NARUTO/カカサク 短編①
月華-tsukihana-/北出菜奈
「サークラ、おはよ」
「おはよう、先生」
先生の声で目が覚める朝、なんて幸せなんだろう。
私は先生にお姫様抱っこをしてもらいながら、先生が作ってくれたご飯が並ぶ食卓に向かう。最初は恥ずかしかったが、いまはもう慣れた。
「今日も美味しそうね」
「サクラのために頑張っちゃった」
「いつもありがとう。でも私は家にいるだけだから、こんなに頑張らなくていいのよ」
「だからでしょ。運動できない分、食事はしっかりとらないと」
「でも、先生のご飯美味しいから、つい食べ過ぎちゃうのよ。太っちゃうわ」
「サクラはもう少し太った方がいいよ。じゃないと、抱き心地が……」
私は思いっきり先生をにらみつける。
「……なんてね、冗談だよ」
「なら、いいけど」
私たちはそんな他愛もない会話をしながら、ご飯を食べ進める。食べ終えると先生が片付けをし、それを終えると私を再びお姫様抱っこでベッドに運ぶ。
「いつもごめんなさい」
「俺なら大丈夫だから。それより早く治るといいね」
「……うん」
先生は私をベッドにおろすと、任務に行く準備をする。
「じゃあ、行ってくる。夕方頃までには帰ってこれると思うから」
「分かった、気を付けてね」
私は先生をベッドの上から見送る。本当は玄関で見送りたいのだが、できなかった。なぜなら、私は足を怪我をして歩けないからだ。
こうなったのは三週間ほど前。
7班での任務の最中、私は自分の不注意で倒れてきた木の下敷きになってしまった。私の足は大木の重さに耐えきれるはずなく、あまりの痛さにそのまま意識を失った。
目を開けると病室で、顔を横にずらすとカカシ先生がいた。
「サクラ! 目が覚めたのか」
「先生……」
先生の呼び声に答えようと起き上がろうとするが、上手く起き上がれない。
「無理するな」
そう言って先生は私に近寄ると、背中に手を当ててくれて起き上がるのを手伝ってくれた。
「私の足、もしかして……」
先生は「骨折だって。しばらくは歩けないと思う」と状況を説明してくれる。
「そうなのね……」
「ごめん」
私が俯くと、先生が謝る。
「なんで先生が謝るの?」
「俺がサクラをちゃんと見ていれば、こんなことにはならなかった」
「そんなことない。私が気を抜いていたせいよ。だから、先生は悪くない」
私より辛い表情をするカカシ先生をどうにかしようと、無理やり笑顔を作る。
「私なら本当に大丈夫だから」
「サクラ……」
「頑張って治してまた任務に復帰するから。それまでサスケくんとナルトをよろしくね」
「あぁ。でも、責任はきちんと取るから」
「責任?」
「サクラの足が治るまで俺が世話するよ。サクラの両親にはもう話してある」
「えっ! ちょっと、待って!? どういうこと?」
「だから、足が治るまで俺がサクラの面倒を見るってこと」
「何もそこまでしなくても……先生忙しいし」
「そこらへんは大丈夫。こうでもしないと俺の気が済まないんだ」
「でも……」
「先生の言うことは聞くものだよ、サクラ」
こうして、私は先生のお世話になる日々を送ることになった。
先生と一緒に過ごす日々はとても穏やかで、幸せだった。
初めて訪れた先生の部屋は必要なもの以外ほとんどなく、殺風景。しかし、一日中私が部屋にいることに気を遣ったのか、だんだん小物などが増えていき、生活感のある部屋になった。
先生は料理も上手でバリエーションも豊富。本音を言うと、私のお母さんより美味しかった。そんなことは口が裂けても言えないけど。
着替えやお風呂もすごく気を遣ってくれて、まさに至れり尽くせりの状態。
そして何より優しかった。もちろんそれ以前も優しかったが、一緒に生活しはじめてから、特に甘いというか、すごく大切にされていると実感する。
これで好きにならないのがおかしい。私の中でいつのまにか先生の存在が大きくなっていった。
足はほとんど治りかけている。この調子だと、あと1週間ほどですぐに元の状態に戻るだろう。ただ、私はその期間を過ぎても歩けないふりを続けた。先生との生活が終わってしまうと思うと、なかなか言い出せなかったのだ。
このままじゃいけないのは分かってる。先生の優しさに触れるたび、罪悪感に苛まれる。私はもうどうしたらいいのか分からなくなっていた。
ピンポーンと、チャイムが鳴る。先生に“滅多に人は来ないと思うけど、もし来たら無視していいからね”と言われたことを思い出す。しかし、もし大事な用だったらと思うと、気がひける。
私は起き上がり、ドアを開けると、見たことのない女の人が立っていた。
長身で長い黒髪のすらっとした体系の美女だった。
「あんた誰?」
開口一番にそう言われ、私も思わず強い口調で返す。
「あなたこそ誰ですか? 先にあなたが名乗るのがスジじゃないんですか」
「生意気な子ね。私はカカシの彼女よ」
私は驚く。先生からそんな話は聞いてない。
「聞いてないの? それもそうね、カカシがこんな小娘を相手にするわけないし、いちいち話さないわよね」
私の様子を見た女は、小馬鹿にしたように笑う。
「どうしてここにいるのか分からないけど、あなたの居場所はここじゃないのよ。早く自分のお家に帰りなさい」
「あなたこそ私がここにいる理由を聞いてないんですか? 彼女なのに?」
私は精一杯の強がりで返す。
「そんなことあなたには関係ないでしょ」
「関係ありますよ。私はここに一緒に住んでるんです。私の帰る家もここです」
女は目を見開くと、眉間に皺をよせる。
「嘘よ! そんな貧相な体のあなたがカカシを満足させられるわけないわ!」
「嘘だと言うなら、本人が帰ってくるまでここで待ちます? そして、聞いてみればいいじゃないですか」
私は女が先ほどそうしたように小馬鹿に笑う。女は「……もういい!」と帰って行った。私はしばらくその後ろ姿を見つめ、部屋に戻った。
どのぐらい経ったのだろうか。先生が「ただいま」と帰宅する。
いつもの私なら「おかえり」と挨拶をするのだが、私は布団の中に蹲っていた。
「サクラ……?」
先生が心配そうに私に近寄る。私は先程の出来事に打ちのめされ、顔を出せずにいた。
「なんかあった?」
先生が私の頭だと思われるところを優しく撫で、その優しさが私の心にしみる。
「……お願い、今はそっとしておいてほしいの」
「それは無理なお願いだな。こんな状態のサクラをほっとけない」
先生はそこから離れない。
「お願いだから、ほっといて。こんな私、先生に心配される資格ないの」
私は布団の中から懇願する。
「何言ってるんだ? それに無理だって言ってるだろ」
先生の声に少し苛立ちが含む。私は布団から顔を出し、叫んだ。
「いいから、ほっといてよ! 私、最低なの……。先生に心配してもらえる筋合いないの。だって、本当はもう歩けるんだもの!」
私は近くにいた先生を突き飛ばし、立ち上がる。
「先生と一緒にいたくて、治っていたのにずっと嘘をついてたの。いままで私のせいで先生を縛り付けてしまってごめんなさい。私ならもう大丈夫だから……」
私は俯く。涙なんか流したくないのに、勝手に溢れてくる。
「……知ってたよ」
「えっ?」
先生の声に思わず顔をあげると、先生はとても優しい顔をしていた。
「知ってたんだ、サクラの足がとっくに治っていることは。ずっと一緒にいるんだから、当然でしょ」
私はただ驚き、先生をひたすら見つめ続ける。
「ならどうして……」
「俺もサクラと一緒にいたかったから」
そう言うと先生は私を抱き締める。
「俺も知っていて、知らないふりをしてたんだ。こんなに悩んでるなんて、知らなかった。謝るなら俺のほうだ、ごめんね」
「謝らないで、先生」
私も先生の背中に手をまわす。
「じゃあ、私は先生のそばにいていいの?」
「うん。いてくれないと困る」
「でも、先生。彼女いるんでしょ?」
「彼女?」
先生は怪訝な顔をする。
「長身の長い黒髪の女の人」
考えこんだあと、「……あぁ!」と思い出したようだ。
「あいつはそんなんじゃないよ。一回寝ただけだよ」
「それはそれで聞き捨てならないんだけど……」
先生は「なんでサクラが知ってるのかは分からないけど、もう昔の事だから。いまはそんなことしないよ」と苦笑いをする。私はジト目で先生を見る。
「そんなことどうでもいいでしょ。それよりせっかく足が治ったんだから、リハビリもかねて外に行かない? サクラと一緒に行きたいところがたくさんあるんだ」
「うん!」
私は久しぶりに心から笑うことができた。
それを見た先生も幸せそうに笑った。
「サークラ、おはよ」
「おはよう、先生」
先生の声で目が覚める朝、なんて幸せなんだろう。
私は先生にお姫様抱っこをしてもらいながら、先生が作ってくれたご飯が並ぶ食卓に向かう。最初は恥ずかしかったが、いまはもう慣れた。
「今日も美味しそうね」
「サクラのために頑張っちゃった」
「いつもありがとう。でも私は家にいるだけだから、こんなに頑張らなくていいのよ」
「だからでしょ。運動できない分、食事はしっかりとらないと」
「でも、先生のご飯美味しいから、つい食べ過ぎちゃうのよ。太っちゃうわ」
「サクラはもう少し太った方がいいよ。じゃないと、抱き心地が……」
私は思いっきり先生をにらみつける。
「……なんてね、冗談だよ」
「なら、いいけど」
私たちはそんな他愛もない会話をしながら、ご飯を食べ進める。食べ終えると先生が片付けをし、それを終えると私を再びお姫様抱っこでベッドに運ぶ。
「いつもごめんなさい」
「俺なら大丈夫だから。それより早く治るといいね」
「……うん」
先生は私をベッドにおろすと、任務に行く準備をする。
「じゃあ、行ってくる。夕方頃までには帰ってこれると思うから」
「分かった、気を付けてね」
私は先生をベッドの上から見送る。本当は玄関で見送りたいのだが、できなかった。なぜなら、私は足を怪我をして歩けないからだ。
こうなったのは三週間ほど前。
7班での任務の最中、私は自分の不注意で倒れてきた木の下敷きになってしまった。私の足は大木の重さに耐えきれるはずなく、あまりの痛さにそのまま意識を失った。
目を開けると病室で、顔を横にずらすとカカシ先生がいた。
「サクラ! 目が覚めたのか」
「先生……」
先生の呼び声に答えようと起き上がろうとするが、上手く起き上がれない。
「無理するな」
そう言って先生は私に近寄ると、背中に手を当ててくれて起き上がるのを手伝ってくれた。
「私の足、もしかして……」
先生は「骨折だって。しばらくは歩けないと思う」と状況を説明してくれる。
「そうなのね……」
「ごめん」
私が俯くと、先生が謝る。
「なんで先生が謝るの?」
「俺がサクラをちゃんと見ていれば、こんなことにはならなかった」
「そんなことない。私が気を抜いていたせいよ。だから、先生は悪くない」
私より辛い表情をするカカシ先生をどうにかしようと、無理やり笑顔を作る。
「私なら本当に大丈夫だから」
「サクラ……」
「頑張って治してまた任務に復帰するから。それまでサスケくんとナルトをよろしくね」
「あぁ。でも、責任はきちんと取るから」
「責任?」
「サクラの足が治るまで俺が世話するよ。サクラの両親にはもう話してある」
「えっ! ちょっと、待って!? どういうこと?」
「だから、足が治るまで俺がサクラの面倒を見るってこと」
「何もそこまでしなくても……先生忙しいし」
「そこらへんは大丈夫。こうでもしないと俺の気が済まないんだ」
「でも……」
「先生の言うことは聞くものだよ、サクラ」
こうして、私は先生のお世話になる日々を送ることになった。
先生と一緒に過ごす日々はとても穏やかで、幸せだった。
初めて訪れた先生の部屋は必要なもの以外ほとんどなく、殺風景。しかし、一日中私が部屋にいることに気を遣ったのか、だんだん小物などが増えていき、生活感のある部屋になった。
先生は料理も上手でバリエーションも豊富。本音を言うと、私のお母さんより美味しかった。そんなことは口が裂けても言えないけど。
着替えやお風呂もすごく気を遣ってくれて、まさに至れり尽くせりの状態。
そして何より優しかった。もちろんそれ以前も優しかったが、一緒に生活しはじめてから、特に甘いというか、すごく大切にされていると実感する。
これで好きにならないのがおかしい。私の中でいつのまにか先生の存在が大きくなっていった。
足はほとんど治りかけている。この調子だと、あと1週間ほどですぐに元の状態に戻るだろう。ただ、私はその期間を過ぎても歩けないふりを続けた。先生との生活が終わってしまうと思うと、なかなか言い出せなかったのだ。
このままじゃいけないのは分かってる。先生の優しさに触れるたび、罪悪感に苛まれる。私はもうどうしたらいいのか分からなくなっていた。
ピンポーンと、チャイムが鳴る。先生に“滅多に人は来ないと思うけど、もし来たら無視していいからね”と言われたことを思い出す。しかし、もし大事な用だったらと思うと、気がひける。
私は起き上がり、ドアを開けると、見たことのない女の人が立っていた。
長身で長い黒髪のすらっとした体系の美女だった。
「あんた誰?」
開口一番にそう言われ、私も思わず強い口調で返す。
「あなたこそ誰ですか? 先にあなたが名乗るのがスジじゃないんですか」
「生意気な子ね。私はカカシの彼女よ」
私は驚く。先生からそんな話は聞いてない。
「聞いてないの? それもそうね、カカシがこんな小娘を相手にするわけないし、いちいち話さないわよね」
私の様子を見た女は、小馬鹿にしたように笑う。
「どうしてここにいるのか分からないけど、あなたの居場所はここじゃないのよ。早く自分のお家に帰りなさい」
「あなたこそ私がここにいる理由を聞いてないんですか? 彼女なのに?」
私は精一杯の強がりで返す。
「そんなことあなたには関係ないでしょ」
「関係ありますよ。私はここに一緒に住んでるんです。私の帰る家もここです」
女は目を見開くと、眉間に皺をよせる。
「嘘よ! そんな貧相な体のあなたがカカシを満足させられるわけないわ!」
「嘘だと言うなら、本人が帰ってくるまでここで待ちます? そして、聞いてみればいいじゃないですか」
私は女が先ほどそうしたように小馬鹿に笑う。女は「……もういい!」と帰って行った。私はしばらくその後ろ姿を見つめ、部屋に戻った。
どのぐらい経ったのだろうか。先生が「ただいま」と帰宅する。
いつもの私なら「おかえり」と挨拶をするのだが、私は布団の中に蹲っていた。
「サクラ……?」
先生が心配そうに私に近寄る。私は先程の出来事に打ちのめされ、顔を出せずにいた。
「なんかあった?」
先生が私の頭だと思われるところを優しく撫で、その優しさが私の心にしみる。
「……お願い、今はそっとしておいてほしいの」
「それは無理なお願いだな。こんな状態のサクラをほっとけない」
先生はそこから離れない。
「お願いだから、ほっといて。こんな私、先生に心配される資格ないの」
私は布団の中から懇願する。
「何言ってるんだ? それに無理だって言ってるだろ」
先生の声に少し苛立ちが含む。私は布団から顔を出し、叫んだ。
「いいから、ほっといてよ! 私、最低なの……。先生に心配してもらえる筋合いないの。だって、本当はもう歩けるんだもの!」
私は近くにいた先生を突き飛ばし、立ち上がる。
「先生と一緒にいたくて、治っていたのにずっと嘘をついてたの。いままで私のせいで先生を縛り付けてしまってごめんなさい。私ならもう大丈夫だから……」
私は俯く。涙なんか流したくないのに、勝手に溢れてくる。
「……知ってたよ」
「えっ?」
先生の声に思わず顔をあげると、先生はとても優しい顔をしていた。
「知ってたんだ、サクラの足がとっくに治っていることは。ずっと一緒にいるんだから、当然でしょ」
私はただ驚き、先生をひたすら見つめ続ける。
「ならどうして……」
「俺もサクラと一緒にいたかったから」
そう言うと先生は私を抱き締める。
「俺も知っていて、知らないふりをしてたんだ。こんなに悩んでるなんて、知らなかった。謝るなら俺のほうだ、ごめんね」
「謝らないで、先生」
私も先生の背中に手をまわす。
「じゃあ、私は先生のそばにいていいの?」
「うん。いてくれないと困る」
「でも、先生。彼女いるんでしょ?」
「彼女?」
先生は怪訝な顔をする。
「長身の長い黒髪の女の人」
考えこんだあと、「……あぁ!」と思い出したようだ。
「あいつはそんなんじゃないよ。一回寝ただけだよ」
「それはそれで聞き捨てならないんだけど……」
先生は「なんでサクラが知ってるのかは分からないけど、もう昔の事だから。いまはそんなことしないよ」と苦笑いをする。私はジト目で先生を見る。
「そんなことどうでもいいでしょ。それよりせっかく足が治ったんだから、リハビリもかねて外に行かない? サクラと一緒に行きたいところがたくさんあるんだ」
「うん!」
私は久しぶりに心から笑うことができた。
それを見た先生も幸せそうに笑った。
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