荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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荒船くんに連行される
「いやああ離してください助けてください…!」
「いい加減諦めろ」
鋭い視線を浴びせながら、私の左手を掴んで歩く荒船くん。
周囲からは憐みやら同情やら色々な視線が飛んでくる中、私はラウンジで荒船くんにずりずり引き摺られていた。
「謝る!謝るからほんとどうか見逃しては頂けないだろうか!」
「ああ?ふざけんな、見逃がすわけねえだろ」
身体を荒船くんが進むのと逆側に倒したりと全力で抵抗しているものの、力の差は歴然としていて引き摺られているスピードをほんの少し緩やかにすることしか出来ていない。
「何してんだお前等」
「、諏訪さん」
「あああ諏訪さん助けてください…!」
じりじり移動していれば、通りかかった諏訪さんが不審そうな顔で聞いてきた。それに対し、荒船くんが私を引きずる手を止めずに諏訪さんに答える。
「オイ荒船、お前誘拐犯にしか見えねえぞ」
「この人が悪いんです」
「そう私が悪いんです!悪いんですけどけど殺されそうなので助けて下さい…!」
「何したんだ」
それ聞かなきゃ助けようにも助けらんねえぞ、と言った諏訪さんに荒船くんに引きずられている原因を伝える。
「夏バテでして…」
「蒼さん、夏バテしてんのに飯食わねえから体調戻らないんですよ。このまま放っておくとまた倒れそうなんで、飯食わせに行くんです」
「あー…夏バテか」
荒船くんの言葉にお前は蒼の母親か、といいたげな視線で諏訪さんが口を開くも、出てきた言葉は私の味方ではなかった。
「夏バテじゃあ、飯食わねえと駄目だろ」
「でしょう」
「いやだこの暑い中わざわざ直射日光に当たりに行くなんて自殺行為はしたくない!拒否する!」
「それじゃ蒼、お前いつまでたっても飯くわねえつもりだろ」
「ええ夏の間は出来る限りトリオン体で過ごす所存です!」
「それだと秋まで体調崩したまんまだろうが」
ぐずる私の腕を掴んで離さない荒船くん。私が引きずられている理由を知った諏訪さんは荒船くんに任せておけばいいだろと判断してか、「荒船も大変だな、気を付けて行って来いよ」と言って私の頭を撫でてから離れていってしまった。諦めろって事か。
「諏訪さん…」
「ほら、行きますよ」
助けてくれなかった…と項垂れる私を再び荒船くんが力強く引っ張ったので、恨むような視線を遠ざかる諏訪さんに投げかけながらずりずりとラウンジから引きずり出されていった。
◆
ということで、警戒区域外のとある食べ物屋さんに連れ込まれた私の目の前には山盛りの冷製豚しゃぶが姿を現していた。豚しゃぶいいんだけどね?好きだし…いいんだけど、この量は多くないかなと絶賛げんなりしている所存です。
「ねえ荒船くん…」
「ポン酢とゴマだれがありますけど、どっちかけます?」
「ゴマだれで」
ああ駄目だ、これは聞いてくれるつもりは無いなと判断してゴマだれを要求すれば、帽子をとった荒船くんは私の前にゴマだれの入ったビンを置いてくれた。
お礼を言って先にテーブルの端にあるお箸に手を伸ばし、私の分と荒船くんの分を引っこ抜く。その間に荒船くんは取り皿を用意してくれた。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
お箸を差し出して、かわりに取り皿を受け取る。ピッチャーから注がれた冷たい麦茶をひとくち飲んで気合を入れてから、ぱしりと手を合わせた。私の動作を見た荒船くんが同じように手を合わせる。
「よし、いただきます」
「いただきます。…食べられる分だけでいいですからね」
「了解」
荒船くんの言葉に頷いて目の前の豚しゃぶの山の一角を崩す。とりあえず多めに箸で掴んで、取り皿の中へ放り込んで、ゴマだれの蓋を開けてどろりとしたそれをかけた。
「ん、」
たれを絡めて口に運んだ豚しゃぶは、ゴマの風味をたっぷりと含みつつもさっぱりとしていてとても美味しかった。
「おいしい」
「それは良かったです」
これは夏バテしてても食べやすいなともぐもぐしていれば、正面で私を見ていた荒船くんも安心したように豚しゃぶに箸を伸ばした。もぐもぐ咀嚼しながら考えるけれど、荒船くんは私が比較的食べやすい、かつ少量でも栄養が取れるように配慮してくれている。いくつか頼んだサイドメニューも高栄養価のものが多かったはずだ。
「ん、」
荒船くんはほんと優しいよなと思いながら彼を見ていれば、彼も豚しゃぶを口に頬張って美味しそうにもぐもぐ咀嚼している。
が、私も食べないと無言で睨まれるので豚しゃぶをつかむ。しばし豚しゃぶをおかずにご飯をもぐもぐ食べていれば荒船くんが頼んでいたサイドメニューたちが運ばれてきた。
「あ、それおいしそう」
「好きそうだと思ったんで頼みました」
どうぞ、と差し出されたのはマグロやサーモンが乗った海鮮サラダ。それから鶏のから揚げに、冷奴など。
「いただく」
「はい」
こちらへ寄せられた大皿から、自分の取り皿へサラダやから揚げ、冷奴も少しだけ取って残りは荒船くんへ差し出す。
半分より少し多めに返ってきた皿をちらりと見た荒船くんは、特に何も言わずにから揚げに箸を伸ばした。食べないよりはいいと思ったんだろう。
「んん、おいしい」
ドレッシングが掛かったマグロと野菜を一緒に挟んで口に放り込めば、ふわりと抜ける青紫蘇の香りがこれまたさっぱりとしてとても美味しかった。
そういえば、とサラダを食べ進めながら気になっていたことを聞いてみる。
「ねえ荒船くん」
「はい」
「私が体調崩してるのに気付いたのはいつごろ?」
「3日前ですけど」
「…よく見てるね」
3日前といえばちょうど体調を崩し始めた辺りだ。荒船くんは本当、よく私の事を見ていると思う。お世話になりっぱなしで頭が上がらない。年下なのに。弟子なのに。
ううん…と何とも言えない顔をした私に対し、こちらをちらりとも見ない荒船くんが冷奴を切り分けながら呟く。
「自分でどうにかするかと放っておいたんですけど、一向に改善しないどころか悪化してくんで早めに強硬手段に出ました」
「モウシワケアリマセン」
「謝るならさっさと夏バテ治してください」
「ハイ」
機械的に返事をして、豚しゃぶを口に放り込む。途中からはごまだれにポン酢も追加したりとバリエーションを変えてみたりしながら、着々と豚しゃぶの山を崩していく。
荒船くんには本当にいろいろ迷惑かけてるし、早く夏バテ解消しないといけない。荒船くんなら毎日毎食連れ出すことも辞さないだろう、それは困る。とても困る。
「なんとしても早く体調戻さなければ…」
冷奴を美味しそうに食べる荒船くんの傍ら、目の前に鎮座する食べ物たちに吸い込ませるように、「すべては君たちにかかっている」と小さく小さく呟いて箸を持ち直した。
夏バテ解消法
荒船式強制栄養摂取
(もうむり入んないしぬ)
(まだデザートありますけど)
(えっ)
書いてるうちに夏は終わった
「いやああ離してください助けてください…!」
「いい加減諦めろ」
鋭い視線を浴びせながら、私の左手を掴んで歩く荒船くん。
周囲からは憐みやら同情やら色々な視線が飛んでくる中、私はラウンジで荒船くんにずりずり引き摺られていた。
「謝る!謝るからほんとどうか見逃しては頂けないだろうか!」
「ああ?ふざけんな、見逃がすわけねえだろ」
身体を荒船くんが進むのと逆側に倒したりと全力で抵抗しているものの、力の差は歴然としていて引き摺られているスピードをほんの少し緩やかにすることしか出来ていない。
「何してんだお前等」
「、諏訪さん」
「あああ諏訪さん助けてください…!」
じりじり移動していれば、通りかかった諏訪さんが不審そうな顔で聞いてきた。それに対し、荒船くんが私を引きずる手を止めずに諏訪さんに答える。
「オイ荒船、お前誘拐犯にしか見えねえぞ」
「この人が悪いんです」
「そう私が悪いんです!悪いんですけどけど殺されそうなので助けて下さい…!」
「何したんだ」
それ聞かなきゃ助けようにも助けらんねえぞ、と言った諏訪さんに荒船くんに引きずられている原因を伝える。
「夏バテでして…」
「蒼さん、夏バテしてんのに飯食わねえから体調戻らないんですよ。このまま放っておくとまた倒れそうなんで、飯食わせに行くんです」
「あー…夏バテか」
荒船くんの言葉にお前は蒼の母親か、といいたげな視線で諏訪さんが口を開くも、出てきた言葉は私の味方ではなかった。
「夏バテじゃあ、飯食わねえと駄目だろ」
「でしょう」
「いやだこの暑い中わざわざ直射日光に当たりに行くなんて自殺行為はしたくない!拒否する!」
「それじゃ蒼、お前いつまでたっても飯くわねえつもりだろ」
「ええ夏の間は出来る限りトリオン体で過ごす所存です!」
「それだと秋まで体調崩したまんまだろうが」
ぐずる私の腕を掴んで離さない荒船くん。私が引きずられている理由を知った諏訪さんは荒船くんに任せておけばいいだろと判断してか、「荒船も大変だな、気を付けて行って来いよ」と言って私の頭を撫でてから離れていってしまった。諦めろって事か。
「諏訪さん…」
「ほら、行きますよ」
助けてくれなかった…と項垂れる私を再び荒船くんが力強く引っ張ったので、恨むような視線を遠ざかる諏訪さんに投げかけながらずりずりとラウンジから引きずり出されていった。
◆
ということで、警戒区域外のとある食べ物屋さんに連れ込まれた私の目の前には山盛りの冷製豚しゃぶが姿を現していた。豚しゃぶいいんだけどね?好きだし…いいんだけど、この量は多くないかなと絶賛げんなりしている所存です。
「ねえ荒船くん…」
「ポン酢とゴマだれがありますけど、どっちかけます?」
「ゴマだれで」
ああ駄目だ、これは聞いてくれるつもりは無いなと判断してゴマだれを要求すれば、帽子をとった荒船くんは私の前にゴマだれの入ったビンを置いてくれた。
お礼を言って先にテーブルの端にあるお箸に手を伸ばし、私の分と荒船くんの分を引っこ抜く。その間に荒船くんは取り皿を用意してくれた。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
お箸を差し出して、かわりに取り皿を受け取る。ピッチャーから注がれた冷たい麦茶をひとくち飲んで気合を入れてから、ぱしりと手を合わせた。私の動作を見た荒船くんが同じように手を合わせる。
「よし、いただきます」
「いただきます。…食べられる分だけでいいですからね」
「了解」
荒船くんの言葉に頷いて目の前の豚しゃぶの山の一角を崩す。とりあえず多めに箸で掴んで、取り皿の中へ放り込んで、ゴマだれの蓋を開けてどろりとしたそれをかけた。
「ん、」
たれを絡めて口に運んだ豚しゃぶは、ゴマの風味をたっぷりと含みつつもさっぱりとしていてとても美味しかった。
「おいしい」
「それは良かったです」
これは夏バテしてても食べやすいなともぐもぐしていれば、正面で私を見ていた荒船くんも安心したように豚しゃぶに箸を伸ばした。もぐもぐ咀嚼しながら考えるけれど、荒船くんは私が比較的食べやすい、かつ少量でも栄養が取れるように配慮してくれている。いくつか頼んだサイドメニューも高栄養価のものが多かったはずだ。
「ん、」
荒船くんはほんと優しいよなと思いながら彼を見ていれば、彼も豚しゃぶを口に頬張って美味しそうにもぐもぐ咀嚼している。
が、私も食べないと無言で睨まれるので豚しゃぶをつかむ。しばし豚しゃぶをおかずにご飯をもぐもぐ食べていれば荒船くんが頼んでいたサイドメニューたちが運ばれてきた。
「あ、それおいしそう」
「好きそうだと思ったんで頼みました」
どうぞ、と差し出されたのはマグロやサーモンが乗った海鮮サラダ。それから鶏のから揚げに、冷奴など。
「いただく」
「はい」
こちらへ寄せられた大皿から、自分の取り皿へサラダやから揚げ、冷奴も少しだけ取って残りは荒船くんへ差し出す。
半分より少し多めに返ってきた皿をちらりと見た荒船くんは、特に何も言わずにから揚げに箸を伸ばした。食べないよりはいいと思ったんだろう。
「んん、おいしい」
ドレッシングが掛かったマグロと野菜を一緒に挟んで口に放り込めば、ふわりと抜ける青紫蘇の香りがこれまたさっぱりとしてとても美味しかった。
そういえば、とサラダを食べ進めながら気になっていたことを聞いてみる。
「ねえ荒船くん」
「はい」
「私が体調崩してるのに気付いたのはいつごろ?」
「3日前ですけど」
「…よく見てるね」
3日前といえばちょうど体調を崩し始めた辺りだ。荒船くんは本当、よく私の事を見ていると思う。お世話になりっぱなしで頭が上がらない。年下なのに。弟子なのに。
ううん…と何とも言えない顔をした私に対し、こちらをちらりとも見ない荒船くんが冷奴を切り分けながら呟く。
「自分でどうにかするかと放っておいたんですけど、一向に改善しないどころか悪化してくんで早めに強硬手段に出ました」
「モウシワケアリマセン」
「謝るならさっさと夏バテ治してください」
「ハイ」
機械的に返事をして、豚しゃぶを口に放り込む。途中からはごまだれにポン酢も追加したりとバリエーションを変えてみたりしながら、着々と豚しゃぶの山を崩していく。
荒船くんには本当にいろいろ迷惑かけてるし、早く夏バテ解消しないといけない。荒船くんなら毎日毎食連れ出すことも辞さないだろう、それは困る。とても困る。
「なんとしても早く体調戻さなければ…」
冷奴を美味しそうに食べる荒船くんの傍ら、目の前に鎮座する食べ物たちに吸い込ませるように、「すべては君たちにかかっている」と小さく小さく呟いて箸を持ち直した。
夏バテ解消法
荒船式強制栄養摂取
(もうむり入んないしぬ)
(まだデザートありますけど)
(えっ)
書いてるうちに夏は終わった