荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
3馬鹿と噂の幽霊
A級の3馬鹿と称される出水くんと米屋くん、それから緑川くんと一緒に模擬戦をしていた。今回は市街地B、射手コンビ対攻撃手コンビで別れて戦闘中。
「蒼さん知ってます?」
「なにをー?」
米屋くん達は川向こうに転送されたようで、まだこちら側は静かなものだ。建物の陰に隠れつつ良いポイントまで走っている時に出水くんがそういや、と零した。
「警戒区域の端に出る幽霊の噂」
「知らないなー、というかそれ今じゃないとだめ?」
あんまり聞きたくないなーと苦い顔をした私に、出水くんが笑って続ける。その間もバッグワームをはためかせながら走り続けて、橋を狙える距離までもう少し。
「なんか肝試しとかで警戒区域に入ろうとしたやつらが、揃って幽霊に会ってるんですって」
「へえ」
「姿は見えないらしいんすけど、若い女の声がするらしくて」
「へえええ…」
夜勤行きたくなくなってきた…と零しながら指定ポイントの建物の陰へと身を潜める。反対側に、米粒くらいの人影が2つ現れた。時間ぴったりだ。
「蒼さん今日夜勤でしょう?行ってみたらどうです?」
「断固拒否する」
夜勤って言っても私は1人だし、というか1人じゃなくてもそんな所に行くのは死んでもごめんだ。出水くんの笑いを含んだ提案に至極真面目に返答して、怖いのを吹っ飛ばすように片手いっぱいにハウンドを生成した。
◆
「あー、それうちの学校で結構噂になってるやつだろ?」
「そういえば、オレも聞いた事あるなー」
米屋くんと緑川くんが頷いた。模擬戦は無事に勝利したので、負け組の人達が奢ってくれた飲み物を片手に先程の試合を手元のタブレット端末で見直しつつ喋っているところだ。
「女の声の警告を無視して入ろうとするとポルターガイスト現象が起きるってきいたけど、よねやん先輩とか知ってる?」
「あー、それうちのちょい悪なセンパイ方がやられたって」
「人魂みたいなのが飛んできたっつったか」
「オレは足元にひっかき傷みたいなのが出来たって聞いたけど」
「えー、オレは何かに服を引っ張られたって聞いたよ?」
きゃいきゃい話す3人に、もう無言で画面に集中する。カフェオレは疾うに飲み切ってしまって、逃げ道は試合の画面に集中するしかない。
「………」
「あれ、蒼さんやけに静かっすね?」
と、思ったのに米屋くんが私を見て首を傾げた。それにつられて、緑川くんと出水くんが私を見る。
「あれー、もしかして蒼さんこういう話苦手??」
「蒼さん、実体の無いモノには弱いんだよ」
「ナニモキキタクナイ」
出水くんの言葉に頷いて視線を媒体に落としたまま機械的に答えれば、にやあっと米屋くんと緑川くんの口が弧を描くのが視界の端に見えた。嫌な予感がする。
「お前ら、あんま蒼さんからかうなよ」
痛い目見るぞ、と出水くんが溜め息を吐きながら言った言葉に、米屋くんと緑川くんがにやにやしながらぞんざいに頷く。
「じゃあ蒼さん、旧三門市立大学に幽霊が出る話は知ってます?」
「知らないし聞きたくなーい」
ばしっと自分の耳を塞いで拒否アピールをするも、彼らは顔を見合わせて笑った。なんか嫌な感じ、と思えば塞いだ耳から通信に乗った声が飛んできた。
『夜に行くと、屋上からこっちを見つめる人影があるんですって』
「ちょっ」
『警戒区域だから、誰も居ないはずなんですけどねー』
「や、やだ聞きたくない…!」
通信に乗せるのは酷いとテーブルに伏せて耳を塞ぐも意味はないし、にやにやしっぱなしの米屋くん達は続けてくる。
『目が合うとふっと消えて、』
『とん、って肩を叩かれて振り向くと、』
「っっ!!」
その時点で恐怖が勝った。正面でにやにや笑う2人の話を聞きたくない一心で、瞬時に伸ばしたスコーピオンで2人の喉を突き刺した。
「げ」
「う」
それぞれ短く呟いて、自分の喉に深く刺さっているスコーピオンに目を落とす。しゅう、と細くトリオンが漏れているけれど、急所から外しているし、私が変に動かさなければ緊急脱出することもない。
ちら、とこちらを見た2人を半分涙目になったまま全力で睨みつける。
「それ以上続けたら、厳罰を受けてでもその首まとめて跳ね飛ばす」
「「っ!?」」
「だーから、痛い目見るっつったろ…」
じっと見ていた出水くんが固まっている2人に対して深く溜め息を吐くと、2人は弾かれたように喋り出した。
『すんませんっした!』
『からかってごめんなさい!』
「……次は容赦しないからな…」
『『ハイ!』』
首を動かせないながらも全力の謝罪を受けて、溜め息を吐いてずるりとスコーピオンを引き抜く。異物感に顔を顰める2人が傷口を押さえてトリオン漏れを防いでる間にテーブルに突っ伏した。
◆
「ん」
その数時間後、恐る恐るやってきた夜勤タイム。本日の担当地区、東の警戒区域の端っこをパトロール中に異変に気付いた。
『――で、こっから入ってみようぜ』
『ああ』
近くで聞こえた声に、一般人が侵入しようとしていると断定してカメレオンを発動して静かに近づいていく。
家の合間を縫って行けば、立ち入り禁止の柵の近くに若い男が2人居るのが目に入って来た。
(あ、ペンチもってる)
入る気満々だな、と思いながらすぐ近くまで行って透明なまま口を開いた。
「お兄さん達、立ち入り禁止ですよ」
『『ッ!!』』
びくうっ!と身体を跳ねさせた2人が慌てて周囲を見回す。目の前にいるけれど、カメレオンを使っているからいくら見ようとしても普通の人には視認されない。
「っちょ、コレやばいやつじゃ」
「か、風の音かもしれねえだろ」
警告したけど、それでも柵に手を掛けたので目の前にある柵を軽く蹴り上げる。ガシャンッ!と派手に音を立てて揺れた柵を見て、2人が慌てて離れた。
「ッ!?」
「ちょ、もう帰ろうぜ、ヤバいって!」
「あ、ああ」
ばたばたと逃げ出した2人を見ていれば、走り去っていく2人が叫ぶのが聞こえた。
『マジで幽霊出たじゃねえか!』
『ポルターガイストも!』
「…ん?……んん!?」
そこで、巷で噂されている幽霊の正体に気がついた。なんてことだ、それ多分私だ。ちょいちょい一般人を追い返してたけどそれか。それなのか。というか待て待て、良く考えたら三門市立大学のも、そういえばあそこまで侵入していた一般人を屋上から飛び降りて捕まえた事があった。うわあ、うわあ。
「さんっざん怖がっといて…わたしだったのか…」
なんということだ…と幽霊の正体がわかった脱力感にその場にしゃがみ込んだ。だめだこれ、あとで米屋くん達に謝ろう。
巷で噂の幽霊さん
その正体は、
(おれはそうじゃないかと思ってましたよ)
(なんだと)
気付かぬうちに幽霊扱いされる蒼さん
A級の3馬鹿と称される出水くんと米屋くん、それから緑川くんと一緒に模擬戦をしていた。今回は市街地B、射手コンビ対攻撃手コンビで別れて戦闘中。
「蒼さん知ってます?」
「なにをー?」
米屋くん達は川向こうに転送されたようで、まだこちら側は静かなものだ。建物の陰に隠れつつ良いポイントまで走っている時に出水くんがそういや、と零した。
「警戒区域の端に出る幽霊の噂」
「知らないなー、というかそれ今じゃないとだめ?」
あんまり聞きたくないなーと苦い顔をした私に、出水くんが笑って続ける。その間もバッグワームをはためかせながら走り続けて、橋を狙える距離までもう少し。
「なんか肝試しとかで警戒区域に入ろうとしたやつらが、揃って幽霊に会ってるんですって」
「へえ」
「姿は見えないらしいんすけど、若い女の声がするらしくて」
「へえええ…」
夜勤行きたくなくなってきた…と零しながら指定ポイントの建物の陰へと身を潜める。反対側に、米粒くらいの人影が2つ現れた。時間ぴったりだ。
「蒼さん今日夜勤でしょう?行ってみたらどうです?」
「断固拒否する」
夜勤って言っても私は1人だし、というか1人じゃなくてもそんな所に行くのは死んでもごめんだ。出水くんの笑いを含んだ提案に至極真面目に返答して、怖いのを吹っ飛ばすように片手いっぱいにハウンドを生成した。
◆
「あー、それうちの学校で結構噂になってるやつだろ?」
「そういえば、オレも聞いた事あるなー」
米屋くんと緑川くんが頷いた。模擬戦は無事に勝利したので、負け組の人達が奢ってくれた飲み物を片手に先程の試合を手元のタブレット端末で見直しつつ喋っているところだ。
「女の声の警告を無視して入ろうとするとポルターガイスト現象が起きるってきいたけど、よねやん先輩とか知ってる?」
「あー、それうちのちょい悪なセンパイ方がやられたって」
「人魂みたいなのが飛んできたっつったか」
「オレは足元にひっかき傷みたいなのが出来たって聞いたけど」
「えー、オレは何かに服を引っ張られたって聞いたよ?」
きゃいきゃい話す3人に、もう無言で画面に集中する。カフェオレは疾うに飲み切ってしまって、逃げ道は試合の画面に集中するしかない。
「………」
「あれ、蒼さんやけに静かっすね?」
と、思ったのに米屋くんが私を見て首を傾げた。それにつられて、緑川くんと出水くんが私を見る。
「あれー、もしかして蒼さんこういう話苦手??」
「蒼さん、実体の無いモノには弱いんだよ」
「ナニモキキタクナイ」
出水くんの言葉に頷いて視線を媒体に落としたまま機械的に答えれば、にやあっと米屋くんと緑川くんの口が弧を描くのが視界の端に見えた。嫌な予感がする。
「お前ら、あんま蒼さんからかうなよ」
痛い目見るぞ、と出水くんが溜め息を吐きながら言った言葉に、米屋くんと緑川くんがにやにやしながらぞんざいに頷く。
「じゃあ蒼さん、旧三門市立大学に幽霊が出る話は知ってます?」
「知らないし聞きたくなーい」
ばしっと自分の耳を塞いで拒否アピールをするも、彼らは顔を見合わせて笑った。なんか嫌な感じ、と思えば塞いだ耳から通信に乗った声が飛んできた。
『夜に行くと、屋上からこっちを見つめる人影があるんですって』
「ちょっ」
『警戒区域だから、誰も居ないはずなんですけどねー』
「や、やだ聞きたくない…!」
通信に乗せるのは酷いとテーブルに伏せて耳を塞ぐも意味はないし、にやにやしっぱなしの米屋くん達は続けてくる。
『目が合うとふっと消えて、』
『とん、って肩を叩かれて振り向くと、』
「っっ!!」
その時点で恐怖が勝った。正面でにやにや笑う2人の話を聞きたくない一心で、瞬時に伸ばしたスコーピオンで2人の喉を突き刺した。
「げ」
「う」
それぞれ短く呟いて、自分の喉に深く刺さっているスコーピオンに目を落とす。しゅう、と細くトリオンが漏れているけれど、急所から外しているし、私が変に動かさなければ緊急脱出することもない。
ちら、とこちらを見た2人を半分涙目になったまま全力で睨みつける。
「それ以上続けたら、厳罰を受けてでもその首まとめて跳ね飛ばす」
「「っ!?」」
「だーから、痛い目見るっつったろ…」
じっと見ていた出水くんが固まっている2人に対して深く溜め息を吐くと、2人は弾かれたように喋り出した。
『すんませんっした!』
『からかってごめんなさい!』
「……次は容赦しないからな…」
『『ハイ!』』
首を動かせないながらも全力の謝罪を受けて、溜め息を吐いてずるりとスコーピオンを引き抜く。異物感に顔を顰める2人が傷口を押さえてトリオン漏れを防いでる間にテーブルに突っ伏した。
◆
「ん」
その数時間後、恐る恐るやってきた夜勤タイム。本日の担当地区、東の警戒区域の端っこをパトロール中に異変に気付いた。
『――で、こっから入ってみようぜ』
『ああ』
近くで聞こえた声に、一般人が侵入しようとしていると断定してカメレオンを発動して静かに近づいていく。
家の合間を縫って行けば、立ち入り禁止の柵の近くに若い男が2人居るのが目に入って来た。
(あ、ペンチもってる)
入る気満々だな、と思いながらすぐ近くまで行って透明なまま口を開いた。
「お兄さん達、立ち入り禁止ですよ」
『『ッ!!』』
びくうっ!と身体を跳ねさせた2人が慌てて周囲を見回す。目の前にいるけれど、カメレオンを使っているからいくら見ようとしても普通の人には視認されない。
「っちょ、コレやばいやつじゃ」
「か、風の音かもしれねえだろ」
警告したけど、それでも柵に手を掛けたので目の前にある柵を軽く蹴り上げる。ガシャンッ!と派手に音を立てて揺れた柵を見て、2人が慌てて離れた。
「ッ!?」
「ちょ、もう帰ろうぜ、ヤバいって!」
「あ、ああ」
ばたばたと逃げ出した2人を見ていれば、走り去っていく2人が叫ぶのが聞こえた。
『マジで幽霊出たじゃねえか!』
『ポルターガイストも!』
「…ん?……んん!?」
そこで、巷で噂されている幽霊の正体に気がついた。なんてことだ、それ多分私だ。ちょいちょい一般人を追い返してたけどそれか。それなのか。というか待て待て、良く考えたら三門市立大学のも、そういえばあそこまで侵入していた一般人を屋上から飛び降りて捕まえた事があった。うわあ、うわあ。
「さんっざん怖がっといて…わたしだったのか…」
なんということだ…と幽霊の正体がわかった脱力感にその場にしゃがみ込んだ。だめだこれ、あとで米屋くん達に謝ろう。
巷で噂の幽霊さん
その正体は、
(おれはそうじゃないかと思ってましたよ)
(なんだと)
気付かぬうちに幽霊扱いされる蒼さん