荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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冬島さんの探し物
「…ん?」
開発室の扉を開けたら、奥の方で冬島さんが床に這い蹲っているのが見えた。見間違いじゃない、なにしてるんだ。なにか大事なデータでも間違って消去したのかな。
「冬島さんどうしました…?」
「おー蒼、たすけてくれー」
ちょっと遠くから声を掛ければ、四つん這いの姿勢からこちらを振り向いた冬島さん。その目は赤く、こちらを振り向いた拍子にその目からぼたりと雫が落ちた。
「えっ…なんで泣いてるんです」
「目ぇ擦ったらコンタクトが落ちちまってよォ」
どっかその辺あるから探してくれ…と言われて、合点がいった。そういうことか。
プチっとやっちゃまずいから、コンタクトレンズが落ちていなさそうな所まで近づいて涙目で床を見る冬島さんの前にしゃがみこんだ。
「それで泣いてるんですか…」
「おー…頼む、一緒に探してくれ…」
「ええ?」
時折ぼたりと右目から涙を落とす冬島さんは、ずび、と鼻を啜りながら床に目を凝らしている。同じように床を見るが、冬島さんのデスク周りはあまり整頓されていないせいで、それ故に埃とかが隠れていると思う。あ、訂正する。あんまり隠れてない。埃見える。
「諦めましょうよ。衛生的によろしくないでしょう」
「3秒ルールだ」
「私が入ってきてから確実に30秒は経ってますよ」
「俺が数えてる間の3秒だ。まだ1秒経ってねえ」
探すんだ、という冬島さんにため息を吐く。
とりあえず捨ててしまうにしても、探すのは手伝った方が良さそうだ。再度目に装着してしまう可能性が微妙に捨てきれないから、さっさと見つけて先手必勝でポイしよう。
「じゃあちょっとだけ手伝いますよ。どの辺落としたんですか?」
「わかんね、多分この辺だと思うんだけどよ…」
この辺、と示されたのは冬島さんの椅子の周辺。座ってたんだろうからそうだろうとは思うけれど、その辺が1番ごちゃついている。
「……見つかりますかね」
「…たぶんな」
それは「見つかる」の多分なのか「見つからない」の多分なのかは突っ込まない事にしておく。
「とりあえず私はこの辺から見ますので、冬島さんはそっちから探してください」
「おお」
私は机の右側から攻める事にして、反対側は冬島さんに任せた。とは言っても、コンタクトレンズの効率の良い探し方が皆目見当がつかない。
「ううん…」
上からくまなく見てみる。発見できず。とりあえずライトを当てて反射するか確認。光る物体なし。落ちてたファイルで風をつくってみる。ふわりと埃が舞った。
「…これは無理では?」
右目のが落ちたんだから、こっち側にあると思うんだけどなあ。そう思いながら冬島さんの方を振り返れば、四つん這いでがさがさ資料の山をかき分けるその腕に、きらりと光るものが。
「……」
そうっと手を伸ばして手に取れば、それは薄い青みがかった透明で、やわらかくカーブして半円を描く丸い物体だった。まごうことなきコンタクトレンズ。
「………」
傷はついていないようだけど、埃と糸くずがついてしまっている。ちょっと乾いて萎びているようだし、やっぱりよろしくない。ポイだ。
「冬島さん、ほんとは替えを取りに行くのが面倒だとか言うんじゃないですよね」
「……それは半分くらいの理由だ」
「そうですか」
きょろりと辺りを見回して、机の上に転がっているボールペンを見つけた。それを手に取って、ペン先でコンタクトレンズを突き刺す。ぶつん。
「ありましたよ」
「え、まじでどこにあっ…いや絶対そこじゃなかったろ!?」
ボールペンに刺したまま見せれば、ずざっと近づいてきた冬島さんがボールペンを取り上げて嘆く。
「蒼!お前俺のコンタクトに何の恨みが!」
「特にないですがトドメは刺しました」
「なんて非道なやつ」
「冬島さんが装着しないようにと最大限の譲歩をした結果です」
あああ、と穴の開いたコンタクトをわざとらしく震える手で受け取った冬島さんは、もうどうにもならないそれを見てがっくりと項垂れた。
「部屋まで戻んなきゃいけなくなったじゃねえか…」
「冬島さん今忙しくないんでしょう?散歩がてら行った方が良いですよ」
忙しいんだったらうだうだ探してたりなんかしませんよね、と言えば冬島さんはうぐ…と言葉に詰まった。図星のようだ。そしてペン先に刺さったコンタクトレンズを外して、机にペンを置いてのろのろと立ち上がった。
「とってくる…」
「予備も持ってきておいたら良いと思いますよ」
「そうする…」
失意の真っただ中です、というしょぼくれた背中が開発室から出て行くのを見送って、自分の用事を済ませるために鬼怒田さんの元へと歩き出した。
冬島さんの落とし物
その後箱でストックが置かれる
(もう蒼に頼まない)
(あらそうですか)
(すいません嘘です)
「…ん?」
開発室の扉を開けたら、奥の方で冬島さんが床に這い蹲っているのが見えた。見間違いじゃない、なにしてるんだ。なにか大事なデータでも間違って消去したのかな。
「冬島さんどうしました…?」
「おー蒼、たすけてくれー」
ちょっと遠くから声を掛ければ、四つん這いの姿勢からこちらを振り向いた冬島さん。その目は赤く、こちらを振り向いた拍子にその目からぼたりと雫が落ちた。
「えっ…なんで泣いてるんです」
「目ぇ擦ったらコンタクトが落ちちまってよォ」
どっかその辺あるから探してくれ…と言われて、合点がいった。そういうことか。
プチっとやっちゃまずいから、コンタクトレンズが落ちていなさそうな所まで近づいて涙目で床を見る冬島さんの前にしゃがみこんだ。
「それで泣いてるんですか…」
「おー…頼む、一緒に探してくれ…」
「ええ?」
時折ぼたりと右目から涙を落とす冬島さんは、ずび、と鼻を啜りながら床に目を凝らしている。同じように床を見るが、冬島さんのデスク周りはあまり整頓されていないせいで、それ故に埃とかが隠れていると思う。あ、訂正する。あんまり隠れてない。埃見える。
「諦めましょうよ。衛生的によろしくないでしょう」
「3秒ルールだ」
「私が入ってきてから確実に30秒は経ってますよ」
「俺が数えてる間の3秒だ。まだ1秒経ってねえ」
探すんだ、という冬島さんにため息を吐く。
とりあえず捨ててしまうにしても、探すのは手伝った方が良さそうだ。再度目に装着してしまう可能性が微妙に捨てきれないから、さっさと見つけて先手必勝でポイしよう。
「じゃあちょっとだけ手伝いますよ。どの辺落としたんですか?」
「わかんね、多分この辺だと思うんだけどよ…」
この辺、と示されたのは冬島さんの椅子の周辺。座ってたんだろうからそうだろうとは思うけれど、その辺が1番ごちゃついている。
「……見つかりますかね」
「…たぶんな」
それは「見つかる」の多分なのか「見つからない」の多分なのかは突っ込まない事にしておく。
「とりあえず私はこの辺から見ますので、冬島さんはそっちから探してください」
「おお」
私は机の右側から攻める事にして、反対側は冬島さんに任せた。とは言っても、コンタクトレンズの効率の良い探し方が皆目見当がつかない。
「ううん…」
上からくまなく見てみる。発見できず。とりあえずライトを当てて反射するか確認。光る物体なし。落ちてたファイルで風をつくってみる。ふわりと埃が舞った。
「…これは無理では?」
右目のが落ちたんだから、こっち側にあると思うんだけどなあ。そう思いながら冬島さんの方を振り返れば、四つん這いでがさがさ資料の山をかき分けるその腕に、きらりと光るものが。
「……」
そうっと手を伸ばして手に取れば、それは薄い青みがかった透明で、やわらかくカーブして半円を描く丸い物体だった。まごうことなきコンタクトレンズ。
「………」
傷はついていないようだけど、埃と糸くずがついてしまっている。ちょっと乾いて萎びているようだし、やっぱりよろしくない。ポイだ。
「冬島さん、ほんとは替えを取りに行くのが面倒だとか言うんじゃないですよね」
「……それは半分くらいの理由だ」
「そうですか」
きょろりと辺りを見回して、机の上に転がっているボールペンを見つけた。それを手に取って、ペン先でコンタクトレンズを突き刺す。ぶつん。
「ありましたよ」
「え、まじでどこにあっ…いや絶対そこじゃなかったろ!?」
ボールペンに刺したまま見せれば、ずざっと近づいてきた冬島さんがボールペンを取り上げて嘆く。
「蒼!お前俺のコンタクトに何の恨みが!」
「特にないですがトドメは刺しました」
「なんて非道なやつ」
「冬島さんが装着しないようにと最大限の譲歩をした結果です」
あああ、と穴の開いたコンタクトをわざとらしく震える手で受け取った冬島さんは、もうどうにもならないそれを見てがっくりと項垂れた。
「部屋まで戻んなきゃいけなくなったじゃねえか…」
「冬島さん今忙しくないんでしょう?散歩がてら行った方が良いですよ」
忙しいんだったらうだうだ探してたりなんかしませんよね、と言えば冬島さんはうぐ…と言葉に詰まった。図星のようだ。そしてペン先に刺さったコンタクトレンズを外して、机にペンを置いてのろのろと立ち上がった。
「とってくる…」
「予備も持ってきておいたら良いと思いますよ」
「そうする…」
失意の真っただ中です、というしょぼくれた背中が開発室から出て行くのを見送って、自分の用事を済ませるために鬼怒田さんの元へと歩き出した。
冬島さんの落とし物
その後箱でストックが置かれる
(もう蒼に頼まない)
(あらそうですか)
(すいません嘘です)