荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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蒼さんのお仕事!
『では、なぜボーダーに入ろうと思ったのか…志望動機を教えてくれるかな』
『はい。私は――…』
壁を挟んだ先の部屋では、ボーダー入隊志願者が1人ずつ面接を行っている。
こちらの部屋の壁に取り付けられたモニターには、入隊希望者の詳細なプロフィールから、測定されているトリオン量などが表示されていた。
「蒼」
「あ、はい」
私を呼ぶ声に振り返れば、部屋の入り口の扉のところに鬼怒田さんが立っていた。呼ばれたということは私の出番なのだろうと、座っていた椅子から降りて鬼怒田さんの方へ向かう。
「待たせたな、準備はいいか」
「ばっちりです」
私を呼んだ鬼怒田さんの後に続いて、モニターのある部屋から出て歩き出す。私の仕事は、面接の後。面接が終わってボーダー専用通路から出て行く際に、サイドエフェクトを使って入隊希望者の記憶を探ったり消したりすることだ。
「悪かったな、遠征帰りで忙しかったじゃろうに」
「大丈夫ですよ、私の仕事ですし」
面接を受けた全員が受かる訳ではない。面接が終わったら私に会った事も含め、1度ボーダー内部に関する記憶を封印するのだ。合格した人は私の合図で元通りになるから、1から教え直す手間も無い。
「リストには目を通せたか?」
「ばっちりです」
記憶を封印するだけでなく、その時にざっと流し見た記憶の中で怪しげなモノ(なにかしらの犯罪に手を染めた事があるとか、ボーダーの技術を狙う警察や政府関係者だとか)が有れば、その後の会議で城戸さん達に進言して不合格にしたりするのだ。メインはこっち。
「では、負担を掛けて悪いが頼んだぞ」
「了解」
ボーダー通路の先に一足先に辿り着き、帰ってくる入隊希望者の姿を待つ。毎回、この大仕事を終えれば城戸さんに美味しいご飯に連れて行ってもらえるから、それを励みに頑張るのだ。
◆
「…ん」
遅れてきた1人を見送って、周囲を見回した。通路にはもう私の姿しかないが、手元のバインダーに挟んだ資料とチェックした人数と合わない。
「鬼怒田さーん」
『ん、終わったか?』
通信で鬼怒田さんに話しかけると、すぐに返事が返ってくる。通路の先に人影が見えないことを確認しながら、来ていない人数を伝える。
「いえ。大方帰したんですけど、2人来てないです。29番と30番」
『わかった、すぐに探そう。悪いが戻ってきてくれるか。こちらで処理して送り返そう』
「了解」
多分どこかに潜伏しているのだろうと伝えれば、鬼怒田さんはすぐに周辺の捜索を始めてくれることになった。たまにいるのだ、大多数の人間にまぎれて情報を持ち出そうとする輩が。
『全く、いつもいつも手間を掛けさせられる輩がいるもんじゃな』
「本当ですよ」
溜め息を吐く鬼怒田さんに同意しながら、開発室へと踵を返した。
◆
「27番は警察関係者に雇われています。44番は公にはなっていませんが、軽犯罪歴ありで犯罪を楽しんでいる風です。ボーダーの規律も守れないでしょう」
面接が全て終了し、入隊希望者を帰した後に上層部の会議室で広げた入隊希望者リストを見ながら静かに話していた。先程の29番と30番は早々に捕まえて記憶処理し、外へ送り返してきた。もちろん不合格のリストに名を連ねている。
「――…で、私からの報告は以上です」
「全部で12名か」
「はい」
城戸さんの問いに頷く。今回の入隊希望者は100人程度で、私の方からは約10分の1が落ちる事になる。他にもトリオン不足で落ちたりするので、もう少し減ってしまうのだろう。城戸さんはリストを一瞥し、私を見て口を開いた。
「ありがとう。すまなかったな、下がって休んでいい」
「はい」
城戸さんの言葉に頷いて、部屋の出口へと向かう途中で鬼怒田さんから1枚のカードキーを差し出される。
「いつもの仮眠室を空けてある、これを持って行きなさい」
「ありがとうございます」
いつもの仮眠室とは、数ある仮眠室の中でも上等の部類に入る仮眠室だ。隊長格とか、上層部の人達じゃないと使えない特別な部屋。毎回この仕事が終わったら、城戸さんとのご飯まで仮眠するので使わせてもらっている。正直サイドエフェクトの使い過ぎで部屋まで戻る気力がないからありがたい。
「会議が終わったら迎えに行こう」
「わかりました」
退室する間際に掛けられた城戸さんの声に頷いて、静かに会議室を後にした。
◆
仮眠室の質の良いベッドでぐっすり眠って、夕方を少し過ぎてやってきた城戸さんと一緒に本部からは少し離れた場所にあるお店の暖簾をくぐった。
「うー、おいしい…!」
「そうだな」
静かな個室の部屋に通されて、テーブルに広がるご馳走を堪能していた。やわらかい筍の筑前煮を齧って、溢れ出る出汁の味を堪能する。前に座る城戸さんも、ヤマメの塩焼きを丁寧にほぐして口に運んでいる。
「…蒼、今回はどうだった」
ぽつりと城戸さんが零した言葉の意味は、城戸さんから任されている秘匿任務の事だ。ボーダーに属する人達全員の中で、反乱を起こそうとしていたり、情報やトリガーを流そうと目論む人などを定期的にサイドエフェクトを使って探すのを任されている。流石に1日じゃ回れないから、1週間くらいかけるけど1人ずつちゃんと調べるのだ。勿論その間の隊員達の記憶は消すので、私と会った記憶も残らない。
「あ、ちょっと待ってください」
鞄の中から白いメモ帳を取り出して、そこにペンを走らせる。
『スカウトに出ている草壁隊以外は異常なしです』
話題が話題なので、上層部御用達のこのお店でも一応盗撮や盗聴を警戒して、その場で城戸さんと決めた暗号を使った筆談する事にしている。使った紙は目の前にある囲炉裏の中へ放ってしまえばいいから、証拠は残らない。
『誰も怪しい動きなどはしていないか』
『はい、問題ありません。次のチェックは遠征後になってしまうのですが、大丈夫でしょうか』
『ああ。いつもすまないな』
『いえ』
短くそう筆談して、異常なしと判断した城戸さんがくしゃりと丸めたメモを囲炉裏の中に放り込む。じりじりと焼けていく紙を一瞥して、食事を再開する。
「それにしても、ここのご飯美味しいですねえ」
「そうだな」
それからしばらく美味しい食事を楽しんで、2人でそっと本部へ帰路についた。
蒼のお仕事
入隊試験から極秘任務まで
(次はうなぎが食べたいです)
(ああ、良い店を調べておこう)
蒼さんは多忙
『では、なぜボーダーに入ろうと思ったのか…志望動機を教えてくれるかな』
『はい。私は――…』
壁を挟んだ先の部屋では、ボーダー入隊志願者が1人ずつ面接を行っている。
こちらの部屋の壁に取り付けられたモニターには、入隊希望者の詳細なプロフィールから、測定されているトリオン量などが表示されていた。
「蒼」
「あ、はい」
私を呼ぶ声に振り返れば、部屋の入り口の扉のところに鬼怒田さんが立っていた。呼ばれたということは私の出番なのだろうと、座っていた椅子から降りて鬼怒田さんの方へ向かう。
「待たせたな、準備はいいか」
「ばっちりです」
私を呼んだ鬼怒田さんの後に続いて、モニターのある部屋から出て歩き出す。私の仕事は、面接の後。面接が終わってボーダー専用通路から出て行く際に、サイドエフェクトを使って入隊希望者の記憶を探ったり消したりすることだ。
「悪かったな、遠征帰りで忙しかったじゃろうに」
「大丈夫ですよ、私の仕事ですし」
面接を受けた全員が受かる訳ではない。面接が終わったら私に会った事も含め、1度ボーダー内部に関する記憶を封印するのだ。合格した人は私の合図で元通りになるから、1から教え直す手間も無い。
「リストには目を通せたか?」
「ばっちりです」
記憶を封印するだけでなく、その時にざっと流し見た記憶の中で怪しげなモノ(なにかしらの犯罪に手を染めた事があるとか、ボーダーの技術を狙う警察や政府関係者だとか)が有れば、その後の会議で城戸さん達に進言して不合格にしたりするのだ。メインはこっち。
「では、負担を掛けて悪いが頼んだぞ」
「了解」
ボーダー通路の先に一足先に辿り着き、帰ってくる入隊希望者の姿を待つ。毎回、この大仕事を終えれば城戸さんに美味しいご飯に連れて行ってもらえるから、それを励みに頑張るのだ。
◆
「…ん」
遅れてきた1人を見送って、周囲を見回した。通路にはもう私の姿しかないが、手元のバインダーに挟んだ資料とチェックした人数と合わない。
「鬼怒田さーん」
『ん、終わったか?』
通信で鬼怒田さんに話しかけると、すぐに返事が返ってくる。通路の先に人影が見えないことを確認しながら、来ていない人数を伝える。
「いえ。大方帰したんですけど、2人来てないです。29番と30番」
『わかった、すぐに探そう。悪いが戻ってきてくれるか。こちらで処理して送り返そう』
「了解」
多分どこかに潜伏しているのだろうと伝えれば、鬼怒田さんはすぐに周辺の捜索を始めてくれることになった。たまにいるのだ、大多数の人間にまぎれて情報を持ち出そうとする輩が。
『全く、いつもいつも手間を掛けさせられる輩がいるもんじゃな』
「本当ですよ」
溜め息を吐く鬼怒田さんに同意しながら、開発室へと踵を返した。
◆
「27番は警察関係者に雇われています。44番は公にはなっていませんが、軽犯罪歴ありで犯罪を楽しんでいる風です。ボーダーの規律も守れないでしょう」
面接が全て終了し、入隊希望者を帰した後に上層部の会議室で広げた入隊希望者リストを見ながら静かに話していた。先程の29番と30番は早々に捕まえて記憶処理し、外へ送り返してきた。もちろん不合格のリストに名を連ねている。
「――…で、私からの報告は以上です」
「全部で12名か」
「はい」
城戸さんの問いに頷く。今回の入隊希望者は100人程度で、私の方からは約10分の1が落ちる事になる。他にもトリオン不足で落ちたりするので、もう少し減ってしまうのだろう。城戸さんはリストを一瞥し、私を見て口を開いた。
「ありがとう。すまなかったな、下がって休んでいい」
「はい」
城戸さんの言葉に頷いて、部屋の出口へと向かう途中で鬼怒田さんから1枚のカードキーを差し出される。
「いつもの仮眠室を空けてある、これを持って行きなさい」
「ありがとうございます」
いつもの仮眠室とは、数ある仮眠室の中でも上等の部類に入る仮眠室だ。隊長格とか、上層部の人達じゃないと使えない特別な部屋。毎回この仕事が終わったら、城戸さんとのご飯まで仮眠するので使わせてもらっている。正直サイドエフェクトの使い過ぎで部屋まで戻る気力がないからありがたい。
「会議が終わったら迎えに行こう」
「わかりました」
退室する間際に掛けられた城戸さんの声に頷いて、静かに会議室を後にした。
◆
仮眠室の質の良いベッドでぐっすり眠って、夕方を少し過ぎてやってきた城戸さんと一緒に本部からは少し離れた場所にあるお店の暖簾をくぐった。
「うー、おいしい…!」
「そうだな」
静かな個室の部屋に通されて、テーブルに広がるご馳走を堪能していた。やわらかい筍の筑前煮を齧って、溢れ出る出汁の味を堪能する。前に座る城戸さんも、ヤマメの塩焼きを丁寧にほぐして口に運んでいる。
「…蒼、今回はどうだった」
ぽつりと城戸さんが零した言葉の意味は、城戸さんから任されている秘匿任務の事だ。ボーダーに属する人達全員の中で、反乱を起こそうとしていたり、情報やトリガーを流そうと目論む人などを定期的にサイドエフェクトを使って探すのを任されている。流石に1日じゃ回れないから、1週間くらいかけるけど1人ずつちゃんと調べるのだ。勿論その間の隊員達の記憶は消すので、私と会った記憶も残らない。
「あ、ちょっと待ってください」
鞄の中から白いメモ帳を取り出して、そこにペンを走らせる。
『スカウトに出ている草壁隊以外は異常なしです』
話題が話題なので、上層部御用達のこのお店でも一応盗撮や盗聴を警戒して、その場で城戸さんと決めた暗号を使った筆談する事にしている。使った紙は目の前にある囲炉裏の中へ放ってしまえばいいから、証拠は残らない。
『誰も怪しい動きなどはしていないか』
『はい、問題ありません。次のチェックは遠征後になってしまうのですが、大丈夫でしょうか』
『ああ。いつもすまないな』
『いえ』
短くそう筆談して、異常なしと判断した城戸さんがくしゃりと丸めたメモを囲炉裏の中に放り込む。じりじりと焼けていく紙を一瞥して、食事を再開する。
「それにしても、ここのご飯美味しいですねえ」
「そうだな」
それからしばらく美味しい食事を楽しんで、2人でそっと本部へ帰路についた。
蒼のお仕事
入隊試験から極秘任務まで
(次はうなぎが食べたいです)
(ああ、良い店を調べておこう)
蒼さんは多忙