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NARUTO/カカサク 短編①

Realize/玉置成実

「ねぇ、サクラ。カカシ先生と同棲してるの?」
「はぁ? いきなりなによ。そんなわけないでしょ」
「だよね~。じゃあ、同姓同名の人物か……」

いのに突拍子もない質問をされたと思ったら、次は一人で勝手に納得している。

「なんなのよ、急に」
「カカシ先生が“サクラ”って子と同棲しているって聞いたのよ。そのせいか、最近はやけに帰るのが早かったり、遊び歩いたりもしていないって。私の中で“サクラ”はあんたしかいないから聞いてみたんだけど……」
「うそ!? そうなの?」
「あくまでも噂よ。誰もその“サクラ”を見たことがないって言うし」
「へぇ~、あのカカシ先生が……」
「なに拗ねた顔してるのよ」
「拗ねてないわよ。ただ、そんな話は初耳だったから」
「そりゃあ、あの先生がわざわざ言うわけないじゃない。それにデマかもしれないでしょ」
「確かにそうだけど……」

なぜだか分からないが、もし噂が本当だったらなんか嫌。そんな私の様子を見て、いのがため息をつくのが分かった。

いのと別れたあとも私はカカシ先生の噂が気になって仕方なかった。そんな素振り見たこと……いや、そういえば最近やけに任務終了後はすぐにいなくなる。もしかして家でその“サクラ”って子が待っているからとか? 私だって”サクラ”なのに。一体どこの“サクラ”なのよ! 自分でも何を言っているのか分からないけど、とにかく面白くなかった。

「こうしてても埒が明かないわ……!」

居ても立っても居られなくなった私は直接カカシ先生に聞くことにした。アカデミーにいたイルカ先生にカカシ先生の住所を聞くと、先生の家を訪れる。今日は任務がないと言っていたため、出かけていない限り家にいるはずだ。私は扉の前までくると、深呼吸をしてチャイムを鳴らす。すると「はーい」と先生が出てくる。

「サクラ? お前どうしてここが?」
「いきなりごめんなさい。住所はイルカ先生に教えてもらったの。先生にどうしても聞きたいことがあって……」
「別にいいけど、どうしたの?」
「ゆっくり話したいから家に上がってもいい?」
「中にか!? それはちょっと……。すぐ準備するから甘味屋とかに行って話そう」

何やら慌てだす先生にやはりあの噂は本当だったのかと気分が落ち込むのが分かる。それでも私はしつこく迫る。

「そこまでしなくていいから! ほんのちょっとだけだし!」
「でも……」
「そんなに私を中に入れたくないの……?」

私は俯き、泣きそうな表情をする。

「そうじゃないけど……」

先生が困りながらもそう言ったため、これはチャンスだと思い「ならいいじゃない!」と私は油断している先生を押しのけて、部屋の中に入る。

「ちょっと、サクラ!」

先生の呼び止める声を無視して部屋に入り、周りを見渡す。誰もいない……とりあえず良かった。いや、ソファに何かいる。近付くと、そこには一匹のネコがいた。

「なにこの子! すごく可愛いじゃない~」

私はそのネコを抱き上げる。ネコは抵抗もせず私にされるがままだ。ネコに頬ずりしながら、先生に問いかける。

「先生! この子どうしたのよ」
「ばれたら仕方ないか……。道端で捨てられてたのを拾ったんだよ。かなり弱っていてあのままだったら、死んじゃってたかもしれないからね」
「へぇ~。案外いいところもあるじゃない」
「“案外”は余計なんだけど。とにかく元気になるまで世話することにして、いまは里親を探してるところ」
「このまま飼えばいいじゃない」
「そうはいかないだろう。俺は任務で家を空けることも多いし……」
「そうかもしれないけど、こんなに可愛いのに」

私はネコの顎の下を撫でる。気持ちよさそうな顔をし、ゴロゴロと聞こえる。リラックスしているみたいで良かった。

「それにしても俺にしか懐かないと思ってたんだけど、サクラにも気を許しているみたいで驚いたな」
「どういうこと?」
「紅やアスマに会わせた時はすごい暴れてね。なるべく俺以外には会わせないようにしてたんだけど……」
「だから私を家に入れたくなかったの?」
「うん。サクラに怪我でもさせたら大変でしょ」
「別に平気なのに」
「俺が嫌なの」
「ふーん」

先生、私に怪我してほしくないんだ。少し嬉しい気持ちになる。

「……ということは、女性とも同棲してないってこと?」
「はぁ? どういう意味?」
「噂になってたのよ。カカシ先生が女性と同棲してるって」
「なにそれ?」
「前は遊び歩いていたのにここ最近は出歩いていないし、任務が終わったらさっさと帰るから、彼女と同棲してるんじゃないかって」
「はぁ~。確かにネコがいるから、外にあんまり出なくなったし、早く帰るようにはしてたけど……まさかそう思われてるとは」

呆れている先生の様子に私は心底安心した。あの噂はデマだったのね。おそらくこのネコのことを誰かが女性と勘違いしたのだろう。そしたら誰も見たことがなかったことの説明もつく。でも、じゃあ“サクラ”という名前はどこから……?

「……ねぇ、先生。この子の名前ってなに?」
「何でそんなこと聞くの?」
「だって、いくら少しの間だけ世話をするっていっても名前がないと不便でしょ。だから、つけてるのかなって思って」
「名前は特に決めてないよ」

怪しい……。先生の目が泳いでいる。私はもうこのネコに聞くことにした。応えてくれるかは分からないけどね!

「先生に聞いても無駄だから、この子に聞くね。女の子だから……モモ?」
「……」

ネコはただ私を見つめるだけ。「そんなことしても返事するわけないでしょ」という先生の声は無視する。

「じゃあ、ハナ?」
「……」

先ほどと同じ反応。これならどうだ。

「もしかして……サクラ?」
「ニャー」
「「!?」」

私が驚くのはもちろん、先生もすごく驚いていた。まさか返事をするとは思っていなかったのだろう。

「先生、この子の名前は“サクラ”なのね」
「いや、いまのはたまたまかもしれないでしょ」
「そんなことないわよね、サクラちゃん?」
「ニャー」
「ほらね」
「だから偶然だって!」
「往生際が悪いわよ、先生!」

しらを切ろうとする先生に私は食い付く。

「いい加減認めなさいよ! この子の名前はサクラでしょ!」
「……そうだよ。この子の名前はサクラ。サクラに似てるなって思ってそう名付けたんだ」

ついに諦めたのか先生は白状した。

「最初から素直にそう言えばいいのに」
「嫌だよ。教え子の名前つけてるなんて恥ずかしいだろ」
「先生にも恥じらう心があったのね」
「だからお前はどういう目で俺を見てるんだ」
「それよりどこら辺が私に似てるなと思ったの?」
「一番は翡翠色の瞳かな。ほかにはワガママで気分屋なところ」
「ワガママで気分屋って……」
「だって、高級なフードしか食べないんだもん。水も水道水は飲まなくて、ミネラルウォーター。触らせてくれる時とくれない時の差も激しいね」
「私はそこまでワガママじゃないわよ!」
「あはは、その怒った顔も威嚇している時の顔とそっくり。あとは頭を撫でている時の顔かな。幸せそうな表情が本当に似ているんだよ」
「うそ! 私、そんな表情してる?」
「してるよ」
「マジか……」

確かに先生に頭を撫でられることは好きだけど、まさかそんな表情をしているとは思いもしなかった。私はネコの頭を撫でてみることにした。確かにすごく幸せそうな顔をしている。私もこんな表情をしているのか……急に恥ずかしくなってきた。

「とりあえず、他のみんなには内緒な」
「当たり前よ。私だって恥ずかしいんだから」
「確かに」

そう言って私たちは笑い合う。

「それにしても先生。この子、このまま飼うのはダメなの?」
「さっきも言ったろ。俺は家を空けることが多いから……仕方ないんだ」
「そうだけど……」

腕の中でいつのまにか眠っているネコを見ていると、私の中に手放したくない気持ちが芽生えてくる。

「……ねぇ、先生。やっぱりこの子飼いましょうよ。先生がいない間は私が世話をするわ」
「でも……」
「お願い先生! 普段もきちんと私がお世話するから!」

私は必死に頼み込む。その熱意が伝わったのか、先生は「そこまで言うなら……」と肯定してくれた。

それから私はネコの世話をするためにカカシ先生の家を訪れるようになった。“ネコの世話”という理由から“先生と一緒に過ごす”という理由に変わるのはそう遠くない未来。
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