パックンに会いたいなって思って連絡したんですが……」

「知ってる。その為に連絡先を渡したんだから。」

「ですよね」

「でも、パックン以外にも何かあったら連絡してきていいからな」

「えっ、でも……それこそ迷惑じゃないですか?」

「全然。春野からの連絡だったら、いつでも出るよ」

「先生、それってどういう意味?」

「……それより、さっそくだけど今週の土曜日はどうだ?」

「えっ、今週の土曜? ……大丈夫です!」

いきなりの提案に、私が聞きたかった答えは聞くことができなかったが、すぐに頭を切り替え返事した。

「じゃあ、今週の土曜日。13時に木ノ葉公園に集合な」

「はい!」

「じゃあ、そろそろ寝なさい。温かくして寝るんだぞ。おやすみ」

「おやすみなさい」

そう言って先生は電話を切った。
私は次の土曜日の事を考えると、楽しみでなかなか眠れなかった。



待ちに待った先生との約束の日。
私は新しく買ったワンピースを見に纏い、パックンに渡すプレゼントを持って家を出た。

この調子でいけば待ち合わせの5分前には公園に着くはずだ。
先生はきっと前世のように遅れてくるだろう。
そしたら何て言い訳するのかなーと考えていると、公園が見えてきた。


そして、私はそこにいる人物に目を疑った。

「カカシ先生!?」
「よっ! どうした? そんなに驚いて」

私は時計を見た。12時55分。
どう見ても待ち合わせの5分前だ。

「てっきり遅れてくるのかと……」

それにカカシ先生の私服。
前世は任務服だし、学校ではスーツだから、私服のカカシ先生は新鮮だった。

「スーツ以外の姿もはじめて見た……」
「あのね、スーツは学校の時だけ。普段は楽な服装が好きなの。それに俺はこう見えて約束は守るタイプよ。それより、ほら、パックン」

先生は私にパックンを差し出した。

「パックン!  会いたかった〜」

私はパックンに頬擦りした。
パックンは嫌そうな顔はしていたが、抵抗はしなかった。
その様子をカカシ先生は温かい目で見守っていた。

しばらくパックンを堪能したあと、私達はベンチへと座った。

「そうだ! パックンにプレゼントがあるんです」

私は鞄から「へのへのもへじ」の描かれたちゃんちゃんこを取り出した。
前世でパックンが着ていたものを似せて作ったのだ。

「これ、春野が作ったの?」
「そうなんです! パックンに似合うかなと思って」

本当は額当ても作ろうと思ったが、さすがにそれは……と思いとどまり、ちゃんちゃんこのみにした。

「気に入ってくれるといいんだけど……」.

私がそれをカカシ先生に渡すと、カカシ先生も恐る恐るパックンに着させた。
パックンは思ったより大人しく着てくれて、私達は安心した。

「似合うじゃないか、パックン。春野、ありがとな」
「無事に着てくれて良かったです」
「それにそのワンピースもよく似合ってる」
「えっ!?」
「あはは、顔真っ赤だね」
「誰のせいだとおもってるんですか!?」
「俺のせいかな?」
「そうですよ!」
「ワンっ!」

パックンが俺も忘れるなというように吠えた。

「ごめん、ごめん。パックン」


そんなこんなで楽しい時間はあっという間にすぎるようで、あたりは陽が沈もうとしていた。

「そろそろ帰るか。家まで送るよ」
「そうですね」

私は急に寂しくなった。まだ帰りたくない。
でも困らせてはいけないと、重い腰をあげた。

帰り道、私は寂しさを紛らわすようにたくさんの話をした。先生はそんな私の話を優しい顔で聞いてくれた。それはまるで前世の時と同じような雰囲気で胸が熱くなった。
そして、あっという間に家に着いてしまった。

「先生、今日はありがとうございました。パックンに会えて嬉しかったです」

私は頭を下げた。

「俺の方こそありがとう。パックンも喜んでたよ。そうだろ?」
「ワン!」
「うふふ、良かった」
「また会いに来てよ」
「えっ、いいんですか?」
「もちろん。まさかこれっきりだと思ってた?」
「はい」
「そんな悲しいこと言わないでよ。パックンも春野の事気に入ってるみたいだし」
「分かりました! またぜひ!」
「うん。それじゃあ、また学校でな」
「はい!」

先生とパックンは帰っていった。

私も家の中に入り、また先生とプライベートで会えると思うと、嬉しさのあまり思わず「メルヘンゲットー!」と叫んでしまい、先に帰っていたヤマト隊長に怒られたことは言うまでもない。
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