荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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犬飼くんと隊長のお話
(うー、終わらない…)
ラウンジの定位置、奥まった場所にある観葉植物に囲まれたソファ席でテーブルに突っ伏していた。原因は最近忙しすぎて溜まっていた大学関係のレポートたち。
(今やらないと夜は任務だし…)
トリオン体に換装してしまえば問題ないけど、必然的に換装を解いた時点で皺寄せをくう事はわかりきっている。1回それで1日寝てた事があったが、それは避けたい。
(ちょっとだけ休憩しよう…)
誘われる以外は動かないぞ…と机に突っ伏したまま深く息を吐いた時、上の方から声が降って来た。
「あれ、蒼さん寝てます?」
「起きてます…」
呼びかけに応えるように顔を上げれば、テーブルの近くに犬飼くんがいた。今日も笑顔だなあと思ったのも束の間、その笑顔を引っ込めて寄って来た犬飼くんが私の顔を覗き込んでくる。怖い顔だ。
「蒼さん、血の気が無い顔してますよ。体調悪いんじゃないですか」
「あー、へいきー」
「どう見ても平気じゃないですけど」
ちょっと失礼しますよー、と手を伸ばしてきた犬飼くんが私の額に手を当てる。熱を測っているっぽいけど、疲れてるだけで熱はないはずだ。18歳の子たちはなにかと私を気遣ってくれるよなあ、と笑いながら告げる。
「レポート溜まって死にそうなだけだよ」
「あ、そうなんですか」
了解、と額から手を離した犬飼くんが言う。それでもじいっと私の顔を見て、それからこてんと首を傾げた。
「なにかお手伝いしましょうか?」
時間ありますし、軽い手伝いならしますよと言う彼にしばらく考えて、じゃあとお願いをすることにした。
「飲み物奢るから、ちょっとだけ話し相手になってほしいな。ちょっと休憩しようと思ってたんだ」
「お、それ位でしたら余裕ですよ。蒼さんは何飲みたいです?」
「カフェオレがいい。あったかいやつ」
「了解。ちょっと待っててください」
軽く頷いた犬飼くんが、私の差し出した硬貨を受け取って自販機の方へ歩いていった。その姿を見送って、テーブルの上に広げたレポート用紙なんかを端のほうに寄せていく。それからもう1回テーブルに突っ伏して目を閉じた。
「はい、蒼さんお待たせしましたー」
「ん、ありがと…」
少しして戻ってきた犬飼くんに声を掛けられて、身体を起こしてぐうっと腕を伸ばす。ふいーと溜め息を吐けば、前に座った犬飼くんが頬杖をついて言った。
「随分お疲れですね」
「仕事が忙しいものでして」
差し出されたカフェオレをお礼を言って受け取り、ひとくち飲み込む。疲れた身体にしみるなあ、と思いながら最近は夜勤任務が多いからと零せば、それの原因に心当たりがある犬飼くんはへらりと笑った。
「学生はテスト時期ですからねー、ご迷惑おかけします」
「いーえ」
勉強も疎かには出来ないし、中高生のテスト時期はこぞって年長組が夜勤に駆り出されるのだ。年長者だけの混成部隊が出来るし、楽しいからそれは別に構わないけれど、やっぱり何日も続くと昼間も呼び出されたりするから疲れがたまるのだ。
「犬飼くん、眠気が覚めるお話ない?」
「眠気が覚める話ですか?なんかあったかな…」
同じカフェオレをごくりと飲み込んだ犬飼くんが、視線を宙に彷徨わせる。その間に持ってきていたお菓子を引っ張り出して、テーブルの上に置いた。今日のおやつは大袋のパイの実だ。
「うーん…」
思いつかないらしい犬飼くんが唸る声が聞こえる。熱いカフェオレを飲み込みながらじいっと犬飼くんを見て、そう言えばと思い出す。
「昨日の夜勤中、匡貴さんが格好良く屋根から落ちた話でもしようか」
「聞きます!」
ぱっとこちらを見て即答した犬飼くんに笑って、パイの実をがさがさ取り出す。それを適当に山にして、テーブルの真ん中に置いた。犬飼くんに勧めてから2個入りのそれを私もひとつ手に取って、ぴりっと包装を切る。
「昨日は私と匡貴さんが組んで見回りだったんだけど」
「はい」
わくわく顔でパイの実を頬張る犬飼くんを見つつ、同じようにパイの実をひとつ頬張る。さくさくしたそれを堪能して、カフェオレをひとくち飲んでから続ける。
「西区の辺りで門が開いて、2人で急行したの」
「ええ」
「で、近くに来ていざ戦闘開始、ってとこで匡貴さんが屋根の上に乗っていつも通りトリオンキューブを出したのね」
「はい」
「そこまでは良かったんだけど、昨日雨だったでしょ」
「ああ、結構強い雨でしたよね」
そこまでくると解ると思うけど、と前置きしてから続きを話す。
「匡貴さんの乗った屋根が結構な傾斜で、アステロイドを撃つと同時にそのままズザーッと滑り落ちて視界から消えていきました」
「…もしかして、手は」
恐る恐ると言った風に聞いてくる犬飼くんに、こくりと頷いて答える。
「ポケットに入れたまま格好良く落ちていきました」
「マジっすか!」
その場面を思い浮かべたんだろう、犬飼くんが身体を折って震えている。くく、と噛み殺せていない笑い声が聞こえているところを見るに、爆笑するのをこらえているんだろう。
「すごいびっくりしたんだよ、表情も崩さず一瞬で消えたから」
「無事だったんですかそれ…!」
「慌てて見に行ったら下にあった池に落ちて放心してて」
「ちょ、二宮さんには悪いけどすげえ見たかった…!」
うくく、と変な笑い声を上げて堪える犬飼くんを見ていたら、観葉植物の上にひょいと人影が現れた。噂をすれば、だ。
「匡貴さん、今度は気を付けて下さいね」
「ああ」
「え」
ふっと落ちてきた静かな声に、テーブルに額を付けたまま犬飼くんがぴしりと固まった。じとりと犬飼くんの後ろから冷たい視線を彼に送っているのは、まぎれもない二宮匡貴本人だった。
「犬飼、何が見たかったと言ったか」
「え、いやあのー…」
冷ややかな声に、犬飼くんが後ろの匡貴さんを振り返らずに私に助けてくれと視線をびしびし送ってくる。冷や汗を流す犬飼くんというレアなのも見れたし、苦笑して匡貴さんに声を掛ける。
「匡貴さん、なんのご用事で?」
「…ああ、蒼を連れて来るよう城戸指令に頼まれた」
「了解、すぐ用意します」
犬飼くんを見下ろしたまま紡がれる言葉に頷いて、飲みかけのカフェオレをぐうっと呷って飲み干した。恐る恐る私を見る犬飼くんに笑いながらパイの実をいくつか押し付けて、席から立ち上がる。
「匡貴さん行きましょうか、犬飼くんまたね」
「ああ」
「お気をつけて…」
ふいっと踵を返した匡貴さんに、犬飼くんがほっとした顔をしたのも束の間。去り際に冷え切った声で匡貴さんが呟いた。
「犬飼、後で話がある」
「……犬飼了解…」
がっくりと項垂れた犬飼くんの頭を笑いながらぽんぽんと叩いて、匡貴さんと一緒にラウンジを後にした。
犬飼くんとひといき
二宮隊長のお話
(しかし眠気は飛んだなー)
(うー、終わらない…)
ラウンジの定位置、奥まった場所にある観葉植物に囲まれたソファ席でテーブルに突っ伏していた。原因は最近忙しすぎて溜まっていた大学関係のレポートたち。
(今やらないと夜は任務だし…)
トリオン体に換装してしまえば問題ないけど、必然的に換装を解いた時点で皺寄せをくう事はわかりきっている。1回それで1日寝てた事があったが、それは避けたい。
(ちょっとだけ休憩しよう…)
誘われる以外は動かないぞ…と机に突っ伏したまま深く息を吐いた時、上の方から声が降って来た。
「あれ、蒼さん寝てます?」
「起きてます…」
呼びかけに応えるように顔を上げれば、テーブルの近くに犬飼くんがいた。今日も笑顔だなあと思ったのも束の間、その笑顔を引っ込めて寄って来た犬飼くんが私の顔を覗き込んでくる。怖い顔だ。
「蒼さん、血の気が無い顔してますよ。体調悪いんじゃないですか」
「あー、へいきー」
「どう見ても平気じゃないですけど」
ちょっと失礼しますよー、と手を伸ばしてきた犬飼くんが私の額に手を当てる。熱を測っているっぽいけど、疲れてるだけで熱はないはずだ。18歳の子たちはなにかと私を気遣ってくれるよなあ、と笑いながら告げる。
「レポート溜まって死にそうなだけだよ」
「あ、そうなんですか」
了解、と額から手を離した犬飼くんが言う。それでもじいっと私の顔を見て、それからこてんと首を傾げた。
「なにかお手伝いしましょうか?」
時間ありますし、軽い手伝いならしますよと言う彼にしばらく考えて、じゃあとお願いをすることにした。
「飲み物奢るから、ちょっとだけ話し相手になってほしいな。ちょっと休憩しようと思ってたんだ」
「お、それ位でしたら余裕ですよ。蒼さんは何飲みたいです?」
「カフェオレがいい。あったかいやつ」
「了解。ちょっと待っててください」
軽く頷いた犬飼くんが、私の差し出した硬貨を受け取って自販機の方へ歩いていった。その姿を見送って、テーブルの上に広げたレポート用紙なんかを端のほうに寄せていく。それからもう1回テーブルに突っ伏して目を閉じた。
「はい、蒼さんお待たせしましたー」
「ん、ありがと…」
少しして戻ってきた犬飼くんに声を掛けられて、身体を起こしてぐうっと腕を伸ばす。ふいーと溜め息を吐けば、前に座った犬飼くんが頬杖をついて言った。
「随分お疲れですね」
「仕事が忙しいものでして」
差し出されたカフェオレをお礼を言って受け取り、ひとくち飲み込む。疲れた身体にしみるなあ、と思いながら最近は夜勤任務が多いからと零せば、それの原因に心当たりがある犬飼くんはへらりと笑った。
「学生はテスト時期ですからねー、ご迷惑おかけします」
「いーえ」
勉強も疎かには出来ないし、中高生のテスト時期はこぞって年長組が夜勤に駆り出されるのだ。年長者だけの混成部隊が出来るし、楽しいからそれは別に構わないけれど、やっぱり何日も続くと昼間も呼び出されたりするから疲れがたまるのだ。
「犬飼くん、眠気が覚めるお話ない?」
「眠気が覚める話ですか?なんかあったかな…」
同じカフェオレをごくりと飲み込んだ犬飼くんが、視線を宙に彷徨わせる。その間に持ってきていたお菓子を引っ張り出して、テーブルの上に置いた。今日のおやつは大袋のパイの実だ。
「うーん…」
思いつかないらしい犬飼くんが唸る声が聞こえる。熱いカフェオレを飲み込みながらじいっと犬飼くんを見て、そう言えばと思い出す。
「昨日の夜勤中、匡貴さんが格好良く屋根から落ちた話でもしようか」
「聞きます!」
ぱっとこちらを見て即答した犬飼くんに笑って、パイの実をがさがさ取り出す。それを適当に山にして、テーブルの真ん中に置いた。犬飼くんに勧めてから2個入りのそれを私もひとつ手に取って、ぴりっと包装を切る。
「昨日は私と匡貴さんが組んで見回りだったんだけど」
「はい」
わくわく顔でパイの実を頬張る犬飼くんを見つつ、同じようにパイの実をひとつ頬張る。さくさくしたそれを堪能して、カフェオレをひとくち飲んでから続ける。
「西区の辺りで門が開いて、2人で急行したの」
「ええ」
「で、近くに来ていざ戦闘開始、ってとこで匡貴さんが屋根の上に乗っていつも通りトリオンキューブを出したのね」
「はい」
「そこまでは良かったんだけど、昨日雨だったでしょ」
「ああ、結構強い雨でしたよね」
そこまでくると解ると思うけど、と前置きしてから続きを話す。
「匡貴さんの乗った屋根が結構な傾斜で、アステロイドを撃つと同時にそのままズザーッと滑り落ちて視界から消えていきました」
「…もしかして、手は」
恐る恐ると言った風に聞いてくる犬飼くんに、こくりと頷いて答える。
「ポケットに入れたまま格好良く落ちていきました」
「マジっすか!」
その場面を思い浮かべたんだろう、犬飼くんが身体を折って震えている。くく、と噛み殺せていない笑い声が聞こえているところを見るに、爆笑するのをこらえているんだろう。
「すごいびっくりしたんだよ、表情も崩さず一瞬で消えたから」
「無事だったんですかそれ…!」
「慌てて見に行ったら下にあった池に落ちて放心してて」
「ちょ、二宮さんには悪いけどすげえ見たかった…!」
うくく、と変な笑い声を上げて堪える犬飼くんを見ていたら、観葉植物の上にひょいと人影が現れた。噂をすれば、だ。
「匡貴さん、今度は気を付けて下さいね」
「ああ」
「え」
ふっと落ちてきた静かな声に、テーブルに額を付けたまま犬飼くんがぴしりと固まった。じとりと犬飼くんの後ろから冷たい視線を彼に送っているのは、まぎれもない二宮匡貴本人だった。
「犬飼、何が見たかったと言ったか」
「え、いやあのー…」
冷ややかな声に、犬飼くんが後ろの匡貴さんを振り返らずに私に助けてくれと視線をびしびし送ってくる。冷や汗を流す犬飼くんというレアなのも見れたし、苦笑して匡貴さんに声を掛ける。
「匡貴さん、なんのご用事で?」
「…ああ、蒼を連れて来るよう城戸指令に頼まれた」
「了解、すぐ用意します」
犬飼くんを見下ろしたまま紡がれる言葉に頷いて、飲みかけのカフェオレをぐうっと呷って飲み干した。恐る恐る私を見る犬飼くんに笑いながらパイの実をいくつか押し付けて、席から立ち上がる。
「匡貴さん行きましょうか、犬飼くんまたね」
「ああ」
「お気をつけて…」
ふいっと踵を返した匡貴さんに、犬飼くんがほっとした顔をしたのも束の間。去り際に冷え切った声で匡貴さんが呟いた。
「犬飼、後で話がある」
「……犬飼了解…」
がっくりと項垂れた犬飼くんの頭を笑いながらぽんぽんと叩いて、匡貴さんと一緒にラウンジを後にした。
犬飼くんとひといき
二宮隊長のお話
(しかし眠気は飛んだなー)