荒船と出水の師匠シリーズ
企画もの
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バレンタイン2016
「さて、と」
ボーダー本部、上層部が集まる部屋の前。
バレンタイン当日、お世話になっている人達へ感謝の気持ちを渡すべくやって来た。ちなみに今年作ったのは直径10センチほどの、小さな円形をしたガトーショコラ。付属のクリーム共々、我ながら美味しく出来たと思う。
「始めましょっか」
ラッピングされた箱が人数分あることを確認して、部屋の扉をノックした。
◆
城戸指令を筆頭に、上層部の人達に無事にガトーショコラを届け終えて風間隊の作戦室へとやってきた。
今日は午前中の任務だと言っていたし、もうそろそろ帰ってくる頃だろう。
「お邪魔しまーす」
「あ、蒼さん。こんにちは」
「こんにちはー」
扉を開いて中へ入れば、蒼也さんたちはまだ帰っていなかったようで、歌歩ちゃんがひとりお茶の用意をしていた。
「歌歩ちゃん、皆にガトーショコラ持ってきたんだけどもらってくれる?」
「わあ!ありがとうございます」
ぱたぱたと近づいてきた歌歩ちゃんにガトーショコラを見せれば、ちょうど後ろの扉が開いて蒼也さんと歌川くん、菊地原くんが帰ってきた。
「ん、蒼が来てたのか」
「こんにちは、バレンタインなのでガトーショコラを持ってきました」
「そうか」
ほら、とガトーショコラの入った箱を見せると、蒼也さんは満足げにひとつ頷いていそいそとテーブルへと向かっていった。
「蒼さんの手作りですか?」
「うん、なかなか美味しく出来たよ」
「それは楽しみですね」
箱を覗き込む菊地原くんが訊いてくるのに答えれば、歌川くんが笑顔で頷いた。菊地原くんも心なしか機嫌が良さそうだ。
「蒼さん、一緒にお茶しますよね?」
「あ、お邪魔じゃないなら」
歌歩ちゃんにそう答えれば、歌川くんと菊地原くんが私の両側からがしりと腕を掴んだ。落ちそうになったガトーショコラは、満面の笑みの歌歩ちゃんの腕の中に落ち着いた。
「蒼さんが邪魔なわけないじゃないですか」
「ほら、はやく行きましょう。風間さん待ってるし」
「私のクッキーも食べていってくださいね」
そのまま後輩たちになかば引きずられるようにテーブルの方へ連行されたので、ありがたく一緒にお茶することになった。歌歩ちゃんのクッキーは美味しかった。
◆
風間隊の作戦室からの帰り道、廊下の先に赤い隊服の子がふたり並んで歩いているのを見つけて声を掛けた。
「そこのおふたりさーん」
「はーあい!あっ蒼さん!」
「こんにちは」
振り返った佐鳥くんと時枝くんは、私の姿を見て踵を返してきてくれた。佐鳥くんなんかダッシュだった。
「蒼さん!もしかして!」
「そのもしかしてだよ。はい、ハッピーバレンタイン」
「やったー!ありがとうございます!佐鳥すっごくハッピーです!」
ぱあっと笑顔になった佐鳥くんが、私が差し出したチョコを受け取って飛び跳ねる。かわいい。によによしながら時枝くんへのチョコを探して差し出した。時枝くんは当真くんと同じやつだ。
「時枝くんにはこれ。猫チョコをチョイスしました」
「ありがとうございます」
佐鳥くんと時枝くんにチョコを渡して、ついでにと2人にお願いをすることにした。今日、嵐山隊は広報の仕事があって本部に居る時間は少ないだろうから。
「お願いがあるんだけど、准たちの分も持って行ってくれないかな」
「もちろんです」
「ありがと。赤いのが准で、オレンジ色のは綾辻ちゃんと木虎ちゃんにね」
「了解!蒼さん、佐鳥からのお返し楽しみにしててくださいね!」
「楽しみにしてるー」
がさがさ探した嵐山隊の分のチョコを託して、手を振って歩いていく2人に手を振り返した。
◆
「蒼」
春秋さんや諏訪さん達など、粗方のチョコを配り終えた。チョコも残り少なくなってきたな、と紙袋を覗いていたら幼馴染に声を掛けられた。
「あ、慶さんおつかれー」
「昼飯まだか?一緒に食おうぜ」
「いいよ、ご一緒しよう」
丁度お腹空いてたし、と慶と2人で食堂へと向かう。今日のご飯はハヤシオムライスにした。慶は最近のお気に入りらしい天ぷら月見うどんを選んで、空いているテーブルを確保する。
「これ慶さんに。ハッピーバレンタイン」
「お、さんきゅ」
忘れないうちにと、食べ始める前に正面に座る慶にガトーショコラを渡しておく。ガトーショコラも残り少ないな、と思っていれば横から声を掛けられた。
「や、おふたりさん。ご一緒していい?」
「迅!」
「いいよ、お好きなとこにどーぞ」
声を掛けてきたのは、トレーにラーメンを乗せた悠一だった。本部に居るのは珍しいな、と思いながら席を勧めれば、悠一は私の隣へと腰を下ろした。
「珍しいな、本部に居るなんて。このあと暇なら模擬戦しねえ?」
「いいけど、その前に用事があるんだ」
そう言った悠一に期待が籠った視線を送られて、これのことでしょう、と慶にあげたのと同じガトーショコラの箱を取り出した。
「はい、ハッピーバレンタイン」
「ありがと」
嬉しげにガトーショコラを受け取った悠一に、慶が頬杖をつきながら声を掛ける。
「なんだ、迅も手作りか」
「頼んだからね」
「頼まれたからね」
お返しは期待してますよと冗談交じりに言えば、2人は至極真面目な顔して頷いたので笑ってしまった。
◆
模擬戦していくという慶たちと別れ、未だ出会っていない弟子たちを探して廊下を歩いていたら後ろから声を掛けられた。
「蒼さん」
「あ、奈良坂くん」
振り返った先には自主練でもしていたのだろうか、隊服姿の奈良坂くんが居た。ちょうどいい、どっちか見てないかな。
「出水くんか荒船くん見てない?」
「ああ、2人ともラウンジにいましたよ」
「ラウンジね、ありがとう。じゃあこれ、奈良坂くんに約束の手作りチョコです。ガトーショコラになったけど」
紙袋から奈良坂くんに頼まれていたガトーショコラ差し出せば、それを見た奈良坂くんの顔がほんのり笑顔になった。
「ありがとうございます」
「ついでに三輪くん達の分も持ってってくれる?オレンジ色のは蓮に」
「了解」
チョコたちを大事そうに抱えた奈良坂くんが、もう一度お礼を言って作戦室の方へ歩いて行った。さて、出水くん達が居なくなる前にとラウンジへ行かなくては。
◆
ラウンジへ入っていつもの席へと向かえば、ちゃんと出水くんと荒船くんの2人の姿があった。テーブルの上にはボーダー隊員達に貰ったのであろうチョコレートが積んである。
「お、結構貰ってるね」
「、蒼さん」
「待ってましたよー」
どうぞ、と席を勧められて2人の前に座り込む。横に置いた紙袋から、殊更丁寧に持ってきたガトーショコラの箱を取り出してそっとテーブルの上に置いた。この2人には特別に、ガトーショコラの他にもマカロンが2つずつ入っている。
「これは私からね、いつもありがとう」
貰って下さい、と差し出せば2人はちゃんと受け取ってくれた。箱を抱えた出水くんがにこにこしながら聞いてくる。
「蒼さん、これ何が入ってるんです?」
「ガトーショコラと、きみたちには特別にマカロンもついてます」
「おおー」
「、出水」
「あ。了解、荒船さん」
「?」
出水くんに何かを促した荒船くん。2人が顔を見合わせて笑ったのに首を傾げれば、荒船くんがテーブルの下から小さな箱を取り出した。
「蒼さん、これは俺たちからです」
「えっ、私に?」
「そうです、しかもおれたちの手作りですよ」
「本当!?」
悪戯が成功したような顔でにんまり笑う出水くんにそう言われ、同じような顔の荒船くんがすっと差し出した箱をおずおずと受け取った。荒船くんと出水くんから、まさかの手作りチョコ貰った…!
「う、わ…ありがとう!」
大事に食べます…!と頭を下げて、にまにましながらチョコレートの箱を抱える。ああ、もったいないから食べたくないなあ、なんて考えていれば荒船くんが口を開いた。
「蒼さんに頂いたチョコ、ここで食べてもいいですか」
「うん、お好きにどうぞ。ならせっかくだし、私も貰ったの食べていい?」
「ええ、どうぞ」
「あ、じゃあおれ飲み物買ってきますよ」
折角だからここでと言えば、にこにこした出水くんが席から立ち上がって自販機の方へ歩いていく。それを見送って、前に座る荒船くんに話しかけた。
「荒船くん、ありがとね。すごい嬉しい」
「いえ。いつもお世話になっているので」
「ふふ」
嬉しいなあ、と出水くんの帰りを待ちながらチョコの箱を観察する。
箱に掛かるリボンのちょうちょ結びが少しだけいびつなのが、すごく微笑ましい。私の為に頑張ってくれたんだろう、と顔が緩む。これ、あとで写真撮っちゃ駄目かなあ。
「ふふふ」
「…そんなに嬉しいですか」
「大好きな子に貰ったんだもの、嬉しいに決まってるでしょ」
ありがとー、ともう一度告げれば、荒船くんはふいっと顔を反らしてしまった。あれ、と思ったのも束の間、出水くんがぱたぱたと戻って来るのが見えた。
「お待たせしましたー。はい、蒼さんにはカフェオレ、荒船さんにはお茶です」
「ありがとう」
「ありがとー」
自分用にオレンジジュースを買ってきたらしい出水くんが席に着いたので、各自チョコの箱の開封作業に入る事にした。
「わ、うまそう」
「味は保障するよー」
一足先に開封した出水くんが、ガトーショコラたちを見て目を輝かせる。荒船くんも開封するのを見ながら、私も貰った箱の蓋をあけた。
「おお…」
入っていたのは、トリオンキューブのように四角い、ココアパウダーをかぶった生チョコのようだった。2人の性格を表すようなシンプルなチョコに、思わず感嘆の声が漏れる。
「奈良坂に、蒼さんは生チョコが気に入ってるみたいだって聞いて作ったんですよ」
「味見したんで、こっちも味は保障しますよ」
「うわああ…あ、すごい弧月だ!」
手に取った付属のピックが妙な形をしていると思ったら、それは弧月の形をしていた。トリオンキューブは出水くんとの共通点、弧月は荒船くんとの共通点。芸が細かい…!
「しゃ、写真撮らせて…!」
だめだこれあとで諏訪さん辺りに弟子が可愛すぎるってすっごい自慢しよう、と携帯のカメラを起動してばしばし写真を撮る。そんな私を見て、出水くんと荒船くんは機嫌良さげに笑った。
「おふたりさん、ホワイトデー期待しててよ」
「え、いいんですか」
「もちろん」
「なら、期待してますよ」
愛情つめて頑張ってやる、と意気込んで弧月ピックに刺した生チョコは、とろけるような口どけだった。
10万hitリクエスト企画
バレンタイン2016
(おいしい)
(すっげえうまい!)
(ぐあー生チョコおいしい…!)
右京さんリクエスト、バレンタインのお話でした!
今年は私自身も生チョコ作って食べましたとも
「さて、と」
ボーダー本部、上層部が集まる部屋の前。
バレンタイン当日、お世話になっている人達へ感謝の気持ちを渡すべくやって来た。ちなみに今年作ったのは直径10センチほどの、小さな円形をしたガトーショコラ。付属のクリーム共々、我ながら美味しく出来たと思う。
「始めましょっか」
ラッピングされた箱が人数分あることを確認して、部屋の扉をノックした。
◆
城戸指令を筆頭に、上層部の人達に無事にガトーショコラを届け終えて風間隊の作戦室へとやってきた。
今日は午前中の任務だと言っていたし、もうそろそろ帰ってくる頃だろう。
「お邪魔しまーす」
「あ、蒼さん。こんにちは」
「こんにちはー」
扉を開いて中へ入れば、蒼也さんたちはまだ帰っていなかったようで、歌歩ちゃんがひとりお茶の用意をしていた。
「歌歩ちゃん、皆にガトーショコラ持ってきたんだけどもらってくれる?」
「わあ!ありがとうございます」
ぱたぱたと近づいてきた歌歩ちゃんにガトーショコラを見せれば、ちょうど後ろの扉が開いて蒼也さんと歌川くん、菊地原くんが帰ってきた。
「ん、蒼が来てたのか」
「こんにちは、バレンタインなのでガトーショコラを持ってきました」
「そうか」
ほら、とガトーショコラの入った箱を見せると、蒼也さんは満足げにひとつ頷いていそいそとテーブルへと向かっていった。
「蒼さんの手作りですか?」
「うん、なかなか美味しく出来たよ」
「それは楽しみですね」
箱を覗き込む菊地原くんが訊いてくるのに答えれば、歌川くんが笑顔で頷いた。菊地原くんも心なしか機嫌が良さそうだ。
「蒼さん、一緒にお茶しますよね?」
「あ、お邪魔じゃないなら」
歌歩ちゃんにそう答えれば、歌川くんと菊地原くんが私の両側からがしりと腕を掴んだ。落ちそうになったガトーショコラは、満面の笑みの歌歩ちゃんの腕の中に落ち着いた。
「蒼さんが邪魔なわけないじゃないですか」
「ほら、はやく行きましょう。風間さん待ってるし」
「私のクッキーも食べていってくださいね」
そのまま後輩たちになかば引きずられるようにテーブルの方へ連行されたので、ありがたく一緒にお茶することになった。歌歩ちゃんのクッキーは美味しかった。
◆
風間隊の作戦室からの帰り道、廊下の先に赤い隊服の子がふたり並んで歩いているのを見つけて声を掛けた。
「そこのおふたりさーん」
「はーあい!あっ蒼さん!」
「こんにちは」
振り返った佐鳥くんと時枝くんは、私の姿を見て踵を返してきてくれた。佐鳥くんなんかダッシュだった。
「蒼さん!もしかして!」
「そのもしかしてだよ。はい、ハッピーバレンタイン」
「やったー!ありがとうございます!佐鳥すっごくハッピーです!」
ぱあっと笑顔になった佐鳥くんが、私が差し出したチョコを受け取って飛び跳ねる。かわいい。によによしながら時枝くんへのチョコを探して差し出した。時枝くんは当真くんと同じやつだ。
「時枝くんにはこれ。猫チョコをチョイスしました」
「ありがとうございます」
佐鳥くんと時枝くんにチョコを渡して、ついでにと2人にお願いをすることにした。今日、嵐山隊は広報の仕事があって本部に居る時間は少ないだろうから。
「お願いがあるんだけど、准たちの分も持って行ってくれないかな」
「もちろんです」
「ありがと。赤いのが准で、オレンジ色のは綾辻ちゃんと木虎ちゃんにね」
「了解!蒼さん、佐鳥からのお返し楽しみにしててくださいね!」
「楽しみにしてるー」
がさがさ探した嵐山隊の分のチョコを託して、手を振って歩いていく2人に手を振り返した。
◆
「蒼」
春秋さんや諏訪さん達など、粗方のチョコを配り終えた。チョコも残り少なくなってきたな、と紙袋を覗いていたら幼馴染に声を掛けられた。
「あ、慶さんおつかれー」
「昼飯まだか?一緒に食おうぜ」
「いいよ、ご一緒しよう」
丁度お腹空いてたし、と慶と2人で食堂へと向かう。今日のご飯はハヤシオムライスにした。慶は最近のお気に入りらしい天ぷら月見うどんを選んで、空いているテーブルを確保する。
「これ慶さんに。ハッピーバレンタイン」
「お、さんきゅ」
忘れないうちにと、食べ始める前に正面に座る慶にガトーショコラを渡しておく。ガトーショコラも残り少ないな、と思っていれば横から声を掛けられた。
「や、おふたりさん。ご一緒していい?」
「迅!」
「いいよ、お好きなとこにどーぞ」
声を掛けてきたのは、トレーにラーメンを乗せた悠一だった。本部に居るのは珍しいな、と思いながら席を勧めれば、悠一は私の隣へと腰を下ろした。
「珍しいな、本部に居るなんて。このあと暇なら模擬戦しねえ?」
「いいけど、その前に用事があるんだ」
そう言った悠一に期待が籠った視線を送られて、これのことでしょう、と慶にあげたのと同じガトーショコラの箱を取り出した。
「はい、ハッピーバレンタイン」
「ありがと」
嬉しげにガトーショコラを受け取った悠一に、慶が頬杖をつきながら声を掛ける。
「なんだ、迅も手作りか」
「頼んだからね」
「頼まれたからね」
お返しは期待してますよと冗談交じりに言えば、2人は至極真面目な顔して頷いたので笑ってしまった。
◆
模擬戦していくという慶たちと別れ、未だ出会っていない弟子たちを探して廊下を歩いていたら後ろから声を掛けられた。
「蒼さん」
「あ、奈良坂くん」
振り返った先には自主練でもしていたのだろうか、隊服姿の奈良坂くんが居た。ちょうどいい、どっちか見てないかな。
「出水くんか荒船くん見てない?」
「ああ、2人ともラウンジにいましたよ」
「ラウンジね、ありがとう。じゃあこれ、奈良坂くんに約束の手作りチョコです。ガトーショコラになったけど」
紙袋から奈良坂くんに頼まれていたガトーショコラ差し出せば、それを見た奈良坂くんの顔がほんのり笑顔になった。
「ありがとうございます」
「ついでに三輪くん達の分も持ってってくれる?オレンジ色のは蓮に」
「了解」
チョコたちを大事そうに抱えた奈良坂くんが、もう一度お礼を言って作戦室の方へ歩いて行った。さて、出水くん達が居なくなる前にとラウンジへ行かなくては。
◆
ラウンジへ入っていつもの席へと向かえば、ちゃんと出水くんと荒船くんの2人の姿があった。テーブルの上にはボーダー隊員達に貰ったのであろうチョコレートが積んである。
「お、結構貰ってるね」
「、蒼さん」
「待ってましたよー」
どうぞ、と席を勧められて2人の前に座り込む。横に置いた紙袋から、殊更丁寧に持ってきたガトーショコラの箱を取り出してそっとテーブルの上に置いた。この2人には特別に、ガトーショコラの他にもマカロンが2つずつ入っている。
「これは私からね、いつもありがとう」
貰って下さい、と差し出せば2人はちゃんと受け取ってくれた。箱を抱えた出水くんがにこにこしながら聞いてくる。
「蒼さん、これ何が入ってるんです?」
「ガトーショコラと、きみたちには特別にマカロンもついてます」
「おおー」
「、出水」
「あ。了解、荒船さん」
「?」
出水くんに何かを促した荒船くん。2人が顔を見合わせて笑ったのに首を傾げれば、荒船くんがテーブルの下から小さな箱を取り出した。
「蒼さん、これは俺たちからです」
「えっ、私に?」
「そうです、しかもおれたちの手作りですよ」
「本当!?」
悪戯が成功したような顔でにんまり笑う出水くんにそう言われ、同じような顔の荒船くんがすっと差し出した箱をおずおずと受け取った。荒船くんと出水くんから、まさかの手作りチョコ貰った…!
「う、わ…ありがとう!」
大事に食べます…!と頭を下げて、にまにましながらチョコレートの箱を抱える。ああ、もったいないから食べたくないなあ、なんて考えていれば荒船くんが口を開いた。
「蒼さんに頂いたチョコ、ここで食べてもいいですか」
「うん、お好きにどうぞ。ならせっかくだし、私も貰ったの食べていい?」
「ええ、どうぞ」
「あ、じゃあおれ飲み物買ってきますよ」
折角だからここでと言えば、にこにこした出水くんが席から立ち上がって自販機の方へ歩いていく。それを見送って、前に座る荒船くんに話しかけた。
「荒船くん、ありがとね。すごい嬉しい」
「いえ。いつもお世話になっているので」
「ふふ」
嬉しいなあ、と出水くんの帰りを待ちながらチョコの箱を観察する。
箱に掛かるリボンのちょうちょ結びが少しだけいびつなのが、すごく微笑ましい。私の為に頑張ってくれたんだろう、と顔が緩む。これ、あとで写真撮っちゃ駄目かなあ。
「ふふふ」
「…そんなに嬉しいですか」
「大好きな子に貰ったんだもの、嬉しいに決まってるでしょ」
ありがとー、ともう一度告げれば、荒船くんはふいっと顔を反らしてしまった。あれ、と思ったのも束の間、出水くんがぱたぱたと戻って来るのが見えた。
「お待たせしましたー。はい、蒼さんにはカフェオレ、荒船さんにはお茶です」
「ありがとう」
「ありがとー」
自分用にオレンジジュースを買ってきたらしい出水くんが席に着いたので、各自チョコの箱の開封作業に入る事にした。
「わ、うまそう」
「味は保障するよー」
一足先に開封した出水くんが、ガトーショコラたちを見て目を輝かせる。荒船くんも開封するのを見ながら、私も貰った箱の蓋をあけた。
「おお…」
入っていたのは、トリオンキューブのように四角い、ココアパウダーをかぶった生チョコのようだった。2人の性格を表すようなシンプルなチョコに、思わず感嘆の声が漏れる。
「奈良坂に、蒼さんは生チョコが気に入ってるみたいだって聞いて作ったんですよ」
「味見したんで、こっちも味は保障しますよ」
「うわああ…あ、すごい弧月だ!」
手に取った付属のピックが妙な形をしていると思ったら、それは弧月の形をしていた。トリオンキューブは出水くんとの共通点、弧月は荒船くんとの共通点。芸が細かい…!
「しゃ、写真撮らせて…!」
だめだこれあとで諏訪さん辺りに弟子が可愛すぎるってすっごい自慢しよう、と携帯のカメラを起動してばしばし写真を撮る。そんな私を見て、出水くんと荒船くんは機嫌良さげに笑った。
「おふたりさん、ホワイトデー期待しててよ」
「え、いいんですか」
「もちろん」
「なら、期待してますよ」
愛情つめて頑張ってやる、と意気込んで弧月ピックに刺した生チョコは、とろけるような口どけだった。
10万hitリクエスト企画
バレンタイン2016
(おいしい)
(すっげえうまい!)
(ぐあー生チョコおいしい…!)
右京さんリクエスト、バレンタインのお話でした!
今年は私自身も生チョコ作って食べましたとも