NARUTO/カカサク 短編①
春はゆく/Aimer
「新しい未来を築けるのって素敵よね」
新しくできたカフェで先生とお茶をしている昼下がり。私は窓の外の景色を見てふと思ったことを呟く。窓から見えるのは、急ぎ足でどこかに向かう男の人や楽しそうにしゃべりながら歩く若い女の子達など、さまざまな人たちが桜並木の道を通っている景色。その中でも仲良さそうに手を繋いで歩く親子に目がいった。
「急にどうしたの」
先生が驚くのは無理もない。いままで何気ない世間話をしていたのだから。私は視線を窓から先生の方へ向ける。
「いのにね子供が出来たの。ヒナタはもうすぐ産まれるし、みんな次の世代へと繋いでいく。すごく喜ばしいことだわ。でもね、私はこのままでいいのかなって」
「めでたいことだよね。でも、サクラだって、後輩を育ててるじゃない」
「まぁ、そうなんだけど。それはあくまで仕事の話でしょ。私が言いたいのは自分の遺伝子を残すというか。まぁ、私は優れた血統を持ってるわけではないから“絶対に残さなきゃいけない”みたいな義務とかはないけれど。でも、なんだかそれも寂しいなって」
「諦めるのはまだ早いでしょ」
「別に諦めてるわけではないけれど……いまのところそんな予定もないし、相手もいないわ。……それより、先生よ!」
「俺?」
「先生こそ自分の血を残そうとは思わないの? 私、知ってるのよ。たくさんのお見合いの話があるのに、全部断ってるって」
「あ~、そこまで知ってるのね。まぁ、俺は別に良いかなーって」
「ふ〜ん、もったいない。それじゃあ、私が子供が欲しくなるように魅力を語ってあげる」
誇らしげに言うと、先生は疑いの表情で私を見る。
「サクラ、子供いないじゃない。魅力なんて分かるの?」
「失礼ね。病院でたくさんの子供と触れ合えてるから大丈夫! まずは、無邪気で元気! 見ていて飽きないし、面白いわ。純粋だから、癒されるし。それに、懐かれたらもう……何でもしてあげたくなっちゃう。とにかく可愛いのよ」
私は思いつく限りの子供の魅力を並べる。先生はきちんとそれを聞いててくれているようだ。一通り語りつくし、先生の感想を聞いてみる。
「……どう? 欲しくなった?」
「まぁ、悪くはないかもね」
「でしょ! それに先生は顔が整っているから、男の子だったら先生に似てかっこいいし、女の子だったら綺麗だわ。先生の事だから、なんだかんだいって溺愛しそうよね。きっといいパパになると思う」
私はそんな先生の姿を想像して、思わず目を細める。私達の事を下忍の頃から大切に育ててきてくれたのは先生だ。まぁ、色々あったけれど……。でも、先生はきっと自分の子供にたくさんの愛情を注ぎ、真っすぐに育ててくれるだろう。私がそのいい例だ。先生の奥さんになる人はどんなひとだろう。先生の事をきちんと考えてくれる人がいいな。先生も奥さんを大切にしそうだし、先生の奥さんは幸せだろうな。
そんなことを考えていると、先生が先ほどから一言も発していないことに気づく。先生はどうやら何かを考えている様子だ。もしかして、子供についてゴリ押しし過ぎたかしら……と不安になっていると、急に先生が顔を上げる。
「……確かに。そろそろ自分の子供の幸せを願ってもいいのかもな」
「あっ、うん。いいと思うよ」
いきなりの言葉に私は驚きながらも、肯定の返事をする。
「じゃあ、まずは俺達の子供に会わないと」
「そうね……えっ?」
……俺達……それって、どういう意味……? 意味が分からず硬直していると、先生は理解していないと思ったのか分かりやすく言い直す。
「サクラ、俺の子供を産んでくれる?」
「……それ、本気で言ってる?」
「うん。だってサクラが言ったんだよ。子供はいいものだって」
「確かに言ったけど……私でいいの?」
先生は私の両手を取り、「俺はサクラがいいんだけど」と笑顔を向ける。先生の瞳をじっと見つめると、先生も私の瞳をじっと見つめてくる。どうやら嘘ではない様子。それが分かるぐらいには先生と過ごしてきたつもりだ。
「でも、私達付き合ってもないし、結婚もしてないわよ」
「じゃあ、いまから付き合おう。婚姻届けは……この後取りに行って、そのまま出そうか。あっ、指輪も買いに行かなきゃね」
「親に報告とか……」
「この前、サクラの母親と会った時に“あの子、全然結婚の気配がないのよね~。いっそ先生がもらってくれれば嬉しいんですけど”とか言ってたから、きっと大丈夫」
「同棲とかもしてないし、性格や生活の相性とか……」
「それ、俺達にいる? サクラの事は昔からよく分かっているつもりだし、サクラも俺の事よく分かってるでしょ。生活についても俺は特にこだわりないから、サクラに合わせられるよ。で、他に心配事は?」
「……特にないです」
「よし! じゃあ、そうと決まったらさっそく行こうか」
先生は立ち上がると、私の手を取り連れ出そうとする。
「ちょっと、待って!」
「まだあるの?」
先生が立ち止まり、少し不満そうな声を出す。さっきは特にないと言ったが、確認しなきゃいけない一番重要なことがあるじゃないか。
「先生、私の事どう思ってるの?」
「なんだそんなこと」
「そんなことって……一番大事なことじゃない」
「まぁ、言わなきゃ分からないか」
そう呟いたか思うと、先生は私を抱き締め、耳元で甘く囁く。
「好きだよ、サクラ」
「えっ……」
そして、体を離したと思ったら、私の左手を取り、薬指を撫でる。
「まだ指輪とかは用意してないけど……俺と結婚してください」
夢みたいな光景に思わず感極まって涙を流すと、先生が立ち上がり、少し困ったように笑いながら私の涙を拭う。
「サクラは泣き虫だな~」
「誰のせいだと思ってるのよ」
「あはは、俺のせいだね。それで返事は?」
先生が私の頬に手をあて、優しい表情で覗き込む。分かってるくせに。私は涙で詰まりながらも、一生懸命に伝わるように言葉を紡ぐ。
「私も……先生の事が好き。これからよろしくお願いします」
その返事を聞くと、先生が嬉しそうに笑って私を抱き上げる。そして、私たちは見つめ合うとどちらからともなくキスをした。
人通りが多い道沿いのカフェでそのやり取りが繰り広げられたこともあり、後日、里の皆から祝福され、からかわれたのは無理もないことだった。
「新しい未来を築けるのって素敵よね」
新しくできたカフェで先生とお茶をしている昼下がり。私は窓の外の景色を見てふと思ったことを呟く。窓から見えるのは、急ぎ足でどこかに向かう男の人や楽しそうにしゃべりながら歩く若い女の子達など、さまざまな人たちが桜並木の道を通っている景色。その中でも仲良さそうに手を繋いで歩く親子に目がいった。
「急にどうしたの」
先生が驚くのは無理もない。いままで何気ない世間話をしていたのだから。私は視線を窓から先生の方へ向ける。
「いのにね子供が出来たの。ヒナタはもうすぐ産まれるし、みんな次の世代へと繋いでいく。すごく喜ばしいことだわ。でもね、私はこのままでいいのかなって」
「めでたいことだよね。でも、サクラだって、後輩を育ててるじゃない」
「まぁ、そうなんだけど。それはあくまで仕事の話でしょ。私が言いたいのは自分の遺伝子を残すというか。まぁ、私は優れた血統を持ってるわけではないから“絶対に残さなきゃいけない”みたいな義務とかはないけれど。でも、なんだかそれも寂しいなって」
「諦めるのはまだ早いでしょ」
「別に諦めてるわけではないけれど……いまのところそんな予定もないし、相手もいないわ。……それより、先生よ!」
「俺?」
「先生こそ自分の血を残そうとは思わないの? 私、知ってるのよ。たくさんのお見合いの話があるのに、全部断ってるって」
「あ~、そこまで知ってるのね。まぁ、俺は別に良いかなーって」
「ふ〜ん、もったいない。それじゃあ、私が子供が欲しくなるように魅力を語ってあげる」
誇らしげに言うと、先生は疑いの表情で私を見る。
「サクラ、子供いないじゃない。魅力なんて分かるの?」
「失礼ね。病院でたくさんの子供と触れ合えてるから大丈夫! まずは、無邪気で元気! 見ていて飽きないし、面白いわ。純粋だから、癒されるし。それに、懐かれたらもう……何でもしてあげたくなっちゃう。とにかく可愛いのよ」
私は思いつく限りの子供の魅力を並べる。先生はきちんとそれを聞いててくれているようだ。一通り語りつくし、先生の感想を聞いてみる。
「……どう? 欲しくなった?」
「まぁ、悪くはないかもね」
「でしょ! それに先生は顔が整っているから、男の子だったら先生に似てかっこいいし、女の子だったら綺麗だわ。先生の事だから、なんだかんだいって溺愛しそうよね。きっといいパパになると思う」
私はそんな先生の姿を想像して、思わず目を細める。私達の事を下忍の頃から大切に育ててきてくれたのは先生だ。まぁ、色々あったけれど……。でも、先生はきっと自分の子供にたくさんの愛情を注ぎ、真っすぐに育ててくれるだろう。私がそのいい例だ。先生の奥さんになる人はどんなひとだろう。先生の事をきちんと考えてくれる人がいいな。先生も奥さんを大切にしそうだし、先生の奥さんは幸せだろうな。
そんなことを考えていると、先生が先ほどから一言も発していないことに気づく。先生はどうやら何かを考えている様子だ。もしかして、子供についてゴリ押しし過ぎたかしら……と不安になっていると、急に先生が顔を上げる。
「……確かに。そろそろ自分の子供の幸せを願ってもいいのかもな」
「あっ、うん。いいと思うよ」
いきなりの言葉に私は驚きながらも、肯定の返事をする。
「じゃあ、まずは俺達の子供に会わないと」
「そうね……えっ?」
……俺達……それって、どういう意味……? 意味が分からず硬直していると、先生は理解していないと思ったのか分かりやすく言い直す。
「サクラ、俺の子供を産んでくれる?」
「……それ、本気で言ってる?」
「うん。だってサクラが言ったんだよ。子供はいいものだって」
「確かに言ったけど……私でいいの?」
先生は私の両手を取り、「俺はサクラがいいんだけど」と笑顔を向ける。先生の瞳をじっと見つめると、先生も私の瞳をじっと見つめてくる。どうやら嘘ではない様子。それが分かるぐらいには先生と過ごしてきたつもりだ。
「でも、私達付き合ってもないし、結婚もしてないわよ」
「じゃあ、いまから付き合おう。婚姻届けは……この後取りに行って、そのまま出そうか。あっ、指輪も買いに行かなきゃね」
「親に報告とか……」
「この前、サクラの母親と会った時に“あの子、全然結婚の気配がないのよね~。いっそ先生がもらってくれれば嬉しいんですけど”とか言ってたから、きっと大丈夫」
「同棲とかもしてないし、性格や生活の相性とか……」
「それ、俺達にいる? サクラの事は昔からよく分かっているつもりだし、サクラも俺の事よく分かってるでしょ。生活についても俺は特にこだわりないから、サクラに合わせられるよ。で、他に心配事は?」
「……特にないです」
「よし! じゃあ、そうと決まったらさっそく行こうか」
先生は立ち上がると、私の手を取り連れ出そうとする。
「ちょっと、待って!」
「まだあるの?」
先生が立ち止まり、少し不満そうな声を出す。さっきは特にないと言ったが、確認しなきゃいけない一番重要なことがあるじゃないか。
「先生、私の事どう思ってるの?」
「なんだそんなこと」
「そんなことって……一番大事なことじゃない」
「まぁ、言わなきゃ分からないか」
そう呟いたか思うと、先生は私を抱き締め、耳元で甘く囁く。
「好きだよ、サクラ」
「えっ……」
そして、体を離したと思ったら、私の左手を取り、薬指を撫でる。
「まだ指輪とかは用意してないけど……俺と結婚してください」
夢みたいな光景に思わず感極まって涙を流すと、先生が立ち上がり、少し困ったように笑いながら私の涙を拭う。
「サクラは泣き虫だな~」
「誰のせいだと思ってるのよ」
「あはは、俺のせいだね。それで返事は?」
先生が私の頬に手をあて、優しい表情で覗き込む。分かってるくせに。私は涙で詰まりながらも、一生懸命に伝わるように言葉を紡ぐ。
「私も……先生の事が好き。これからよろしくお願いします」
その返事を聞くと、先生が嬉しそうに笑って私を抱き上げる。そして、私たちは見つめ合うとどちらからともなくキスをした。
人通りが多い道沿いのカフェでそのやり取りが繰り広げられたこともあり、後日、里の皆から祝福され、からかわれたのは無理もないことだった。
20/100ページ