荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
太刀川さんが深夜に訪問
ボーダー本部内、蒼の自室。
近々提出予定のレポートを書き上げていると、ピンポンと控えめに部屋のチャイムが鳴った。
「ん…?」
時刻は日付が替わって数分。
こんな時間に誰だろうかと椅子から立ち上がる。扉へ向かう道すがら、もう1度ピンポンとチャイムが鳴る。
「はいはい誰ー?」
「蒼、俺」
「慶?」
扉を開ければ、隊服姿の太刀川慶が立っていた。
その普段の自信たっぷりな顔が非常に困ってます顔になっていたので、とりあえず来訪の理由を聞いてみる。
「どしたの?」
「悪ィんだけど、ちょっと匿ってくれねえか」
「ああ、そういう事。どうぞ」
匿ってくれと言う事は誰かに追われているんだろう。慶が追われて困るくらいだから忍田さん辺りだろうか。
そう思いながらも部屋へ招き入れれば、慶はすぐさま廊下を確認してから扉を閉めた。鍵もしっかり施錠した。
「で、なにしたの」
「さっきまで任務だったんだが、帰ってきたら部屋の前にとんでもなく激怒した忍田さんがいて…見つかる前に逃げてきた」
「心当たりは」
「有りすぎてヤバい。あれは見つかったら殺される」
そう言ってソファの陰に隠れる様にしゃがみ込んだ慶。身長が高いので背もたれからもさもさした髪が見えている。
「任務中に街を予想以上に破壊したとか?」
「今日はそんなに壊してない」
「今日は、ねえ」
備え付けの簡易キッチンへ向かい、冷蔵庫から牛乳を取り出して火にかける。温まるのを待つ間に、マグカップを2つ出して棚からココアの粉を取り出してマグカップへ3杯掬い入れる。
温まった牛乳を入れ、手早くかき混ぜた。
「遅かれ早かれ怒られるなら、怒りゲージの低い内に行けばいいのに…はい、ココア」
「さんきゅ、でもマジで怖えんだよあの人…」
マグカップを慶へ手渡し、ついでに頭を撫でてやってからソファへ促す。大人しくソファに座った慶を見て、自分は先程まで座っていた椅子を慶の方へくるりと回してから座った。
「あ、…なんか邪魔したか」
「レポート書いてる途中。休憩入れようと思ってたから別にいいけど、慶もレポートあるんじゃないの?」
「…思い出したくない事を思い出した」
「早く纏めて出しなよね」
「ああ…」
悩み事を1つ増やしてしまったか、と思いながらココアを喉に流し込む。慶もちびちびとココアを口に運んでは、廊下の物音へ耳を澄ましているようだ。
「いつまでも来ないと探しに来るんじゃないの?」
「100%来る」
「逃げ切るのは無理なんだから早く決心して行ってきなよ。追われたら手足斬り落とされるだけじゃ済まないよ」
「だろうなあ…まじ怖え…あー行きたくねえ…!」
そういった所で、ざざ、というノイズが小さく部屋に響いた。
びくりと身体を震わせた慶の耳元、その通信機が音源だった。
『…慶、』
「!」
私には聞こえないのでわからないが、がちんと固まって微動だにしない慶を見ると、通信機から聞こえてきたのはやはり忍田本部長の声らしい。
(怒ってる?)
口パクで慶に聞けば、冷や汗を垂らしながらぎこちなく頷いて、私を手招きした。
「…」
「…」
ここ!座れ!と慶が自分の隣を示すので、音を立てないように近づいて横に座り、通信機へ耳を寄せる。
『聞いているんだろう、慶。何処にいる?』
「…」
うわあ、これは随分お怒りの様です。
隣の慶を見れば、壁を見つめたまま動かない。
『喋らないつもりか?』
(謝って会いに行きなよ)
「!?…ッ!」
そう伝えれば、慶はぶんぶんと頭を横に振った。
逃げたいのはわかるが、このままだと忍田さんの怒りゲージはカンストしてしまう。
それに私もレポートを書き上げて眠りたい。と言う事で悪いけど横で小さなっていく慶の耳元から通信機をひょいと取り上げた。
「ッ、蒼!」
「…忍田さん、七草です。慶は私の部屋に居ますので、お手数ですが引き取りに来ていただけますか」
『…七草?ああ、すまない。すぐに行こう』
通信が切れ、慶の耳元へ通信機を戻しながらすぐ来ることを伝えると慶はこの世の終わりの様な顔をして口を開いた。
「忍田さんすぐ来るって」
「まじかよなんつーことを…!」
「ちゃんと謝れば許してくれるよ、さあほらココア飲んで心の準備して」
「そんな簡単に言うなよ…」
「私もこれ書き上げて寝たいんだ、悪いね」
酷いぞ蒼…なんて呟きつつ残っていたココアを一気にあおり、諦めたようにぐたりと慶が私に寄りかかる。重い。
「慶さん、重い」
「俺は死ぬかもしれない…ああ最後に餅が食いたかった」
「忍田さんもそこまでしないよ、大げさだな。じゃあ今日の晩御飯、コロッケ作ってやるしお餅も焼くから出水くん連れておいで。それなら頑張れるでしょ」
「まじで!」
「現金だよねほんとに」
暫く寄りかかられたままぐたぐた喋っていると、部屋のチャイムが鳴って忍田さんの来訪を告げる。
『七草、私だ』
「蒼、忍田さん来たって…」
通信機を返してしまったけれど、ぐったりした慶から忍田さんが来た事を教えてもらう。
「あ、はーい、今開けます」
忍田さんを部屋に入れるべく、依然寄りかかっている慶を押し戻して立ち上がる。抵抗も無く押された慶はそのまま反対側へ倒れこんだ。
「すみません、わざわざ来てもらって」
「いや、こんな深夜に面倒を掛けてすまなかったな」
扉を開けると思ったより早く見つかったからか、先程よりは怒りゲージの低くなった忍田さんが立っていた。
忍田さんを招き入れると、ようやく慶も腹を括ったのか、しっかりと忍田さんを見据えて待っていた。
「慶、全く面倒を掛けてくれたな」
「すみません、忍田さん」
「言いたい事が山ほどあるが、ここでは七草に迷惑がかかるだろう。移動するぞ」
「はい」
「七草、すまなかったな」
「いいえ」
「では、失礼しよう。慶、行くぞ」
「…蒼、邪魔した」
「ううん。晩御飯、ちゃんと作るから7時においで」
「ああ」
忍田さんがさくさくと話を進め、慶を引っ張って部屋から出ていく。私に軽く頭を下げた忍田さんに続き、慶が私をちらりと見て出ていく。
それに小さく手を振り、扉が閉まった瞬間から私の部屋は静寂を取り戻した。
深夜の訪問者
真夜中の一波乱
(さて続き続き)
(慶…女性の元へ逃げるとは情けないな)
(他に匿ってくれるとこないんすよ…)
ボーダー本部内、蒼の自室。
近々提出予定のレポートを書き上げていると、ピンポンと控えめに部屋のチャイムが鳴った。
「ん…?」
時刻は日付が替わって数分。
こんな時間に誰だろうかと椅子から立ち上がる。扉へ向かう道すがら、もう1度ピンポンとチャイムが鳴る。
「はいはい誰ー?」
「蒼、俺」
「慶?」
扉を開ければ、隊服姿の太刀川慶が立っていた。
その普段の自信たっぷりな顔が非常に困ってます顔になっていたので、とりあえず来訪の理由を聞いてみる。
「どしたの?」
「悪ィんだけど、ちょっと匿ってくれねえか」
「ああ、そういう事。どうぞ」
匿ってくれと言う事は誰かに追われているんだろう。慶が追われて困るくらいだから忍田さん辺りだろうか。
そう思いながらも部屋へ招き入れれば、慶はすぐさま廊下を確認してから扉を閉めた。鍵もしっかり施錠した。
「で、なにしたの」
「さっきまで任務だったんだが、帰ってきたら部屋の前にとんでもなく激怒した忍田さんがいて…見つかる前に逃げてきた」
「心当たりは」
「有りすぎてヤバい。あれは見つかったら殺される」
そう言ってソファの陰に隠れる様にしゃがみ込んだ慶。身長が高いので背もたれからもさもさした髪が見えている。
「任務中に街を予想以上に破壊したとか?」
「今日はそんなに壊してない」
「今日は、ねえ」
備え付けの簡易キッチンへ向かい、冷蔵庫から牛乳を取り出して火にかける。温まるのを待つ間に、マグカップを2つ出して棚からココアの粉を取り出してマグカップへ3杯掬い入れる。
温まった牛乳を入れ、手早くかき混ぜた。
「遅かれ早かれ怒られるなら、怒りゲージの低い内に行けばいいのに…はい、ココア」
「さんきゅ、でもマジで怖えんだよあの人…」
マグカップを慶へ手渡し、ついでに頭を撫でてやってからソファへ促す。大人しくソファに座った慶を見て、自分は先程まで座っていた椅子を慶の方へくるりと回してから座った。
「あ、…なんか邪魔したか」
「レポート書いてる途中。休憩入れようと思ってたから別にいいけど、慶もレポートあるんじゃないの?」
「…思い出したくない事を思い出した」
「早く纏めて出しなよね」
「ああ…」
悩み事を1つ増やしてしまったか、と思いながらココアを喉に流し込む。慶もちびちびとココアを口に運んでは、廊下の物音へ耳を澄ましているようだ。
「いつまでも来ないと探しに来るんじゃないの?」
「100%来る」
「逃げ切るのは無理なんだから早く決心して行ってきなよ。追われたら手足斬り落とされるだけじゃ済まないよ」
「だろうなあ…まじ怖え…あー行きたくねえ…!」
そういった所で、ざざ、というノイズが小さく部屋に響いた。
びくりと身体を震わせた慶の耳元、その通信機が音源だった。
『…慶、』
「!」
私には聞こえないのでわからないが、がちんと固まって微動だにしない慶を見ると、通信機から聞こえてきたのはやはり忍田本部長の声らしい。
(怒ってる?)
口パクで慶に聞けば、冷や汗を垂らしながらぎこちなく頷いて、私を手招きした。
「…」
「…」
ここ!座れ!と慶が自分の隣を示すので、音を立てないように近づいて横に座り、通信機へ耳を寄せる。
『聞いているんだろう、慶。何処にいる?』
「…」
うわあ、これは随分お怒りの様です。
隣の慶を見れば、壁を見つめたまま動かない。
『喋らないつもりか?』
(謝って会いに行きなよ)
「!?…ッ!」
そう伝えれば、慶はぶんぶんと頭を横に振った。
逃げたいのはわかるが、このままだと忍田さんの怒りゲージはカンストしてしまう。
それに私もレポートを書き上げて眠りたい。と言う事で悪いけど横で小さなっていく慶の耳元から通信機をひょいと取り上げた。
「ッ、蒼!」
「…忍田さん、七草です。慶は私の部屋に居ますので、お手数ですが引き取りに来ていただけますか」
『…七草?ああ、すまない。すぐに行こう』
通信が切れ、慶の耳元へ通信機を戻しながらすぐ来ることを伝えると慶はこの世の終わりの様な顔をして口を開いた。
「忍田さんすぐ来るって」
「まじかよなんつーことを…!」
「ちゃんと謝れば許してくれるよ、さあほらココア飲んで心の準備して」
「そんな簡単に言うなよ…」
「私もこれ書き上げて寝たいんだ、悪いね」
酷いぞ蒼…なんて呟きつつ残っていたココアを一気にあおり、諦めたようにぐたりと慶が私に寄りかかる。重い。
「慶さん、重い」
「俺は死ぬかもしれない…ああ最後に餅が食いたかった」
「忍田さんもそこまでしないよ、大げさだな。じゃあ今日の晩御飯、コロッケ作ってやるしお餅も焼くから出水くん連れておいで。それなら頑張れるでしょ」
「まじで!」
「現金だよねほんとに」
暫く寄りかかられたままぐたぐた喋っていると、部屋のチャイムが鳴って忍田さんの来訪を告げる。
『七草、私だ』
「蒼、忍田さん来たって…」
通信機を返してしまったけれど、ぐったりした慶から忍田さんが来た事を教えてもらう。
「あ、はーい、今開けます」
忍田さんを部屋に入れるべく、依然寄りかかっている慶を押し戻して立ち上がる。抵抗も無く押された慶はそのまま反対側へ倒れこんだ。
「すみません、わざわざ来てもらって」
「いや、こんな深夜に面倒を掛けてすまなかったな」
扉を開けると思ったより早く見つかったからか、先程よりは怒りゲージの低くなった忍田さんが立っていた。
忍田さんを招き入れると、ようやく慶も腹を括ったのか、しっかりと忍田さんを見据えて待っていた。
「慶、全く面倒を掛けてくれたな」
「すみません、忍田さん」
「言いたい事が山ほどあるが、ここでは七草に迷惑がかかるだろう。移動するぞ」
「はい」
「七草、すまなかったな」
「いいえ」
「では、失礼しよう。慶、行くぞ」
「…蒼、邪魔した」
「ううん。晩御飯、ちゃんと作るから7時においで」
「ああ」
忍田さんがさくさくと話を進め、慶を引っ張って部屋から出ていく。私に軽く頭を下げた忍田さんに続き、慶が私をちらりと見て出ていく。
それに小さく手を振り、扉が閉まった瞬間から私の部屋は静寂を取り戻した。
深夜の訪問者
真夜中の一波乱
(さて続き続き)
(慶…女性の元へ逃げるとは情けないな)
(他に匿ってくれるとこないんすよ…)