夢主がこちらの世界に来て長い年月が経った。カーズやエシディシの姿は変わらないし、サンタナとワムウは赤ん坊の姿のままだ。だが夢主は見た目も心も年老いてしまった。そんな自分自身が憎らしい。

　「人間が年老いるのは早いな、夢主」
　「仕方ないね、人間として生まれたからには年老いるのは…」
　「一つ提案しよう」

　カーズが石で出来た仮面を手渡してきた。

　「これは？」
　「石仮面だ。それを被ればお前は年老いる事もない」
　「本当に？」

　夢主にとっては甘い誘惑だった。その日の内に夢主は石仮面を被り吸血鬼となった。月夜に湖に映った自分自身の顔を見て驚いた、若返っているのだ。カーズの言う事は本当だった事を理解した。

　「お前はもう太陽を見ることは出来ない、それに人の血を欲するようになるがそれでも良いのか？」
　
　カーズの言葉を思い出す。だが自分で決めた事なので後悔はなかった。こうして私は人間を食らう側になったのだ。

　「どうだ？　吸血鬼になった気分は」
　「…人間の時と変わらない」
　「そうか、お前らしいな」

　エシディシは笑う。

　「サンタナとワムウはいつになったら大人になるの？」
　「もう少し時間はかかるだろうな」
　「そう…人間の血って美味しいのかな？」
　「飲んでみれば良いじゃあないか」

　夢主は人間の血を飲むことを考えると少しだけ気持ち悪くなった。
　吸血鬼になってみて分かったことと言えば嗅覚や聴覚が鋭くなった、味覚が人間の時よりも鈍くなった、力が強くなった、牙が生えた事だった。動物達の心臓の音がドクドクと生々しく聴こえてくるので頭が混乱して大変だった。
　ある日、とてつもない空腹感に襲われた夢主は仕方なく動物の血肉を食らった。だが夢主の本能は“人間を食らえ”と命令してくるので夢主は必死に抗った。人間を食べてしまえば自分が自分では無くなりそうだと思ったのだ。
　
　「大変な生き物になっちゃったな…」
　「死にたくなったら言うが良い。俺達の食糧にしてやる」
　「約束だよ？」

　夢主の言葉にエシディシは黙ったのだった。