NARUTO/カカサク 短編①
さくらびと/SunSet Swish
サクラがどこからか見つけてきた、木ノ葉隠れの里のはずれにある大きな桜の木。 はずれにあるせいか絶景の花見スポットのはずなのに、人は俺たち以外誰もいなかった。
7班で花見をした日、サクラは「毎年桜が咲く季節になったらここでお花見しましょう! もちろんこのメンバーで! 絶対よ!」と満開の桜に負けない笑顔で言った。
その願いはサスケが里を抜け、ナルトが修行に旅立ち、叶うことはなかったが、俺とサクラの2人だけになってもなぜか花見は続いていた。
「あ〜あ、今年も先生と2人っきりか」
「あのね、俺だって任務で忙しいのにここに来てるの。そんな事言うなら帰るよ」
「ごめんなさい! ちょっと言ってみただけ〜。それより、今年のお弁当の出来はどう?」
満開の桜の木の下。そう言ったサクラは、唐揚げや卵焼き、おにぎり等が入ったお弁当を差し出した。
「そうだな〜、見た目は上出来として、問題は味かな」
俺は卵焼きを一つ掴み、それを口に入れた。
一番最初の花見の時もサクラが弁当を作ってきたのだが、お世辞にも見た目も味も良いとは言えなかった。去年は見た目も味も普通だった。だが、今年のはどうだろう。
卵焼きも唐揚げもほかのものも見た目が綺麗で、全て美味しかった。
「どれも美味いな...」
「でしょ〜! 伊達に年数重ねてきたわけじゃないからね!」
誇らしげな表情でサクラは無い胸を張った。言葉には出していないのに、何を勘付いたのかサクラは俺に綱手様直伝のデコピンをくらわせてきた。
「ちょっ、何するのよ。サクラ〜」
「なんか先生が良からぬ事を思ってるな〜って思ってね!」
そんな押し問答を続けながら、サクラと一緒に弁当を食べ終えると、2人で横になった。
「ねぇ、先生。毎年ありがとうね。忙しいのにお花見に付き合ってくれて」
「あのね、俺はこう見えて約束は守るタイプよ」
「それなのに昔は遅刻ばっかりだったわよね」
「それはまぁ...大人には色々あってだな」
「また都合のいいこと言って...でも本当に感謝してるのよ。またきっと4人でお花見できるよね」
「あぁ、きっとできるさ」
「できるといいな〜。でもね、先生との2人でのお花見も悪くないかも」
「嬉しいこと言ってくれるね〜」
「来年は夜桜とかはどう?」
「いいな、それ」
「じゃあ、来年は夜桜ね! 再来年もそのずっと先もお花見に付き合ってくれる?」
「もちろん、サクラがもう飽きたって言うほど付き合ってあげる」
「そんなこと言わないもん! 本当に約束だからね!」
そう言うとサクラは小指を差し出した。指切りしろとのことだろう。俺も同じように差し出すと、サクラは小指を絡ませた。その時のサクラの笑顔は普段と変わらないはずなのに、俺にはとても美しく思えた。
料理の腕もだが、女の子から女性へと成長したサクラを見て、きっとナルトやサスケはびっくりするだろう。
俺はそれを一番最初に感じることができた優越感にどこか疑問を持ちながら、サクラとの花見を楽しんだ。
そして、ナルトが帰ってきて、色々あったが激動の大戦も終わり、サスケも戻ってきた。また4人で花見が出来ると思ったが、それは叶うことがなかった。
なぜなら、その後にサクラは任務で殉職したから。
サクラがいなくなって半年、花見の季節がやってきた。周りの景色が暗くなってきた頃、俺は一人で花見の場所に向かっていた。サクラとの約束を果たすためだ。その場所には前と変わらず、満開の桜が咲き誇っていた。
「ったく、せっかくナルトもサスケも戻ってきたのに何で言い出しっぺのお前がいないんだよ」
あの時の約束を思い出しながら、俺はため息とともにその言葉を吐いた。周りには誰もおらず、その呟きはそのまま消えるはずだった...それなのに。
「いや〜、私もまさかこうなるとは思っていなくて!」
懐かしい声色に振り返れば、そこには2人で花見をした時と変わらない姿のサクラがいた。
「でも、約束は果たしにきたわよ、先生」
「サクラ...お前、どうして...。死んだはずじゃ...」
俺はサクラの血だらけの死体を見たはずだ。触りもしたから、間違いない。それなのにサクラはここにいる。
...そうか...あれはきっとサクラとよく似た人物だったんだ。だってサクラはここにいる。俺の知っているサクラはあんな血だらけのサクラじゃない。
「今までどこにいたんだ。サクラに似た人物の死体を見て、みんなサクラだと勘違いしたじゃないか」
俺はサクラに手を伸ばした。だが、その手はサクラの体をすり抜けた。
「先生ったら...もうボケたの? 私は間違いなく死んだわよ。ここにいるのは魂。そうね...幽霊って感じかな」
サクラはすごく寂しそうな顔で笑った。
「そうか...そうなのか...」
それを聞いた俺が項垂れると、サクラは気を使ったのかペラペラと喋り出した。
「あのね、死んでしばらく経った後にね、天使様?みたいな人が現れて、『この世に未練はないか』って聞いてきたの。私はまだ若いのよ、そんなのたくさんあるに決まってるじゃない! それをわざわざ聞くなんて、全く失礼な天使様よね〜。ちなみに、天使様って言うからイケメンか可愛い女の子を想像してたのに、実際の天使様はおじさんだったからね。メガネかけて、何というか幸薄そうな...そういえば髪も薄かったわね。あれが天使様とか、みんなきっとガッカリしちゃうわ。それとも私の時がたまたまそうだったのかしら...。まぁ、とりあえず色々ガツンと言ってやったわ!」
俺はその光景のサクラが容易に想像できて苦笑いをこぼし、その天使様とやらに同情した。
「そしたらね、条件はついてるけど、一つだけ私の願いを叶えてくれるみたいで...。私は色々悩んだ末に先生とのお花見を選んだの」
「それは...どうして?」
「理由なんて簡単。優等生だった私が先生との約束を破るなんて一生の不覚だからよ。さっきだって先生文句を言ってたじゃない」
「あれは文句ってほどじゃ...」
「とにかく私は約束を守りにきたの! いい!?」
すごい剣幕で迫ってくるサクラに圧倒され、俺はキツツキのように首を振った。
「タイムリミットは夜明けまで。お弁当とかはないけど...私と一緒にお花見してくれる?」
先程とは打って変わって、不安そうに俺を見上げて問いかけてくるサクラに俺は迷わず頷いた。
「そんなの当たり前だろ」
それを聞いたサクラは安心したように微笑んだ。
そこからのサクラとの時間は穏やかだった。
懐かしい思い出話をしたり、サクラがいなくなった後の里について語ったり、今までの時間を埋めるようにたくさんの話をした。
そして、夜明けの時間が迫ってきた。
「そろそろ時間か...」
「そうね...。先生、ごめんなさい」
「どうしてサクラが謝るんだ?」
「だって、私が言い出したのに今年しか約束守れなかった」
「本当だよ、まさか俺より先に逝くとは。サクラには先生の老後の世話を頼もうと思ってたのに」
「何それ、そんなこと思ってたの」
「うん。俺の世話を焼いてくれるのはきっと後にも先にもサクラだけだったからね〜」
「先のことなんてまだ分からないじゃない」
「そんなことないさ。お前たちは俺にとって最後の生徒だしね。俺が今までお前たちをみたぶんの恩を返してもらおうかなって」
「先生、それ職権濫用です〜」
「そんなことないでしょ。まぁ、でもサスケやナルトは俺の面倒見てくれなさそうだし、やっぱりサクラしかいないかなって。それにしても、花見にナルトやサスケも呼ばなくて良かったのか?」
「消去法で私ってことね...まぁ、いいわ。2人の事はもう心配ないから大丈夫。心配なのは先生よ」
「俺...?」
「そう! ちゃんとご飯食べてる? 前より痩せたんじゃない。クマもひどいし...。任務が忙しいからって、ちゃんと食べなきゃ駄目よ!」
さっきまでのしんみりムードはどことやら。
サクラはすごい剣幕で説教を始めた。
「まさかと思って会いに来たら案の定...」
「いや〜、中々忙しくて」
「確かに忙しいかもしれないけど! それで体を壊したら元も子もないじゃない!」
「それは面目ない...」
「全く...これじゃあ先生が心配で心安らかに成仏できないわよ」
「...じゃあ、ずっとここにいてよ。魂だけでも何でもいい。サクラが俺の側にいて、面倒みてよ。花見も毎年しよう、弁当は俺が作ってあげる。そして、俺がおじいちゃんになって死ぬ時になったら一緒に成仏しよう」
「先生...それってまるで...」
先程の勢いはどこへいったのやら、サクラは驚きのあまり言葉をなくしていた。
そして、俺も自分自身の言葉に驚いていた。これではまるで愛の告白みたいじゃないか。
否定の言葉を投げかけようとして、俺はとっさにそれを引っ込めた。
あの言葉は俺の本心だ。ようやく気づいた。俺はサクラが好きなんだと。
花見だって一番最初は仕方なくついて行っただけなのに、いつのまにか俺の中で待ちわびる日になった。
ナルトやサスケに追いつくために一生懸命に修行するサクラ、だけど時々俺の前で涙しながら弱音を吐くサクラ、餡蜜を幸せそうに頬張るサクラなど、サクラと過ごした時間は今でも鮮明に思い出すことができる。
今までたくさんの人の死に立ち会ってくる度、俺は任務に没頭した。そうしていれば、いつのまにか俺の中で過去になるからだ。
そう思っていたから、サクラが死んだ時も任務に没頭したのにサクラはいつまでも過去にはならなかった。できなかった。
今日の花見だってサクラがいるかもしれないと思って足を運んだのだ。まさか本当にサクラがいるとは思わなかったが...。
そんな風に初めて気づいた自分の気持ちと向き合っていると、ずっと黙っていたサクラが口を開いた。
「私だってそうしたいけど...それは無理よ」
今にも泣き出しそうなサクラを見て、俺は眉を寄せた。
「自分が死んだ時、真っ先に思ったのが先生のことだったの。先生っていつも自分のことを後回しにするじゃない? 私がいなくなったら、誰が先生の面倒を見るんだって。まぁ、いつか見てくれる人は現れるかもしれないけど、それまではどうするのかとかね...。さっきの私の言葉は半分本当で半分嘘。もう半分は先生が心配で心配で会いに来たの。そしたら、ボロボロの先生がいてびっくりしたわよ」
「それは...ごめんなさい」
「もう...本当にしっかりしてよね。でもね、さっきの言葉はすごく嬉しかったよ。...私だって先生の側にずっといたかった。でももう一緒にいられないの。約束守れなくてごめんなさい。だからね、代わりといってはなんだけど、桜の咲く季節になったらまたここに来てほしい。この桜を私だと思って。そして私が今から言うことを思い出して」
サクラはとうとう泣き出した。それでも必死に言葉を繋いで俺に言った。
「任務では無茶をしないでね。ご飯はきちんと食べて、睡眠もしっかりとること。インスタント食品とかはダメだからね。イチャイチャパラダイスを読むのはほどほどに。変な女には騙されないで。ナルトやサスケくん、里のみんなをよろしくね。あとは、私の分まで生きること」
「...サクラ...」
「生まれ変わったら、また先生に会いに行くから。そして、きちんと達成できたのか聞くからね。これ、約束だから」
「あぁ...分かった」
「本当に分かってる?」
「分かってる。前にも言ったでしょ、俺は約束を守る男だって。そんなことより俺はサクラが心配だなー」
「何よそれ。確かにずっとっていう約束は守れなかったけど...こうして会いにきたじゃない。それに今度こそは大丈夫な気がする」
「そうだな、俺もそんな気がする。それにしてもサクラ、すごい顔だよ」
「えっ!」
「俺はもう何度も見てるからいいけど...サスケには見せられないな」
「もうっ! こんな時になんて言うのよ! ムードがないんだから。先生のバカっ!」
俺の言葉が効いたのか、サクラの涙がとまり、俺はホッとした。
陽は少しずつ昇り始めている。それと同時にサクラの体も透けはじめた。
「サクラに会えて嬉しかったよ、すごく。最後に俺に会いに来てくれてありがとう」
「私も先生に会えて嬉しかった。約束は守ってよね。私も守るから。生まれ変わったら、この桜の木の下で会いましょう」
「あぁ、約束だ」
俺は触れられないのは分かっているのも関わらず、あの時のサクラと同じように小指を差し出した。
それを見たサクラは一瞬驚いた後、少し照れたような表情で小指を絡ませた。もちろん感触はなかったが。
「今度会った時に先生に言いたいことがあるの。今世では言えなかったこと」
「それは奇遇だな。俺も生まれ変わったら、サクラに言いたいことがあるんだ」
「えー、それ今教えてほしい」
「だめ。言ったら会った時の楽しみがなくなるだろ」
「うーん、それもそうね。でもね、先生。私の言いたいことと、先生の言いたいことはたぶん一緒だと思う」
「俺もそう思うよ」
「うふふ、やっぱり。それじゃあ、答え合わせは来世で。楽しみにしてるね」
そう言ってサクラはあの美しい笑顔で、空の彼方に消えていった。
俺はそれを見届けた後、満開に咲く桜を見上げ、サクラに言いたかった言葉を呟いた。
「愛してる」
サクラがどこからか見つけてきた、木ノ葉隠れの里のはずれにある大きな桜の木。 はずれにあるせいか絶景の花見スポットのはずなのに、人は俺たち以外誰もいなかった。
7班で花見をした日、サクラは「毎年桜が咲く季節になったらここでお花見しましょう! もちろんこのメンバーで! 絶対よ!」と満開の桜に負けない笑顔で言った。
その願いはサスケが里を抜け、ナルトが修行に旅立ち、叶うことはなかったが、俺とサクラの2人だけになってもなぜか花見は続いていた。
「あ〜あ、今年も先生と2人っきりか」
「あのね、俺だって任務で忙しいのにここに来てるの。そんな事言うなら帰るよ」
「ごめんなさい! ちょっと言ってみただけ〜。それより、今年のお弁当の出来はどう?」
満開の桜の木の下。そう言ったサクラは、唐揚げや卵焼き、おにぎり等が入ったお弁当を差し出した。
「そうだな〜、見た目は上出来として、問題は味かな」
俺は卵焼きを一つ掴み、それを口に入れた。
一番最初の花見の時もサクラが弁当を作ってきたのだが、お世辞にも見た目も味も良いとは言えなかった。去年は見た目も味も普通だった。だが、今年のはどうだろう。
卵焼きも唐揚げもほかのものも見た目が綺麗で、全て美味しかった。
「どれも美味いな...」
「でしょ〜! 伊達に年数重ねてきたわけじゃないからね!」
誇らしげな表情でサクラは無い胸を張った。言葉には出していないのに、何を勘付いたのかサクラは俺に綱手様直伝のデコピンをくらわせてきた。
「ちょっ、何するのよ。サクラ〜」
「なんか先生が良からぬ事を思ってるな〜って思ってね!」
そんな押し問答を続けながら、サクラと一緒に弁当を食べ終えると、2人で横になった。
「ねぇ、先生。毎年ありがとうね。忙しいのにお花見に付き合ってくれて」
「あのね、俺はこう見えて約束は守るタイプよ」
「それなのに昔は遅刻ばっかりだったわよね」
「それはまぁ...大人には色々あってだな」
「また都合のいいこと言って...でも本当に感謝してるのよ。またきっと4人でお花見できるよね」
「あぁ、きっとできるさ」
「できるといいな〜。でもね、先生との2人でのお花見も悪くないかも」
「嬉しいこと言ってくれるね〜」
「来年は夜桜とかはどう?」
「いいな、それ」
「じゃあ、来年は夜桜ね! 再来年もそのずっと先もお花見に付き合ってくれる?」
「もちろん、サクラがもう飽きたって言うほど付き合ってあげる」
「そんなこと言わないもん! 本当に約束だからね!」
そう言うとサクラは小指を差し出した。指切りしろとのことだろう。俺も同じように差し出すと、サクラは小指を絡ませた。その時のサクラの笑顔は普段と変わらないはずなのに、俺にはとても美しく思えた。
料理の腕もだが、女の子から女性へと成長したサクラを見て、きっとナルトやサスケはびっくりするだろう。
俺はそれを一番最初に感じることができた優越感にどこか疑問を持ちながら、サクラとの花見を楽しんだ。
そして、ナルトが帰ってきて、色々あったが激動の大戦も終わり、サスケも戻ってきた。また4人で花見が出来ると思ったが、それは叶うことがなかった。
なぜなら、その後にサクラは任務で殉職したから。
サクラがいなくなって半年、花見の季節がやってきた。周りの景色が暗くなってきた頃、俺は一人で花見の場所に向かっていた。サクラとの約束を果たすためだ。その場所には前と変わらず、満開の桜が咲き誇っていた。
「ったく、せっかくナルトもサスケも戻ってきたのに何で言い出しっぺのお前がいないんだよ」
あの時の約束を思い出しながら、俺はため息とともにその言葉を吐いた。周りには誰もおらず、その呟きはそのまま消えるはずだった...それなのに。
「いや〜、私もまさかこうなるとは思っていなくて!」
懐かしい声色に振り返れば、そこには2人で花見をした時と変わらない姿のサクラがいた。
「でも、約束は果たしにきたわよ、先生」
「サクラ...お前、どうして...。死んだはずじゃ...」
俺はサクラの血だらけの死体を見たはずだ。触りもしたから、間違いない。それなのにサクラはここにいる。
...そうか...あれはきっとサクラとよく似た人物だったんだ。だってサクラはここにいる。俺の知っているサクラはあんな血だらけのサクラじゃない。
「今までどこにいたんだ。サクラに似た人物の死体を見て、みんなサクラだと勘違いしたじゃないか」
俺はサクラに手を伸ばした。だが、その手はサクラの体をすり抜けた。
「先生ったら...もうボケたの? 私は間違いなく死んだわよ。ここにいるのは魂。そうね...幽霊って感じかな」
サクラはすごく寂しそうな顔で笑った。
「そうか...そうなのか...」
それを聞いた俺が項垂れると、サクラは気を使ったのかペラペラと喋り出した。
「あのね、死んでしばらく経った後にね、天使様?みたいな人が現れて、『この世に未練はないか』って聞いてきたの。私はまだ若いのよ、そんなのたくさんあるに決まってるじゃない! それをわざわざ聞くなんて、全く失礼な天使様よね〜。ちなみに、天使様って言うからイケメンか可愛い女の子を想像してたのに、実際の天使様はおじさんだったからね。メガネかけて、何というか幸薄そうな...そういえば髪も薄かったわね。あれが天使様とか、みんなきっとガッカリしちゃうわ。それとも私の時がたまたまそうだったのかしら...。まぁ、とりあえず色々ガツンと言ってやったわ!」
俺はその光景のサクラが容易に想像できて苦笑いをこぼし、その天使様とやらに同情した。
「そしたらね、条件はついてるけど、一つだけ私の願いを叶えてくれるみたいで...。私は色々悩んだ末に先生とのお花見を選んだの」
「それは...どうして?」
「理由なんて簡単。優等生だった私が先生との約束を破るなんて一生の不覚だからよ。さっきだって先生文句を言ってたじゃない」
「あれは文句ってほどじゃ...」
「とにかく私は約束を守りにきたの! いい!?」
すごい剣幕で迫ってくるサクラに圧倒され、俺はキツツキのように首を振った。
「タイムリミットは夜明けまで。お弁当とかはないけど...私と一緒にお花見してくれる?」
先程とは打って変わって、不安そうに俺を見上げて問いかけてくるサクラに俺は迷わず頷いた。
「そんなの当たり前だろ」
それを聞いたサクラは安心したように微笑んだ。
そこからのサクラとの時間は穏やかだった。
懐かしい思い出話をしたり、サクラがいなくなった後の里について語ったり、今までの時間を埋めるようにたくさんの話をした。
そして、夜明けの時間が迫ってきた。
「そろそろ時間か...」
「そうね...。先生、ごめんなさい」
「どうしてサクラが謝るんだ?」
「だって、私が言い出したのに今年しか約束守れなかった」
「本当だよ、まさか俺より先に逝くとは。サクラには先生の老後の世話を頼もうと思ってたのに」
「何それ、そんなこと思ってたの」
「うん。俺の世話を焼いてくれるのはきっと後にも先にもサクラだけだったからね〜」
「先のことなんてまだ分からないじゃない」
「そんなことないさ。お前たちは俺にとって最後の生徒だしね。俺が今までお前たちをみたぶんの恩を返してもらおうかなって」
「先生、それ職権濫用です〜」
「そんなことないでしょ。まぁ、でもサスケやナルトは俺の面倒見てくれなさそうだし、やっぱりサクラしかいないかなって。それにしても、花見にナルトやサスケも呼ばなくて良かったのか?」
「消去法で私ってことね...まぁ、いいわ。2人の事はもう心配ないから大丈夫。心配なのは先生よ」
「俺...?」
「そう! ちゃんとご飯食べてる? 前より痩せたんじゃない。クマもひどいし...。任務が忙しいからって、ちゃんと食べなきゃ駄目よ!」
さっきまでのしんみりムードはどことやら。
サクラはすごい剣幕で説教を始めた。
「まさかと思って会いに来たら案の定...」
「いや〜、中々忙しくて」
「確かに忙しいかもしれないけど! それで体を壊したら元も子もないじゃない!」
「それは面目ない...」
「全く...これじゃあ先生が心配で心安らかに成仏できないわよ」
「...じゃあ、ずっとここにいてよ。魂だけでも何でもいい。サクラが俺の側にいて、面倒みてよ。花見も毎年しよう、弁当は俺が作ってあげる。そして、俺がおじいちゃんになって死ぬ時になったら一緒に成仏しよう」
「先生...それってまるで...」
先程の勢いはどこへいったのやら、サクラは驚きのあまり言葉をなくしていた。
そして、俺も自分自身の言葉に驚いていた。これではまるで愛の告白みたいじゃないか。
否定の言葉を投げかけようとして、俺はとっさにそれを引っ込めた。
あの言葉は俺の本心だ。ようやく気づいた。俺はサクラが好きなんだと。
花見だって一番最初は仕方なくついて行っただけなのに、いつのまにか俺の中で待ちわびる日になった。
ナルトやサスケに追いつくために一生懸命に修行するサクラ、だけど時々俺の前で涙しながら弱音を吐くサクラ、餡蜜を幸せそうに頬張るサクラなど、サクラと過ごした時間は今でも鮮明に思い出すことができる。
今までたくさんの人の死に立ち会ってくる度、俺は任務に没頭した。そうしていれば、いつのまにか俺の中で過去になるからだ。
そう思っていたから、サクラが死んだ時も任務に没頭したのにサクラはいつまでも過去にはならなかった。できなかった。
今日の花見だってサクラがいるかもしれないと思って足を運んだのだ。まさか本当にサクラがいるとは思わなかったが...。
そんな風に初めて気づいた自分の気持ちと向き合っていると、ずっと黙っていたサクラが口を開いた。
「私だってそうしたいけど...それは無理よ」
今にも泣き出しそうなサクラを見て、俺は眉を寄せた。
「自分が死んだ時、真っ先に思ったのが先生のことだったの。先生っていつも自分のことを後回しにするじゃない? 私がいなくなったら、誰が先生の面倒を見るんだって。まぁ、いつか見てくれる人は現れるかもしれないけど、それまではどうするのかとかね...。さっきの私の言葉は半分本当で半分嘘。もう半分は先生が心配で心配で会いに来たの。そしたら、ボロボロの先生がいてびっくりしたわよ」
「それは...ごめんなさい」
「もう...本当にしっかりしてよね。でもね、さっきの言葉はすごく嬉しかったよ。...私だって先生の側にずっといたかった。でももう一緒にいられないの。約束守れなくてごめんなさい。だからね、代わりといってはなんだけど、桜の咲く季節になったらまたここに来てほしい。この桜を私だと思って。そして私が今から言うことを思い出して」
サクラはとうとう泣き出した。それでも必死に言葉を繋いで俺に言った。
「任務では無茶をしないでね。ご飯はきちんと食べて、睡眠もしっかりとること。インスタント食品とかはダメだからね。イチャイチャパラダイスを読むのはほどほどに。変な女には騙されないで。ナルトやサスケくん、里のみんなをよろしくね。あとは、私の分まで生きること」
「...サクラ...」
「生まれ変わったら、また先生に会いに行くから。そして、きちんと達成できたのか聞くからね。これ、約束だから」
「あぁ...分かった」
「本当に分かってる?」
「分かってる。前にも言ったでしょ、俺は約束を守る男だって。そんなことより俺はサクラが心配だなー」
「何よそれ。確かにずっとっていう約束は守れなかったけど...こうして会いにきたじゃない。それに今度こそは大丈夫な気がする」
「そうだな、俺もそんな気がする。それにしてもサクラ、すごい顔だよ」
「えっ!」
「俺はもう何度も見てるからいいけど...サスケには見せられないな」
「もうっ! こんな時になんて言うのよ! ムードがないんだから。先生のバカっ!」
俺の言葉が効いたのか、サクラの涙がとまり、俺はホッとした。
陽は少しずつ昇り始めている。それと同時にサクラの体も透けはじめた。
「サクラに会えて嬉しかったよ、すごく。最後に俺に会いに来てくれてありがとう」
「私も先生に会えて嬉しかった。約束は守ってよね。私も守るから。生まれ変わったら、この桜の木の下で会いましょう」
「あぁ、約束だ」
俺は触れられないのは分かっているのも関わらず、あの時のサクラと同じように小指を差し出した。
それを見たサクラは一瞬驚いた後、少し照れたような表情で小指を絡ませた。もちろん感触はなかったが。
「今度会った時に先生に言いたいことがあるの。今世では言えなかったこと」
「それは奇遇だな。俺も生まれ変わったら、サクラに言いたいことがあるんだ」
「えー、それ今教えてほしい」
「だめ。言ったら会った時の楽しみがなくなるだろ」
「うーん、それもそうね。でもね、先生。私の言いたいことと、先生の言いたいことはたぶん一緒だと思う」
「俺もそう思うよ」
「うふふ、やっぱり。それじゃあ、答え合わせは来世で。楽しみにしてるね」
そう言ってサクラはあの美しい笑顔で、空の彼方に消えていった。
俺はそれを見届けた後、満開に咲く桜を見上げ、サクラに言いたかった言葉を呟いた。
「愛してる」
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