5部
夢小説設定
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イタリアのネアポリスの大通りを一人の男が歩いていた。その男はスーツを着こなし、ブロンドの髪を結い上げ、堂々と風を切り歩いていた。男はバールへと向かいエスプレッソを注文する。カップを持つ姿も絵になっていたが誰一人、男に声をかける者はいなかった。何故なら彼はギャングだからだ。
男はギャング組織パッショーネの暗殺チームに所属している。名前はプロシュート。弟分のペッシには兄貴と呼ばれて慕われていた。
プロシュートはバールから出ると裏通りへと入る。煙草を吸いながら歩いていると空き地に女性が座っているのに気づいた。裏通りは昼間でも治安が悪いので女性が一人でいる事は珍しかった。だがプロシュートは面倒事に巻き込まれたくなかったので空き地の前を通りすぎる。
アジトへと到着すると先程の女性の事などは忘れてしまった。そんな事よりも、これから大切な仕事を弟分を連れてこなさなければいけないからだ。リーダーであるリゾットの指示に従いペッシと共に暗殺のターゲットがいる現場へと向かった。難なく仕事をこなして帰路につく。
帰り道、昼間に女性がいた空き地の前を通る。プロシュートが目をやると女性はまだ座っていた。少し不気味に感じる。プロシュートが立ち止まるとペッシも立ち止まり兄貴の様子を伺っていた。女性を観察するが呼吸をしている様には見えなかった。
「おいペッシ、あの女が見えるか?」
「女? 兄貴どこに女がいるんです?」
「そこに座ってるじゃあーねーか」
「兄貴…怖いことを言わねーでくださいよぉ」
女性の姿はペッシには見えていなかった。プロシュートはあれは幽霊なのだと理解した。
「手を触れずに見ることを人は学ばなければならない、だな」
「えっ? 兄貴もう一回言ってください」
そんなペッシの声を無視してアジトへと足を進ませる。それから半年間は空き地の女性を無視していた。だがある日、酔っ払ったプロシュートは女性に声をかけた。
「おい、いつまでもこんな所で立ってるんじゃあねーよ」
「…」
「あ、無視か?」
「わたしが見えるの?」
「見えてるから話しかけてるんだろうが」
プロシュートは女性に名前を聞いた。夢主と言うらしい。それとここに立っている理由も聞いたところ女性はこの空き地で恋人に殺されたそうだ。それからずっと同じ場所から動けないでいるらしい。殺された理由は彼の浮気を疑ったら殺された、この世の中にはありそうな話である。
「何がお前をこの世に引き留めているんだ?」
「さぁ、分からない。でもここで待っていたら彼が来てくれるんじゃないかと思って…」
「寂しい奴だな。いつまでも後ろを向いてると良い事は無いぞ」
「貴方って面白い人ね」
そう言って笑った彼女の表情にプロシュートは心を奪われた。それはとても美しく、儚げな姿に見えたのだ。
「恋人の名前は?」
「アルミロって言う名前よ。○○の街に住んでる」
「そうか、仇を取ってやろうか?」
「優しいのね。でも貴方を巻き込みたくないの…」
「そうか」
夢主とは別れてアジトへと帰った。その後すぐにプロシュートはアルミロの事を調べた。○○の街にアルミロと言う男性は実在していた。実際にプロシュートが見に行くと84歳の高齢男性だったのだ。
「あの爺さんが夢主の言ってた恋人か?」
想像していたよりも年老いていたので驚いたが、プロシュートが手を下さなくても老い先は短そうだ。
「ボンジョルノ。爺さん少し聞きたいことがあるんだが…」
「ボンジョルノ。聞きたい事ってなんだ?」
「昔、恋人を亡くしたことはあるか?」
「……何故そんな事を聞くんだ」
「いや、聞いただけだ。あんたを空き地で待ってる女がいたぞ。それを伝えたかっただけだ、じゃあな」
プロシュートはその場を去った。
数日後、空き地へと向かったが夢主は居なかった。空き地に風が吹く、その風に乗って「ありがとう」と聞こえた気がした。