荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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風間隊セキュリティ
「あれ」
「ああ、蒼さん」
ランク戦ブースに顔を出したら、モニターの前のソファに菊地原くんが座っていた。周りに蒼也さんや歌川くんの姿も見えない。珍しい、ひとりかな。
「菊地原くん、おひとり?」
「ひとりです」
モニターから目を離さないけれど、ここどうぞと菊地原くんに隣を勧められたのでありがたくお邪魔した。
目の前のテーブルの上には2つの紙コップ。1つは菊地原くんの近くにあり、もう1つは飲みかけで私の前に置いてある。1人で来た訳じゃなさそうだ。
「いまは、ですけど」
「歌川くんが模擬戦してるの?」
「そうです、右下のモニターに映ってますよ」
菊地原くんが指差した先のモニターには、C級の子をざっくざっくと切り伏せている歌川くんが映っていた。うわあ、容赦ないな。カメレオンも使わずに正面から行っているのを見るに、教示という訳ではなさそうだ。
「歌川くん、機嫌悪いの?」
「見た通りですよ」
C級相手に真剣な目をして戦っている歌川くんを見て、菊地原くんに訊けば彼はぞんざいに頷いた。その横顔を見て、ふと違和感を感じた。
「あれ、菊地原くんちょっとこっち見て」
「なんですか」
やっとこちらを見た菊地原くんの目は、普段の2割増しくらいで目つきが悪い。
「君もずいぶん機嫌が悪くない?」
「…まあ」
すっと逸らされた目に、なにか話したくないことがあるのかと目を細める。いつも素直なこの子達が、私に対して話したくないような事。
「嫌がらせされた?」
「蒼さんが気にすることじゃないです」
菊地原くんの答えはつまり、誰かに嫌がらせされたということだ。じっと菊地原くんの目を見るが、彼はモニターを睨むように見ているだけで私に話すつもりはなさそうだ。
ということは、歌川くんが切り伏せている相手が嫌がらせをしてきた相手なんだろう。C級だけど、彼らよりはちょっと年上っぽいしなあ。
「…」
とりあえず菊地原くんとモニターを見る。モニターに映っていた歌川くんは、ボッコボコと言っても過言ではないくらいにC級の子を倒してからロビーに戻ってきた。
「歌川くん」
「蒼さん!」
私の姿を見つけた歌川くんは、真剣な顔から一転してぱっと笑顔になった。その後ろで、歌川くんと戦っていたC級の子がこちらを見て慌てて逃げていくのが見えた。
菊地原くんもじっとそれを見送ってから、近づいてくる歌川くんに視線を送った。
「済んだ?」
「ああ、もう近づいては来ないと思う」
頷きながら言った歌川くんは、私を挟んでソファの端っこに座った。置いてあった飲み物をぐっと呷って、ふうと息を吐いた。
「じゃあ、ぼく行ってくるけど」
「ああ」
「え、菊地原くん行っちゃうの?」
「いそがしいんですよ」
戻って来た歌川くんとは入れ替わりに、菊地原くんが立ち上がる。空になった紙コップは歌川くんに「捨てといて」と押し付けて、さっさと歩いて行ってしまった。
「オレはこれ捨ててきますね。蒼さん、何か飲まれますか?」
「ううん、私は大丈夫」
行ってらっしゃい、と歌川くんを送り出してモニターを見る。どうやら菊地原くんもC級相手に模擬戦をしに行ったらしく、その姿がひとつのモニターに映り込んだ。
「ふたりがそんなに機嫌悪いの、珍しいなあ…」
蒼也さんが悪く言われた時みたい、と考えながら菊地原くんの姿を追う。菊地原くんもカメレオンを使わずに、C級に正面から斬り込みに行っている。あ、1点。
「完全に怒ってるよなあ」
あんまり表情の変わらない2人だけど、態度があからさまだ。何言われたんだろ、と考えていれば歌川くんが隣に戻って来た。
「おかえり」
「お待たせしました。菊地原は映りました?」
「そこのモニターに映ってるよ」
指差した先のモニターでは、菊地原くんがC級の身体にスコーピオンを突き立てながら口を動かしている。音声までは拾ってないから何を言っているかはわからないけれど、C級の顔色はトリオン体にも関わらず悪くなったのが見える。
「なに言われたの?」
「蒼さんが気にすることではありませんよ」
「菊地原くんと同じこと言うんだもんな」
私の言葉に歌川くんが苦笑いを浮かべた。それでも話すつもりはないようで、歌川くんはモニターに視線を投げる。
「そういえば、蒼也さんは?」
「ああ、風間さんなら訓練室の方ですね」
「そうなの」
新入隊員が入ったばかりだから、その手伝いかなあと考えながら歌川くんと一緒に菊地原くんの姿を見る。今度はわざわざ近づいてからかって、モールクローで倒すというえげつない戦い方だ。
「菊地原くんも荒れてるね」
「そうですね…。あれ、蒼さん誰かと約束してるんじゃないですか?」
「…そうでした!」
米屋くんと模擬戦の約束をしてた!と思い出して、慌てて立ち上がる。時計を見れば、約束の時間をちょっと過ぎている。やばい!
「歌川くん、今度遊びに行くからね!蒼也さんと菊地原くんにも言っておいて!歌歩ちゃんにも!」
「了解」
笑う歌川くんに手を振って、ばたばたと米屋くんとの約束してる集合場所に急いだ。
◆
『―…歌川』
「はい」
蒼さんがラウンジの方へ走っていくのを見送り、耳に飛び込んできた通信に返事をする。通信相手は、訓練室にいる風間さんだ。
『俺の方は済んだ。そっちはどうだ』
「いま、菊地原が最後の1人と戦っています。蒼さんが来ましたが、誤魔化しておきました」
『そうか、わかった。俺も戻る』
「了解」
通信を終えると、ブースから出てきた菊地原がオレの所へ戻って来た。菊地原から逃げるように慌てて出て行くC級を見送りながら、どさりとソファに座り込んで換装を解いた。
「蒼さんは?」
「ラウンジの方に行った。風間さんも戻ってくる」
「そう」
小さく頷いた菊地原が、溜め息を吐きながら馬鹿だよねえ、と零す。
「ぼくたちの前で蒼さんの悪口言うなんて」
「オレたちが見過ごす訳がないのにな」
そう言って、2人でそっと冷笑を浮かべた。
風間隊セキュリティ!
見えない所でお守りします
(風間さん、おかえりなさい)
(どうでした?)
(しばらくは大丈夫だろう)
蒼さんの悪口を聞きつけると風間隊がどこからともなく現れて制裁を下すのだ。
「あれ」
「ああ、蒼さん」
ランク戦ブースに顔を出したら、モニターの前のソファに菊地原くんが座っていた。周りに蒼也さんや歌川くんの姿も見えない。珍しい、ひとりかな。
「菊地原くん、おひとり?」
「ひとりです」
モニターから目を離さないけれど、ここどうぞと菊地原くんに隣を勧められたのでありがたくお邪魔した。
目の前のテーブルの上には2つの紙コップ。1つは菊地原くんの近くにあり、もう1つは飲みかけで私の前に置いてある。1人で来た訳じゃなさそうだ。
「いまは、ですけど」
「歌川くんが模擬戦してるの?」
「そうです、右下のモニターに映ってますよ」
菊地原くんが指差した先のモニターには、C級の子をざっくざっくと切り伏せている歌川くんが映っていた。うわあ、容赦ないな。カメレオンも使わずに正面から行っているのを見るに、教示という訳ではなさそうだ。
「歌川くん、機嫌悪いの?」
「見た通りですよ」
C級相手に真剣な目をして戦っている歌川くんを見て、菊地原くんに訊けば彼はぞんざいに頷いた。その横顔を見て、ふと違和感を感じた。
「あれ、菊地原くんちょっとこっち見て」
「なんですか」
やっとこちらを見た菊地原くんの目は、普段の2割増しくらいで目つきが悪い。
「君もずいぶん機嫌が悪くない?」
「…まあ」
すっと逸らされた目に、なにか話したくないことがあるのかと目を細める。いつも素直なこの子達が、私に対して話したくないような事。
「嫌がらせされた?」
「蒼さんが気にすることじゃないです」
菊地原くんの答えはつまり、誰かに嫌がらせされたということだ。じっと菊地原くんの目を見るが、彼はモニターを睨むように見ているだけで私に話すつもりはなさそうだ。
ということは、歌川くんが切り伏せている相手が嫌がらせをしてきた相手なんだろう。C級だけど、彼らよりはちょっと年上っぽいしなあ。
「…」
とりあえず菊地原くんとモニターを見る。モニターに映っていた歌川くんは、ボッコボコと言っても過言ではないくらいにC級の子を倒してからロビーに戻ってきた。
「歌川くん」
「蒼さん!」
私の姿を見つけた歌川くんは、真剣な顔から一転してぱっと笑顔になった。その後ろで、歌川くんと戦っていたC級の子がこちらを見て慌てて逃げていくのが見えた。
菊地原くんもじっとそれを見送ってから、近づいてくる歌川くんに視線を送った。
「済んだ?」
「ああ、もう近づいては来ないと思う」
頷きながら言った歌川くんは、私を挟んでソファの端っこに座った。置いてあった飲み物をぐっと呷って、ふうと息を吐いた。
「じゃあ、ぼく行ってくるけど」
「ああ」
「え、菊地原くん行っちゃうの?」
「いそがしいんですよ」
戻って来た歌川くんとは入れ替わりに、菊地原くんが立ち上がる。空になった紙コップは歌川くんに「捨てといて」と押し付けて、さっさと歩いて行ってしまった。
「オレはこれ捨ててきますね。蒼さん、何か飲まれますか?」
「ううん、私は大丈夫」
行ってらっしゃい、と歌川くんを送り出してモニターを見る。どうやら菊地原くんもC級相手に模擬戦をしに行ったらしく、その姿がひとつのモニターに映り込んだ。
「ふたりがそんなに機嫌悪いの、珍しいなあ…」
蒼也さんが悪く言われた時みたい、と考えながら菊地原くんの姿を追う。菊地原くんもカメレオンを使わずに、C級に正面から斬り込みに行っている。あ、1点。
「完全に怒ってるよなあ」
あんまり表情の変わらない2人だけど、態度があからさまだ。何言われたんだろ、と考えていれば歌川くんが隣に戻って来た。
「おかえり」
「お待たせしました。菊地原は映りました?」
「そこのモニターに映ってるよ」
指差した先のモニターでは、菊地原くんがC級の身体にスコーピオンを突き立てながら口を動かしている。音声までは拾ってないから何を言っているかはわからないけれど、C級の顔色はトリオン体にも関わらず悪くなったのが見える。
「なに言われたの?」
「蒼さんが気にすることではありませんよ」
「菊地原くんと同じこと言うんだもんな」
私の言葉に歌川くんが苦笑いを浮かべた。それでも話すつもりはないようで、歌川くんはモニターに視線を投げる。
「そういえば、蒼也さんは?」
「ああ、風間さんなら訓練室の方ですね」
「そうなの」
新入隊員が入ったばかりだから、その手伝いかなあと考えながら歌川くんと一緒に菊地原くんの姿を見る。今度はわざわざ近づいてからかって、モールクローで倒すというえげつない戦い方だ。
「菊地原くんも荒れてるね」
「そうですね…。あれ、蒼さん誰かと約束してるんじゃないですか?」
「…そうでした!」
米屋くんと模擬戦の約束をしてた!と思い出して、慌てて立ち上がる。時計を見れば、約束の時間をちょっと過ぎている。やばい!
「歌川くん、今度遊びに行くからね!蒼也さんと菊地原くんにも言っておいて!歌歩ちゃんにも!」
「了解」
笑う歌川くんに手を振って、ばたばたと米屋くんとの約束してる集合場所に急いだ。
◆
『―…歌川』
「はい」
蒼さんがラウンジの方へ走っていくのを見送り、耳に飛び込んできた通信に返事をする。通信相手は、訓練室にいる風間さんだ。
『俺の方は済んだ。そっちはどうだ』
「いま、菊地原が最後の1人と戦っています。蒼さんが来ましたが、誤魔化しておきました」
『そうか、わかった。俺も戻る』
「了解」
通信を終えると、ブースから出てきた菊地原がオレの所へ戻って来た。菊地原から逃げるように慌てて出て行くC級を見送りながら、どさりとソファに座り込んで換装を解いた。
「蒼さんは?」
「ラウンジの方に行った。風間さんも戻ってくる」
「そう」
小さく頷いた菊地原が、溜め息を吐きながら馬鹿だよねえ、と零す。
「ぼくたちの前で蒼さんの悪口言うなんて」
「オレたちが見過ごす訳がないのにな」
そう言って、2人でそっと冷笑を浮かべた。
風間隊セキュリティ!
見えない所でお守りします
(風間さん、おかえりなさい)
(どうでした?)
(しばらくは大丈夫だろう)
蒼さんの悪口を聞きつけると風間隊がどこからともなく現れて制裁を下すのだ。