荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
当真くんと黒猫さん
「ニャーン」
「ん?」
任務の引き継ぎを終えてボーダー本部に向かって帰る途中、上から可愛らしい声が降って来た。
その声に見上げれば、きいろい目をした黒猫が1匹。すぐ横の民家の塀の上に座り込んでこちらを見下ろしていた。
「お、綺麗な黒猫さん」
可愛いなあと見上げれば、つやつやとした毛並みの黒猫さんが尻尾をゆるりと振った。
「でっかいねえ」
「ニャン」
「何食べたらそんなにおっきくなるんだい」
「ニャー」
いちいち返事を返してくれるのに癒されていれば、のっそり立ち上がった黒猫さんが塀からぴょいと飛び降りてきた。逃げるわけではなさそうなので、それに合わせるようにしゃがみ込んでぽてぽて近づいてくる黒猫さんを待つ。
「それ以上来たら撫でちゃうぞ」
「にゃん」
「いいのかにゃん」
あんまり警戒心のなさそうな彼、もしくは彼女はずんずん近づいてくる。ためしにゆっくり掌を下にして、腕を伸ばしてみる。いざとなればトリオン体だから引っかかれても大丈夫だし、と黒猫さんの好きにしてくれと目線を落として地面を見て待つ。黒猫さんの警戒心が薄くても、あんまり目を見ちゃ駄目だったはずだ。
「…お」
伸ばしたままの腕にぐい、と黒猫さんが身体を押し付けてきた。これは撫でさせてくれるのだろうと判断して、ちょっとだけもふもふの背中を撫でさせてもらう。
「うー、可愛いなあ…」
「ニャー」
しゃがんだ私に体を擦りつけながらぐるっと1周した黒猫さんは、最終的に私の前にごろんと転がって落ち着いた。警戒心なさすぎじゃないのかな。
好きにせい、と言うようにぱたりと尻尾を揺らした黒猫さんに甘えて喉元やら背中やらお腹やらを撫でさせてもらっていると、不意に上からがしゃっと瓦を踏む音が聞こえた。
「!」
「あ」
音に反応した黒猫さんがさっと私の後ろに隠れるように移動した。次いで音が聞こえたほうを見上げれば、赤い隊服が目に入った。
「あれー、蒼さん?」
「当真くんじゃん、なにしてるの?担当区域もっと西でしょ?」
赤い隊服の隊員は、さきほど交代した冬島隊の当真くんだった。イーグレットを背に、此方を見下ろしている。
「オトナの事情で変更があったんスよ。蒼さんこそ何してるんです?」
「黒猫さん撫でてた」
「猫?」
当真くん来たからちょっと警戒しちゃってるけど、と私の横にゆれる尻尾を示せばそれを見た当真くんが屋根から飛び降りてきて私の前に立った。
「あれ、そいつが人の近くにいるなんて珍しいな」
「この子知ってるの?」
「知ってますよ」
おーい、オレだってーと言いながら当真くんがしゃがみこめば、黒猫さんがゆっくりと私の後ろから出てきて当真くんが伸ばした腕に体を擦り付けた。
「にゃー」
「お、ほんとだ」
「こいついっつもこの辺うろついてるんスよー」
当真くんの大きな手でわしわし撫でられる黒猫さんが目を細めている。仲良いんだなあと思っていれば、撫でる手を止めないまま当真くんがこちらを見た。
「けど、オレ以外のヤツに撫でられてるのを見るのは初めてですよ」
「ここ歩いてたら黒猫さんにナンパされまして」
「ニャーン」
「あー、こいつ綺麗っすからねー」
可愛いからつられちゃったんだ、なんて言いながら2人で黒猫さんを撫でまわす。ごろんとお腹を晒し首元を擽られてゴロゴロ言う黒猫さんは非常に幸せそうだ。ちなみに黒猫さんは「彼」だった。
「蒼さん、こいつ、肉球触らせてくれますよ」
「ほんと!」
仰向けかつ万歳の格好で伸びる黒猫さんの肉球が柔らかそうなピンク色をしているのを見ていれば、当真くんが黒猫さんの肉球を人差し指でぷにりと押した。黒猫さんは特に気にした風もなく、べろんと伸びたままだ。
「黒猫さん、失礼しまーす」
そおっと伸ばした指で、目の前にある肉球をつんと突っつく。
「おお…やわらかい…!」
なんともいえない、ぷにりとした肉球。
私が肉球をぷにぷにしている間、当真くんはのどを擽り、黒猫さんは目を閉じてごろごろ言っている。なんという楽園。
「エデンだ…」
「確かに」
当真くんと2人でしばらく黒猫さんを撫でまわしていれば、くあ、とひとつ欠伸をした黒猫さんがのそりと俯せに戻った。
「お、満足したかな」
「みたいっすね」
上体を起こした黒猫さんが、前足をぺろりと舐めてくいくいと顔を洗い始める。
それを見ながら、当真くんにさっきから気になっていたことを聞いた。
「当真くん、この子なんて呼んでる?」
「あ、オレはまんまクロって呼んでます」
「王道だね」
黒猫のクロさんか、と頷いて彼を見る。
顔を洗い終えたらしいクロさんは、じっとこちらを見上げてから近づいてきた。伸ばしたままの手の甲に鼻をそっと押しつけてから当真くんの方へ向かう。
「わ、キスもらっちゃった」
「これ、そろそろ帰るっつー合図っすよ」
なー、と言う当真くんの手の甲にも鼻を押し付けてから、少しだけ離れたクロさんがひとつ鳴いて塀にぴょいと飛び乗った。当真くんが言った通り、お別れの時間みたいだ。
「にゃあん」
「ばいばい、またね」
「じゃーな」
当真くんと2人でクロさんに手を振れば、こちらを一瞥した彼はゆらりと長い尻尾を揺らめかせて塀の向こうへと去っていった。
「行っちゃったねえ」
「そっすねー」
しゃがみっぱなしだった足を伸ばしてひょいと立ち上がれば、当真くんもよいせ、と掛け声をかけながら立ち上がった。
「さーて、と。私は本部に帰ってお昼ごはんだ」
「あ。今日の日替わり定食、蒼さんの好きな鶏の竜田揚げですよ」
「ほんと!良い情報をありがと」
「いーえ」
オレはもうちょい任務っすね、と言った当真くんが肩をぐるりと回してからひょいと塀へ登り、そこから屋根に飛び乗った。
「任務頑張ってねー」
「はーい、蒼さんも帰り道気ィつけて下さいねー」
「りょうかーい。ありがとー」
ひらひら手を振れば、当真くんも屋根の上から手を振り返してからひょいと近くの屋根に飛び移って行った。
「さてさて、ごはんごはん」
黒い彼らを見送って、私も帰路へついたのだった。
当真くんと黒猫さん
白昼の楽園を垣間見る
「ニャーン」
「ん?」
任務の引き継ぎを終えてボーダー本部に向かって帰る途中、上から可愛らしい声が降って来た。
その声に見上げれば、きいろい目をした黒猫が1匹。すぐ横の民家の塀の上に座り込んでこちらを見下ろしていた。
「お、綺麗な黒猫さん」
可愛いなあと見上げれば、つやつやとした毛並みの黒猫さんが尻尾をゆるりと振った。
「でっかいねえ」
「ニャン」
「何食べたらそんなにおっきくなるんだい」
「ニャー」
いちいち返事を返してくれるのに癒されていれば、のっそり立ち上がった黒猫さんが塀からぴょいと飛び降りてきた。逃げるわけではなさそうなので、それに合わせるようにしゃがみ込んでぽてぽて近づいてくる黒猫さんを待つ。
「それ以上来たら撫でちゃうぞ」
「にゃん」
「いいのかにゃん」
あんまり警戒心のなさそうな彼、もしくは彼女はずんずん近づいてくる。ためしにゆっくり掌を下にして、腕を伸ばしてみる。いざとなればトリオン体だから引っかかれても大丈夫だし、と黒猫さんの好きにしてくれと目線を落として地面を見て待つ。黒猫さんの警戒心が薄くても、あんまり目を見ちゃ駄目だったはずだ。
「…お」
伸ばしたままの腕にぐい、と黒猫さんが身体を押し付けてきた。これは撫でさせてくれるのだろうと判断して、ちょっとだけもふもふの背中を撫でさせてもらう。
「うー、可愛いなあ…」
「ニャー」
しゃがんだ私に体を擦りつけながらぐるっと1周した黒猫さんは、最終的に私の前にごろんと転がって落ち着いた。警戒心なさすぎじゃないのかな。
好きにせい、と言うようにぱたりと尻尾を揺らした黒猫さんに甘えて喉元やら背中やらお腹やらを撫でさせてもらっていると、不意に上からがしゃっと瓦を踏む音が聞こえた。
「!」
「あ」
音に反応した黒猫さんがさっと私の後ろに隠れるように移動した。次いで音が聞こえたほうを見上げれば、赤い隊服が目に入った。
「あれー、蒼さん?」
「当真くんじゃん、なにしてるの?担当区域もっと西でしょ?」
赤い隊服の隊員は、さきほど交代した冬島隊の当真くんだった。イーグレットを背に、此方を見下ろしている。
「オトナの事情で変更があったんスよ。蒼さんこそ何してるんです?」
「黒猫さん撫でてた」
「猫?」
当真くん来たからちょっと警戒しちゃってるけど、と私の横にゆれる尻尾を示せばそれを見た当真くんが屋根から飛び降りてきて私の前に立った。
「あれ、そいつが人の近くにいるなんて珍しいな」
「この子知ってるの?」
「知ってますよ」
おーい、オレだってーと言いながら当真くんがしゃがみこめば、黒猫さんがゆっくりと私の後ろから出てきて当真くんが伸ばした腕に体を擦り付けた。
「にゃー」
「お、ほんとだ」
「こいついっつもこの辺うろついてるんスよー」
当真くんの大きな手でわしわし撫でられる黒猫さんが目を細めている。仲良いんだなあと思っていれば、撫でる手を止めないまま当真くんがこちらを見た。
「けど、オレ以外のヤツに撫でられてるのを見るのは初めてですよ」
「ここ歩いてたら黒猫さんにナンパされまして」
「ニャーン」
「あー、こいつ綺麗っすからねー」
可愛いからつられちゃったんだ、なんて言いながら2人で黒猫さんを撫でまわす。ごろんとお腹を晒し首元を擽られてゴロゴロ言う黒猫さんは非常に幸せそうだ。ちなみに黒猫さんは「彼」だった。
「蒼さん、こいつ、肉球触らせてくれますよ」
「ほんと!」
仰向けかつ万歳の格好で伸びる黒猫さんの肉球が柔らかそうなピンク色をしているのを見ていれば、当真くんが黒猫さんの肉球を人差し指でぷにりと押した。黒猫さんは特に気にした風もなく、べろんと伸びたままだ。
「黒猫さん、失礼しまーす」
そおっと伸ばした指で、目の前にある肉球をつんと突っつく。
「おお…やわらかい…!」
なんともいえない、ぷにりとした肉球。
私が肉球をぷにぷにしている間、当真くんはのどを擽り、黒猫さんは目を閉じてごろごろ言っている。なんという楽園。
「エデンだ…」
「確かに」
当真くんと2人でしばらく黒猫さんを撫でまわしていれば、くあ、とひとつ欠伸をした黒猫さんがのそりと俯せに戻った。
「お、満足したかな」
「みたいっすね」
上体を起こした黒猫さんが、前足をぺろりと舐めてくいくいと顔を洗い始める。
それを見ながら、当真くんにさっきから気になっていたことを聞いた。
「当真くん、この子なんて呼んでる?」
「あ、オレはまんまクロって呼んでます」
「王道だね」
黒猫のクロさんか、と頷いて彼を見る。
顔を洗い終えたらしいクロさんは、じっとこちらを見上げてから近づいてきた。伸ばしたままの手の甲に鼻をそっと押しつけてから当真くんの方へ向かう。
「わ、キスもらっちゃった」
「これ、そろそろ帰るっつー合図っすよ」
なー、と言う当真くんの手の甲にも鼻を押し付けてから、少しだけ離れたクロさんがひとつ鳴いて塀にぴょいと飛び乗った。当真くんが言った通り、お別れの時間みたいだ。
「にゃあん」
「ばいばい、またね」
「じゃーな」
当真くんと2人でクロさんに手を振れば、こちらを一瞥した彼はゆらりと長い尻尾を揺らめかせて塀の向こうへと去っていった。
「行っちゃったねえ」
「そっすねー」
しゃがみっぱなしだった足を伸ばしてひょいと立ち上がれば、当真くんもよいせ、と掛け声をかけながら立ち上がった。
「さーて、と。私は本部に帰ってお昼ごはんだ」
「あ。今日の日替わり定食、蒼さんの好きな鶏の竜田揚げですよ」
「ほんと!良い情報をありがと」
「いーえ」
オレはもうちょい任務っすね、と言った当真くんが肩をぐるりと回してからひょいと塀へ登り、そこから屋根に飛び乗った。
「任務頑張ってねー」
「はーい、蒼さんも帰り道気ィつけて下さいねー」
「りょうかーい。ありがとー」
ひらひら手を振れば、当真くんも屋根の上から手を振り返してからひょいと近くの屋根に飛び移って行った。
「さてさて、ごはんごはん」
黒い彼らを見送って、私も帰路へついたのだった。
当真くんと黒猫さん
白昼の楽園を垣間見る