荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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太刀川さんとお夜食
「――…あれ、結構経ったな」
報告書が仕上がって、ふと時計を見れば23時を過ぎていた。レポートとかも纏めてたけど、それにしても随分集中してやってたなーと思いながらごろんとソファに倒れ込んでぐうっと身体を伸ばす。
「うー…!」
手の指先から足の爪先まで、ぐーっと伸ばして疲れた身体をほぐす。固まっていた身体があちこちで音を立てた。
「っあー、身体ばきばきだ…」
長らく動かしていなかった手足を空中でばたばた動かして、そのままへたりと脱力すればお腹がくうと鳴った。
「…ご飯食べてない」
どうりでお腹が空いてる訳だと思って立ち上がったけれど、今から晩御飯は随分太りそうだ。だけど食べないと朝まで持ちそうにないし、どうしたもんかと思いながらキッチンへ向かう。
「あ」
そういえば良いのがあったな、と戸棚の中に仕舞い込んであった白い箱を取り出す。よかった、うどんがあった。干し椎茸なんかで出汁も取れるし、これにしようと鍋に水を入れて火にかけた。
◆
うどんを茹で終わった頃に、ぴこんと部屋の方でメッセージの着信を告げる音が鳴った。なんだろ、と濡れた手を拭いて携帯を取りに戻る。
「ん?」
こんな時間に誰だろうとテーブルに置きっぱなしの携帯を見れば、そこには『慶』の文字。慶さんたしか、今日は忍田さん監修でレポートやってたんじゃなかったっけ。
『まだ起きてるか?蒼の部屋の前に書類落ちてたけど』
「えっ」
部屋の前、というなら今もそこにいるのだろうと踏んでぱたぱたと玄関へ向かう。引っかけるように靴を履いて扉を開ければ、正面に壁にもたれている慶が顔を上げた。片手には携帯、もう片方の手にはA4の紙が1枚。
「お、起きてたか」
「ごめん慶さん、ありがとう」
「いーえ」
起きてて良かったとこちらに近づいてきた慶から紙を受け取る。御礼を言って紙を受け取り、目を通していれば慶がふと首を傾げた。
「…なんかイイ匂いするな」
「んー、夜食にうどん食べようと思って」
だしの匂いだよ、と書類に目を落としながら呟けば、すい、と視界の端に慶が近づいてきたのが見えた。顔を上げれば、随分きらきらした目で私を見る慶。
「それ、俺にも食わせてくれないか」
「あ、いいよ。ちょっと余りそうだなって思ってたんだ」
逆に助かる、と言いながら慶を連れて部屋に戻る。キッチンに入れば、用意していたおつゆはいい感じになったようで、部屋いっぱいにいい香りを漂わせていた。慶がすん、と鼻を鳴らして匂いを吸い込んでへらりと笑う。
「すげえイイ匂い」
「食欲そそられる匂いだよね」
コトコトと小さい音を立てる鍋の中には3食分くらいのおつゆが出来ているし、慶にもすぐ出せる。丼もういっこ必要だな、と食器棚を漁っていれば慶が鍋の近くまで寄ってきてうろうろと動く。
「なに入ってんの?」
「干し椎茸と人参だけ。慶さんお肉欲しいなら入れようか?」
「や、面倒だろ。そのままでいい」
「そう?」
それならこのまま作っちゃうね、と慶の分の丼を食器棚から引っ張り出す。あつあつのつゆを丼に流し入れて、茹でて良い感じになったうどんを掴んでつゆの中へ沈めた。椎茸と人参を適当に盛り付けて、刻んでおいたネギを天辺に乗せる。
「できた?」
「うん。持ってって食べて」
「ああ」
そわそわと待っている慶にうどんと箸を渡してリビングへ追いやる。それから自分の分もちゃちゃっと作って、慶の後を追った。
「いただきます」
わざわざ私を待っていたらしい慶が、私がテーブルにうどんを置くなり箸をもって手を合わせる。
「はいどーぞ」
イスに座り込みながらそう答えれば、いそいそと慶がうどんを啜る。見るからに幸せそうな顔でもしゃもしゃ咀嚼した慶は、ごくりと喉を鳴らすと同時に「うまい」と呟いた。
「それはよかった。お茶もどーぞ」
「さんきゅ」
慶の前に冷たいお茶を置いてから、いただきまーすと手を合わせて私もうどんへと箸を伸ばす。ちゅるりとうどんを啜れば、ほんのりと出汁を吸ったうどんの味が口に広がった。椎茸の味が濃くて美味しい。
「ん、うま」
「椎茸旨いな、すげえ出汁出てる」
「美味しいねー」
出汁を出したり吸ったりでふっくらずっしりした椎茸を口に入れれば、噛むと同時にじゅわりと出汁が溢れる。うまうま、と椎茸を齧っていれば慶がほうと息を吐いた。
「蒼、遅くまで何してたんだ?」
「もうすぐ入隊式でしょ、それの準備」
「あー、蒼は嵐山たちと大忙しか」
「大忙しです」
入隊式に向けて、入隊予定の隊員達のリストに目を通し、ついでに適性も見極めて大雑把なポジションの振り分けから指導者配備などを行わなくてはいけない。
「今回はどこが多いんだ?」
「銃手が1番多くて、2番目が攻撃手。狙撃手は10人いないし…そして射手に至っては2人…」
今回も今回とて少人数…と残念がる私に慶が笑う。
「人気ねえなー」
「射手は人気と言うか、素質ないと難しいからね」
後々ゆっくり見極めて勧誘するよ、と言ってうどんを啜る。少人数なら私や出水くん、匡貴さんみたいな高ランクの人がほぼマンツーマンで教えられるからお得と言えばお得なんだけどなあ。
「そういえば、今回は太刀川隊もお手伝いしてくれるんでしょ?」
「おー、するする。嵐山に頼まれたからな。俺は攻撃手で出水は射手。まあ唯我はいつも通り留守番だな」
「銃手は諏訪隊と茶野隊に頼んであるからねえ」
「あいつももうちょい強けりゃいいんだけどな」
唯我くんも出させたいところだけど、まあ…銃手は教えるのが上手い人が揃っているからそんなに必要でもないのだ。
「ん、旨かった。ごちそうさん」
一足先に食べ終えたらしい慶がどんぶりを置いた。どんぶりの中身は見事につゆまで空になっていて、綺麗に食べてくれたようだ。
「ごちそうさまでした」
遅れて私もうどんを食べ終わる。熱々になった口の中を冷たいお茶で冷まして、ほうと息を吐いた。美味しかったし、身体も暖まった。
「さて、慶さんが持ってきてくれた書類書いちゃおうかな」
「ん、じゃあ俺が皿洗う。旨いモン食わせてもらったし」
「いいの?ありがとう」
助かるー、とお礼を言ってキッチンまで食器たちを運んでいく。腕まくりする慶に後は任せて、私は書類の元へ戻る。そんなに掛かるやつじゃないから、さくっと終わらせて寝ようとお皿を洗う音をBGMに書類にペンを走らせた。
慶さんとお夜食
夜中のうどんは美味しい
(なー、これ朝も食いに来ていいか?)
(うどん持参してくれればいいよー)
(任せろ)
次は雑炊でもいいかもしれない
「――…あれ、結構経ったな」
報告書が仕上がって、ふと時計を見れば23時を過ぎていた。レポートとかも纏めてたけど、それにしても随分集中してやってたなーと思いながらごろんとソファに倒れ込んでぐうっと身体を伸ばす。
「うー…!」
手の指先から足の爪先まで、ぐーっと伸ばして疲れた身体をほぐす。固まっていた身体があちこちで音を立てた。
「っあー、身体ばきばきだ…」
長らく動かしていなかった手足を空中でばたばた動かして、そのままへたりと脱力すればお腹がくうと鳴った。
「…ご飯食べてない」
どうりでお腹が空いてる訳だと思って立ち上がったけれど、今から晩御飯は随分太りそうだ。だけど食べないと朝まで持ちそうにないし、どうしたもんかと思いながらキッチンへ向かう。
「あ」
そういえば良いのがあったな、と戸棚の中に仕舞い込んであった白い箱を取り出す。よかった、うどんがあった。干し椎茸なんかで出汁も取れるし、これにしようと鍋に水を入れて火にかけた。
◆
うどんを茹で終わった頃に、ぴこんと部屋の方でメッセージの着信を告げる音が鳴った。なんだろ、と濡れた手を拭いて携帯を取りに戻る。
「ん?」
こんな時間に誰だろうとテーブルに置きっぱなしの携帯を見れば、そこには『慶』の文字。慶さんたしか、今日は忍田さん監修でレポートやってたんじゃなかったっけ。
『まだ起きてるか?蒼の部屋の前に書類落ちてたけど』
「えっ」
部屋の前、というなら今もそこにいるのだろうと踏んでぱたぱたと玄関へ向かう。引っかけるように靴を履いて扉を開ければ、正面に壁にもたれている慶が顔を上げた。片手には携帯、もう片方の手にはA4の紙が1枚。
「お、起きてたか」
「ごめん慶さん、ありがとう」
「いーえ」
起きてて良かったとこちらに近づいてきた慶から紙を受け取る。御礼を言って紙を受け取り、目を通していれば慶がふと首を傾げた。
「…なんかイイ匂いするな」
「んー、夜食にうどん食べようと思って」
だしの匂いだよ、と書類に目を落としながら呟けば、すい、と視界の端に慶が近づいてきたのが見えた。顔を上げれば、随分きらきらした目で私を見る慶。
「それ、俺にも食わせてくれないか」
「あ、いいよ。ちょっと余りそうだなって思ってたんだ」
逆に助かる、と言いながら慶を連れて部屋に戻る。キッチンに入れば、用意していたおつゆはいい感じになったようで、部屋いっぱいにいい香りを漂わせていた。慶がすん、と鼻を鳴らして匂いを吸い込んでへらりと笑う。
「すげえイイ匂い」
「食欲そそられる匂いだよね」
コトコトと小さい音を立てる鍋の中には3食分くらいのおつゆが出来ているし、慶にもすぐ出せる。丼もういっこ必要だな、と食器棚を漁っていれば慶が鍋の近くまで寄ってきてうろうろと動く。
「なに入ってんの?」
「干し椎茸と人参だけ。慶さんお肉欲しいなら入れようか?」
「や、面倒だろ。そのままでいい」
「そう?」
それならこのまま作っちゃうね、と慶の分の丼を食器棚から引っ張り出す。あつあつのつゆを丼に流し入れて、茹でて良い感じになったうどんを掴んでつゆの中へ沈めた。椎茸と人参を適当に盛り付けて、刻んでおいたネギを天辺に乗せる。
「できた?」
「うん。持ってって食べて」
「ああ」
そわそわと待っている慶にうどんと箸を渡してリビングへ追いやる。それから自分の分もちゃちゃっと作って、慶の後を追った。
「いただきます」
わざわざ私を待っていたらしい慶が、私がテーブルにうどんを置くなり箸をもって手を合わせる。
「はいどーぞ」
イスに座り込みながらそう答えれば、いそいそと慶がうどんを啜る。見るからに幸せそうな顔でもしゃもしゃ咀嚼した慶は、ごくりと喉を鳴らすと同時に「うまい」と呟いた。
「それはよかった。お茶もどーぞ」
「さんきゅ」
慶の前に冷たいお茶を置いてから、いただきまーすと手を合わせて私もうどんへと箸を伸ばす。ちゅるりとうどんを啜れば、ほんのりと出汁を吸ったうどんの味が口に広がった。椎茸の味が濃くて美味しい。
「ん、うま」
「椎茸旨いな、すげえ出汁出てる」
「美味しいねー」
出汁を出したり吸ったりでふっくらずっしりした椎茸を口に入れれば、噛むと同時にじゅわりと出汁が溢れる。うまうま、と椎茸を齧っていれば慶がほうと息を吐いた。
「蒼、遅くまで何してたんだ?」
「もうすぐ入隊式でしょ、それの準備」
「あー、蒼は嵐山たちと大忙しか」
「大忙しです」
入隊式に向けて、入隊予定の隊員達のリストに目を通し、ついでに適性も見極めて大雑把なポジションの振り分けから指導者配備などを行わなくてはいけない。
「今回はどこが多いんだ?」
「銃手が1番多くて、2番目が攻撃手。狙撃手は10人いないし…そして射手に至っては2人…」
今回も今回とて少人数…と残念がる私に慶が笑う。
「人気ねえなー」
「射手は人気と言うか、素質ないと難しいからね」
後々ゆっくり見極めて勧誘するよ、と言ってうどんを啜る。少人数なら私や出水くん、匡貴さんみたいな高ランクの人がほぼマンツーマンで教えられるからお得と言えばお得なんだけどなあ。
「そういえば、今回は太刀川隊もお手伝いしてくれるんでしょ?」
「おー、するする。嵐山に頼まれたからな。俺は攻撃手で出水は射手。まあ唯我はいつも通り留守番だな」
「銃手は諏訪隊と茶野隊に頼んであるからねえ」
「あいつももうちょい強けりゃいいんだけどな」
唯我くんも出させたいところだけど、まあ…銃手は教えるのが上手い人が揃っているからそんなに必要でもないのだ。
「ん、旨かった。ごちそうさん」
一足先に食べ終えたらしい慶がどんぶりを置いた。どんぶりの中身は見事につゆまで空になっていて、綺麗に食べてくれたようだ。
「ごちそうさまでした」
遅れて私もうどんを食べ終わる。熱々になった口の中を冷たいお茶で冷まして、ほうと息を吐いた。美味しかったし、身体も暖まった。
「さて、慶さんが持ってきてくれた書類書いちゃおうかな」
「ん、じゃあ俺が皿洗う。旨いモン食わせてもらったし」
「いいの?ありがとう」
助かるー、とお礼を言ってキッチンまで食器たちを運んでいく。腕まくりする慶に後は任せて、私は書類の元へ戻る。そんなに掛かるやつじゃないから、さくっと終わらせて寝ようとお皿を洗う音をBGMに書類にペンを走らせた。
慶さんとお夜食
夜中のうどんは美味しい
(なー、これ朝も食いに来ていいか?)
(うどん持参してくれればいいよー)
(任せろ)
次は雑炊でもいいかもしれない