花の里が閉店してから数ヵ月が経ったある日のこと。
松田からのメールによると最近の杉下は推理の調子が不調らしい。
『え？あの杉下さんが…推理が不調？
いつものキレがないって書いてある
杉下さんでも不調とかあるんだ』
珍しいとは思いつつ理彩は松田に杉下さんが珍しいですねと返信した。






警視庁特命係の三人は杉下の知人である依頼人の女性からの事件の相談により昨日から動いているが三人とも事件性は感じないと判断するが女性は自分の知る杉下なら今頃こんなことはすんなりと解決しているはずだという。
確かに通常の杉下ならこんな事件は解決しているかもしれないが最近推理が不調な杉下は調子が出ないのである。

この日の夕方。
特命係の部屋では三人が最近の杉下の状況について話をまとめてみることにした。

杉下はどうやら最近になって
なんとなく調子が出ない、頭が冴えないらしい。
「なぁ杉下」
「何でしょうか？」
「最近変わったこととか本当にねぇんだな？」
「ないと思いますよ」
「本当に？」
「はい」
「暇か？
コーヒーもらうぞ」
角田がやって来た。
「どうぞ」
「さっきからみんなして何を悩んでんだ？」
「最近杉下がスランプらしくてな」
「はぁ!?スランプ!?」
角田は松田の言葉に驚く。
「だけど肝心な杉下さんはどうしてか分からないみたいですよ」
「それを話してたんだな？」
「もう俺と神戸だけじゃ分からねぇからお手上げだぜ」
「しかしスランプとはねぇ…
警部にもそんなことがあるんだな？
わりと警部とは長い付き合いになるけど初めてじゃないか？スランプなんて」
「でしょ？」
「まぁ警部程じゃないけど今日は俺も何だか不調でよぉ」
「どうかしたのか？」
「いやー
毎朝愚痴しか言わない女房がさ
今朝は機嫌が良いのか笑顔で送り出しやがってさ」
「いいことじゃないですか？」
「気持ち悪いよ
おかげでこっちの調子が狂っちまったよ」
「あっ！
おいおい…まさかな」
「どうしたの松田？」
「何？どうした？」
「今の角田の話を聞いてみて思ったんだが…
もしかしたら杉下のスランプの原因ってのは…」
「え？何か分かったわけ？今ので？」
「え？何か俺が言った？」
「角田の話を例えばだが俺で分かりやすく例えるとだ
いつも吸ってる煙草が終わって新しいのを吸おうとしたらポケットを見るが煙草が手元になかった
新しいのを買いに行ったが、いつもの銘柄が売り切れていて急いでいるから仕方なく違う物で済ませることにしたがいつものとは違うせいか何だか調子が狂うみたいなもんだろ」
「俺の話はそんな感じだったか？」
「角田の場合は毎朝罵倒されている旦那である角田がその日たまたま妻からの罵倒がないだけで調子が狂う訳だろ」
「罵倒されているとは言ってねぇぞ松田」
「そうか？似たようなもんだろ？
毎朝愚痴しか言わないって言ってたしな」
「そうだが…」
「そんで杉下で考えてみたら１つ思い当たることがある」
「おや？何でしょうか？」
「最近、杉下の長年の習慣が変わったろ？」
「杉下さんの習慣？
あっ！なるほどね！分かった！」
「何かあったか？
習慣…習慣…」
「全然分かりませんよ」
「あるだろ！
長年の習慣だったことが！」
「はて？」
「長年の習慣が変われば人は調子が狂うってことだろ
あるじゃねぇか！」
「はて？習慣なんてありませんよ？」
「習慣…あっ！あれか！」
「そうでしょ！あるでしょ！」
「確かにな！」
「きっとご自分が思っている以上に杉下さんの生活に染み込んでいてそれを喪失したダメージが今になって表面化してきたんですよ！」
「間違いなくそのせいだな！」
「なっ！言われてみて納得だろ？」
「確かに何でそれを疑わなかったのかってくらいにね」
「そうだな」
「習慣ですよね…ありましたかね？」
「えー!?
本当に分からないんですか!?」
「分かりませんねぇ
何故皆さんが分かるのでしょうかね？」
「こりゃあ重症だな杉下」
「そうだね」
「本当にスランプなんだな
これだけ言って分からないなんて今までなかっただろ？」
「確かに」
「何でしょうかね…
仲間外れにされているようなこの気持ちは…」
「はぁー…仕方ねぇな
ちょっと頼んでみるか!!
この最終手段を使っても杉下がスランプの原因に気付かねぇなら俺らではもうどうにもできねぇよ」
「「「最終手段？」」」
松田は携帯電話を取り出すとメールをした。
「メール？」
「ああ…この状況をな
こうなれば助っ人に頼るしかねぇからな」
「助っ人？」
「最終手段とは何ですかね？」
「お楽しみだ」
杉下、神戸、角田の頭には？が浮かぶ。
松田はスルーしメールを続けた。