NARUTO/カカサク 短編①
桜日和/星村麻衣
カカシ先生が任務で亡くなった。里中が悲しみに包まれる中、私だけはその様子をどこか一歩引いたような感覚で見ていた。みんなが悲痛な面持ちで慰霊碑に集中している中、冷静な目でそれを見つめている私は異端だっただろう。だけど、みんな悲しむのに夢中で私の表情に気づくものはいない。
だって、私は悲しくなかった。私は隣にいる人を見上げると、私の視線に気づいたのか、こちらを向いて首を傾げている。
「サクラ?」
「ううん、何でもないよ。カカシ先生」
――――――――――――――
先生が亡くなってから数週間、私は幽霊になった先生と一緒に過ごしている。先生の幽霊は不思議なことに実体があり、私に触れるのはもちろん、物を触ったり動かすことも可能だ。ただ、他の人には認知されないらしい。
「どうして、私だけ見えるのかしら?」
「さぁ?」
「さぁって……自分のことでしょ。あっ、これ美味しい」
「でしょ。俺の自信作」
そんな会話をしながら、私の部屋で先生が用意してくれたご飯を一緒に食べる。先生の家は本人が亡くなってしまい引き払われてしまったため、こうして私の家で一緒に生活している。家を貸す代わりに、先生には家事全般をやってもらっている。最初は戸惑いも多かったが、慣れとは怖いもので、いまでは先生がいない生活など考えられない。
「先生って料理できたのね。洗濯や掃除も完璧だし、意外だったわ」
「まぁ、一人暮らしが長かったからね~」
「おかげで助かってるからいいけど」
「それは良かった」
ご飯を食べ終え、私達は各々本を読み始める。読書のほかには、一緒にテレビを見たり、散歩をしたり。先生は忙しかったから、こんな風に一緒に過ごせるのは純粋に嬉しかった。
「うふふ」
「どうしたの?」
「こんなゆっくりするのって久しぶりだなって思って。体がなまっちゃいそう」
「まぁ、ずっと里の為に働き続けてたわけだし、いいんじゃない?」
「それもそうね」
私はカカシ先生が亡くなったと知ってショックで気絶し、一週間ほど寝込んでいたそうだ。目が覚めた時に死んだはずの先生が目の前にいてびっくりしたっけ……。そのおかげかしばらく仕事を休んでいいとのことで、いまでは四六時中先生と一緒に過ごしている。
「ねぇ、先生。散歩に行かない?」
「また?」
「いいじゃない。家でぐうたらしていたら、豚になっちゃうわ」
そう言って私は先生を外に連れ出す。先生はなんだかんだ言いつつも最終的には付き合ってくれる。家を出た私達は桜並木の道を2人並んで歩く。
「うわ~。綺麗ね」
「そうだねー」
「ちょっと、先生。感情がこもってないわよ」
「そう言われても……」
「少しくらい感動しなさいよ。 前の木ノ葉では、こんなゆっくり花見なんて考えられなかったでしょ」
「まぁ、確かに」
「争いが全く無くなったわけではないけど……こうして桜を楽しむ余裕が出てきて。それってすごく幸せなことよね」
「そうだね。それもナルトやサクラ達が頑張ったおかげだよ」
「先生もでしょ」
「俺は何も……」
「謙遜禁止!」
「はいはい」
「も~、本当に分かってるのかしら」
私が呆れていると、先生は私をじっと見つめ始める。
「なに? なんかついてる?」
「いや、なんでも」
「なによ。気になるじゃない」
「別に大したことないよ。ただ、あの頃……俺達が出会った頃に比べたら成長したなと思って」
「そりゃあ、いつまでもあのままでいるわけにはいかないからね。もう先生やサスケくん、ナルトに守られている私じゃないのよ!」
「あはは、そうだね。でも、変わらなかった部分もあるな……」
残念そうに胸を見るので、私は先生に一発拳をいれる。先生は痛みで蹲るが、そんなのは気にしない。先生が悪いのよ。
「さすがだな……本当に強くなった。そして……」
「?」
急に無言になったので力を入れ過ぎたかなと心配していると、先生が体を起こし私の頭を撫でる。
「綺麗になった」
先生が私の頭を撫でながら愛おしそうな目でそう言うので、私は思わず目をそらす。
なに!? あんな表情の先生、初めて見たんだけど!?
一人でパニックになっていると頭にあった温もりが離れていき、思わずそらしていた目を先生に向ける。
「ん? どうしたの、サクラ?」
再び見た先生はいつもの変わらない先生だった。
「何でもない!」
私は一人だけ意識していたのかと急に恥ずかしくなり、カカシ先生を置いて歩き出す。
「ちょっと! 待ってよ、サクラ」
先生は速足で歩く私の隣にすぐに並ぶ。
「せっかくの桜をそんな速足で見たらもったないでしょ」
「先生は興味ないんだからいいんでしょ」
「別に興味ないわけじゃないよ」
「だってさっき……」
「まぁ、さっきはああ言ったけど、やっぱり見るのもいいなと思ったんだよ」
「何で?」
「何でって……サクラと一緒にだからじゃない?」
「……それ本気で言ってる?」
「うん」
先生を見るとニコニコと笑ってる。もうさっきから先生には振り回されてばっかり。でも、別に嫌じゃない。
「それならいいけど……」
それから私たちは今度は同じ速度で歩き出す。
「明日は西の公園に行きましょ。あそこも桜がすごいらしいわよ」
「へぇ~、詳しいんだね」
「そりゃあ、いつかできる恋人と行くために調べつくしましたから」
「あはは、サクラらしいね。でも俺でいいの?」
「下見よ、下見! まぁ、先生だしね」
「喜んでいいのかよく分からないな」
「うふふ」
「じゃあ、その次は東の公園に行こうよ」
「いいわよ。でも、散歩ばかりになっちゃうわね」
「別にいいんじゃない」
「それもそうね。でも、こんなのってまるで……」
「ん?」
「……ううん、なんでもない」
"老夫婦みたいね”と言葉が出かかったが、意識していると思われたくなくて結局口には出さなかった。
「そっか。でも、散歩をよくしているなんて……まるで老夫婦みたいだな」
「え!?」
「何をそんなに驚くのよ。俺、変なこと言った?」
「だって、私もそう思ってて……てっきり心を読まれたかと」
「そんなことできるわけないでしょ」
「先生ならなんかできそう……」
「あのね~」
先生は呆れた表情をし、私はそれを見て笑う。"こんな日々がじっと続けばいいのに"と思いながらも、この幸せな日々がそう長くは続かないことも心のどこかで分かっていた。
カカシ先生が任務で亡くなった。里中が悲しみに包まれる中、私だけはその様子をどこか一歩引いたような感覚で見ていた。みんなが悲痛な面持ちで慰霊碑に集中している中、冷静な目でそれを見つめている私は異端だっただろう。だけど、みんな悲しむのに夢中で私の表情に気づくものはいない。
だって、私は悲しくなかった。私は隣にいる人を見上げると、私の視線に気づいたのか、こちらを向いて首を傾げている。
「サクラ?」
「ううん、何でもないよ。カカシ先生」
――――――――――――――
先生が亡くなってから数週間、私は幽霊になった先生と一緒に過ごしている。先生の幽霊は不思議なことに実体があり、私に触れるのはもちろん、物を触ったり動かすことも可能だ。ただ、他の人には認知されないらしい。
「どうして、私だけ見えるのかしら?」
「さぁ?」
「さぁって……自分のことでしょ。あっ、これ美味しい」
「でしょ。俺の自信作」
そんな会話をしながら、私の部屋で先生が用意してくれたご飯を一緒に食べる。先生の家は本人が亡くなってしまい引き払われてしまったため、こうして私の家で一緒に生活している。家を貸す代わりに、先生には家事全般をやってもらっている。最初は戸惑いも多かったが、慣れとは怖いもので、いまでは先生がいない生活など考えられない。
「先生って料理できたのね。洗濯や掃除も完璧だし、意外だったわ」
「まぁ、一人暮らしが長かったからね~」
「おかげで助かってるからいいけど」
「それは良かった」
ご飯を食べ終え、私達は各々本を読み始める。読書のほかには、一緒にテレビを見たり、散歩をしたり。先生は忙しかったから、こんな風に一緒に過ごせるのは純粋に嬉しかった。
「うふふ」
「どうしたの?」
「こんなゆっくりするのって久しぶりだなって思って。体がなまっちゃいそう」
「まぁ、ずっと里の為に働き続けてたわけだし、いいんじゃない?」
「それもそうね」
私はカカシ先生が亡くなったと知ってショックで気絶し、一週間ほど寝込んでいたそうだ。目が覚めた時に死んだはずの先生が目の前にいてびっくりしたっけ……。そのおかげかしばらく仕事を休んでいいとのことで、いまでは四六時中先生と一緒に過ごしている。
「ねぇ、先生。散歩に行かない?」
「また?」
「いいじゃない。家でぐうたらしていたら、豚になっちゃうわ」
そう言って私は先生を外に連れ出す。先生はなんだかんだ言いつつも最終的には付き合ってくれる。家を出た私達は桜並木の道を2人並んで歩く。
「うわ~。綺麗ね」
「そうだねー」
「ちょっと、先生。感情がこもってないわよ」
「そう言われても……」
「少しくらい感動しなさいよ。 前の木ノ葉では、こんなゆっくり花見なんて考えられなかったでしょ」
「まぁ、確かに」
「争いが全く無くなったわけではないけど……こうして桜を楽しむ余裕が出てきて。それってすごく幸せなことよね」
「そうだね。それもナルトやサクラ達が頑張ったおかげだよ」
「先生もでしょ」
「俺は何も……」
「謙遜禁止!」
「はいはい」
「も~、本当に分かってるのかしら」
私が呆れていると、先生は私をじっと見つめ始める。
「なに? なんかついてる?」
「いや、なんでも」
「なによ。気になるじゃない」
「別に大したことないよ。ただ、あの頃……俺達が出会った頃に比べたら成長したなと思って」
「そりゃあ、いつまでもあのままでいるわけにはいかないからね。もう先生やサスケくん、ナルトに守られている私じゃないのよ!」
「あはは、そうだね。でも、変わらなかった部分もあるな……」
残念そうに胸を見るので、私は先生に一発拳をいれる。先生は痛みで蹲るが、そんなのは気にしない。先生が悪いのよ。
「さすがだな……本当に強くなった。そして……」
「?」
急に無言になったので力を入れ過ぎたかなと心配していると、先生が体を起こし私の頭を撫でる。
「綺麗になった」
先生が私の頭を撫でながら愛おしそうな目でそう言うので、私は思わず目をそらす。
なに!? あんな表情の先生、初めて見たんだけど!?
一人でパニックになっていると頭にあった温もりが離れていき、思わずそらしていた目を先生に向ける。
「ん? どうしたの、サクラ?」
再び見た先生はいつもの変わらない先生だった。
「何でもない!」
私は一人だけ意識していたのかと急に恥ずかしくなり、カカシ先生を置いて歩き出す。
「ちょっと! 待ってよ、サクラ」
先生は速足で歩く私の隣にすぐに並ぶ。
「せっかくの桜をそんな速足で見たらもったないでしょ」
「先生は興味ないんだからいいんでしょ」
「別に興味ないわけじゃないよ」
「だってさっき……」
「まぁ、さっきはああ言ったけど、やっぱり見るのもいいなと思ったんだよ」
「何で?」
「何でって……サクラと一緒にだからじゃない?」
「……それ本気で言ってる?」
「うん」
先生を見るとニコニコと笑ってる。もうさっきから先生には振り回されてばっかり。でも、別に嫌じゃない。
「それならいいけど……」
それから私たちは今度は同じ速度で歩き出す。
「明日は西の公園に行きましょ。あそこも桜がすごいらしいわよ」
「へぇ~、詳しいんだね」
「そりゃあ、いつかできる恋人と行くために調べつくしましたから」
「あはは、サクラらしいね。でも俺でいいの?」
「下見よ、下見! まぁ、先生だしね」
「喜んでいいのかよく分からないな」
「うふふ」
「じゃあ、その次は東の公園に行こうよ」
「いいわよ。でも、散歩ばかりになっちゃうわね」
「別にいいんじゃない」
「それもそうね。でも、こんなのってまるで……」
「ん?」
「……ううん、なんでもない」
"老夫婦みたいね”と言葉が出かかったが、意識していると思われたくなくて結局口には出さなかった。
「そっか。でも、散歩をよくしているなんて……まるで老夫婦みたいだな」
「え!?」
「何をそんなに驚くのよ。俺、変なこと言った?」
「だって、私もそう思ってて……てっきり心を読まれたかと」
「そんなことできるわけないでしょ」
「先生ならなんかできそう……」
「あのね~」
先生は呆れた表情をし、私はそれを見て笑う。"こんな日々がじっと続けばいいのに"と思いながらも、この幸せな日々がそう長くは続かないことも心のどこかで分かっていた。
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