荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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影浦くんを匿う
ぴんぽん、と部屋のチャイムが鳴って読んでいた本から顔を上げた。
「ん?」
今日は特に誰かがくる予定もないし、緊急なら携帯やトリガーの方に来るはずだ。誰でしょと本に栞を挟んでテーブルへ置き、玄関へ向かった。再び鳴ったチャイムに返事をしながら扉を開けた先には、黒髪でもさもさ頭の痩躯。
「あれ、影浦くん。どうしたの?」
「蒼サン悪い、匿ってくれねえか」
「いいよ、匿いましょう」
どーぞ、と身体を壁に寄せて影浦くんを中へ招き入れる。するりと玄関に入って来た彼を横目に、扉を閉めて鍵を掛けた。
「私の部屋がよくわかったね」
来るの初めてなのにと靴を脱ぐ影浦くんに言えば、玄関の端に綺麗に靴を揃えた彼が私を振り返った。
「当真が教えてくれた」
「当真くんか」
当真くんなら私の部屋も知ってるからなあ、と納得する。とりあえず影浦くんをリビングに通して、私はキッチンへ向かう。
「好きなとこ座ってていいよ。飲み物コーヒーでいい?」
「ああ」
棚からいろいろ取り出して手早く2人分のコーヒーを作り、ミルクと砂糖、お菓子と共にリビングへ運んでいく。リビングへ足を踏み入れると、影浦くんはソファの隅にちんまりと座っていた。珍しい、借りてきた猫状態だ。
「はいどうぞ。熱いから気を付けてね」
「ありがとう」
彼の前にコーヒーを置くと、これまた珍しくもお礼が飛んでくる。普段は「ん」とか「悪い」とかなのにと思っていれば、コーヒーに手を伸ばしながら影浦くんが目を細めた。しまった、さすがに不躾だった。
「ごめん」
「いや、いい」
影浦くんの前に座り込んで、自分のコーヒーに砂糖とミルクを入れる。それをくるくる混ぜ合せつつ、コーヒーを飲みながら私の部屋の中を見回す影浦くんに見当をつけて聞いてみる。
「荒船くんに追っかけられてるの?」
「ああ」
こくりと頷いた影浦くんの視線がテーブルのクッキーに向かったので勧めると、影浦くんはクッキーをひとつ摘まんでかじりついた。
「なにしたの?」
「あー…荒船の地雷踏んだみたいで」
「え」
それはあんまり関わりたくないな、と思いながらかき混ぜたコーヒーを飲み込む。
だけどまあ、荒船くんは影浦くんが私の部屋を知らないと思っているだろうから、きっと本部中を探し回っていてここまでは来ないだろう。
「荒船くんの機嫌が直るまでゆっくりしてって」
「悪いな」
苦虫を噛み潰したような顔でクッキーをかじる影浦くん。この様子だと、追いかけられている時にさんざん視線で荒船くんに怒られていたようだ。
「でも影浦くん相手にそんなに怒るなんて珍しいよね」
「あー…」
肯定はしつつも視線を下げてしまったので、これはあんまり言いたくない話しなんだろうかと首を傾げた。
「あんまり言いたくない話?」
「いや…蒼サンの話」
「私の?」
「ああ」
頷く影浦くんはばつが悪そうな顔をしている。というか今日の影浦くん、あんまり私の方見ないなあ。いまも金色の瞳がコーヒーの水面に向かっている。
「…荒船が、あんま蒼サンにべたべたすんなって」
「……そんなにべたべたしてるっけ…?」
影浦くんの言葉に、心底不思議そうな声が出た。それに対して影浦くんが溜め息を吐きながら答える。
「してるんだと」
「どの辺が?」
「あー…どの辺っつーか、多分こうして部屋に入れてもらってる事も気に食わねえだろうよ」
影浦くんの言葉に、ええ…と同情心が湧いてくる。いくらなんでも当たりが強すぎないか。
「…特別機嫌の悪い荒船くんに当たったのでは…」
「言ったろ、地雷踏んだって」
「なに言ったの…」
ここまで怒らせた原因はなに、と訊けば影浦くんが深くため息を吐いてから呟く。
「…最近、荒船より俺の方が蒼サンに構ってもらってるな、っつったら無言で弧月抜かれたんで逃げてきた」
「わー」
それはご愁傷様です、としか言えない。だけど、よくよく考えれば最近は荒船くんから逃げる方がメインで、ちゃんと構ってはいなかったかもしれない。どちらかと言えば構われる方が多かったな。
「…ごめん、確かに構ってないかも」
「いや、俺も軽率だったし」
お互いにごめん…と頭を下げていたら、ぴんぽーん、と部屋のチャイムが鳴った。それに気づいて、2人で目を見合わせる。これはもしかして、噂をすればなんとやら的なやつでは。
「荒船か…?」
「噂をすれば、かな。影浦くんトリガー持ってるよね?君の靴投げるから、それ持ってそこの窓から飛び降りて」
「あ、ああ」
ぴんぽん、と再び鳴るチャイムに急かされるようにして影浦くんの分のコーヒーカップを回収しながら玄関へ向かう。途中キッチンのシンクの陰にそれらを置いて、急ぎ足で影浦くんの靴をひっつかんで口パクで叫ぶ。
『なげるよ!』
換装した影浦くんに靴を投げて、ちゃんとキャッチした影浦くんがぺこっと頭を下げて開け放った窓枠へと足を掛けた。
「さんきゅ」
飛び降りる間際に小さく零された言葉に手を振って、影浦くんが姿を消してから玄関の扉を開いた。
「どちらさま?」
「俺です」
「お、荒船くんどうしたの?」
玄関前に立っていたのはやはり荒船くんだった。鋭い視線が玄関内を探るのに気付かないふりをして、首を傾げた。
「すみません、カゲ来てませんか」
「影浦くん?来てないよ」
「そうですか」
そう答えれば、荒船くんの視線がほんの少しだけ緩んだ。影浦くんを逃がす時間も欲しいし、さっき思った通り最近荒船くんをゆっくり構ってなかった。お茶の準備は出来てるし、ちょっと誘ってみるか。
「ね、荒船くん。私お茶してたところなんだけど、荒船くんも一緒にどう?忙しい?」
「忙しくはないですけど…いいんですか」
「いいよ、入って入って」
「、お邪魔します」
承諾してくれた荒船くんを中へ通して、扉を閉めて鍵を掛ける。カップを用意しなくてはと思いながら、後ろからついてくる荒船くんにわからないように笑みをこぼす。今日は影浦くんの事を忘れるくらい構ってやろうと心に決めて、キッチンへと足を進めた。
影浦くんを匿います
窓からの脱出劇
(荒船くん、コーヒーでいい?)
(はい)
SE仲間には必然的に優しくなるよね
ぴんぽん、と部屋のチャイムが鳴って読んでいた本から顔を上げた。
「ん?」
今日は特に誰かがくる予定もないし、緊急なら携帯やトリガーの方に来るはずだ。誰でしょと本に栞を挟んでテーブルへ置き、玄関へ向かった。再び鳴ったチャイムに返事をしながら扉を開けた先には、黒髪でもさもさ頭の痩躯。
「あれ、影浦くん。どうしたの?」
「蒼サン悪い、匿ってくれねえか」
「いいよ、匿いましょう」
どーぞ、と身体を壁に寄せて影浦くんを中へ招き入れる。するりと玄関に入って来た彼を横目に、扉を閉めて鍵を掛けた。
「私の部屋がよくわかったね」
来るの初めてなのにと靴を脱ぐ影浦くんに言えば、玄関の端に綺麗に靴を揃えた彼が私を振り返った。
「当真が教えてくれた」
「当真くんか」
当真くんなら私の部屋も知ってるからなあ、と納得する。とりあえず影浦くんをリビングに通して、私はキッチンへ向かう。
「好きなとこ座ってていいよ。飲み物コーヒーでいい?」
「ああ」
棚からいろいろ取り出して手早く2人分のコーヒーを作り、ミルクと砂糖、お菓子と共にリビングへ運んでいく。リビングへ足を踏み入れると、影浦くんはソファの隅にちんまりと座っていた。珍しい、借りてきた猫状態だ。
「はいどうぞ。熱いから気を付けてね」
「ありがとう」
彼の前にコーヒーを置くと、これまた珍しくもお礼が飛んでくる。普段は「ん」とか「悪い」とかなのにと思っていれば、コーヒーに手を伸ばしながら影浦くんが目を細めた。しまった、さすがに不躾だった。
「ごめん」
「いや、いい」
影浦くんの前に座り込んで、自分のコーヒーに砂糖とミルクを入れる。それをくるくる混ぜ合せつつ、コーヒーを飲みながら私の部屋の中を見回す影浦くんに見当をつけて聞いてみる。
「荒船くんに追っかけられてるの?」
「ああ」
こくりと頷いた影浦くんの視線がテーブルのクッキーに向かったので勧めると、影浦くんはクッキーをひとつ摘まんでかじりついた。
「なにしたの?」
「あー…荒船の地雷踏んだみたいで」
「え」
それはあんまり関わりたくないな、と思いながらかき混ぜたコーヒーを飲み込む。
だけどまあ、荒船くんは影浦くんが私の部屋を知らないと思っているだろうから、きっと本部中を探し回っていてここまでは来ないだろう。
「荒船くんの機嫌が直るまでゆっくりしてって」
「悪いな」
苦虫を噛み潰したような顔でクッキーをかじる影浦くん。この様子だと、追いかけられている時にさんざん視線で荒船くんに怒られていたようだ。
「でも影浦くん相手にそんなに怒るなんて珍しいよね」
「あー…」
肯定はしつつも視線を下げてしまったので、これはあんまり言いたくない話しなんだろうかと首を傾げた。
「あんまり言いたくない話?」
「いや…蒼サンの話」
「私の?」
「ああ」
頷く影浦くんはばつが悪そうな顔をしている。というか今日の影浦くん、あんまり私の方見ないなあ。いまも金色の瞳がコーヒーの水面に向かっている。
「…荒船が、あんま蒼サンにべたべたすんなって」
「……そんなにべたべたしてるっけ…?」
影浦くんの言葉に、心底不思議そうな声が出た。それに対して影浦くんが溜め息を吐きながら答える。
「してるんだと」
「どの辺が?」
「あー…どの辺っつーか、多分こうして部屋に入れてもらってる事も気に食わねえだろうよ」
影浦くんの言葉に、ええ…と同情心が湧いてくる。いくらなんでも当たりが強すぎないか。
「…特別機嫌の悪い荒船くんに当たったのでは…」
「言ったろ、地雷踏んだって」
「なに言ったの…」
ここまで怒らせた原因はなに、と訊けば影浦くんが深くため息を吐いてから呟く。
「…最近、荒船より俺の方が蒼サンに構ってもらってるな、っつったら無言で弧月抜かれたんで逃げてきた」
「わー」
それはご愁傷様です、としか言えない。だけど、よくよく考えれば最近は荒船くんから逃げる方がメインで、ちゃんと構ってはいなかったかもしれない。どちらかと言えば構われる方が多かったな。
「…ごめん、確かに構ってないかも」
「いや、俺も軽率だったし」
お互いにごめん…と頭を下げていたら、ぴんぽーん、と部屋のチャイムが鳴った。それに気づいて、2人で目を見合わせる。これはもしかして、噂をすればなんとやら的なやつでは。
「荒船か…?」
「噂をすれば、かな。影浦くんトリガー持ってるよね?君の靴投げるから、それ持ってそこの窓から飛び降りて」
「あ、ああ」
ぴんぽん、と再び鳴るチャイムに急かされるようにして影浦くんの分のコーヒーカップを回収しながら玄関へ向かう。途中キッチンのシンクの陰にそれらを置いて、急ぎ足で影浦くんの靴をひっつかんで口パクで叫ぶ。
『なげるよ!』
換装した影浦くんに靴を投げて、ちゃんとキャッチした影浦くんがぺこっと頭を下げて開け放った窓枠へと足を掛けた。
「さんきゅ」
飛び降りる間際に小さく零された言葉に手を振って、影浦くんが姿を消してから玄関の扉を開いた。
「どちらさま?」
「俺です」
「お、荒船くんどうしたの?」
玄関前に立っていたのはやはり荒船くんだった。鋭い視線が玄関内を探るのに気付かないふりをして、首を傾げた。
「すみません、カゲ来てませんか」
「影浦くん?来てないよ」
「そうですか」
そう答えれば、荒船くんの視線がほんの少しだけ緩んだ。影浦くんを逃がす時間も欲しいし、さっき思った通り最近荒船くんをゆっくり構ってなかった。お茶の準備は出来てるし、ちょっと誘ってみるか。
「ね、荒船くん。私お茶してたところなんだけど、荒船くんも一緒にどう?忙しい?」
「忙しくはないですけど…いいんですか」
「いいよ、入って入って」
「、お邪魔します」
承諾してくれた荒船くんを中へ通して、扉を閉めて鍵を掛ける。カップを用意しなくてはと思いながら、後ろからついてくる荒船くんにわからないように笑みをこぼす。今日は影浦くんの事を忘れるくらい構ってやろうと心に決めて、キッチンへと足を進めた。
影浦くんを匿います
窓からの脱出劇
(荒船くん、コーヒーでいい?)
(はい)
SE仲間には必然的に優しくなるよね