NARUTO/カカサク 短編①
アシンメトリー/堀江由衣
暗部での任務が珍しく休みの日の昼下がり。急に俺の家に来た隊長は、「カカシ、緊急の任務だ」と切羽詰まった様子で言うので、何事かと思い「一体どうしたんですか」と俺も身構える。すると隊長はどこから連れてきたのか赤いポンチョを着た、4・5歳ぐらいの女の子を俺の前に差し出す。フードを被っていて、さらに俯いてるから顔がよく見えないが、服装と身長からしてそのぐらいだろう。
「えっと、この子は……?」
「俺の知り合いの娘だ。少しの間預かってほしい。お昼は済ませてある。18時になったら、この子を家まで送り届けろ。これ、この子の家の住所な。あと、名前はサクラちゃん。それじゃあよろしく」
隊長は紙を渡すと、俺の返事を聞く前に素早く去っていた。女の子を置いて。
「……とりあえず入る?」
そう聞くと頷いたので、俺は部屋の中へ女の子を招き入れる。
ソファに座らせ、俺はキッチンへ向かう。子供が食べるものなどもちろんないし、飲み物もない。これは買いにいくしかないな。でも、一人で置いとくのはまずいよな……パックンでも呼ぶか。俺はパックンを呼び出し、事情を説明する。そして、パックンを連れて女の子の方へ戻る。
女の子はパックンを見ると、「ワンちゃん!」といって、目を輝かせる。顔を上げた拍子にフードが取れ、綺麗な桃色の髪と翡翠色の瞳が現れる。なんだ、けっこう可愛いじゃないの。そう心の中で思いながら、女の子に声をかけた。
「サクラちゃんだっけ。俺、いまから買い物に行ってくるからこのワンちゃんとお留守番しててね。飲み物は何がいい?」
「オレンジジュース」
「了解。食べ物は?」
「餡蜜」
「分かった。じゃあ、行ってくるね。あとはよろしく、パックン」
「任せろ」
そう言ってパックンはサクラちゃんの方へ向かい、サクラちゃんはパックンを嬉しそうに抱き上げる。“大丈夫そうだな”と判断すると、俺は簡単な準備を済ませ家を出た。
―――――――――
買い物を終え戻ると、サクラちゃんは絵を描いており、パックンは隣でアドバイスをしていた。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
さっきと打って変わって、明るい表情をしている。パックンに任せて良かった。
「何を書いてたの?」
「パックン!」
そう言って絵を見せてくれた。パックンと言われればそう見えなくもないけど、なんとも微妙な絵だった。とりあえず「上手だね~」と褒めると、サクラちゃんは「そうでしょ!」と得意そうに笑うため、俺の反応は正解だったらしい。
「オレンジジュース飲む?」
「うん!」
俺は買ってきたパックのオレンジジュースを差し出すが、サクラちゃんは受け取ろうとしない。
「どうしたの?」
「開けてくれないと飲めない……」
「あぁ、ごめんね」
そうだよな、まだ子供だもんな。俺はついているストローを取り、飲み口に差して渡す。サクラちゃんは「ありがとう」と言って受け取ると、すごい勢いで飲んでいく。よほど喉がかわいていたのか……。飲み終わったらしく、サクラちゃんは空になったパックを「終わった」と言って俺に戻す。
「飲むの早かったね。餡蜜は食べる?」
「あとでにする。ねぇ、何かして遊びたい」
「何かって言っても……」
俺の家には子供が遊べるようなものはない。
「お絵描きは?」
「さっきしたわ」
「だよねー」
「……ねぇ、あの本読んでみたい」
そう言ってサクラちゃんが指を指した先には、俺が読んでいる最中だったイチャイチャパラダイスがあった。
「いや、あれはちょっと……」
「どうして?」
「まだサクラちゃんが読むのは早いかなーって。あれは大人の本なんだよね」
「私はもう立派なレディーよ。子供扱いしないでちょうだい」
そんな舌足らずに言われても……今時の子ってこんなにませてるの。俺が返答に困っていると、パックンが助け舟を出してくれた。
「サクラ、ワシと遊べ」
「パックンがそう言うなら……」
そう言ってパックンとサクラちゃんは遊び始める。パックンのおかげでなんとかサクラちゃんにイチャイチャパラダイスを読ませることは回避できた。ありがとう、パックン。
1人と1匹が遊んでいる横で、俺はソファで横になる。パックンもいるし、少しくらいなら、いいよな……俺は目を閉じた。
―――――――――
お腹に何か乗っている……なんだこれは。俺はお腹への違和感で目が覚める。
「はっ! いま何時だ?」
焦って時計を見ると、先程からまだ1時間ぐらいしか経っていない。
「良かった……」
そして、お腹の方を見るとサクラちゃんとパックンが俺の上で気持ち良さそうに寝ていた。違和感は、こいつらか。寝顔も可愛いねと、しばらく観察していると、また眠気が襲ってくる。俺はサクラちゃんとパックンを抱き抱えると、1人と1匹を潰さないように抱きしめ、再び夢の中で飛び立っていった。
―――――――――
頬を何か柔らかいものでペチペチと叩かれている。
「起きろ、カカシ」
「うーん、パックン?」
目を開けると、パックンの顔が間近にうつる。柔らかいものはパックンの肉球だったらしい。
「もうすぐ18時だぞ」
「嘘だろ!?」
時計を見ると確かにもうすぐ18時になりそうな時間だった。
「サクラちゃん、起きて」
俺は寝ているサクラちゃんを起こす。「うーん」と微かだが目が開いた。
「もうそろそろ帰る時間だから、準備して」
俺がそう言うと、サクラちゃんは目を大きく見開き「きゃあ!」と飛び起きる。その反動でソファから落ちそうになったので、俺は腕を掴んでとっさにそれを防ぐ。
「大丈夫!?」
「ごめんなさい」
「いきなり飛び上がるからびっくりしたよ」
「だってお兄ちゃんの顔が目の前にあったから」
「あぁ、それはごめんね。それよりもう18時になるから、お家に帰ろうか」
「うん」
俺たちは準備をすると、家を出る。サクラちゃんが手を差し出してくる。
「ん?」
「ん? じゃないわよ! 手を繋ぐってことよ!」
「あぁ、なるほどね」
俺がサクラちゃんの手を繋ぐと、満足そうに歩き出す。片方にはパックンを抱えて。歩きながら、サクラちゃんは俺に話しかける。
「お兄ちゃん、彼女いるの?」
「いないかなー」
「でしょうね。気が利かないもの」
「厳しいこと言うねー」
「まぁ、でも私のおかげで今日は少しは女心が分かったでしょ?」
女心というか、子供心が分かったような……。それを口に出すとまた何を言われるか分からないため、「そうだねー」と無難な答えを返す。それからサクラちゃんは色々な話をしてくれたが、急に立ち止まる。俺は「どうしたの?」と手を繋いだまま、振り返る。
「お兄ちゃん。私、疲れちゃった」
「もうすぐ家だよ?」
「もう歩けない……」
そう言ってとうとう座り込んでしまう。どうしようかと悩んでいると、両手を差し出して「抱っこ」とねだってくる。なるほどね、俺は屈んで背中を見せる。
「分かったよ。ほら」
「何やってるの?」
「おんぶしてあげるから、ね?」
「おんぶは嫌だ! 抱っこがいい」
「はいはい」
サクラちゃんを抱き抱えると、また満足そうに笑う。こりゃあ相当なワガママ娘に育ちそうだなとと思いながら、俺は再び歩き出す。
「そういえば餡蜜結局食べなかったな」
「お兄ちゃんが寝ている間に食べたわよ」
「いつのまに。まぁ、いいけど」
そんな他愛もない話をしてると、地図に書かれている場所ら辺に着く。「私の家はここよ」と言ったため、ある一軒家の前で立ち止まり、サクラちゃんを降ろす。
「パックンとお兄ちゃん、今日はありがとう」
「どういたしまして。それじゃあ、俺達は行くね」
そう言って去ろうとすると、サクラちゃんは「待って!」と俺を呼び止め、屈むように指示するので、素直にそれに従う。そして、屈んだ俺に近づくと、ほっぺにキスをした。
「お兄ちゃんはずっと彼女が出来なそうだから、私が大きくなったら彼女になってあげてもいいわよ」
そう言って照れたように微笑んだかと思うと、足早に家に入っていく。
「え……?」
俺は驚きのあまり、しばらく放心していた。
「おい、カカシ。大丈夫か?」
「……ねぇ、パックン。いまサクラちゃんにキスされたよね?」
「あぁ、ほっぺにだが」
「恋人宣言もされたよね?」
「一応な」
どうやら俺の勘違いではないらしい。それに別れ際のあの笑顔……俺はロリコンの趣味はないはずだが、なぜだが胸がどきどきする。
「カカシ……まさか、お前……」
パックンが疑わしい目で俺を見る。いや、俺だって信じたくない。信じたくはないけど……あのキスと笑顔でどうやら俺はサクラちゃんに恋に落ちたらしい。
「約束は守ってもらうからね」
俺は将来が楽しみだと、パックンを連れて家へ戻っていった。
暗部での任務が珍しく休みの日の昼下がり。急に俺の家に来た隊長は、「カカシ、緊急の任務だ」と切羽詰まった様子で言うので、何事かと思い「一体どうしたんですか」と俺も身構える。すると隊長はどこから連れてきたのか赤いポンチョを着た、4・5歳ぐらいの女の子を俺の前に差し出す。フードを被っていて、さらに俯いてるから顔がよく見えないが、服装と身長からしてそのぐらいだろう。
「えっと、この子は……?」
「俺の知り合いの娘だ。少しの間預かってほしい。お昼は済ませてある。18時になったら、この子を家まで送り届けろ。これ、この子の家の住所な。あと、名前はサクラちゃん。それじゃあよろしく」
隊長は紙を渡すと、俺の返事を聞く前に素早く去っていた。女の子を置いて。
「……とりあえず入る?」
そう聞くと頷いたので、俺は部屋の中へ女の子を招き入れる。
ソファに座らせ、俺はキッチンへ向かう。子供が食べるものなどもちろんないし、飲み物もない。これは買いにいくしかないな。でも、一人で置いとくのはまずいよな……パックンでも呼ぶか。俺はパックンを呼び出し、事情を説明する。そして、パックンを連れて女の子の方へ戻る。
女の子はパックンを見ると、「ワンちゃん!」といって、目を輝かせる。顔を上げた拍子にフードが取れ、綺麗な桃色の髪と翡翠色の瞳が現れる。なんだ、けっこう可愛いじゃないの。そう心の中で思いながら、女の子に声をかけた。
「サクラちゃんだっけ。俺、いまから買い物に行ってくるからこのワンちゃんとお留守番しててね。飲み物は何がいい?」
「オレンジジュース」
「了解。食べ物は?」
「餡蜜」
「分かった。じゃあ、行ってくるね。あとはよろしく、パックン」
「任せろ」
そう言ってパックンはサクラちゃんの方へ向かい、サクラちゃんはパックンを嬉しそうに抱き上げる。“大丈夫そうだな”と判断すると、俺は簡単な準備を済ませ家を出た。
―――――――――
買い物を終え戻ると、サクラちゃんは絵を描いており、パックンは隣でアドバイスをしていた。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
さっきと打って変わって、明るい表情をしている。パックンに任せて良かった。
「何を書いてたの?」
「パックン!」
そう言って絵を見せてくれた。パックンと言われればそう見えなくもないけど、なんとも微妙な絵だった。とりあえず「上手だね~」と褒めると、サクラちゃんは「そうでしょ!」と得意そうに笑うため、俺の反応は正解だったらしい。
「オレンジジュース飲む?」
「うん!」
俺は買ってきたパックのオレンジジュースを差し出すが、サクラちゃんは受け取ろうとしない。
「どうしたの?」
「開けてくれないと飲めない……」
「あぁ、ごめんね」
そうだよな、まだ子供だもんな。俺はついているストローを取り、飲み口に差して渡す。サクラちゃんは「ありがとう」と言って受け取ると、すごい勢いで飲んでいく。よほど喉がかわいていたのか……。飲み終わったらしく、サクラちゃんは空になったパックを「終わった」と言って俺に戻す。
「飲むの早かったね。餡蜜は食べる?」
「あとでにする。ねぇ、何かして遊びたい」
「何かって言っても……」
俺の家には子供が遊べるようなものはない。
「お絵描きは?」
「さっきしたわ」
「だよねー」
「……ねぇ、あの本読んでみたい」
そう言ってサクラちゃんが指を指した先には、俺が読んでいる最中だったイチャイチャパラダイスがあった。
「いや、あれはちょっと……」
「どうして?」
「まだサクラちゃんが読むのは早いかなーって。あれは大人の本なんだよね」
「私はもう立派なレディーよ。子供扱いしないでちょうだい」
そんな舌足らずに言われても……今時の子ってこんなにませてるの。俺が返答に困っていると、パックンが助け舟を出してくれた。
「サクラ、ワシと遊べ」
「パックンがそう言うなら……」
そう言ってパックンとサクラちゃんは遊び始める。パックンのおかげでなんとかサクラちゃんにイチャイチャパラダイスを読ませることは回避できた。ありがとう、パックン。
1人と1匹が遊んでいる横で、俺はソファで横になる。パックンもいるし、少しくらいなら、いいよな……俺は目を閉じた。
―――――――――
お腹に何か乗っている……なんだこれは。俺はお腹への違和感で目が覚める。
「はっ! いま何時だ?」
焦って時計を見ると、先程からまだ1時間ぐらいしか経っていない。
「良かった……」
そして、お腹の方を見るとサクラちゃんとパックンが俺の上で気持ち良さそうに寝ていた。違和感は、こいつらか。寝顔も可愛いねと、しばらく観察していると、また眠気が襲ってくる。俺はサクラちゃんとパックンを抱き抱えると、1人と1匹を潰さないように抱きしめ、再び夢の中で飛び立っていった。
―――――――――
頬を何か柔らかいものでペチペチと叩かれている。
「起きろ、カカシ」
「うーん、パックン?」
目を開けると、パックンの顔が間近にうつる。柔らかいものはパックンの肉球だったらしい。
「もうすぐ18時だぞ」
「嘘だろ!?」
時計を見ると確かにもうすぐ18時になりそうな時間だった。
「サクラちゃん、起きて」
俺は寝ているサクラちゃんを起こす。「うーん」と微かだが目が開いた。
「もうそろそろ帰る時間だから、準備して」
俺がそう言うと、サクラちゃんは目を大きく見開き「きゃあ!」と飛び起きる。その反動でソファから落ちそうになったので、俺は腕を掴んでとっさにそれを防ぐ。
「大丈夫!?」
「ごめんなさい」
「いきなり飛び上がるからびっくりしたよ」
「だってお兄ちゃんの顔が目の前にあったから」
「あぁ、それはごめんね。それよりもう18時になるから、お家に帰ろうか」
「うん」
俺たちは準備をすると、家を出る。サクラちゃんが手を差し出してくる。
「ん?」
「ん? じゃないわよ! 手を繋ぐってことよ!」
「あぁ、なるほどね」
俺がサクラちゃんの手を繋ぐと、満足そうに歩き出す。片方にはパックンを抱えて。歩きながら、サクラちゃんは俺に話しかける。
「お兄ちゃん、彼女いるの?」
「いないかなー」
「でしょうね。気が利かないもの」
「厳しいこと言うねー」
「まぁ、でも私のおかげで今日は少しは女心が分かったでしょ?」
女心というか、子供心が分かったような……。それを口に出すとまた何を言われるか分からないため、「そうだねー」と無難な答えを返す。それからサクラちゃんは色々な話をしてくれたが、急に立ち止まる。俺は「どうしたの?」と手を繋いだまま、振り返る。
「お兄ちゃん。私、疲れちゃった」
「もうすぐ家だよ?」
「もう歩けない……」
そう言ってとうとう座り込んでしまう。どうしようかと悩んでいると、両手を差し出して「抱っこ」とねだってくる。なるほどね、俺は屈んで背中を見せる。
「分かったよ。ほら」
「何やってるの?」
「おんぶしてあげるから、ね?」
「おんぶは嫌だ! 抱っこがいい」
「はいはい」
サクラちゃんを抱き抱えると、また満足そうに笑う。こりゃあ相当なワガママ娘に育ちそうだなとと思いながら、俺は再び歩き出す。
「そういえば餡蜜結局食べなかったな」
「お兄ちゃんが寝ている間に食べたわよ」
「いつのまに。まぁ、いいけど」
そんな他愛もない話をしてると、地図に書かれている場所ら辺に着く。「私の家はここよ」と言ったため、ある一軒家の前で立ち止まり、サクラちゃんを降ろす。
「パックンとお兄ちゃん、今日はありがとう」
「どういたしまして。それじゃあ、俺達は行くね」
そう言って去ろうとすると、サクラちゃんは「待って!」と俺を呼び止め、屈むように指示するので、素直にそれに従う。そして、屈んだ俺に近づくと、ほっぺにキスをした。
「お兄ちゃんはずっと彼女が出来なそうだから、私が大きくなったら彼女になってあげてもいいわよ」
そう言って照れたように微笑んだかと思うと、足早に家に入っていく。
「え……?」
俺は驚きのあまり、しばらく放心していた。
「おい、カカシ。大丈夫か?」
「……ねぇ、パックン。いまサクラちゃんにキスされたよね?」
「あぁ、ほっぺにだが」
「恋人宣言もされたよね?」
「一応な」
どうやら俺の勘違いではないらしい。それに別れ際のあの笑顔……俺はロリコンの趣味はないはずだが、なぜだが胸がどきどきする。
「カカシ……まさか、お前……」
パックンが疑わしい目で俺を見る。いや、俺だって信じたくない。信じたくはないけど……あのキスと笑顔でどうやら俺はサクラちゃんに恋に落ちたらしい。
「約束は守ってもらうからね」
俺は将来が楽しみだと、パックンを連れて家へ戻っていった。
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