荒船と出水の師匠シリーズ
企画もの
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18歳組と水族館
ラウンジに顔を出したら、集まっていた18歳組男子たちに模擬戦を申し込まれた。それに快諾して何戦か戦って、ただいまモニター前のソファを2つ占領して反省会中。
「蒼さん、明日暇ならオレとデートしません?」
「え?」
荒船くんと村上くんのコンビを相手取っていた映像から目線を上げる。今の声は当真くんか、と首を傾げれば頬杖をついてこちらをじっと見る当真くんと目が合った。他のメンバーはわいわいとモニターを見て盛り上がっているので、彼の声を聞いたのは私だけか。
「デート?」
「そそ、オレと水族館行きましょうよ」
「え、行きたい」
当真くんの提示した水族館に釣られて返事をすれば、モニターを見ていた荒船くんがこちらを見て首を傾げた。
「どうしました?」
「明日、当真くんが水族館行かない?って。城戸さん許可くれるかな」
「いいだろ、蒼さんとデートだぜ」
「は?」
にんまりと笑った当真くんに対し、一瞬呆けた顔をした荒船くんがみるみる機嫌が悪い顔になっていく。あ、れ…やっぱり遠いし、軽率だったかなと眉を下げれば、荒船くんが機嫌悪そうなまま言った一言が今回の引き金だった。
「それ、俺も行く」
◆
荒船くんが発した一言に、それじゃデートじゃねえとかなんとか言い争った結果、どういう訳かその場に居合わせた18歳組男子たちが全員付いてくることになった。にぎやか。
「蒼さーん、はいこれ入場券です」
「え、自分のくらい出したのに」
「なに言ってんですか。オレが誘ったんだから、これくらい出させてくださいよ」
「そっか。わかった、ありがとう」
「いーえ」
水族館の入口前にやってきて、当真くんがひょいと差し出した水族館の入場券を受け取る。まだ入場券売り場の前に行っていないし、これは前もって準備していたのだろうか。
「当真ぁ、俺達の分は?」
「有る訳ねーだろ、自分で買って来い」
「ちぇー。蒼さんにばっかり良い顔しやがってー」
「見せてくれ、A級の経済力を」
「見せませんー」
犬飼くんと穂刈くんが、当真くんにやいやい言いながら売り場へと向かって行く。その傍ら、さっさと入場券を手に入れていた影浦くんと北添くんが館内パンフレットを見ているのでそちらへ近づいた。
「今日は何かイベントあるの?」
「イルカショーが11時からあるみたいですよ。その他にもペンギンのお散歩とか、給餌タイムとか」
「へー!」
北添くんが見せてくれるパンフレットを一緒に覗き込んで、スケジュールを追って行く。
「イルカショー見んだろ?」
「うん、見たいな」
せっかく来たんだもの、出来る限りは見て行きたいと影浦くんの言葉に頷けば、パンフレットを畳みながら北添くんが機嫌良さ気に口を開いた。
「じゃあ、ゾエさんたちは先に行って席の確保しとこっか」
「だな。蒼サンたちはゆっくり見てこい」
「え、いいの?」
まだ結構時間あるよ?と聞けば、影浦くんがため息を吐いた。隣の北添くんはパンフレットを持ったまま、にこにこ笑っている。
「遅かったら良い席埋まっちまうだろ」
「ゾエさん、ショー会場の横で売ってる軽食が気になってるんですよねえ」
「そっか、じゃあお願いします」
「おう。時間になったら来いよ」
「うん」
「じゃ、早く行こうよカゲ」
にこにこ笑う北添くんが頷いて、影浦くんをせかしながら入口の方へ向かって行った。その姿を見送っていれば、犬飼くんがひょいと私の横から現れる。
「蒼さん準備出来ました?行きましょー」
「オイ、先に行くんじゃねえよ」
「置いていくな、俺たちを」
「なあ蒼さんあれ見える?あの青い魚綺麗じゃねえ?」
「ウミガメがいる…!」
わいわい騒ぐ当真くん達と共に、水族館の入口を潜った。
◆
ぺたぺたぺた、のしのしのし。
「わ」
「ん?」
のんびり水槽を見て回っていたら、大きなペリカンたちが列をなして目の前を通路を横切り始めた。先頭を歩く飼育員さんの手には『ペリカンお散歩中!』の旗がある。
「ペリカンだ!」
「へー、こいつらも散歩するんだ」
テンションの上がった私の隣には犬飼くん。2人でゆっくり見ていたら先を行く荒船くん達とペリカンによって分断されてしまったけれど、かわいいからゆるす。
「かわいい…」
「結構おっきいですねー」
のしのし歩くペリカンは、1メートルほどの大きさだ。しゃがみ込んだら食べられそう、と思いながら携帯を取り出す。せっかく可愛いのが歩いているんだから、写真撮らねば。
「こっちむいてくれるかな」
ぱしー、ぱしー、と軽やかな音を立てて、目の前に迫るペリカンを写真に収めていく。その可愛さにによによしていれば、私の隣にしゃがみこんだ犬飼くんが口を開いた。
「蒼さんとペリカン、一緒に写しましょっか?」
「あ、せっかくなら犬飼くんも一緒に写ろ。うまいこと自撮りしましょ」
「りょーかい」
ぺたぺた歩いていくペリカンをバックに、立ち上がった犬飼くんと一緒に写るようにカメラを調整する。もうちょっと高いと綺麗に入りそうだなと背伸びしていたら、犬飼くんにひょいと携帯を取られた。
「この辺でいいですか?」
「あ、うん」
内側のカメラを使っているので、画面には犬飼くんと私、それから後ろを歩くペリカンの群れが映っている。そのままシャッターを切ってくれたので、すごく良い写真が撮れた。
「犬飼くんとツーショットだ、ありがとう」
「いーえ。あとで俺にも送ってくださいね」
「もちろん!」
にこにこ笑う犬飼くんと一緒に、離れてしまった荒船くん達を探してペリカンたちの群れを後にした。
◆
それから少し進んだ所で、ひとつの水槽を覗き込んでいる2人の後ろ姿を見つけた。
「なに見てるの?」
「蒼さん」
「触れるんです、魚とかに」
「ふれあいコーナー?」
振り向いた村上くんの手には、真っ黒でとげとげなウニがちょこんと乗せられている。同じようにこちらを振り向いた穂刈くんの手には、真っ赤なヒトデ。凹型の水槽の中央には、解説役の飼育員さんが他のお客さんにサザエを手に喋りかけている。
「蒼さんもどうですか」
「いますよ、小さいサメとか」
「サメ!」
行く行く、と近づいて2人の真ん中にお邪魔する。水槽を覗き込めば、浅めの水槽の中に色とりどりの貝やヒトデ、少し大きめの魚などが泳いでいた。穂刈くんが指差す先には子供のネコザメが静かに沈んでいる。
「どの子にさわらせてもらおうかな…」
袖が濡れないように軽く捲って、近くの水道で手を洗ってから戻って来た水槽の前で吟味する。
「この子だな」
海水の中に手を入れて、近くにいた薄い黄色のヒトデをちょんとつつく。長い脚を持ってみれば、思いのほかしっかりした感触が伝わってきた。あらやだ面白い感触…!と感動していれば、村上くんが私の手の甲にちいさいウニを乗せてきた。
「これもどうぞ」
「ん?ありがと…あああすごい、ウニ吸い付いてる」
手を引っ繰り返してもウニは落ちずに手の甲へくっついたままだ。なんという吸着力…!そんな私を見て村上くんはうっすらと笑ってヒトデへと指を伸ばした。
「どうです蒼さん、これは。すごい良い、さわり心地が」
「おお…な、なまこか…」
反対側で妙に興奮している穂刈くんの手のひらでは、真っ黒いなまこがむにむにと握られていた。うわー、むっちむちで…なんか見てはいけない物を見ている気がする。推しに推されるからちょっとだけ触らせてもらったけれど、ぬめぬめして中身ぱつぱつって感じだった。
「離せないな、これは…!」
「お気に召したようで何より…」
「蒼さん、サメこっちに来ましたよ」
「あ、ほんとだ」
なまこが大層気に入ったらしい穂刈くんを見ていれば、すっと近づいてきたサメの存在を村上くんが教えてくれた。くっついたままのウニをそっと海底に戻して、岩陰にくっついたサメの肌に指を伸ばす。
「おお、すごい」
さりさりしてる、と大人しいネコザメの肌を堪能させてもらう。同じように指先を伸ばした村上くんも、感動したように鮫肌を撫でている。
「ちいさくても鮫肌ですね」
「鮫だねー」
大根おろしできそう、なんて話していたらピンポーン、と館内アナウンスが鳴り響いた。
『――5分後、大水槽での給餌を行います。御覧になる方は…』
「お」
それは行きたい、と村上くんと穂刈くんと離れて大水槽の方へと足を進めた。
◆
「蒼さん」
「あ、荒船くん」
この水族館の中で1番大きな水槽の前にやってくると、水槽を見上げていた荒船くんが私を見つけて近づいてきた。他の皆の姿は見えない。
「1人ですか?」
「さっきまで犬飼くんとか村上くんたちと一緒にいたんだけど、こっち見たくて離れて来ちゃった」
ペリカンと写真撮ったんだよーなんて言いながら携帯を操作して、さっき撮った犬飼くんとの写真を見せる。他にもなまこを持った穂刈くんとか、村上くんとネコザメを撮った写真を見せれば、すいっと荒船くんの眉が寄るのが見えた。
「犬飼とツーショットですか」
「え、あ、そうだね。綺麗に撮ってくれたんだ」
そう告げれば、荒船くんがじっとその写真を見入る。ちょっと機嫌悪い?とそうっと荒船くんの顔色を窺っても、暗いここではうまく見えない。水槽の照明に照らされる顔を見ようとすれば、荒船くんの紫色の目がこちらを向いた。
「俺とも撮りませんか」
「え、いいの?」
「はい」
荒船くんが何を思ったのかは知らないけれど、これはチャンスだ。荒船くんと写真撮れるなんてそうそう無いし、善は急げだと大水槽を見回してゆらりと泳ぐマンタを見つけた。あの子にしよう。
「じゃあ、あのマンタと一緒に写真撮りたいな」
「ん、了解」
マンタを確認して頷いた荒船くんは、ちょいちょいと私を手招きした。荒船くんの傍に寄って、水槽を背に立つ。今日はあまり人もいないし、邪魔にはならないかな。
「携帯貸してください」
「あ、お願いします」
俺が撮りますよ、と言ってくれたので携帯のカメラモードを起動して荒船くんに手渡す。レンズに指が映らないように持った荒船くんは、すっと掲げて画面を見た。
「あ」
「ん?」
突然の呟きに疑問を持った瞬間、ぱしりとシャッターが切られる。それから携帯を渡されたので手早くアルバムを開けば、顔を寄せた私たちの後ろを横切るウミガメの写真があった。
「わ、荒船くんうまい!」
なんて良いタイミングなんだ!と思いながらアルバムを閉じて、もう1度カメラを起動させた携帯を荒船くんに渡す。ウミガメもいいけど、マンタと一緒に写真を撮らなくては。
「あ、ちょうどこっちに来ますね」
「きますね…!」
ゆらりと近づいてくる巨体は、このまま来れば丁度私たちの後ろを横切るだろう針路を泳いでいる。わくわくしながら待っていれば、その瞬間は直に訪れた。
「撮りますよ」
「お願いします…!」
興奮する私に苦笑して、荒船くんがシャッターを切る。わくわくしながら渡された携帯のアルバムを開けば、荒船くんと私、それからちゃんと真ん中に収まったマンタが映っていた。
「…!」
そして気付いてしまった。これよくみたら、荒船くんが見たことないくらいすっごい優しい顔で笑ってる。ま、まって不覚にも心にぎゅんときた。
「あれ、失敗してました?」
思わず画面を見たまま固まった私の横から、荒船くんがひょいと携帯を覗き込んだ。携帯を見やすいように傾けながら、暗くてよかった、ちょっとこれは顔赤いかもしれないと荒船くんに気付かれないように深呼吸する。なんだこの威力…普段つんつんしてるからか。ギャップか。
「…大丈夫そうですね。あとで俺にも送ってください」
「うん、ありがとう…」
私が荒船くんの笑顔にやられた感じがする一方で、荒船くんはさっきの不機嫌はどこへやら、上機嫌で水槽を覗き込んでいる。それからすぐに給餌を開始するアナウンスが流れて、ダイバーが水槽の中に現れた。
(びっくりした…荒船くん、あんな顔出来るんだ…)
きらきらした水槽を見ながら、今の内になんとかしようと熱い頬に手をあてた。
◆
ばしゃん!とイルカがプールから跳ね上がるたびに客席からは歓声が沸き起こる。例にもれず歓声を上げてはしゃぐ私の両脇には、影浦くんと北添くんが座っていた。
「わ、いまの凄いね!」
「おー」
「あれバランス難しそうですよねー」
はしゃぐ私と、ポテトを齧る北添くん、それから若干不機嫌な影浦くん。
「くそ、あとで刻んでやる」
唸るように文句を言う影浦くんには理由がある。
早めにイルカショーの席取りをしてくれていた影浦くんと北添くんだけれど、規制があったらしく席が取れたのが1人分だったのだ。その席にいるのは私で、残りはといえば遠く離れた後ろの方の席に座っているのだ。
「まだ刺さってるの?」
「すっげえ刺さってる」
影浦くんの機嫌が悪い理由、それは遠くから送られてくる荒船くん達の恨みの篭った視線らしい。皆一緒に見れないのが嫌らしく、影浦くんに視線を飛ばしているらしいのだ。やつあたりだ。
「ねえカゲ、席替わろうか?」
「いい、邪魔になんだろ」
盾になろうとした北添くんの申し出を断った影浦くんは、膝に肘をついてショープールの方へ視線を投げた。つられてプールに視線を送れば、ちょうどトレーナーの人がマイクを持ってこちらに手を振るところだった。
『さて、それでは間近で見るイルカたちがどんなものか、お客様に体験して頂きたいと思います!』
「へー」
「近くで見れるのかあ」
北添くんとそんなふうに呟けば、トレーナーが大きく手を挙げた。
『お客様の中からイルカにさわってみたいと言う方、いらっしゃいましたら大きく手を挙げてください!』
「さわれるの…!?それはちょっと心惹かれる…!」
どうしよう、手を挙げてみるかなとそわそわしていたら、隣に居る影浦くんにがしっと手首を掴まれた。
「挙げればいいだろ」
「あ」
そのまま掴んだ手を持ち上げられて、挙手の形に持っていかれる。掴まれたままの手首に、これ他人の目には間抜けに映ってないかと心配が頭を過ぎった直後、マイクを通した声が会場に響いた。
『では、中央の列の真ん中で仲良く手を繋いでるおにーさんおねーさん、こちらへ!』
「えっ」
その声にそちらを見れば、マイクを持ったままのトレーナーさんと目があった。どうぞー!と言いながらにこにこと笑っている。
「わ~、2人ともいってらっしゃい!写真はゾエさんにまかせて!」
にこにこした北添くんが笑って私の背を押した。立ち上がって繋がれたままの手を辿れば、影浦くんが微妙な顔をしていた。俺まで呼ばれるとは思っていなかった、というような表情の彼に笑って手を引っ張った。
「いこ!影浦くん!」
「あー…」
君も道連れだーと言いながら、のそりと立ち上がった影浦くんの手を引っ張ってショープールの方へ歩いていく。その時影浦くんが荒船くん達のじっとりした視線を嫌ってがしがしと頭を掻いたのは言うまでも無い。
◆
「夢のような時間だった…」
幸せの連続だった水族館から離れ、三門市のボーダー本部へと戻ってきていた。ランク戦ブースの一角にあるソファ席を陣取って、各々が飲み物片手にまったりしている。
「喜んでもらえて良かったっす」
「蒼さん、撮った写真送ってください」
「了解」
犬飼くんに急かされるまま、今日撮った写真たちを18歳組たちとのグループチャットへ流していく。
犬飼くんとペリカン、村上くんとネコザメ、穂刈くんがなまこを握りしめている写真。それから優しい顔した荒船くんとのツーショット。
「わ、みんないっぱい撮ってくれたんだ」
同じように皆が撮った写真を流していく中で、影浦くんとのツーショットが沢山流れてくる。イルカショーの最中に、影浦くんと2人でイルカにさわっているやつだ。
「これはさわれて嬉しかった」
「すっごい笑顔でしたもんね」
「カゲはびくびくしながらさわってたよな」
「近くで見ると結構でけえんだぞ」
わいわい騒ぐ後輩たちとの写真をもれなく保存していく。今日は宝物がいっぱいできた。お土産もいっぱい買えたし、最後にみんなで一緒に撮った水族館のプリクラも大事にしよう。
「また行きたいなあ」
「いくらでも連れて行きますよ」
「蒼さんの頼みとあっちゃ、連れてかない訳にはいきませんからね」
「近くも観光できるようにしましょう、今度は」
「あの近くってなにがあんだ?」
「調べてみよっか」
私の呟きに荒船くん達が答えて、犬飼くんなんかは早くもスマホを取り出して地図を開き始めた。
(良い後輩に恵まれたなあ)
なんて思いながら、目の前の微笑ましい光景に笑みをこぼした。
10万hit御礼企画
18歳組と水族館
(癒された…!)
(それは良かったです)
10万hit御礼企画、soraさん、日陽さん、みなもさんリクエストでした。
詰め込みました←
ありがとうございました!楽しかったです!
ラウンジに顔を出したら、集まっていた18歳組男子たちに模擬戦を申し込まれた。それに快諾して何戦か戦って、ただいまモニター前のソファを2つ占領して反省会中。
「蒼さん、明日暇ならオレとデートしません?」
「え?」
荒船くんと村上くんのコンビを相手取っていた映像から目線を上げる。今の声は当真くんか、と首を傾げれば頬杖をついてこちらをじっと見る当真くんと目が合った。他のメンバーはわいわいとモニターを見て盛り上がっているので、彼の声を聞いたのは私だけか。
「デート?」
「そそ、オレと水族館行きましょうよ」
「え、行きたい」
当真くんの提示した水族館に釣られて返事をすれば、モニターを見ていた荒船くんがこちらを見て首を傾げた。
「どうしました?」
「明日、当真くんが水族館行かない?って。城戸さん許可くれるかな」
「いいだろ、蒼さんとデートだぜ」
「は?」
にんまりと笑った当真くんに対し、一瞬呆けた顔をした荒船くんがみるみる機嫌が悪い顔になっていく。あ、れ…やっぱり遠いし、軽率だったかなと眉を下げれば、荒船くんが機嫌悪そうなまま言った一言が今回の引き金だった。
「それ、俺も行く」
◆
荒船くんが発した一言に、それじゃデートじゃねえとかなんとか言い争った結果、どういう訳かその場に居合わせた18歳組男子たちが全員付いてくることになった。にぎやか。
「蒼さーん、はいこれ入場券です」
「え、自分のくらい出したのに」
「なに言ってんですか。オレが誘ったんだから、これくらい出させてくださいよ」
「そっか。わかった、ありがとう」
「いーえ」
水族館の入口前にやってきて、当真くんがひょいと差し出した水族館の入場券を受け取る。まだ入場券売り場の前に行っていないし、これは前もって準備していたのだろうか。
「当真ぁ、俺達の分は?」
「有る訳ねーだろ、自分で買って来い」
「ちぇー。蒼さんにばっかり良い顔しやがってー」
「見せてくれ、A級の経済力を」
「見せませんー」
犬飼くんと穂刈くんが、当真くんにやいやい言いながら売り場へと向かって行く。その傍ら、さっさと入場券を手に入れていた影浦くんと北添くんが館内パンフレットを見ているのでそちらへ近づいた。
「今日は何かイベントあるの?」
「イルカショーが11時からあるみたいですよ。その他にもペンギンのお散歩とか、給餌タイムとか」
「へー!」
北添くんが見せてくれるパンフレットを一緒に覗き込んで、スケジュールを追って行く。
「イルカショー見んだろ?」
「うん、見たいな」
せっかく来たんだもの、出来る限りは見て行きたいと影浦くんの言葉に頷けば、パンフレットを畳みながら北添くんが機嫌良さ気に口を開いた。
「じゃあ、ゾエさんたちは先に行って席の確保しとこっか」
「だな。蒼サンたちはゆっくり見てこい」
「え、いいの?」
まだ結構時間あるよ?と聞けば、影浦くんがため息を吐いた。隣の北添くんはパンフレットを持ったまま、にこにこ笑っている。
「遅かったら良い席埋まっちまうだろ」
「ゾエさん、ショー会場の横で売ってる軽食が気になってるんですよねえ」
「そっか、じゃあお願いします」
「おう。時間になったら来いよ」
「うん」
「じゃ、早く行こうよカゲ」
にこにこ笑う北添くんが頷いて、影浦くんをせかしながら入口の方へ向かって行った。その姿を見送っていれば、犬飼くんがひょいと私の横から現れる。
「蒼さん準備出来ました?行きましょー」
「オイ、先に行くんじゃねえよ」
「置いていくな、俺たちを」
「なあ蒼さんあれ見える?あの青い魚綺麗じゃねえ?」
「ウミガメがいる…!」
わいわい騒ぐ当真くん達と共に、水族館の入口を潜った。
◆
ぺたぺたぺた、のしのしのし。
「わ」
「ん?」
のんびり水槽を見て回っていたら、大きなペリカンたちが列をなして目の前を通路を横切り始めた。先頭を歩く飼育員さんの手には『ペリカンお散歩中!』の旗がある。
「ペリカンだ!」
「へー、こいつらも散歩するんだ」
テンションの上がった私の隣には犬飼くん。2人でゆっくり見ていたら先を行く荒船くん達とペリカンによって分断されてしまったけれど、かわいいからゆるす。
「かわいい…」
「結構おっきいですねー」
のしのし歩くペリカンは、1メートルほどの大きさだ。しゃがみ込んだら食べられそう、と思いながら携帯を取り出す。せっかく可愛いのが歩いているんだから、写真撮らねば。
「こっちむいてくれるかな」
ぱしー、ぱしー、と軽やかな音を立てて、目の前に迫るペリカンを写真に収めていく。その可愛さにによによしていれば、私の隣にしゃがみこんだ犬飼くんが口を開いた。
「蒼さんとペリカン、一緒に写しましょっか?」
「あ、せっかくなら犬飼くんも一緒に写ろ。うまいこと自撮りしましょ」
「りょーかい」
ぺたぺた歩いていくペリカンをバックに、立ち上がった犬飼くんと一緒に写るようにカメラを調整する。もうちょっと高いと綺麗に入りそうだなと背伸びしていたら、犬飼くんにひょいと携帯を取られた。
「この辺でいいですか?」
「あ、うん」
内側のカメラを使っているので、画面には犬飼くんと私、それから後ろを歩くペリカンの群れが映っている。そのままシャッターを切ってくれたので、すごく良い写真が撮れた。
「犬飼くんとツーショットだ、ありがとう」
「いーえ。あとで俺にも送ってくださいね」
「もちろん!」
にこにこ笑う犬飼くんと一緒に、離れてしまった荒船くん達を探してペリカンたちの群れを後にした。
◆
それから少し進んだ所で、ひとつの水槽を覗き込んでいる2人の後ろ姿を見つけた。
「なに見てるの?」
「蒼さん」
「触れるんです、魚とかに」
「ふれあいコーナー?」
振り向いた村上くんの手には、真っ黒でとげとげなウニがちょこんと乗せられている。同じようにこちらを振り向いた穂刈くんの手には、真っ赤なヒトデ。凹型の水槽の中央には、解説役の飼育員さんが他のお客さんにサザエを手に喋りかけている。
「蒼さんもどうですか」
「いますよ、小さいサメとか」
「サメ!」
行く行く、と近づいて2人の真ん中にお邪魔する。水槽を覗き込めば、浅めの水槽の中に色とりどりの貝やヒトデ、少し大きめの魚などが泳いでいた。穂刈くんが指差す先には子供のネコザメが静かに沈んでいる。
「どの子にさわらせてもらおうかな…」
袖が濡れないように軽く捲って、近くの水道で手を洗ってから戻って来た水槽の前で吟味する。
「この子だな」
海水の中に手を入れて、近くにいた薄い黄色のヒトデをちょんとつつく。長い脚を持ってみれば、思いのほかしっかりした感触が伝わってきた。あらやだ面白い感触…!と感動していれば、村上くんが私の手の甲にちいさいウニを乗せてきた。
「これもどうぞ」
「ん?ありがと…あああすごい、ウニ吸い付いてる」
手を引っ繰り返してもウニは落ちずに手の甲へくっついたままだ。なんという吸着力…!そんな私を見て村上くんはうっすらと笑ってヒトデへと指を伸ばした。
「どうです蒼さん、これは。すごい良い、さわり心地が」
「おお…な、なまこか…」
反対側で妙に興奮している穂刈くんの手のひらでは、真っ黒いなまこがむにむにと握られていた。うわー、むっちむちで…なんか見てはいけない物を見ている気がする。推しに推されるからちょっとだけ触らせてもらったけれど、ぬめぬめして中身ぱつぱつって感じだった。
「離せないな、これは…!」
「お気に召したようで何より…」
「蒼さん、サメこっちに来ましたよ」
「あ、ほんとだ」
なまこが大層気に入ったらしい穂刈くんを見ていれば、すっと近づいてきたサメの存在を村上くんが教えてくれた。くっついたままのウニをそっと海底に戻して、岩陰にくっついたサメの肌に指を伸ばす。
「おお、すごい」
さりさりしてる、と大人しいネコザメの肌を堪能させてもらう。同じように指先を伸ばした村上くんも、感動したように鮫肌を撫でている。
「ちいさくても鮫肌ですね」
「鮫だねー」
大根おろしできそう、なんて話していたらピンポーン、と館内アナウンスが鳴り響いた。
『――5分後、大水槽での給餌を行います。御覧になる方は…』
「お」
それは行きたい、と村上くんと穂刈くんと離れて大水槽の方へと足を進めた。
◆
「蒼さん」
「あ、荒船くん」
この水族館の中で1番大きな水槽の前にやってくると、水槽を見上げていた荒船くんが私を見つけて近づいてきた。他の皆の姿は見えない。
「1人ですか?」
「さっきまで犬飼くんとか村上くんたちと一緒にいたんだけど、こっち見たくて離れて来ちゃった」
ペリカンと写真撮ったんだよーなんて言いながら携帯を操作して、さっき撮った犬飼くんとの写真を見せる。他にもなまこを持った穂刈くんとか、村上くんとネコザメを撮った写真を見せれば、すいっと荒船くんの眉が寄るのが見えた。
「犬飼とツーショットですか」
「え、あ、そうだね。綺麗に撮ってくれたんだ」
そう告げれば、荒船くんがじっとその写真を見入る。ちょっと機嫌悪い?とそうっと荒船くんの顔色を窺っても、暗いここではうまく見えない。水槽の照明に照らされる顔を見ようとすれば、荒船くんの紫色の目がこちらを向いた。
「俺とも撮りませんか」
「え、いいの?」
「はい」
荒船くんが何を思ったのかは知らないけれど、これはチャンスだ。荒船くんと写真撮れるなんてそうそう無いし、善は急げだと大水槽を見回してゆらりと泳ぐマンタを見つけた。あの子にしよう。
「じゃあ、あのマンタと一緒に写真撮りたいな」
「ん、了解」
マンタを確認して頷いた荒船くんは、ちょいちょいと私を手招きした。荒船くんの傍に寄って、水槽を背に立つ。今日はあまり人もいないし、邪魔にはならないかな。
「携帯貸してください」
「あ、お願いします」
俺が撮りますよ、と言ってくれたので携帯のカメラモードを起動して荒船くんに手渡す。レンズに指が映らないように持った荒船くんは、すっと掲げて画面を見た。
「あ」
「ん?」
突然の呟きに疑問を持った瞬間、ぱしりとシャッターが切られる。それから携帯を渡されたので手早くアルバムを開けば、顔を寄せた私たちの後ろを横切るウミガメの写真があった。
「わ、荒船くんうまい!」
なんて良いタイミングなんだ!と思いながらアルバムを閉じて、もう1度カメラを起動させた携帯を荒船くんに渡す。ウミガメもいいけど、マンタと一緒に写真を撮らなくては。
「あ、ちょうどこっちに来ますね」
「きますね…!」
ゆらりと近づいてくる巨体は、このまま来れば丁度私たちの後ろを横切るだろう針路を泳いでいる。わくわくしながら待っていれば、その瞬間は直に訪れた。
「撮りますよ」
「お願いします…!」
興奮する私に苦笑して、荒船くんがシャッターを切る。わくわくしながら渡された携帯のアルバムを開けば、荒船くんと私、それからちゃんと真ん中に収まったマンタが映っていた。
「…!」
そして気付いてしまった。これよくみたら、荒船くんが見たことないくらいすっごい優しい顔で笑ってる。ま、まって不覚にも心にぎゅんときた。
「あれ、失敗してました?」
思わず画面を見たまま固まった私の横から、荒船くんがひょいと携帯を覗き込んだ。携帯を見やすいように傾けながら、暗くてよかった、ちょっとこれは顔赤いかもしれないと荒船くんに気付かれないように深呼吸する。なんだこの威力…普段つんつんしてるからか。ギャップか。
「…大丈夫そうですね。あとで俺にも送ってください」
「うん、ありがとう…」
私が荒船くんの笑顔にやられた感じがする一方で、荒船くんはさっきの不機嫌はどこへやら、上機嫌で水槽を覗き込んでいる。それからすぐに給餌を開始するアナウンスが流れて、ダイバーが水槽の中に現れた。
(びっくりした…荒船くん、あんな顔出来るんだ…)
きらきらした水槽を見ながら、今の内になんとかしようと熱い頬に手をあてた。
◆
ばしゃん!とイルカがプールから跳ね上がるたびに客席からは歓声が沸き起こる。例にもれず歓声を上げてはしゃぐ私の両脇には、影浦くんと北添くんが座っていた。
「わ、いまの凄いね!」
「おー」
「あれバランス難しそうですよねー」
はしゃぐ私と、ポテトを齧る北添くん、それから若干不機嫌な影浦くん。
「くそ、あとで刻んでやる」
唸るように文句を言う影浦くんには理由がある。
早めにイルカショーの席取りをしてくれていた影浦くんと北添くんだけれど、規制があったらしく席が取れたのが1人分だったのだ。その席にいるのは私で、残りはといえば遠く離れた後ろの方の席に座っているのだ。
「まだ刺さってるの?」
「すっげえ刺さってる」
影浦くんの機嫌が悪い理由、それは遠くから送られてくる荒船くん達の恨みの篭った視線らしい。皆一緒に見れないのが嫌らしく、影浦くんに視線を飛ばしているらしいのだ。やつあたりだ。
「ねえカゲ、席替わろうか?」
「いい、邪魔になんだろ」
盾になろうとした北添くんの申し出を断った影浦くんは、膝に肘をついてショープールの方へ視線を投げた。つられてプールに視線を送れば、ちょうどトレーナーの人がマイクを持ってこちらに手を振るところだった。
『さて、それでは間近で見るイルカたちがどんなものか、お客様に体験して頂きたいと思います!』
「へー」
「近くで見れるのかあ」
北添くんとそんなふうに呟けば、トレーナーが大きく手を挙げた。
『お客様の中からイルカにさわってみたいと言う方、いらっしゃいましたら大きく手を挙げてください!』
「さわれるの…!?それはちょっと心惹かれる…!」
どうしよう、手を挙げてみるかなとそわそわしていたら、隣に居る影浦くんにがしっと手首を掴まれた。
「挙げればいいだろ」
「あ」
そのまま掴んだ手を持ち上げられて、挙手の形に持っていかれる。掴まれたままの手首に、これ他人の目には間抜けに映ってないかと心配が頭を過ぎった直後、マイクを通した声が会場に響いた。
『では、中央の列の真ん中で仲良く手を繋いでるおにーさんおねーさん、こちらへ!』
「えっ」
その声にそちらを見れば、マイクを持ったままのトレーナーさんと目があった。どうぞー!と言いながらにこにこと笑っている。
「わ~、2人ともいってらっしゃい!写真はゾエさんにまかせて!」
にこにこした北添くんが笑って私の背を押した。立ち上がって繋がれたままの手を辿れば、影浦くんが微妙な顔をしていた。俺まで呼ばれるとは思っていなかった、というような表情の彼に笑って手を引っ張った。
「いこ!影浦くん!」
「あー…」
君も道連れだーと言いながら、のそりと立ち上がった影浦くんの手を引っ張ってショープールの方へ歩いていく。その時影浦くんが荒船くん達のじっとりした視線を嫌ってがしがしと頭を掻いたのは言うまでも無い。
◆
「夢のような時間だった…」
幸せの連続だった水族館から離れ、三門市のボーダー本部へと戻ってきていた。ランク戦ブースの一角にあるソファ席を陣取って、各々が飲み物片手にまったりしている。
「喜んでもらえて良かったっす」
「蒼さん、撮った写真送ってください」
「了解」
犬飼くんに急かされるまま、今日撮った写真たちを18歳組たちとのグループチャットへ流していく。
犬飼くんとペリカン、村上くんとネコザメ、穂刈くんがなまこを握りしめている写真。それから優しい顔した荒船くんとのツーショット。
「わ、みんないっぱい撮ってくれたんだ」
同じように皆が撮った写真を流していく中で、影浦くんとのツーショットが沢山流れてくる。イルカショーの最中に、影浦くんと2人でイルカにさわっているやつだ。
「これはさわれて嬉しかった」
「すっごい笑顔でしたもんね」
「カゲはびくびくしながらさわってたよな」
「近くで見ると結構でけえんだぞ」
わいわい騒ぐ後輩たちとの写真をもれなく保存していく。今日は宝物がいっぱいできた。お土産もいっぱい買えたし、最後にみんなで一緒に撮った水族館のプリクラも大事にしよう。
「また行きたいなあ」
「いくらでも連れて行きますよ」
「蒼さんの頼みとあっちゃ、連れてかない訳にはいきませんからね」
「近くも観光できるようにしましょう、今度は」
「あの近くってなにがあんだ?」
「調べてみよっか」
私の呟きに荒船くん達が答えて、犬飼くんなんかは早くもスマホを取り出して地図を開き始めた。
(良い後輩に恵まれたなあ)
なんて思いながら、目の前の微笑ましい光景に笑みをこぼした。
10万hit御礼企画
18歳組と水族館
(癒された…!)
(それは良かったです)
10万hit御礼企画、soraさん、日陽さん、みなもさんリクエストでした。
詰め込みました←
ありがとうございました!楽しかったです!