荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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佐鳥くんが倒れてる
ごつん。
「ん?」
資料室へ過去のデータを探しに出かけたら、扉を開けてすぐの所で何かにぶつかった。なんだろうと隙間から覗きこめば、誰かが倒れているのが視界に飛び込んできた。
「え、ちょっ、佐鳥くん!?」
俯せの上に私服だけど、このくるくるした茶髪は佐鳥くんだ!
どうしたんだと慌てて隙間をむりやり抜けて駆け寄り、佐鳥くんを仰向けに直して顔を覗き込んだ。
「…すー」
「……え、寝てる?」
拍子抜けするほどに、仰向けにした佐鳥くんは安らかな寝顔ですやすやと寝息を立てていた。動かさない程度に見たけど外傷もなさそうだし、とりあえず良かったと安堵する。
「なんだよもー、心配しただろう…このこの」
八つ当たりでぷにぷにとその頬を突っつきまくっていると、眠っていた佐鳥くんがうっすらと目を開けた。
「ん、あ…?」
「やあ、起きたか佐鳥くん」
「…え?蒼さん?」
「蒼さんですよ」
ほっぺをぷにぷにしながらそう話しかけていると、寝ぼけまなこだった佐鳥くんの目にだんだんと光が戻ってくる。それからきょろきょろと辺りを見回して、こてんと首を傾げた。
「え?あれ…?佐鳥なにしてました?」
「寝てました。資料室入ったら倒れてるから心配したじゃん」
「うっそ佐鳥寝てました!?」
がばっと起き上がった佐鳥くんが資料室の中を見回し、あわあわと動き出す。
「蒼さん!い、今何時だかわかります?」
「2時ちょっと」
「あ、良かった…」
3時から広報の打ち合わせが入ってるんです…と言った佐鳥くんは、そのまま壁に背を付けて深く息を吐いた。
ひょいと立ち上がって、佐鳥くんの正面に立つ。
「佐鳥くん、ずいぶんお疲れだね?」
「ああ、はい…佐鳥いますごくお疲れです…」
まあ、資料室の中で倒れてるくらいなんだから、よっぽど疲れているのだろう。
部屋の中は電気をつけていても高い棚のせいで少し薄暗いが、それでも壁に凭れて目を閉じている佐鳥くんの顔色があまりよくないのがわかる。
「とりあえずこれだな」
「え?」
「佐鳥くん、口開けて」
「あ、はい…っむぐ」
ポケットの中を探り出して、指先に触れたフィルムをつまんで取り出す。封を切って転がり出た赤い飴玉を半開きの佐鳥くんの口の中に突っ込んだ。
疲れたときは甘いものだ。半ば強制的にでも糖分を摂取させてやる。
「いひご?」
「あたり」
もごもご口を動かす佐鳥くんが聞いたので、こくりと頷く。ポケットの中に入っていたイチゴ味の飴玉を突っ込んだのだ。これは後で自分が食べる用だったけれど、そんなことは言っていられない。
「ごめんね。他に良い物でも持ってれば良かったんだけど、いまそれしか手持ちがなくて」
「いえ、あいがほうございまふ」
佐鳥くんがもごもごお礼を言う。疲れていても相変わらず可愛いな佐鳥くんは、なんて思いながらも疑問を飛ばした。
「最後のお休みと、次のお休みはいつ?」
「えーと…最後のは3日前の半休で、次は確か2日後だったかと」
「働き詰めじゃんか」
広報もやってるからって、そこらの社会人より働いてる。これはいけないな、と後ろポケットにしまっていた携帯を引っ張り出し、電話帳を開いて目的の苗字を探す。
「えーと…」
「何してるんです?」
「根付さんに連絡しようと思って」
准に言ったら変に心配して拗れるだろうからねと告げれば、佐鳥くんが口をぽかんと開いた。いちごの飴がきらりと光る。
「え、根付さんって…」
「大丈夫、変な事いわないから」
可愛い後輩が倒れるまで酷使されるのは見てられないからね、と告げて作成したメールを送信。今の時間なら会議はしていないだろうからすぐ見てくれるはず。
「たまには第2の嵐山隊も使えばいいさ、根付さん推しなんだから」
「ああ、そういえば茶野隊がいましたね…」
飴をがりっと噛み砕いた佐鳥くんが小さく頷く。
チャンスがなければ売り出しも出来ないし、売り出しが出来なければ嵐山隊は忙しいままだ。使える物は使ってしまえ。
「佐鳥くんが疲れてるなら、時枝くんも准も疲れてるだろうし」
「2人は疲れを隠すのがうまいですからね…」
「2人もうまいけど、私は佐鳥くんが1番うまいと思ってるよ」
准はふとした時に顔に出るし、時枝くんは親しい人には素直だしと言えば佐鳥くんがぱちくりと目を瞬かせた。
この子は本当に本心を隠すのが上手いのだ。滅多な事ではその笑顔は崩れない。
「あれ、蒼さん佐鳥の事よく見てますね?」
「隊員の観察とかは私の仕事みたいなもんだしね」
広報なんて普通の人達よりも大変な仕事をしているのだ、疲れのサインが出ていたら即刻お休みを貰うべきだ。疲れをとるには何が良いんだっけな、と考えた所でこの前なにかで見た情報が頭をよぎる。
「あ、そういえば佐鳥くん知ってる?」
「何をですか?」
「ハグすると疲れが飛ぶってやつ」
「へー、初耳です」
「ということで」
そんな効果があるんですか、と言う佐鳥くんの前で手を広げた。佐鳥くんが再度ぱちくりと目を瞬かせる。
「さあ佐鳥くん」
「え?」
「おねーさんが抱きしめてあげよう」
「ええ!?」
心底驚いた顔の佐鳥くんに、私じゃ嫌だったかと眉と手を下げた。
「ごめん、軽率でした…やっぱ綾辻ちゃんみたいな可愛い子がいいよね…」
「ちょ、いや!そうじゃないです嫌じゃないです!」
項垂れて謝る私の前で、佐鳥くんがあわあわと両手を動かす。それからちょっともごもご言ってから、口を開いた。
「その言葉だけでも超嬉しいんですけど、ね…その、」
「やはりご不満が」
言いにくそうな彼にいいんだよ無理しなくても…と言えば、佐鳥くんがぶんぶんと横に首を振った。
「違いますって!佐鳥すっごい嬉しいんですけど、あの、…っか、風間隊が」
「…風間隊?」
ここで聞くとは思っていなかった単語に、蒼也さんたちがどうしたの?と聞けば、佐鳥くんは視線を下に落としてうろうろさせながら、小さく零した。
「蒼さんになにかしたら、佐鳥は風間隊にそれはもう跡形もなく凄惨にぶち殺されるらしいです…」
「え、そうなんだ」
それ菊地原くん?と聞けば佐鳥くんがこくりと頷いた。やっぱりか、菊地原くんも大概過保護だよなあ。
でもまあ、それは佐鳥くんが手を出すなというはなしで、私から行くのには問題ないと言う事だ。それを言えば菊地原くんが文句を言うのが目に見えるけれど、内緒内緒。
「よしわかった。それじゃあ佐鳥くん」
「はい…」
「両手を横に上げて」
「?こうですか?」
ひょいと手を広げた佐鳥くんに頷いて、がら空きの胴体に滑り込んだ。慌てる佐鳥くんにかまわず、ぎゅうとその身体を抱きしめる。
「ちょっ、蒼さん!?」
「私から行くなとは言われてないもので?」
「それ余計バレたらやばいやつですけど!?さっ、佐鳥の命が!!」
ふふふと笑えば佐鳥くんは面白いくらいあわあわした。だけど、佐鳥くんの両手は空中で所在無げに揺れているだけだ。律儀だよなあ、と目を細める。
「静かにしないと菊地原くんが聞きつけてくるよ?」
「!」
からかい混じりに小さく言えば、菊地原くんの強化聴力を恐れた佐鳥くんがぴたりと口を噤んだ。固まって手を下ろせずにいる佐鳥くんに、笑いながらその背中をぱしぱし叩く。
「だからさ、折角なので」
「蒼さん~…、あー…もう…」
バレたら恨みますからねぇ、と佐鳥くんが天を仰いで静かになった。
お疲れの佐鳥くん
ハグで疲れが飛ぶそうですが、試してみます?
ぴりり
(お、もうメール返ってきた)
((佐鳥死ぬかと思った…))
佐鳥くんをぎゅーしたかった
ごつん。
「ん?」
資料室へ過去のデータを探しに出かけたら、扉を開けてすぐの所で何かにぶつかった。なんだろうと隙間から覗きこめば、誰かが倒れているのが視界に飛び込んできた。
「え、ちょっ、佐鳥くん!?」
俯せの上に私服だけど、このくるくるした茶髪は佐鳥くんだ!
どうしたんだと慌てて隙間をむりやり抜けて駆け寄り、佐鳥くんを仰向けに直して顔を覗き込んだ。
「…すー」
「……え、寝てる?」
拍子抜けするほどに、仰向けにした佐鳥くんは安らかな寝顔ですやすやと寝息を立てていた。動かさない程度に見たけど外傷もなさそうだし、とりあえず良かったと安堵する。
「なんだよもー、心配しただろう…このこの」
八つ当たりでぷにぷにとその頬を突っつきまくっていると、眠っていた佐鳥くんがうっすらと目を開けた。
「ん、あ…?」
「やあ、起きたか佐鳥くん」
「…え?蒼さん?」
「蒼さんですよ」
ほっぺをぷにぷにしながらそう話しかけていると、寝ぼけまなこだった佐鳥くんの目にだんだんと光が戻ってくる。それからきょろきょろと辺りを見回して、こてんと首を傾げた。
「え?あれ…?佐鳥なにしてました?」
「寝てました。資料室入ったら倒れてるから心配したじゃん」
「うっそ佐鳥寝てました!?」
がばっと起き上がった佐鳥くんが資料室の中を見回し、あわあわと動き出す。
「蒼さん!い、今何時だかわかります?」
「2時ちょっと」
「あ、良かった…」
3時から広報の打ち合わせが入ってるんです…と言った佐鳥くんは、そのまま壁に背を付けて深く息を吐いた。
ひょいと立ち上がって、佐鳥くんの正面に立つ。
「佐鳥くん、ずいぶんお疲れだね?」
「ああ、はい…佐鳥いますごくお疲れです…」
まあ、資料室の中で倒れてるくらいなんだから、よっぽど疲れているのだろう。
部屋の中は電気をつけていても高い棚のせいで少し薄暗いが、それでも壁に凭れて目を閉じている佐鳥くんの顔色があまりよくないのがわかる。
「とりあえずこれだな」
「え?」
「佐鳥くん、口開けて」
「あ、はい…っむぐ」
ポケットの中を探り出して、指先に触れたフィルムをつまんで取り出す。封を切って転がり出た赤い飴玉を半開きの佐鳥くんの口の中に突っ込んだ。
疲れたときは甘いものだ。半ば強制的にでも糖分を摂取させてやる。
「いひご?」
「あたり」
もごもご口を動かす佐鳥くんが聞いたので、こくりと頷く。ポケットの中に入っていたイチゴ味の飴玉を突っ込んだのだ。これは後で自分が食べる用だったけれど、そんなことは言っていられない。
「ごめんね。他に良い物でも持ってれば良かったんだけど、いまそれしか手持ちがなくて」
「いえ、あいがほうございまふ」
佐鳥くんがもごもごお礼を言う。疲れていても相変わらず可愛いな佐鳥くんは、なんて思いながらも疑問を飛ばした。
「最後のお休みと、次のお休みはいつ?」
「えーと…最後のは3日前の半休で、次は確か2日後だったかと」
「働き詰めじゃんか」
広報もやってるからって、そこらの社会人より働いてる。これはいけないな、と後ろポケットにしまっていた携帯を引っ張り出し、電話帳を開いて目的の苗字を探す。
「えーと…」
「何してるんです?」
「根付さんに連絡しようと思って」
准に言ったら変に心配して拗れるだろうからねと告げれば、佐鳥くんが口をぽかんと開いた。いちごの飴がきらりと光る。
「え、根付さんって…」
「大丈夫、変な事いわないから」
可愛い後輩が倒れるまで酷使されるのは見てられないからね、と告げて作成したメールを送信。今の時間なら会議はしていないだろうからすぐ見てくれるはず。
「たまには第2の嵐山隊も使えばいいさ、根付さん推しなんだから」
「ああ、そういえば茶野隊がいましたね…」
飴をがりっと噛み砕いた佐鳥くんが小さく頷く。
チャンスがなければ売り出しも出来ないし、売り出しが出来なければ嵐山隊は忙しいままだ。使える物は使ってしまえ。
「佐鳥くんが疲れてるなら、時枝くんも准も疲れてるだろうし」
「2人は疲れを隠すのがうまいですからね…」
「2人もうまいけど、私は佐鳥くんが1番うまいと思ってるよ」
准はふとした時に顔に出るし、時枝くんは親しい人には素直だしと言えば佐鳥くんがぱちくりと目を瞬かせた。
この子は本当に本心を隠すのが上手いのだ。滅多な事ではその笑顔は崩れない。
「あれ、蒼さん佐鳥の事よく見てますね?」
「隊員の観察とかは私の仕事みたいなもんだしね」
広報なんて普通の人達よりも大変な仕事をしているのだ、疲れのサインが出ていたら即刻お休みを貰うべきだ。疲れをとるには何が良いんだっけな、と考えた所でこの前なにかで見た情報が頭をよぎる。
「あ、そういえば佐鳥くん知ってる?」
「何をですか?」
「ハグすると疲れが飛ぶってやつ」
「へー、初耳です」
「ということで」
そんな効果があるんですか、と言う佐鳥くんの前で手を広げた。佐鳥くんが再度ぱちくりと目を瞬かせる。
「さあ佐鳥くん」
「え?」
「おねーさんが抱きしめてあげよう」
「ええ!?」
心底驚いた顔の佐鳥くんに、私じゃ嫌だったかと眉と手を下げた。
「ごめん、軽率でした…やっぱ綾辻ちゃんみたいな可愛い子がいいよね…」
「ちょ、いや!そうじゃないです嫌じゃないです!」
項垂れて謝る私の前で、佐鳥くんがあわあわと両手を動かす。それからちょっともごもご言ってから、口を開いた。
「その言葉だけでも超嬉しいんですけど、ね…その、」
「やはりご不満が」
言いにくそうな彼にいいんだよ無理しなくても…と言えば、佐鳥くんがぶんぶんと横に首を振った。
「違いますって!佐鳥すっごい嬉しいんですけど、あの、…っか、風間隊が」
「…風間隊?」
ここで聞くとは思っていなかった単語に、蒼也さんたちがどうしたの?と聞けば、佐鳥くんは視線を下に落としてうろうろさせながら、小さく零した。
「蒼さんになにかしたら、佐鳥は風間隊にそれはもう跡形もなく凄惨にぶち殺されるらしいです…」
「え、そうなんだ」
それ菊地原くん?と聞けば佐鳥くんがこくりと頷いた。やっぱりか、菊地原くんも大概過保護だよなあ。
でもまあ、それは佐鳥くんが手を出すなというはなしで、私から行くのには問題ないと言う事だ。それを言えば菊地原くんが文句を言うのが目に見えるけれど、内緒内緒。
「よしわかった。それじゃあ佐鳥くん」
「はい…」
「両手を横に上げて」
「?こうですか?」
ひょいと手を広げた佐鳥くんに頷いて、がら空きの胴体に滑り込んだ。慌てる佐鳥くんにかまわず、ぎゅうとその身体を抱きしめる。
「ちょっ、蒼さん!?」
「私から行くなとは言われてないもので?」
「それ余計バレたらやばいやつですけど!?さっ、佐鳥の命が!!」
ふふふと笑えば佐鳥くんは面白いくらいあわあわした。だけど、佐鳥くんの両手は空中で所在無げに揺れているだけだ。律儀だよなあ、と目を細める。
「静かにしないと菊地原くんが聞きつけてくるよ?」
「!」
からかい混じりに小さく言えば、菊地原くんの強化聴力を恐れた佐鳥くんがぴたりと口を噤んだ。固まって手を下ろせずにいる佐鳥くんに、笑いながらその背中をぱしぱし叩く。
「だからさ、折角なので」
「蒼さん~…、あー…もう…」
バレたら恨みますからねぇ、と佐鳥くんが天を仰いで静かになった。
お疲れの佐鳥くん
ハグで疲れが飛ぶそうですが、試してみます?
ぴりり
(お、もうメール返ってきた)
((佐鳥死ぬかと思った…))
佐鳥くんをぎゅーしたかった