荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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「蒼、今時間あるかしら」
「ん?」
足早に本部の廊下を歩いていたら後ろから聞き覚えのある凛とした声に呼び止められる。その声に振り向けば、長い黒髪をなびかせた同い年の三輪隊のオペレーター、月見蓮がこちらに向かってきていた。
「蓮!ごめん、今から開発室に行かなきゃいけなくて」
「話がしたいの、2時間くらい時間つくれる?」
「もちろん。えーと、ちょっと待ってね……」
蓮の話ってなんだろう、と思いながらスマホを取り出してこれからのスケジュールをざっと表示させる。今呼ばれている開発室の仕事が終わりそうなのは14時くらいのはず。その後なら大丈夫だけど、オペレーター会議は入ってなかったかな。
「3時ごろでもいい?蓮なにか用事ある?」
「構わないわ、それなら3時に蒼の部屋でいいかしら」
「うん、いいよ」
蓮の提案に頷けば、こくりと1度頷いた蓮が「羽矢とののも連れて行くわ」と言って踵を返していった。
「………ん?え?」
2人も連れてくるってどういうこと、と聞く前に蓮はカツカツとヒールの音をさせながら颯爽とエレベーターに乗り込んで行ってしまった。
なんか絶妙に嫌な予感がするのはどうしてだ。
◆
ぴんぽん、とチャイムが軽やかな音と共に来客の訪問を告げる。
時間ぴったりだなあと思いながらソファから腰を上げて玄関へ向かえば、開けた扉の先にいたのは蓮と羽矢、それからののが立っていた。3人ともやけに大きな紙袋を持っている。
「いらっしゃーい……どしたの、みんな大荷物だね」
「内緒」
「秘密よ」
「話し合いに必要なの」
「そんな大荷物が?」
まあいいや、と3人を部屋の中に迎え入れる。同い年のオペレーターたちが私の部屋に集結するのはなかなか珍しい。戦闘員の私とオペレーターである彼女たちのスケジュールなんかの関係上、あんまり部屋でまったり女子会なんてことが出来ないので大体はラウンジだったり廊下で数分の立ち話になってしまうのだ。
「好きなとこ座ってて~。飲み物紅茶で良い?この前根付さんにニルギリの良い茶葉もらったんだ」
「だめよ」
「んえ?」
用意していたカップが足りなかったので、キッチンに直行して予備のカップを引っ張り出しながら聞けば羽矢から否定の返事が返ってきたのにびっくりして顔を上げる。数少ない女子会の時は大体いつも紅茶なんだけど、違うのが良かったかな。
「紅茶やだった?あとあるのは……って、なんでみんな座ってないの?」
リビングを見れば誰もおらず、あれ?と見回せばキッチンの入り口に3人が集まっていてじっと私を見ていた。3人ともキッチンの出入り口をふさぐように立っていて、え、なになにと動揺していれば羽矢が口を開いた。
「蒼、あなた今日任務に入っていたわよね」
「え、うん。夜勤だったけど」
「その後も、さっきまで開発室で仕事してたんだって?」
「やってましたけど……?」
鬼怒田さんに呼ばれてちょっとだけ、と言った私の返事を聞いた羽矢は、ののと蓮と目を合わせて頷く。なに?と首をかしげれば今度はののが口を開いた。
「昨日は何してた?」
「昨日?昨日は日中の任務やって、新入隊員の指導して、そのあと城戸さんたちと会議してた」
こくり、とまた頷き合う彼女たち。口を挟む間もなく、今度は蓮が短く聞いてくる。
「一昨日は?」
「おととい~?午前休だったから……ちょっと買い出し行って、ついでに玉狛に顔出して……本部に戻ってきて夕方のB級ランク戦の解説、盛り上がったからそのあと弟子と模擬戦した」
ほんとになに?と首を傾げまくる私に対し、私の返答を聞いた3人は深く深く頷き合った。
「よしわかった」
「これはやってるわね」
「大罪よ」
「なにが?なんのはなし?」
問われるままにここ最近の状況を答えれば、なにか納得したような3人が頷き合う。いやほんと、なにに頷いてるのと思っていれば蓮がずいと一歩踏み出してきた。その勢いたるや、気迫に押されてちょっとのけぞってしまうくらいだった。美人だからめちゃめちゃ迫力がある。
「蒼」
「はい」
「あなた働き過ぎよ」
「え、そう?」
「そう」
まだそこまで激務じゃないよ、と言っても冷たい目をした蓮が横に首を振った。それと同時に羽矢とののが蓮と同様に一歩踏み出して私に近づく。なんか、ちょっと圧を感じるんですけど気のせいでしょうか。気のせいじゃなさそうなんですけど。
「言ってもあんま聞かねェからな」
「今日はゆっくりしてもらうわ」
「覚悟してね」
そう言ってじりじりと近づいてくる3人に、ティーカップを持ったまま「ひい……」と小さく悲鳴をあげるしかなかった。
◆
「そこ動くんじゃねぇぞ」
「ハイ」
「キッチン借りるわね」
「ハイ」
「蒼、サンダルウッドとオレンジスイートならどっちの匂いが好き?」
「サンダルウッドが好き」
「じゃあそっちにするわね」
「ハイ」
あれからすぐ、3人のオペレーター達によってリビングのソファに座らされて膝にブランケットを乗せられ、てきぱきと動く彼女達を大人しく見ているしかなかった。私にブランケットを掛けて忠告したののは蓮と共にキッチンに行ってしまう。羽矢は私の隣にアロマ加湿器をセットしているので、ちょっと聞いてみようと小さく声を掛けた。
「羽矢……、この計画は誰が発端なの……」
「計画したのは蓮と私だけど、発端は出水くんね」
「え、出水くん?なんで?」
出てくると思っていなかった弟子の名前にぽかんとしていれば、サンダルウッドのアロマオイルを加湿器に垂らした羽矢が薄く笑いながら続ける。
「最近仕事詰まってて忙しそう、あんまり構ってくれないって、三輪隊の作戦室で喋っていたそうよ」
「ああ……」
三輪隊の作戦室なら、同じチームの蓮がいる。そこから回り回ってこうなったんだろう。加湿器からふんわりとし始めたサンダルウッドのさわやかな香りを感じつつ、そうだったのかと目を閉じる。
確かにそこまで徹夜だなんだとしているわけではないけれど、毎日そこそこ多い仕事をこなしているのも事実だ。そしてそれは弟子達との時間があまり取れていない事を意味している。自覚はある。
「蒼ってたまに限界まで働くじゃない?限界まで行く前に、ちょっと息抜きさせようかって話になったのよ」
「そうなんだ……」
「そうなの。じゃあ蒼、これ乗せてしばらくじっとしてて頂戴ね」
「はあい……」
ソファの背もたれに身体を預けると、キッチンから戻ってきた蓮にホットタオルを渡され、大人しく目を閉じてほかほかのそれを目の上に乗せた。じわ~っと目の周りが温かくなって、身体から力が抜ける。
「あったかあい……」
どうやら隣にいた羽矢もキッチンに向かってしまったらしく、ぱたぱたと軽い足音が遠ざかっていく。なにやら労ってくれるらしい友人達に甘えて、ほかほかのホットタオルとサンダルウッドの良い香りを楽しむことにした。
◆
「――……蒼、」
「ん……、」
名前を呼ばれながら、優しく肩を揺すられて意識が浮上する。今の声は蓮だったな、と目を開ければ隣に座っている蓮と目が合った。それから時計を見ると3時30分をすこし過ぎたところだった。いつの間にか寝落ちしてたみたいだ。
「ん、ごめん……寝てた……」
「いいのよ」
ホットタオルとアロマの威力すごかったな…と思いながら何度か目を瞬かせると、テーブルの上がとんでもないことになっていることに気づいた。
「んっ!?え、なに!?」
先ほどまで殺風景だったテーブルの上は、寝落ちする前にはなかった可愛い白いレースのカバーが掛けられ、目を惹くシルバーの3段のティースタンドとティーポット、それからティーカップたちが鎮座していた。青系で統一された造花もテーブル上に飾られている。すごい、本格的なアフタヌーンティーだと興奮する私に、隣に座った蓮と反対側のソファに座ったののと羽矢が得意げな顔をした。
「どう?」
「全部私たちが作ったのよ」
「頑張ってる蒼に私たちからのプレゼントにね」
「えっこれ全部?すごい!ありがとう!」
さっきまで燻っていた眠気が吹っ飛んで、わくわくしながらメインのティースタンドを見る。しっかり人数分あるティースタンドには、セイボリー、スコーン、スイーツが所狭しと並んでいた。その豪華なティースタンドを指さして、ののが笑う。
「セイボリーはあたしが作った」
得意げに笑うののが作ったという下段のセイボリーは、食べやすそうな大きさのスモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチ、それから小さなキッシュとミートパイ。全部美味しそうな匂いをさせてお皿に乗っている。
「スコーンは私が焼いたわ」
羽矢が指さした2段目には、小さめのスコーンが3つ。プレーン、塩キャラメル、クランベリー味だというスコーンはどれもこんがり焼かれている。脇にはたっぷりのクロテッドクリームも添えられていた。
「上のスイーツは私が」
上の段を指さした蓮が、小さなグラスに入ったショートケーキ、一口サイズのエクレア、それから苺とチョコのマカロンを作ったのだと教えてくれた。
「わ~、お店みたい!」
「紅茶は蒼のニルギリと、ダージリン、アールグレイを用意したわ。どれから飲む?」
「ダージリンがいいな」
「はいよ」
「ありがとう」
てきぱきと紅茶を用意されて目の前に置かれる。蓮たちも紅茶をカップに注いで、豪華なアフタヌーンティーの用意が出来た。あとはもう食べるだけだけど、せっかく綺麗に飾ってくれたんだからと声を掛ける。
「写真撮って良い?自慢したい」
「当たり前よ」
「せっかくだし皆でうつりましょうよ」
「蒼、なんかスタンドみたいなのねえの?」
「あるある」
きゃあきゃあ良いながら引っ張り出してきた自撮りスタンドで満足するまで写真を撮って、それから友人達が開いてくれた楽しいアフタヌーンティーが始まったのだった。
友人達とアフタヌーンティー
~愛のある忠告を添えて~
(全部美味しい)
(そりゃよかった)
(あんまり働き過ぎないのよ)
(適度に休んでね)
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