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NARUTO/カカサク 短編①

Incomplete Ruler/七瀬陸(小野賢章)、九条天(斉藤壮馬)

「こんばんは、先生」

里を一望できる場所で一人佇んでいると、後ろから声を掛けられる。俺は振り向くまでもなく、声の主に返事をする。

「どうしたの、サクラ?」

そう問いかけると、サクラは俺の隣にやってくる。隣に来たサクラを見ると、サクラも俺の方を向いて話し出す。

「なんとなく寝れなくて散歩していたら、先生を見かけたのよ」
「なるほどね。でも、深夜に一人で歩くのはいくらサクラでも感心しないな」
「あら、心配してくれてるの?」
「そりゃあ、するだろう。元は俺の大事な教え子なんだから」
「教え子ね……。先生こそこんな深夜にどうしたの?」
「俺は時々こんな風にボーっとしてるの」
「ふ~ん、おじさんみたいね」
「おじさんって……」

サクラの言葉に「いや、確かにおじさんだけどさ……」とショックを受けてると、サクラは俺のそんな様子をものともせずあっけらかんとした表情で「ねぇ、私も少しここにいていい?」と尋ねてくる。

「別にいいけど……」
「やった!」

小さくガッツポーズするサクラをみて、そんなところは昔と変わってないなと少し嬉しく思った。許可は出したものの、特に話をすることもなく俺は視線を前に戻し、サクラも里へと目を向ける。会話はないが、穏やかな時間が流れていく。心地よい沈黙を先に破ったのはサクラだった。

「やっぱり先生といると、落ち着くわ」
「そりゃあ、サクラから見たらおじいちゃんだからね。それは落ち着くでしょーよ」
「もうっ! おじいちゃんとは言ってないわ! おじさんって言ったの! 歳が離れてるから仕方ないじゃない」
「でもさー、同世代に比べたら見た目は若い方だと思うんだけど」
「まぁ、言われてみればそうかもしれないわねー」

俺達はどちらともなく笑い合う。

「うふふ、何で笑うの?」
「サクラこそ」
「先生はやっぱり変わらないな~と思っただけよ」
「おじさん扱いしてたのに?」
「それは昔からおじさんだと思っていたから」
「ひどいな~。でも、サクラも変わらなくて安心したよ」
「え~、大人なレディになったと思わない?」
「う~ん、俺はもうちょっと胸にボリュームがある方が……」
「なに言ってるのよ!」

そう言ってサクラが拳を振り上げたようとしたので、俺は「サクラ、いま夜だから! みんな寝てるから!」と言って必死になだめると、サクラも「……それもそうね」と拳をしまってくれた。それに一安心すると、サクラも落ち着きを取り戻したのか最初の雰囲気に戻る。再び沈黙が訪れたものの、それを破ったのはまたもやサクラだった。

「……あのね、時々思うことがあるんだけど」
「?」
「私と先生って遠い昔一つの魂だったんじゃないかな。二つに分かれた魂が元の場所に戻りたがっているから、こんなにも一緒にいるとすごくしっくりくるというか」
「なるほどね」
「だからこんなにも私は先生のことを求めるんだと思う」

そう言ってサクラの顔が近づいてきて、サクラの唇が俺の唇に重なる。俺は雰囲気にのまれたのか、されるがままだった。

「サクラ……俺はサスケじゃないよ」

他にも言うことがあっただろうに、驚きのあまりに口に出たのはサスケのことだった。

「知ってるわよ。先生とサスケくんじゃ、全然違うもの」
「だよね」
「他に言うことはないの」
「他にって……すごく驚いている」
「でしょうね。あとは?」
「えっと、もしかして口説かれてるのかな~なんて」
「うん、口説いてる」
「えっ?」

そう言ってサクラは俺の左手を取ると、自分の両手で優しく握る。サクラの手は緊張しているのか、微かに震えていた。

「私、先生の事が好きなの。先生は気付いてなかったかもしれないけど……」
「まぁ、うん……」

サクラはサスケの事が好きだと思っていたし、俺達の距離が近いのも昔からだったから、全く気が付かなかった。一体サクラはいつから……。

サクラは真剣な表情で俺を見つめる。これはもうふざける雰囲気ではないとさすがの俺も察し、サクラを見つめ返す。手は握られたままだ。

「ねぇ、先生。人って一人では生きられないの。みんなで支え合っているから、生きていられるの。私はね、この先も先生の一番近くにいて、先生と一緒に生きていきたい」

サクラの真っすぐな瞳が俺を射抜く。サクラの真剣な告白に戸惑いながらも、俺は自分の気持ちを正直にしっかりと話す。

「俺は……サクラのことをそういう目で見たことは一度もないよ」
「知ってる。でも、これからはきちんと私を……私だけをみてほしい」
「サクラなら俺じゃなくても……」
「私は先生がいいの。先生は私じゃダメ?」
「サクラがどうこうじゃなくて、これは俺の問題なんだ。俺は……ずっと一人でいいと思ってる。これまでもこれからも。俺の大事な人たちはみんないなくなってしまうから」
「うん。でも、私やナルトはいなくなっていないわ。サスケくんも戻ってきたじゃない。それとも私達は大事な人じゃなかった?」
「違う、そんなことはない! でも……俺は……」
「最初に言ったでしょ。私と先生は一つの魂だったから、元の場所に戻りたがっているって。先生は?」
「俺は……」

確かにサクラといると、心の隙間が埋められていくような……充足感に包まれていくような……欠けていた心のピースがぴったりとパズルのようにはまっていくのを感じる。そんなことを考えていると、サクラは俺に抱きついてきた。

「これからは自分の幸せを一番に考えてほしいの」
「俺の……幸せ」
「先生はいつも誰かや里のために生きていたでしょ。時には自分を犠牲にしても構わないほど。でも、今度は自分のために生きてほしい。そして、先生の幸せにはきっと私が必要だと思うの」
「それはすごい自信だね……」
「そりゃあ、カカシ先生や師匠に鍛えられましたから」

サクラは抱きついたまま顔をあげると、誇らしげに笑う。

「ほとんど綱手様だと思うけどね」
「そんなことない……いや、そうかも。先生、サスケくんやナルトばっかりに構ってたもんね」
「それは……」
「まぁ、今となってはそれも仕方のないことだったって分かってるから」

サクラは悲しそうに俯いた。

「サクラ……」
「だから、これからは私を……私だけを見てくれたら嬉しいな」

サクラは俺の胸に顔を埋めると、腰に回している腕の力をさらに強くする。俺は目をつぶり深呼吸すると、ため息と勘違いしたのかサクラがビクッとして離れようとする。俺はそれを阻止するために、離れるより先にサクラの背中に腕をまわす。

「先生」
「そこまで言われたら俺も覚悟を決めなきゃな」
「えっ?」

そう言って俺はサクラから体を離すと、今度は俺からサクラにキスをする。

「え? えっ?」

顔を赤くし混乱しているサクラに満足すると、急に眠気が襲ってくる。俺はサクラを座らせると、サクラの膝の上に頭をのせ目を閉じる。

「ちょっ、先生!」
「ん?」
「ん? じゃなくて、いまのって……。それにこの体制って……」
「なんか眠くなってきちゃった。このまま寝ていい?」
「えっ、まだ話は終わってないんだけど……!」

俺はサクラの声を無視し、目を閉じ続ける。寝たふりをするつもりだったが、サクラの温もりに安心したのかそのまま本当の眠りについてしまった。

―――――――――――――――――――――

「本当に寝ちゃった。これって、いわゆる膝枕というやつよね」

先生はすやすやと寝息をたてている。先生が何でキスをしたのかは分からない。でも期待してもいいはずだ。

「起きたら問い詰めるから覚悟してよね」

私は先生の寝ている頬にキスをすると、先生が優しく微笑んだ気がした。いつのまにか陽が昇っており、そんな私達を優しく照らしていた。
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