荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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歌川・菊地原と眠れない夜
深夜2時、人の気配がない廊下を歩く。本部の中の照明は極限まで落とされていて、昼間は感じる事がない寂しさを窺わせている。
「んー…」
同じく照明が落とされたラウンジへたどり着き、そっと中を窺うも誰の姿も見えない。とりあえず今日はここまでだな、と部屋に帰ろうと静かに踵を返した。
「蒼さん?」
「っ」
突如聞こえた声に肩を揺らして後ろを振り向けば、長身の人影が見えた。風間隊の歌川くんがラウンジの奥から歩いてくるところだった。
「歌川くんか、びっくりした…」
「驚かせてしまってすみません」
薄暗い中を歩いてくる歌川くんの手には、買ったばかりと思われる飲み物の缶が3つ。
「おつかい?」
「ええ、まあ」
菊地原くんに頼まれたのかな、と訊けば苦笑いで歌川くんが頷く。風間隊がこの時間にいるとなると、私服姿だけれど深夜任務中なのだろう。
「任務お疲れさま」
「今日は本部待機なんですけどね。…蒼さんは、怖い夢でも見ましたか?」
「んー、そんなかんじ」
歌川くんが訊く言葉に頷く。私が眠れなかったり、怖い夢を見たときに夜中にこうしてうろうろしているということを風間隊は知っている。
「良かったら、うちの作戦室まで来ませんか?」
「いく」
即答した私に笑顔で頷いた歌川くんは「少し待っていてください」と近くの自販機へ戻り、缶をもう一つ増やして戻って来た。
「どうぞ、熱いので気を付けて下さいね」
「ありがとう」
暖かいココアの缶を受け取り、二人並んで風間隊の作戦室へ向かって歩き出す。ココアの缶を手のひらで転がしながら小さな声で話していれば、すぐに風間隊の作戦室前にたどり着いた。
「歌川おそ…蒼さん?」
静かに開いた扉の先、菊地原くんがこちらに背を向けてソファに座っているのが見えた。歌川くんに文句を言いかけて何かを感じ取ったのだろうか、くるりとこちらを振り向いた。
「ラウンジにいたから連れてきた」
「こんばんは」
「…ここ座ってください」
「あ、うん」
振り向いた菊地原くんが伸ばした手に引かれ、菊地原くんの隣にぼすりと座った。そのまま菊地原くんはじっと私のことを見つめてくる。
「ほら、菊地原」
「ありがと」
1つの缶コーヒーをテーブルに置いてもう1つを菊地原くんに差し出した歌川くんも、私の左側へ座り込んだ。両手に16歳状態だ。
「なにしたんですか」
「ちょっと寝れないだけだよ」
「蒼さんがそういうときは大体なんかあるんですよ」
さっさと話してください、と視線を外さないまま菊地原くんが強い口調で言う。やっぱり鋭いなあなんて菊地原くんの方を向いている私の後ろからも、歌川くんが落ち着いた声を響かせる。
「話を聞くくらいしか出来ませんけどね」
「なにいってんの、これが人為的なのだったら潰せるでしょ」
「まあな」
「うーん、そんな大したことじゃないんだけどな」
2人が私を挟んでする物騒な会話を聞きながら、とりあえず冷めないうちにと歌川くんにもらったココアのプルタブを開ける。かこっと音をたてて口が開けば、ココアの良い香りが空気にとけた。
「ん、」
「…で、なにしたんです」
同じように飲み物に口をつけた菊地原くんが、依然強い口調のまま問いかけてくる。ココアをもうひとくち飲み込んで、口を開いた。
「ちょっと寂しくなっただけ」
「…」
「ああ、だから誰か探してる感じだったんですね」
「うん。だけど、歌川くんと菊地原くんにも会えたし」
少し一緒にいさせてくれれば満足だよ、と言えば菊地原くんがゆっくりと口を開く。
「…本当みたいですね」
「ここで嘘なんて吐かないよ」
苦笑して言えば、菊地原くんはほんの少しだけ表情を和らげて缶の口をくわえた。歌川くんもコーヒーを飲んでいて、静かな時間が過ぎる。
「…蒼也さんは?」
「ああ、風間さんなら少し出ています」
「たぶん屋上とかそんなんでしょ」
蒼也さんの姿が見えないな、と問えば2人からゆっくりとした口調で告げられる。
「そっか」
「呼びましょうか?」
「たぶんすぐ来ますよ」
「ううん、いいよ」
耳についた通信機に手を当てる歌川くんにゆるく首を振る。蒼也さんだって理由もなしに出ている訳ではないと思うし、ここで少しだけ元気をもらっていこう。
「任務は6時まで?」
「はい」
「その後学校だなんてひどいですよね」
「きついよねえ」
深夜の任務には大人が入るべきなんだろうけれど、そもそもトリオンの成長が止まり始める年齢を過ぎてまでボーダーに所属している方が少ない。申し訳ないけれど、子供たちにも手伝ってもらわないといけないのだ。
「ふう…」
空になったココアの缶をテーブルに置いて、ソファの背にもたれて目を閉じる。きし、と左側でソファが小さく軋んで歌川くんが席を立ったことを知らせた。
「どうぞ」
「ん、ありがとう」
少しして戻ってきた歌川くんの手には、青いブランケットがあった。私が所属していた時からある物だ。
歌川くんからそれを受け取り、元の位置に座った歌川くんと、私の横にひっついている菊地原くんも入れるように、ブランケットを横向きにして3人分の膝にかける。
「これだと蒼さんが寒いでしょう」
「ぼくらはいいんですけど」
「まあまあ」
ブランケットから抜け出そうとする彼らを押しとどめて、3人でブランケットに収まる。が、すこし丈が足りなくて菊地原くんから文句が飛んできた。
「蒼さん、こっち微妙に足りないんですけど」
「えっごめん。つめればなんとかなるかな」
右側は菊地原くんがぴったりくっついているので、反対側の歌川くんを呼んで少し詰めてもらったらなんとかブランケットに収まる事が出来た。
「ふふ、せまいな」
「なにわかりきった事言ってるんですか」
「もう少し大きめのが欲しいですね」
「そうだね。明日非番だから買ってくるよ」
良いのがあるといいなと考えていれば、菊地原くんがぽつりと呟く。
「ぼくも行きます」
「え、ほんと?」
「今日はこの任務しかないんで。風間さんは大学行くみたいですし、ぼくたちは暇してますから」
一緒に行くと言った菊地原くんに聞き返せば小さく頷いた。彼とは逆側に座っている歌川くんも静かな声で言う。
「学校終わりで良いなら、荷物持ち位はしますよ」
「歌川くんまで?じゃあ3人で買い物いこっか」
ゆっくり準備出来るなあ。3人でお出かけなんて久しぶりだ。
「あ、買い物済んだら歌川くんと行ったカフェに行こうよ」
「ああ、ぼくまだ連れて行ってもらってないですもんね」
「そうそう。美味しいケーキ食べよう」
「いいですね」
雨の日に歌川くんと入ったカフェに行こう、と話していればだんだんと瞼が重くなってくるのを感じる。歌川くんと菊地原くんの2人がリラックスさせてくれるから、遠のいていた眠気が近づいてきた。
「、ふ…」
口まで出掛かった欠伸をかみ殺す。そのまま何度かゆるく瞬きしていれば、私の眠気を察したらしい2人が静かに動くのが滲んだ視界に入る。
「…」
ソファにもたれた私の横に、菊地原くんが同じように静かにもたれた。反対側では、歌川くんがそっとブランケットを胸元の辺りまで上げてくれるのを感じる。そんなことしたら2人がはみ出てしまう、のに。
「う、まってかえる…」
「まあまあ」
「うぐ」
部屋に帰って眠ろうと身体を起こしたら、菊地原くんにぐっと身体を引かれてソファに逆戻りした。
「ちょ、かえらせてくれないかな…」
「まあまあ」
眠気半分で呟く言葉に、今度は歌川くんがそっと室内の照明を少し落とした。視界が暗くなって更に眠くなっていく頭で「あ、この子ら私を帰さない気だ」と悟る。これは部屋に帰るのは無理そうだ。
「ごめん甘える…蒼也さんが帰ってきたらおこしてください…」
「はい」
「ふらふらして頭ぶつけられたら嫌なんで、肩貸します」
「ありがとう…呼び出しあったら放り出して行っていいからね」
「そのつもりです」
部屋に帰るのを諦めて、菊地原くんの肩を借りてそっと頭を乗せる。
「おやすみ…」
「「おやすみなさい」」
おやすみ、と言えば返ってくる2人分の返事。
両側に歌川くんと菊地原くんの体温を感じながら、私はゆっくりと目を閉じた。
眠れない夜
風間隊室にて
(すー…)
((呼び出しないといいけど))
((他の隊もいるし、大丈夫だろう))
蒼が寝たら2人は通信機使って話してそう
この2人ほんとかわいい
風間さん編に続く予定
深夜2時、人の気配がない廊下を歩く。本部の中の照明は極限まで落とされていて、昼間は感じる事がない寂しさを窺わせている。
「んー…」
同じく照明が落とされたラウンジへたどり着き、そっと中を窺うも誰の姿も見えない。とりあえず今日はここまでだな、と部屋に帰ろうと静かに踵を返した。
「蒼さん?」
「っ」
突如聞こえた声に肩を揺らして後ろを振り向けば、長身の人影が見えた。風間隊の歌川くんがラウンジの奥から歩いてくるところだった。
「歌川くんか、びっくりした…」
「驚かせてしまってすみません」
薄暗い中を歩いてくる歌川くんの手には、買ったばかりと思われる飲み物の缶が3つ。
「おつかい?」
「ええ、まあ」
菊地原くんに頼まれたのかな、と訊けば苦笑いで歌川くんが頷く。風間隊がこの時間にいるとなると、私服姿だけれど深夜任務中なのだろう。
「任務お疲れさま」
「今日は本部待機なんですけどね。…蒼さんは、怖い夢でも見ましたか?」
「んー、そんなかんじ」
歌川くんが訊く言葉に頷く。私が眠れなかったり、怖い夢を見たときに夜中にこうしてうろうろしているということを風間隊は知っている。
「良かったら、うちの作戦室まで来ませんか?」
「いく」
即答した私に笑顔で頷いた歌川くんは「少し待っていてください」と近くの自販機へ戻り、缶をもう一つ増やして戻って来た。
「どうぞ、熱いので気を付けて下さいね」
「ありがとう」
暖かいココアの缶を受け取り、二人並んで風間隊の作戦室へ向かって歩き出す。ココアの缶を手のひらで転がしながら小さな声で話していれば、すぐに風間隊の作戦室前にたどり着いた。
「歌川おそ…蒼さん?」
静かに開いた扉の先、菊地原くんがこちらに背を向けてソファに座っているのが見えた。歌川くんに文句を言いかけて何かを感じ取ったのだろうか、くるりとこちらを振り向いた。
「ラウンジにいたから連れてきた」
「こんばんは」
「…ここ座ってください」
「あ、うん」
振り向いた菊地原くんが伸ばした手に引かれ、菊地原くんの隣にぼすりと座った。そのまま菊地原くんはじっと私のことを見つめてくる。
「ほら、菊地原」
「ありがと」
1つの缶コーヒーをテーブルに置いてもう1つを菊地原くんに差し出した歌川くんも、私の左側へ座り込んだ。両手に16歳状態だ。
「なにしたんですか」
「ちょっと寝れないだけだよ」
「蒼さんがそういうときは大体なんかあるんですよ」
さっさと話してください、と視線を外さないまま菊地原くんが強い口調で言う。やっぱり鋭いなあなんて菊地原くんの方を向いている私の後ろからも、歌川くんが落ち着いた声を響かせる。
「話を聞くくらいしか出来ませんけどね」
「なにいってんの、これが人為的なのだったら潰せるでしょ」
「まあな」
「うーん、そんな大したことじゃないんだけどな」
2人が私を挟んでする物騒な会話を聞きながら、とりあえず冷めないうちにと歌川くんにもらったココアのプルタブを開ける。かこっと音をたてて口が開けば、ココアの良い香りが空気にとけた。
「ん、」
「…で、なにしたんです」
同じように飲み物に口をつけた菊地原くんが、依然強い口調のまま問いかけてくる。ココアをもうひとくち飲み込んで、口を開いた。
「ちょっと寂しくなっただけ」
「…」
「ああ、だから誰か探してる感じだったんですね」
「うん。だけど、歌川くんと菊地原くんにも会えたし」
少し一緒にいさせてくれれば満足だよ、と言えば菊地原くんがゆっくりと口を開く。
「…本当みたいですね」
「ここで嘘なんて吐かないよ」
苦笑して言えば、菊地原くんはほんの少しだけ表情を和らげて缶の口をくわえた。歌川くんもコーヒーを飲んでいて、静かな時間が過ぎる。
「…蒼也さんは?」
「ああ、風間さんなら少し出ています」
「たぶん屋上とかそんなんでしょ」
蒼也さんの姿が見えないな、と問えば2人からゆっくりとした口調で告げられる。
「そっか」
「呼びましょうか?」
「たぶんすぐ来ますよ」
「ううん、いいよ」
耳についた通信機に手を当てる歌川くんにゆるく首を振る。蒼也さんだって理由もなしに出ている訳ではないと思うし、ここで少しだけ元気をもらっていこう。
「任務は6時まで?」
「はい」
「その後学校だなんてひどいですよね」
「きついよねえ」
深夜の任務には大人が入るべきなんだろうけれど、そもそもトリオンの成長が止まり始める年齢を過ぎてまでボーダーに所属している方が少ない。申し訳ないけれど、子供たちにも手伝ってもらわないといけないのだ。
「ふう…」
空になったココアの缶をテーブルに置いて、ソファの背にもたれて目を閉じる。きし、と左側でソファが小さく軋んで歌川くんが席を立ったことを知らせた。
「どうぞ」
「ん、ありがとう」
少しして戻ってきた歌川くんの手には、青いブランケットがあった。私が所属していた時からある物だ。
歌川くんからそれを受け取り、元の位置に座った歌川くんと、私の横にひっついている菊地原くんも入れるように、ブランケットを横向きにして3人分の膝にかける。
「これだと蒼さんが寒いでしょう」
「ぼくらはいいんですけど」
「まあまあ」
ブランケットから抜け出そうとする彼らを押しとどめて、3人でブランケットに収まる。が、すこし丈が足りなくて菊地原くんから文句が飛んできた。
「蒼さん、こっち微妙に足りないんですけど」
「えっごめん。つめればなんとかなるかな」
右側は菊地原くんがぴったりくっついているので、反対側の歌川くんを呼んで少し詰めてもらったらなんとかブランケットに収まる事が出来た。
「ふふ、せまいな」
「なにわかりきった事言ってるんですか」
「もう少し大きめのが欲しいですね」
「そうだね。明日非番だから買ってくるよ」
良いのがあるといいなと考えていれば、菊地原くんがぽつりと呟く。
「ぼくも行きます」
「え、ほんと?」
「今日はこの任務しかないんで。風間さんは大学行くみたいですし、ぼくたちは暇してますから」
一緒に行くと言った菊地原くんに聞き返せば小さく頷いた。彼とは逆側に座っている歌川くんも静かな声で言う。
「学校終わりで良いなら、荷物持ち位はしますよ」
「歌川くんまで?じゃあ3人で買い物いこっか」
ゆっくり準備出来るなあ。3人でお出かけなんて久しぶりだ。
「あ、買い物済んだら歌川くんと行ったカフェに行こうよ」
「ああ、ぼくまだ連れて行ってもらってないですもんね」
「そうそう。美味しいケーキ食べよう」
「いいですね」
雨の日に歌川くんと入ったカフェに行こう、と話していればだんだんと瞼が重くなってくるのを感じる。歌川くんと菊地原くんの2人がリラックスさせてくれるから、遠のいていた眠気が近づいてきた。
「、ふ…」
口まで出掛かった欠伸をかみ殺す。そのまま何度かゆるく瞬きしていれば、私の眠気を察したらしい2人が静かに動くのが滲んだ視界に入る。
「…」
ソファにもたれた私の横に、菊地原くんが同じように静かにもたれた。反対側では、歌川くんがそっとブランケットを胸元の辺りまで上げてくれるのを感じる。そんなことしたら2人がはみ出てしまう、のに。
「う、まってかえる…」
「まあまあ」
「うぐ」
部屋に帰って眠ろうと身体を起こしたら、菊地原くんにぐっと身体を引かれてソファに逆戻りした。
「ちょ、かえらせてくれないかな…」
「まあまあ」
眠気半分で呟く言葉に、今度は歌川くんがそっと室内の照明を少し落とした。視界が暗くなって更に眠くなっていく頭で「あ、この子ら私を帰さない気だ」と悟る。これは部屋に帰るのは無理そうだ。
「ごめん甘える…蒼也さんが帰ってきたらおこしてください…」
「はい」
「ふらふらして頭ぶつけられたら嫌なんで、肩貸します」
「ありがとう…呼び出しあったら放り出して行っていいからね」
「そのつもりです」
部屋に帰るのを諦めて、菊地原くんの肩を借りてそっと頭を乗せる。
「おやすみ…」
「「おやすみなさい」」
おやすみ、と言えば返ってくる2人分の返事。
両側に歌川くんと菊地原くんの体温を感じながら、私はゆっくりと目を閉じた。
眠れない夜
風間隊室にて
(すー…)
((呼び出しないといいけど))
((他の隊もいるし、大丈夫だろう))
蒼が寝たら2人は通信機使って話してそう
この2人ほんとかわいい
風間さん編に続く予定