NARUTO/カカサク 短編①
ウィークエンダー/Hey! Say! JUMP
「「おつかれー!!」」
土曜日夜、いのと私は居酒屋で一週間の疲れを労っていた。
「あー、今週もあのおじさんうるさかったわね」
「確かに。家で相手にされていないからって私たちに絡むのはやめてほしいわ」
最初は仕事の愚痴から始まり、お酒が進むにつれ恋愛系の話になる。
「そういえば、サクラは最近どうなのよ?」
「どうって?」
「だからいい人いないの?」
「いないわよー。やっぱりサスケくんがイケメン過ぎて、他の男なんて目に入らないわ」
「だよねー。でも、そのサスケくんも海外に行っちゃって会えなくなっちゃったもんね」
「本当よ。あー、告白しとけばよかった」
「あんたたちデキてると思ってたんだけどねー」
「実は私もそう思ってたんだけどね……」
サスケくんとはいい感じだったと思う。でも結局何の進展もないまま、彼は海外に旅立ってしまった。私は、思いっきりため息をつく。
「そんな顔してると、ブスな顔がますますブスな顔になるわよー」
「うるさいわねー」
「そんなサクラちゃんに朗報。この後、いい所に連れてってあげる」
「いい所って?」
「それは着いてからのお楽しみ。だから、早くそれ飲んで行きましょ!」
そう言うと、いのは店員を呼び、お会計を頼む。
私は残ったビールを空けると、会計を済ませ、店を出る。
いのに連れられて歩くこと数分。まわりはキラキラ輝くネオン街。男女入り乱れ、歩きにくい。キャッチの声があちこちに聞こえ、私達も声をかけられるが「大丈夫ですー!」と言っていのが上手にかわしていく。そして、1件のお店の前で立ち止まる。お店にはドーンと一人の男のドアップの看板がある。
「ねぇ、もしかしてここって……」
いのは私の方を向いてにやりと笑う。
「そう! ホストクラブよ!!」
「えーーーー!!!」
私は帰ろうといのを引っ張る。
「ちょっと、何てとこに連れてきてるのよ!」
「あんたがいつまでもサスケくんを引きずってるからでしょ! いい加減他の男に目を向けなさい!」
「だからって、ホストクラブに連れてこなくてもいいでしょ!!」
私達が店の前で押し問答していると、一人の髭面のダンディーな男の人が声を掛けてきた。
「お前たち、店の前でなにやってるんだ」
「ごめんなさい。お店に入りたいのにこの子が直前で怖気づいちゃって」
「怖気づいてなんかいないわよ! ただ、いきなり連れてこられてびっくりしただけよ!」
「じゃあ、入るのね!」
「えぇ、入るわよ!!」
私はそう言った後にすごく後悔した。いのの口車に乗せられて思わず肯定してしまった。
「客ってことでいいんだな」
「はい!」
「よし、分かった。ついてこい」
いのが笑顔で返し、男の人について行く。
私はさりげなく逃げようとしたが、いのに腕を掴まれそれは叶わなかった。
店は想像通りの派手でオシャレな内装だったが、雰囲気は落ち着いていて、少し安心した。店内を見渡していると銀髪のマスクをした人と目が合う。なぜか目を逸らせない。
「サクラ?」
「ううん、何でもない」
いのに促され、ようやく目を外すことができた。一体なんだったのだろう。ソファ席に案内され、いのの隣に座る。
「俺はアスマ、よろしくな。さっそくだが、店のシステムを簡単に紹介する」
アスマさんによると、私達は初回なので、格安料金で飲み放題2時間制。その間に代わる代わるホストがやってくるらしい。最後にお気に入りのホストを指名すると、お見送りしてもらえるとのことだった。
説明が終わると、さっそく男の人がやってきた。眉毛が濃く暑苦しい人や人当たりが良く誠実そうな人、優しくて真面目だけど目が笑ってない人など、たくさんの人と会話したけれど、あまりピンとこなかった。ホストクラブってこんなものなのね、いい社会勉強になったわと思っていた。
そして、最後の人がやってきた。いのの相手はアスマさんらしい。私の相手は、先程目が合った人だった。
「カカシっていいます。よろしくね」
「サクラです。よろしくお願いします」
ニコッと笑ったため、私も愛想笑いを返す。
「さっき目合ったよね? もしかして俺に見惚れてた?」
「いや、その……」
「あはは、なんて冗談。俺がサクラちゃんに見惚れてたんだ」
「えっ……」
私は思わず顔が赤くなる。
「赤くなって可愛い」
そう言って微笑んでくる。なんだろう、甘い。今までの人と確実に違う。この人は雰囲気が作るのが上手なのだ。
「グラスが空いてるね。何飲む?」
「じゃあ、梅酒の水割りで」
「了解。けっこう飲んでるみたいだから、薄めに作るね」
「ありがとうございます」
お酒を素早く作ると、グラスについた水滴を拭き、私の前に置く。
気遣いもきちんとできていて、私は感心する。
「初めてのホストクラブは楽しんでる?」
「まぁ、そこそこ」
「そうでもないみたいだね。隣の子に無理矢理連れてこられたんでしょ?」
「もしかして見てました?」
「うん。店の前であれだけ騒いでたらね」
「あはは、恥ずかしい限りです」
「本当にね。いい歳した大人が店の前で大騒ぎするなんて、いい迷惑だよね」
「ん?」
先程までの甘い雰囲気はどことやら。なんか棘があるような言い方。
「しかも昔の男引きずってるんだって? それを忘れるためにホストクラブにくるって短絡的だよねー。まぁ、こっちとしてはありがたいけど」
「あの……」
「でもなかなかそいつよりいい奴はいなかったみたいだね。でももしかしたらそいつのこと美化してるんじゃない? そんなんだといつまでもたっても男できないよー」
もう頭きた。
「しゃーんなろー! さっきから黙って聞いてれば、なんなのよ! 好き勝手言いすぎよ! ホストなんだから、少しは優しくしてくれたっていいじゃない! しかも、そんな事言われなくてもこの私が一番分かってるわよ! でも、どうしたらいいか分からないから悩んでるんじゃない!!」
私は思いっきり叫んだ後、我に返る。みんながぽかんとしているなか、目の前の男だけが笑っていた。
「そうそう。そうこなくっちゃ!」
私は顔が一気に赤くなる。
「あの、ごめんなさい!」
私はお金を机に置くと、いのの止める声も無視してかばんを持って急いで店を出る。外に出た瞬間、誰かに腕を引っ張られる。
「きゃっ!」
思わず倒れそうになるが、逞しい胸がそれを防いだ。
「ごめん、言い過ぎた。しおらしい君がなんか気に入らなくて」
顔を上げると、申し訳なさそうな顔をしているカカシさんがいた。
その顔を見て、私が何だか涙が出てきた。
「えっ、ちょっと。何で泣くの? そんなにショックだった?」
「分かんない。でも勝手に出てくるんだから仕方ないでしょ」
カカシさんが困っているのが分かる。
「うっ……ひくっ……」
涙を止めたいのに、その思いとは裏腹にどんどん溢れてくる。
「あ〜、もう」
カカシさんは頭をかいたかと思うと、私を抱きしめ、優しく背中を撫でる。
「辛かったんだね。もう我慢しなくていいよ」
あまりの優しい声に私は思いっきり泣いた。カカシさんは私の背中を撫で続けた。そして、私はその心地よさでいつのまにか寝てしまっていた。
ふと目が覚める。まわりを見渡すとどこかの部屋のようだ。
「目、覚めた?」
カカシさんが上半身裸で髪を拭いていた。
どうやらシャワーを浴びていたようだ。
「えっ……もしかして……」
私は一気に青ざめる。
それを見たカカシさんは「勘違いしないで! 何もしてないから!」と焦ったように言う。
私は自分の姿を見る。確かに服はきちんと着ている。
「あの、私……」
「あのまま寝ちゃったから、とりあえずホテルに連れてきたんだよ。ちなみに、いのちゃんは先に帰ったみたいだよ」
「本当ですか」
近くにあった鞄から、携帯を取る。
確認すると、終電が過ぎている時間で、いのからはメッセージがきていた。
“お持ち帰りなんてやるじゃない!
あんたもすみにおけないわね〜。
上手くやんなさいよ!”
あのいのぶため……。私はここにはいないいのに怒りをぶつけてると、服を着終えたカカシさんが言った。
「酔いも醒めたみたいで良かった。今日はここに泊まりなさい。お金は払ってあるから心配しないで。じゃあ、俺はこれで」
そう言ってカカシさんは去ろうとする。
「えっ、行っちゃうの?」
私は思わず引き止める。
「えっ」とカカシさんが驚いている。かくいう私も驚いてる。
なんだか急に寂しくなったのだ。
「あの、えっと……こんなところで女の子1人残すなんてひどいと思う」
「あのね〜、男と2人っきりになる方が危ないと思うけど。分かる?」
「でもカカシさんは何もしなかったじゃない」
「それはサクラちゃんが寝てたからでしょ。いまは何するか分からないよ」
「それなら、ゲームしましょう! ほら、最新のゲーム機があるし。しかもこのソフト新しく出たやつじゃない。これやりたかったのよね〜」
「あの、やるなら1人で……」
「怖いの? わたしに負けるのが」
「そんなわけないでしょ」
「じゃあ、やりましょう」
「あのね、そんな挑発には乗らないよ」
「カカシさんが付き合ってくれないなら、そこら辺にいる人を誘うもん」
「だから、そしたらゲームだけで終わるわけないでしょう」
「もう帰るカカシさんには関係ないでしょ」
私は拗ねたように言う。しばらく沈黙が続く。
先に折れたのはカカシさんだった
「はぁ〜、分かったよ。俺が相手しますよ」
「やったー!」
私とカカシさんはゲームで遊び始める。それは思いのほか盛り上がり、いつのまにか朝になっていた。久しぶりにこんなに笑った気がする。終始カカシさんがマスクを外すことはなかったけど。私たちは片付けを終えると、ホテルを出る。
「カカシさん、ありがとうございました」
「どういたしまして。全く……こんなことははじめてだよ。女の子と何もしないで夜を過ごすなんて」
「あら、熱い夜を過ごしたと思いますけど」
「ある意味ね」
「でも楽しかったでしょ?」
「それなりに」
私達は笑い合った。
「それじゃあ、行きますね」
「うん、気を付けて」
私は名残惜しかったが、カカシさんに背を向け、歩き出した。
カカシさんはあくまで可哀相な私に付き合っただけだ。
「サクラ」
名前を呼ばれ、手を引かれる。
振り返ると、唇に柔らかい感触。近すぎる瞳と目が合う。
その綺麗な瞳に見惚れていると、顔がゆっくり離れていく。
マスクは下におろされていた。けっこうイケメンかも。
驚いていて放心していると、手に何かを握らされる。
「それじゃあ、またね」
そう言ってカカシさんは去っていた。
いま呼び捨てされた?
キスされた?
マスクおろしてたよね?
手を握られた?
またね?
私は手の中を見る。それはメモ用紙で、電話番号が書かれていた。
おそらくカカシさんのだろう。
「えーーー!!!」
早朝の鎮まり返った街に私の声が響いた。
「「おつかれー!!」」
土曜日夜、いのと私は居酒屋で一週間の疲れを労っていた。
「あー、今週もあのおじさんうるさかったわね」
「確かに。家で相手にされていないからって私たちに絡むのはやめてほしいわ」
最初は仕事の愚痴から始まり、お酒が進むにつれ恋愛系の話になる。
「そういえば、サクラは最近どうなのよ?」
「どうって?」
「だからいい人いないの?」
「いないわよー。やっぱりサスケくんがイケメン過ぎて、他の男なんて目に入らないわ」
「だよねー。でも、そのサスケくんも海外に行っちゃって会えなくなっちゃったもんね」
「本当よ。あー、告白しとけばよかった」
「あんたたちデキてると思ってたんだけどねー」
「実は私もそう思ってたんだけどね……」
サスケくんとはいい感じだったと思う。でも結局何の進展もないまま、彼は海外に旅立ってしまった。私は、思いっきりため息をつく。
「そんな顔してると、ブスな顔がますますブスな顔になるわよー」
「うるさいわねー」
「そんなサクラちゃんに朗報。この後、いい所に連れてってあげる」
「いい所って?」
「それは着いてからのお楽しみ。だから、早くそれ飲んで行きましょ!」
そう言うと、いのは店員を呼び、お会計を頼む。
私は残ったビールを空けると、会計を済ませ、店を出る。
いのに連れられて歩くこと数分。まわりはキラキラ輝くネオン街。男女入り乱れ、歩きにくい。キャッチの声があちこちに聞こえ、私達も声をかけられるが「大丈夫ですー!」と言っていのが上手にかわしていく。そして、1件のお店の前で立ち止まる。お店にはドーンと一人の男のドアップの看板がある。
「ねぇ、もしかしてここって……」
いのは私の方を向いてにやりと笑う。
「そう! ホストクラブよ!!」
「えーーーー!!!」
私は帰ろうといのを引っ張る。
「ちょっと、何てとこに連れてきてるのよ!」
「あんたがいつまでもサスケくんを引きずってるからでしょ! いい加減他の男に目を向けなさい!」
「だからって、ホストクラブに連れてこなくてもいいでしょ!!」
私達が店の前で押し問答していると、一人の髭面のダンディーな男の人が声を掛けてきた。
「お前たち、店の前でなにやってるんだ」
「ごめんなさい。お店に入りたいのにこの子が直前で怖気づいちゃって」
「怖気づいてなんかいないわよ! ただ、いきなり連れてこられてびっくりしただけよ!」
「じゃあ、入るのね!」
「えぇ、入るわよ!!」
私はそう言った後にすごく後悔した。いのの口車に乗せられて思わず肯定してしまった。
「客ってことでいいんだな」
「はい!」
「よし、分かった。ついてこい」
いのが笑顔で返し、男の人について行く。
私はさりげなく逃げようとしたが、いのに腕を掴まれそれは叶わなかった。
店は想像通りの派手でオシャレな内装だったが、雰囲気は落ち着いていて、少し安心した。店内を見渡していると銀髪のマスクをした人と目が合う。なぜか目を逸らせない。
「サクラ?」
「ううん、何でもない」
いのに促され、ようやく目を外すことができた。一体なんだったのだろう。ソファ席に案内され、いのの隣に座る。
「俺はアスマ、よろしくな。さっそくだが、店のシステムを簡単に紹介する」
アスマさんによると、私達は初回なので、格安料金で飲み放題2時間制。その間に代わる代わるホストがやってくるらしい。最後にお気に入りのホストを指名すると、お見送りしてもらえるとのことだった。
説明が終わると、さっそく男の人がやってきた。眉毛が濃く暑苦しい人や人当たりが良く誠実そうな人、優しくて真面目だけど目が笑ってない人など、たくさんの人と会話したけれど、あまりピンとこなかった。ホストクラブってこんなものなのね、いい社会勉強になったわと思っていた。
そして、最後の人がやってきた。いのの相手はアスマさんらしい。私の相手は、先程目が合った人だった。
「カカシっていいます。よろしくね」
「サクラです。よろしくお願いします」
ニコッと笑ったため、私も愛想笑いを返す。
「さっき目合ったよね? もしかして俺に見惚れてた?」
「いや、その……」
「あはは、なんて冗談。俺がサクラちゃんに見惚れてたんだ」
「えっ……」
私は思わず顔が赤くなる。
「赤くなって可愛い」
そう言って微笑んでくる。なんだろう、甘い。今までの人と確実に違う。この人は雰囲気が作るのが上手なのだ。
「グラスが空いてるね。何飲む?」
「じゃあ、梅酒の水割りで」
「了解。けっこう飲んでるみたいだから、薄めに作るね」
「ありがとうございます」
お酒を素早く作ると、グラスについた水滴を拭き、私の前に置く。
気遣いもきちんとできていて、私は感心する。
「初めてのホストクラブは楽しんでる?」
「まぁ、そこそこ」
「そうでもないみたいだね。隣の子に無理矢理連れてこられたんでしょ?」
「もしかして見てました?」
「うん。店の前であれだけ騒いでたらね」
「あはは、恥ずかしい限りです」
「本当にね。いい歳した大人が店の前で大騒ぎするなんて、いい迷惑だよね」
「ん?」
先程までの甘い雰囲気はどことやら。なんか棘があるような言い方。
「しかも昔の男引きずってるんだって? それを忘れるためにホストクラブにくるって短絡的だよねー。まぁ、こっちとしてはありがたいけど」
「あの……」
「でもなかなかそいつよりいい奴はいなかったみたいだね。でももしかしたらそいつのこと美化してるんじゃない? そんなんだといつまでもたっても男できないよー」
もう頭きた。
「しゃーんなろー! さっきから黙って聞いてれば、なんなのよ! 好き勝手言いすぎよ! ホストなんだから、少しは優しくしてくれたっていいじゃない! しかも、そんな事言われなくてもこの私が一番分かってるわよ! でも、どうしたらいいか分からないから悩んでるんじゃない!!」
私は思いっきり叫んだ後、我に返る。みんながぽかんとしているなか、目の前の男だけが笑っていた。
「そうそう。そうこなくっちゃ!」
私は顔が一気に赤くなる。
「あの、ごめんなさい!」
私はお金を机に置くと、いのの止める声も無視してかばんを持って急いで店を出る。外に出た瞬間、誰かに腕を引っ張られる。
「きゃっ!」
思わず倒れそうになるが、逞しい胸がそれを防いだ。
「ごめん、言い過ぎた。しおらしい君がなんか気に入らなくて」
顔を上げると、申し訳なさそうな顔をしているカカシさんがいた。
その顔を見て、私が何だか涙が出てきた。
「えっ、ちょっと。何で泣くの? そんなにショックだった?」
「分かんない。でも勝手に出てくるんだから仕方ないでしょ」
カカシさんが困っているのが分かる。
「うっ……ひくっ……」
涙を止めたいのに、その思いとは裏腹にどんどん溢れてくる。
「あ〜、もう」
カカシさんは頭をかいたかと思うと、私を抱きしめ、優しく背中を撫でる。
「辛かったんだね。もう我慢しなくていいよ」
あまりの優しい声に私は思いっきり泣いた。カカシさんは私の背中を撫で続けた。そして、私はその心地よさでいつのまにか寝てしまっていた。
ふと目が覚める。まわりを見渡すとどこかの部屋のようだ。
「目、覚めた?」
カカシさんが上半身裸で髪を拭いていた。
どうやらシャワーを浴びていたようだ。
「えっ……もしかして……」
私は一気に青ざめる。
それを見たカカシさんは「勘違いしないで! 何もしてないから!」と焦ったように言う。
私は自分の姿を見る。確かに服はきちんと着ている。
「あの、私……」
「あのまま寝ちゃったから、とりあえずホテルに連れてきたんだよ。ちなみに、いのちゃんは先に帰ったみたいだよ」
「本当ですか」
近くにあった鞄から、携帯を取る。
確認すると、終電が過ぎている時間で、いのからはメッセージがきていた。
“お持ち帰りなんてやるじゃない!
あんたもすみにおけないわね〜。
上手くやんなさいよ!”
あのいのぶため……。私はここにはいないいのに怒りをぶつけてると、服を着終えたカカシさんが言った。
「酔いも醒めたみたいで良かった。今日はここに泊まりなさい。お金は払ってあるから心配しないで。じゃあ、俺はこれで」
そう言ってカカシさんは去ろうとする。
「えっ、行っちゃうの?」
私は思わず引き止める。
「えっ」とカカシさんが驚いている。かくいう私も驚いてる。
なんだか急に寂しくなったのだ。
「あの、えっと……こんなところで女の子1人残すなんてひどいと思う」
「あのね〜、男と2人っきりになる方が危ないと思うけど。分かる?」
「でもカカシさんは何もしなかったじゃない」
「それはサクラちゃんが寝てたからでしょ。いまは何するか分からないよ」
「それなら、ゲームしましょう! ほら、最新のゲーム機があるし。しかもこのソフト新しく出たやつじゃない。これやりたかったのよね〜」
「あの、やるなら1人で……」
「怖いの? わたしに負けるのが」
「そんなわけないでしょ」
「じゃあ、やりましょう」
「あのね、そんな挑発には乗らないよ」
「カカシさんが付き合ってくれないなら、そこら辺にいる人を誘うもん」
「だから、そしたらゲームだけで終わるわけないでしょう」
「もう帰るカカシさんには関係ないでしょ」
私は拗ねたように言う。しばらく沈黙が続く。
先に折れたのはカカシさんだった
「はぁ〜、分かったよ。俺が相手しますよ」
「やったー!」
私とカカシさんはゲームで遊び始める。それは思いのほか盛り上がり、いつのまにか朝になっていた。久しぶりにこんなに笑った気がする。終始カカシさんがマスクを外すことはなかったけど。私たちは片付けを終えると、ホテルを出る。
「カカシさん、ありがとうございました」
「どういたしまして。全く……こんなことははじめてだよ。女の子と何もしないで夜を過ごすなんて」
「あら、熱い夜を過ごしたと思いますけど」
「ある意味ね」
「でも楽しかったでしょ?」
「それなりに」
私達は笑い合った。
「それじゃあ、行きますね」
「うん、気を付けて」
私は名残惜しかったが、カカシさんに背を向け、歩き出した。
カカシさんはあくまで可哀相な私に付き合っただけだ。
「サクラ」
名前を呼ばれ、手を引かれる。
振り返ると、唇に柔らかい感触。近すぎる瞳と目が合う。
その綺麗な瞳に見惚れていると、顔がゆっくり離れていく。
マスクは下におろされていた。けっこうイケメンかも。
驚いていて放心していると、手に何かを握らされる。
「それじゃあ、またね」
そう言ってカカシさんは去っていた。
いま呼び捨てされた?
キスされた?
マスクおろしてたよね?
手を握られた?
またね?
私は手の中を見る。それはメモ用紙で、電話番号が書かれていた。
おそらくカカシさんのだろう。
「えーーー!!!」
早朝の鎮まり返った街に私の声が響いた。
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