荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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バレンタイン2017
「今年も手伝ってくれてありがと」
「いえ、俺も色々食べれて嬉しいですから」
去年に引き続き、今年も奈良坂くんと2人でデパートやら駅ビルなんかで買ってきた大量のチョコレートの試食会を行っていた。去年と違うのは開催場所がラウンジの定位置から小会議室になったくらいだ。
「人気なのは継続してあるけど、結構チョコの系統変わるよねえ」
「ああ、今年は見栄えがいいものが流行っていると聞きました」
奈良坂くんが頷いたのを見つつ、テーブルに広げられたチョコの中から宝石箱の形をしたものを指差す。中も外もチョコで出来てるもので、中にはダイヤモンドなんかを模した色とりどりのチョコレートが詰め込まれている。
「写真栄えするやつだっけ。これとか綺麗だもんねえ」
「ですね。女子は好きそうです」
「これは自分用っぽいよね」
宝石箱の中からターコイズの原石を模したチョコをつまんで口の中に放り込む。チョコを噛み砕けば、口の中にチョコミントの味がふわりと広がる。
「そして結構おいしい」
「1個で2度美味しい感じですね」
「ね」
正面に座る奈良坂くんはエメラルドを模したチョコを口に運んだ。確かあれは抹茶味だったはず。色といい形といい、よくできてるなとチョコを見ていたらコーヒーをひとくち飲んだ奈良坂くんが「そう言えば、」と口を開いた。
「蒼さん、今年は手作りしないんですか?」
「あー、うん、作るんだけど…その、荒船くんが『俺だけにくれませんか』と仰ったので…」
「ああ」
そう言う事ですか、と奈良坂くんが納得したように頷いた。
「恋人になってもらって初めてのバレンタインだから、我侭聞いてあげたくて…他の人には既製品なの、ごめんね」
「構いませんよ」
荒船先輩に美味しいの作ってあげてください、と言ってくれる奈良坂くんに笑みを零す。それから横に置いてたチョコ菓子の料理本を広げてぺらりと捲る。
「でも、今年はなに作ろうか迷ってて」
「去年のガトーショコラは続けて作らないんですよね」
「うん、違うの作るつもりなんだけど…」
何作ったらいいかなあ、とぺらぺら料理本を捲っていればとあるページで奈良坂くんの白い指がすっと視界に映り込んだ。
「これはどうです?」
「フォンダンショコラ?」
奈良坂くんが指差したそのページには、真ん中からフォークを入れられてとろりとチョコレートを零す美味しそうなフォンダンショコラの写真が載っていた。
「美味しそう、これにしてみるよ」
「いつか俺にも作ってください」
「まかせて!」
おねだりしてくる奈良坂くんにそう約束して、引き続きみんなに配るチョコを選んでいった。
◆
「さてさて…」
バレンタイン当日、上層部や開発室、それから各隊員たちにチョコを配って自室へと戻ってきた。キッチンには水色の包装紙でラッピングしたフォンダンショコラがちょこんと待機している。
(後はこれを荒船くんに渡すのみ、か)
フォンダンショコラは初めて作ったけれど、なかなか上手く出来たと思う。いくつか余分に作ったうちの1つを味見したときにちょっと舌を火傷してしまったけど、まあ美味しかったからよしとする。
「蒼さん、これキッチンに運べば良いですか?」
「あ、私が持つよ」
一緒に食材を買いに行っていた荒船くんから買い物袋をもらう。キッチンに置いてあるチョコを発見させるわけにはいけないから、ささっと受け取ってキッチンへ運び込んだ。
「荒船くんは座ってて。それから一緒にお茶しよ」
「わかりました」
荒船くんをリビングに送り込んで、とりあえずはお茶の準備をしようと食器棚からマグカップを取り出した。丁度良い事に、時刻は3時をほんの少し過ぎたくらいでお茶するには絶好のタイミング。荒船くんは晩御飯までいるけど、どうせなら今の時間にチョコを渡したほうがいいだろう。
「ならお茶よりコーヒーだな」
ひとつ頷いて2人分のコーヒーを作って、いくつかのお茶菓子と共にチョコレートの入った箱を持ってリビングへ向かった。
「おまたせー」
「あ、手伝います」
「ありがとう」
大荷物の私を見て、荒船くんがすっとお盆を持ってくれた。それからふわっと香ったらしいコーヒーに目を落とし、長テーブルに2つ並べておいてくれる。
「砂糖はどうしますか?」
「あ、2個入れようかな」
「了解」
真ん中にお茶菓子を置いている間に荒船くんがコーヒーに砂糖を入れて混ぜてくれる。荒船くんの隣に座り込めば、荒船くんもきしりとソファを軋ませて深く座り込んだ。
「これもあるんだ」
「あ、チョコですか」
「チョコです」
チョコの単語を聞いて、一瞬だけそわっとした荒船くんに笑みを零しながら一旦ソファの影に置いたチョコレートの箱を取り出す。
「初めて作ったから、口に合うといいんだけど…」
「蒼さんが作ってくれたものは全部美味しいですよ」
「う、ありがとう」
開けても良いですか?と聞いてくるのに頷けば、箱に掛かった青いリボンをしゅるりと解いていく。丁寧に包装を解いて箱を開ければ、1番良く出来たフォンダンショコラが出てくる。
「お、美味そう。これ何です?」
「フォンダンショコラ。これちょっと温めると美味しいんだけど、どうする?」
「お願いします」
差し出された箱を受け取って、レンジでちょこっと温める。丁度いいところでお皿に移して、フォークと一緒にリビングで待つ荒船くんの元へ運んでいく。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
荒船くんにお皿を渡して座り込めば、少しだけあった距離を縮めるように荒船くんが私の隣にくっついた。近くなった距離にドキドキしつつも、荒船くんがフォンダンショコラにフォークを入れるのをじっと見つめる。
「いただきます」
「どうぞ…」
フォークを入れた先からとろりと零れたチョコレートを見て、うまく温められたようだと安心する。
「うまそう」
そう言って、荒船くんは綺麗に切り取られたフォンダンショコラを口に運び入れた。無言で咀嚼するのを、横でじっと見つめる。ごくり、と荒船くんの喉が動く。
「…蒼さん」
「はいっ」
「ふ、なんでそんなに緊張してるんですか」
「口に合わなかったらどうしようと…!」
緊張している私に荒船くんが笑って、それからちゃんと感想を聞かせてくれた。
「すごく美味しいですよ」
「よかったあ…!」
頑張った甲斐があった!と心を撫で下ろした私に、荒船くんが切り取ったフォンダンショコラを口元に運んでくる。
「ほら、蒼さんもどうぞ」
「え」
「俺だけじゃ悪いので」
「う、あ、」
ほら、どうぞと差し出されるフォンダンショコラを見て、荒船くんの顔と見比べる。今日1番のにこにこの笑顔を見て、差し出されたフォークに噛み付いた。
「…おいしい」
「でしょう?」
満足げに言った荒船くんが上機嫌でフォンダンショコラを食べ進めていくのを見つつ、喜んでくれたならよかったと笑った。
バレンタイン2017
荒船くんにフォンダンショコラを
(太刀川さんと迅さんにすげえ嫉妬されたんですよ)
(ああ…チョコ欲しいって言ってたからなあ)
ぎりぎり!
「今年も手伝ってくれてありがと」
「いえ、俺も色々食べれて嬉しいですから」
去年に引き続き、今年も奈良坂くんと2人でデパートやら駅ビルなんかで買ってきた大量のチョコレートの試食会を行っていた。去年と違うのは開催場所がラウンジの定位置から小会議室になったくらいだ。
「人気なのは継続してあるけど、結構チョコの系統変わるよねえ」
「ああ、今年は見栄えがいいものが流行っていると聞きました」
奈良坂くんが頷いたのを見つつ、テーブルに広げられたチョコの中から宝石箱の形をしたものを指差す。中も外もチョコで出来てるもので、中にはダイヤモンドなんかを模した色とりどりのチョコレートが詰め込まれている。
「写真栄えするやつだっけ。これとか綺麗だもんねえ」
「ですね。女子は好きそうです」
「これは自分用っぽいよね」
宝石箱の中からターコイズの原石を模したチョコをつまんで口の中に放り込む。チョコを噛み砕けば、口の中にチョコミントの味がふわりと広がる。
「そして結構おいしい」
「1個で2度美味しい感じですね」
「ね」
正面に座る奈良坂くんはエメラルドを模したチョコを口に運んだ。確かあれは抹茶味だったはず。色といい形といい、よくできてるなとチョコを見ていたらコーヒーをひとくち飲んだ奈良坂くんが「そう言えば、」と口を開いた。
「蒼さん、今年は手作りしないんですか?」
「あー、うん、作るんだけど…その、荒船くんが『俺だけにくれませんか』と仰ったので…」
「ああ」
そう言う事ですか、と奈良坂くんが納得したように頷いた。
「恋人になってもらって初めてのバレンタインだから、我侭聞いてあげたくて…他の人には既製品なの、ごめんね」
「構いませんよ」
荒船先輩に美味しいの作ってあげてください、と言ってくれる奈良坂くんに笑みを零す。それから横に置いてたチョコ菓子の料理本を広げてぺらりと捲る。
「でも、今年はなに作ろうか迷ってて」
「去年のガトーショコラは続けて作らないんですよね」
「うん、違うの作るつもりなんだけど…」
何作ったらいいかなあ、とぺらぺら料理本を捲っていればとあるページで奈良坂くんの白い指がすっと視界に映り込んだ。
「これはどうです?」
「フォンダンショコラ?」
奈良坂くんが指差したそのページには、真ん中からフォークを入れられてとろりとチョコレートを零す美味しそうなフォンダンショコラの写真が載っていた。
「美味しそう、これにしてみるよ」
「いつか俺にも作ってください」
「まかせて!」
おねだりしてくる奈良坂くんにそう約束して、引き続きみんなに配るチョコを選んでいった。
◆
「さてさて…」
バレンタイン当日、上層部や開発室、それから各隊員たちにチョコを配って自室へと戻ってきた。キッチンには水色の包装紙でラッピングしたフォンダンショコラがちょこんと待機している。
(後はこれを荒船くんに渡すのみ、か)
フォンダンショコラは初めて作ったけれど、なかなか上手く出来たと思う。いくつか余分に作ったうちの1つを味見したときにちょっと舌を火傷してしまったけど、まあ美味しかったからよしとする。
「蒼さん、これキッチンに運べば良いですか?」
「あ、私が持つよ」
一緒に食材を買いに行っていた荒船くんから買い物袋をもらう。キッチンに置いてあるチョコを発見させるわけにはいけないから、ささっと受け取ってキッチンへ運び込んだ。
「荒船くんは座ってて。それから一緒にお茶しよ」
「わかりました」
荒船くんをリビングに送り込んで、とりあえずはお茶の準備をしようと食器棚からマグカップを取り出した。丁度良い事に、時刻は3時をほんの少し過ぎたくらいでお茶するには絶好のタイミング。荒船くんは晩御飯までいるけど、どうせなら今の時間にチョコを渡したほうがいいだろう。
「ならお茶よりコーヒーだな」
ひとつ頷いて2人分のコーヒーを作って、いくつかのお茶菓子と共にチョコレートの入った箱を持ってリビングへ向かった。
「おまたせー」
「あ、手伝います」
「ありがとう」
大荷物の私を見て、荒船くんがすっとお盆を持ってくれた。それからふわっと香ったらしいコーヒーに目を落とし、長テーブルに2つ並べておいてくれる。
「砂糖はどうしますか?」
「あ、2個入れようかな」
「了解」
真ん中にお茶菓子を置いている間に荒船くんがコーヒーに砂糖を入れて混ぜてくれる。荒船くんの隣に座り込めば、荒船くんもきしりとソファを軋ませて深く座り込んだ。
「これもあるんだ」
「あ、チョコですか」
「チョコです」
チョコの単語を聞いて、一瞬だけそわっとした荒船くんに笑みを零しながら一旦ソファの影に置いたチョコレートの箱を取り出す。
「初めて作ったから、口に合うといいんだけど…」
「蒼さんが作ってくれたものは全部美味しいですよ」
「う、ありがとう」
開けても良いですか?と聞いてくるのに頷けば、箱に掛かった青いリボンをしゅるりと解いていく。丁寧に包装を解いて箱を開ければ、1番良く出来たフォンダンショコラが出てくる。
「お、美味そう。これ何です?」
「フォンダンショコラ。これちょっと温めると美味しいんだけど、どうする?」
「お願いします」
差し出された箱を受け取って、レンジでちょこっと温める。丁度いいところでお皿に移して、フォークと一緒にリビングで待つ荒船くんの元へ運んでいく。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
荒船くんにお皿を渡して座り込めば、少しだけあった距離を縮めるように荒船くんが私の隣にくっついた。近くなった距離にドキドキしつつも、荒船くんがフォンダンショコラにフォークを入れるのをじっと見つめる。
「いただきます」
「どうぞ…」
フォークを入れた先からとろりと零れたチョコレートを見て、うまく温められたようだと安心する。
「うまそう」
そう言って、荒船くんは綺麗に切り取られたフォンダンショコラを口に運び入れた。無言で咀嚼するのを、横でじっと見つめる。ごくり、と荒船くんの喉が動く。
「…蒼さん」
「はいっ」
「ふ、なんでそんなに緊張してるんですか」
「口に合わなかったらどうしようと…!」
緊張している私に荒船くんが笑って、それからちゃんと感想を聞かせてくれた。
「すごく美味しいですよ」
「よかったあ…!」
頑張った甲斐があった!と心を撫で下ろした私に、荒船くんが切り取ったフォンダンショコラを口元に運んでくる。
「ほら、蒼さんもどうぞ」
「え」
「俺だけじゃ悪いので」
「う、あ、」
ほら、どうぞと差し出されるフォンダンショコラを見て、荒船くんの顔と見比べる。今日1番のにこにこの笑顔を見て、差し出されたフォークに噛み付いた。
「…おいしい」
「でしょう?」
満足げに言った荒船くんが上機嫌でフォンダンショコラを食べ進めていくのを見つつ、喜んでくれたならよかったと笑った。
バレンタイン2017
荒船くんにフォンダンショコラを
(太刀川さんと迅さんにすげえ嫉妬されたんですよ)
(ああ…チョコ欲しいって言ってたからなあ)
ぎりぎり!