荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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とある晴れた月曜日。
今日の朝方まで防衛任務に入っていたから、今日はもう緊急呼び出しさえなければ1日フリーだ。大学で午前の必修だけ受けて、午後は必要なものの買い出しに来ていたのに。
(なーんか、さっきから…)
大学を出て、書店、服屋、食品と日用品などと買い出しを済ませていたら、服屋を出た辺りから視界に入る黒キャップの男。そちらを向けば視線が合う前にさっとスマホに視線を落とすけど、視線をそらせば男が再びこちらを伺う様子が見える。
(つけられてるよなあ)
たまーに変な奴につけられることはあるし、対処を間違えて荒船くんにめちゃめちゃ怒られたこともある。ので、今日は穏便にいきたい。もう買うものもないし、さっさと撒いて本部に帰ってしまおう。
(とりあえず換装しとこ)
換装しておけば大体どうにかなるでしょ、とするりと柱の陰で普段着のままで換装した。買った荷物を持ち直して、何も気にしていない風に本部方向へと歩き出す。
(適当に撒けたらいいんだけど)
本部の方ってだんだん人気がなくなるから、その前までに撒きたいんだよなあと考えつつ撒けそうな道を思い出す。この辺そんなに入り組んでないんだよな~、どうしようかなと思っていれば後ろから声を掛けられた。
「あれ、蒼さん?」
「ほんとだ」
「ん?」
よく知った声に振り向けば風間隊の後輩、歌川くんと菊地原くんがこっちに歩いてくるところだった。制服姿だから学校帰りだな。
「歌川くんに菊地原くん」
「買い物ですか?」
「うん。もう帰るところなんだけど、2人はいまから本部?」
「そーです。このあと任務なんで」
おおラッキー。それなら一緒に帰れそうだ。助かった、と思いつつ2人について行って良いか聞いてみる。
「一緒に行ってもいい?」
「何言ってるんです、ぼく達が断るわけ無いでしょう」
「ですね。荷物持ちますよ」
「ありがとう」
歌川くんが一番重い食品や日用品が入った袋を持ってくれる。菊地原くんも本の入った紙袋を持ってくれたので、だいぶ両手は軽くなった。
「で、なにしたんです」
「ん?」
菊地原くんの声に首をかしげれば、わざとらしく大きく溜息をつかれた。あ、これはばれてるな。
「換装してるんでしょ?」
「トラブルですか?」
「あ~…実は今、知らない男につけられてまして…」
『は?』
今までの経験上、この2人に隠したままなのは大変良くない結果になる事が多いので素直に話す。知らない男、という単語に2人の目が冷えて鋭くなる。と同時に正面にいた2人が私の脇を固めるように左右に移動した。
それと同時に歌川くんに促すように背中を軽く押されてゆっくりと歩き出せば、隣を歩く菊地原くんから不機嫌そうな声が飛んできた。
「どいつですか?」
「えーと…4時の方向、道の反対側でお店の看板見てる黒いキャップかぶったやつ。紺色のパーカー」
「…ああ、あいつか」
「視認しました。いつからです?」
「30分たってないくらい」
流石隠密行動をメインにしているだけあって、2人はごく自然に辺りを見て私が言った男を特定したようだった。今のところつけられてるだけで実害無し、と告げれば菊地原くんから物騒な言葉が発せられる。
「縛って警戒区域のどっかに捨ててきます?」
「いや、今日は撒いて逃げられたら良いんだけど」
「たしか今こっちの方面は冬島隊が任務に入ってますし、話せば見逃してくれると思いますよ」
「歌川くんまで」
歌川くんと菊地原くんは物騒な事を言いながらも、私の希望通りに少しだけ歩くスピードを早めて雑踏にまぎれていく。角をひとつ曲がる瞬間、2人も制服のまま換装した。それと同時に話すのも通信へと切り替える。
『まだ追って来るなら、次の角でカメレオン起動しましょうか』
『蒼さんセットしてます?』
『うん。大丈夫だよ』
歌川くんの提案に頷いて後ろを見ないまま歩き続ける。よく聞こえる耳を持つ菊地原くんがいるから、後ろのことは彼に任せて問題ないだろう。
『ついてくる?』
『角の所で様子見してる感じですね』
『諦めてくれるといいんですけど』
まだ少し人通りもあるし、離れたならこのまま諦めてくれることを願う。そんな願いもむなしく、直後に菊地原くんから悲しいお知らせが届いた。
『ついてきました』
『ついてきちゃったかあ』
『諦めが悪いですね』
じゃあカメレオンだね、と歩いて行く方向で人通りの少なそうな路地を探す。どこが人いなそうかな、と周囲を見ていれば菊地原くんから声が飛んでくる。
『コンビニの奥の道、人がいなそうですよ』
『お、ありがと』
菊地原くんの言った道にしようと歩いて行ってみれば、覗き込んだ道には確かに通行人がほとんどいなかった。幸い数少ない通行人も同じ進行方向を向いているので、2人と目配せしてさっさとカメレオンを発動してしまう。
『じゃあさっさと行きましょ』
『はーい』
すうっと周りの景色に溶け込みつつ、早足に道の奥へと歩いて行く。風間隊に居た時からこの3人でのフォーメーションは変わらないので、特にぶつかったりはしない。三角形の一番前が私、右後ろが菊地原くんで左後ろが歌川くん。
『…蒼さん、今日このあと時間ありますか?』
『あるよ~、なあに?』
少し歩いたところで菊地原くんに話しかけられるけど、足は止めずに歩いて行く。今日は早めに本部に戻ることになったし、時間は有り余ってるよと伝える。
『任務の前にちょっとうちに来ませんか』
『風間隊の作戦室?』
『そーです。折角ですしお茶しましょうよ』
『いいの?』
『良いに決まってます。それに、昨日風間さんが高そうな焼き菓子もらってきてたんで』
『え、それならお邪魔しようかな』
この状況でお茶のお誘いされると思ってなかったな、と考えながらふと歌川くんの声が聞こえないことに気づく。だいたい会話に参加してくるのに、どうしたんだろと立ち止まって後ろを振り返った。
『ちょ、っと蒼さん、いきなり止まらないでくださいよ』
『ん、ごめん。…歌川くんは?』
『…あー』
菊地原くんに軽く謝りつつ、振り返った先は先ほどまで歩いてきた路地。カメレオンを使っているので2人の姿は見えないが、路地の奥の方で先ほどまで私を追いかけていたパーカーの男が壁にもたれて立っているのが見えた、けど。不自然に壁に寄りかかっているというか、なんだか腕を後ろにねじり上げられて壁に押しつけられてるように見えるなあ。
『ねえ菊地原くん』
『すみません』
『まだ何も言ってないんだけどな』
横に立っているらしい菊地原くんに話しかければ、その瞬間に謝罪が飛んでくる。と言うことは、アレはこの2人が仕組んでるな。菊地原くんが単独で離れていく歌川くんに何も言わない訳ないしなあ、と思っていれば腕を解放されたと思われる男が足をもつれさせながら路地の向こうへと走り去っていった。
『歌川くん』
『すみません』
『まだ何も言ってないんだってば』
もう、2人とも同じ事しか言わないな、と思いながら歌川くんの合流を待つ。こういう時、2人は本当に示し合ったように同じ事をする。まあそれは彼等だけじゃなくて、私と蒼也さんも一緒だけど。誰かに危害が加われそうになると、何も言わなくても大体同じ行動が取れてしまう。仲間思いなんだけどさ。
『んん~…』
『少し忠告してきただけですよ』
『私に教えてからにしてほしいって話なんだけど』
『蒼さん反対するじゃないですか』
『反対するような案を却下したいのよ…』
なんともいえない気持ちで唸れば、特に暴力などは振るってませんよと歌川くんが告げてくる。いやそうじゃなくて。今回は良かったけど、君たちに万が一があるようなあんまり過激な案は困るのよ…と伝えるも、2人からはしれっとした言葉が返ってくる。
『次は検討します』
『次がないといいですけどね』
『んんんそうだね』
絶対検討するだけとわかる声に無理矢理納得する。私ももっと気をつけよう…と思いつつ、もう必要ないかなと辺りを見回して人通りがないことを確認してからカメレオンを解いた。換装はしてるけど、このまま帰ろう。
「はー…助けてくれてありがと。本部いこっか」
「はい」
「…蒼さん、作戦室来ますよね?」
私がカメレオンを解いたのを見て、2人も透明化を解除した。はあ…と溜息をつきながら歩き出せば、私が気分を害したと思ったのかちょっとだけ不安げに菊地原くんが聞いてくる。その不安をさっき感じてくれたら良かったんだけどな~と思いつつ、足を止めてぽんと彼の頭を撫でた。
「大丈夫いくいく」
「ほんとですか」
「荷物置いたらすぐ行くよ」
私の言葉にふっと顔を緩めた菊地原くんは、私にそれを見つかったのをばつが悪そうにしながらも荷物を持ち直した。それから歌川くんと目を合わせて軽く頷いた。
「部屋まで行きます」
「最後まで荷物持って行きますね」
「ありがとー」
それから今度こそ本部の方へと歩き出した。
歌川くんと菊地原くんに護衛される
ミッション:カメレオン!
(蒼さん、これ美味しいですよ)
(蒼さんこれも食べてください)
((ひっついて離れなくなったなあ))
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