荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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迅とずぶ濡れ
「あと五分早く来てほしかった」
「それ、わざわざ迎えに来てくれたやつに言う?」
ぽたぽたと髪の毛から含み切れなかった水滴が落ちてコンクリートを水玉模様にかえていく。
お気に入りのブラウスも、スカートも、突然降ってきた雨の餌食になってしまって揃って元の色より濃い色をして重く水を含んでいる。今日は雨の予報は出ていなかったから完全に油断していた。
「ずぶ濡れになるの視えてたんでしょうに」
「実力派エリートさんは忙しいのさ」
ずぶ濡れの私とは反対に、私の前に立つ迅悠一は特に濡れている風には見えない。その手に握られた青い傘を恨めしげに見上げた。
「ほら、送ってやるから帰ろうぜ」
「…お願いします」
いまいち納得がいかないけれど、せっかく迎えに来てくれたんだからと悠一の差し出す傘に潜り込んで二人並んで歩き出す。
ずいぶんびっしょり濡れてしまったから、今更傘なんてさしても無駄だろうけれども、そこは悠一の優しさに甘えておく。
「ほら、これ着てな」
「濡れるよ?」
悠一が持っていた紙袋から、真新しい上着を取り出して私に差し出す。びっしょり濡れてるから服貰っても濡らしちゃうだけだけどな、と首を傾げると悠一が苦笑した。
「おれはいいけど、蒼は不都合があるんじゃないかな」
「不都合?」
「透けてるよ」
「なんだと借りるありがと」
悠一が指差したのは私の胸元で、今日着ているのは青い糸で綺麗な刺繍の入った白いブラウス。なにが、なんて言わなくてもわかったからとりあえずお礼を言って上着を受け取ってばさりと羽織った。皺も型崩れもしていない上着は、買って来たばかりの新品みたいだ。
「助かった。わざわざ買ってきてくれてありがとう」
「いーえ。蒼がずぶ濡れになるのが見えたからね」
「ずぶ濡れになるのは回避出来なかった?」
「おれは実力派エリートだよ?それ位なら出来る」
「ならなんで回避させてくれなかったのよ」
髪の毛から靴の中までびっしょりなんだよこっちは、とぶうたれるが悠一は笑ったままだ。
そしてあろうことかとんでもないことを口にする。
「おれが蒼の透けた下着を見たい気持ちが少なからずあったから?」
「本人を前に良い度胸だね。よおしそこに跪け、首を跳ね飛ばして先に玉狛に帰してやろう」
「えーだって、実際に見てみないと得した感がないし。ほら、写真と生身は違うかんじ?」
「トリガー起動」
歩きながら換装して、右手に弧月を生成してぱしりと持った。人目につく場所なら注目の的になってしまうけれど、生憎ここは人気のない警戒区域そばだ。
「え、あれ、ちょっと待ってなんか視えてたのと違う展開になった」
「へーそれは大変だね、ッ!」
「わわ、トリガー解除!」
首を跳ね飛ばすつもりだったのに、悠一が換装を解いてしまったので勢いを付けていた弧月をぎりぎりで出したシールドで弾いた。
「あっぶなかった…!」
「なにしてんの、危ないから換装解かないでよ」
「いやいやだって本気だったでしょ」
「本気にさせたのは悠一ですけど?」
責任取ろうか、とにこにこする私に対して悠一がたらりと冷や汗を流した。悠一も珍しく本気で焦ってるなあ、なんて思いながらも弧月は首元から離さない。
「ごめんって、本当に悪かった!軽率でした!」
「へえ」
「今トリオン体破損しちゃうと、今夜の用事が出来なくて困る!いや困ります!」
「それで?」
にこにこする私と、生身の喉元に弧月を押し当てられて両手を上げて弁明する悠一。はたから見れば完全に私が加害者だ。
「どうにか許していただけませんか…」
「……ココア飲みたい」
「!」
じっとりとした視線に対して本気で謝ってる悠一に、ひとつため息を吐いて呟いた。私の言葉を拾った悠一がぱっと顔を上げる。
「それで今回は許す」
「!了解」
ここからさほど遠くないカフェのココアをリクエストすれば、悠一は「これ持ってて!」と傘を手渡して小雨の中を走って行く。
「はあ…」
換装してしまったので濡れた感触はとうに消えてしまっているが、このまま放置すれば確実に風邪をひくだろう。
ぱしゃん、と水たまりを一蹴りして歩き出す。先に行っても悠一はちゃんと追いつくだろうし。
「風邪引いたら怒られるのはこっちなんだぞ…」
万が一風邪をひいたりなんてしたら、荒船くんから「自己管理もできないなんて云々」なんてお話を賜ることになってしまう。それは避けたい。
「蒼!」
しばらく歩いていれば、後ろから掛かる声。振り向けば、悠一が濡れながらこちらへ走ってくるのが見えた。
「おかえり」
「はいこれ…!」
「ありがと」
私に暖かいココアを手渡し、悠一が大きく息を吐く。どうやら生身のまま走ってきたようで、だいぶ息が上がっている。
「運動不足じゃない?」
「ほんとにね…ちょっとレイジさんと一緒に走るかな…」
ふう、と息を整えた悠一が身体を伸ばし、濡れて乱れた髪をぐいっと掻き上げてから自分の分のカップに口を付けた。准はもちろんのことだけど、悠一は黙ってれば格好いいんだけどなあ。
「、ん…」
「…トリガー解除」
私も換装を解いてびしょ濡れの姿に戻る。濡れた服によって寒気が戻ってくるのを感じながらココアを喉に流し込んだ。
「おいしい」
「よかった。…貸して、傘持つよ」
「ん」
傘を悠一に手渡し、少し高くなった傘の中に二人で収まる。なんとなくこちらの方が傘に入るようにしてくれたので、お礼を言いながら歩きだす。
それから二人で雨音を聞きながら、本部まで歩いて行った。
ずぶ濡れの帰り道
悠一と相合傘
(そして次は刎ねる)
(肝に銘じておきます…)
この後風邪をひく迅さん
「あと五分早く来てほしかった」
「それ、わざわざ迎えに来てくれたやつに言う?」
ぽたぽたと髪の毛から含み切れなかった水滴が落ちてコンクリートを水玉模様にかえていく。
お気に入りのブラウスも、スカートも、突然降ってきた雨の餌食になってしまって揃って元の色より濃い色をして重く水を含んでいる。今日は雨の予報は出ていなかったから完全に油断していた。
「ずぶ濡れになるの視えてたんでしょうに」
「実力派エリートさんは忙しいのさ」
ずぶ濡れの私とは反対に、私の前に立つ迅悠一は特に濡れている風には見えない。その手に握られた青い傘を恨めしげに見上げた。
「ほら、送ってやるから帰ろうぜ」
「…お願いします」
いまいち納得がいかないけれど、せっかく迎えに来てくれたんだからと悠一の差し出す傘に潜り込んで二人並んで歩き出す。
ずいぶんびっしょり濡れてしまったから、今更傘なんてさしても無駄だろうけれども、そこは悠一の優しさに甘えておく。
「ほら、これ着てな」
「濡れるよ?」
悠一が持っていた紙袋から、真新しい上着を取り出して私に差し出す。びっしょり濡れてるから服貰っても濡らしちゃうだけだけどな、と首を傾げると悠一が苦笑した。
「おれはいいけど、蒼は不都合があるんじゃないかな」
「不都合?」
「透けてるよ」
「なんだと借りるありがと」
悠一が指差したのは私の胸元で、今日着ているのは青い糸で綺麗な刺繍の入った白いブラウス。なにが、なんて言わなくてもわかったからとりあえずお礼を言って上着を受け取ってばさりと羽織った。皺も型崩れもしていない上着は、買って来たばかりの新品みたいだ。
「助かった。わざわざ買ってきてくれてありがとう」
「いーえ。蒼がずぶ濡れになるのが見えたからね」
「ずぶ濡れになるのは回避出来なかった?」
「おれは実力派エリートだよ?それ位なら出来る」
「ならなんで回避させてくれなかったのよ」
髪の毛から靴の中までびっしょりなんだよこっちは、とぶうたれるが悠一は笑ったままだ。
そしてあろうことかとんでもないことを口にする。
「おれが蒼の透けた下着を見たい気持ちが少なからずあったから?」
「本人を前に良い度胸だね。よおしそこに跪け、首を跳ね飛ばして先に玉狛に帰してやろう」
「えーだって、実際に見てみないと得した感がないし。ほら、写真と生身は違うかんじ?」
「トリガー起動」
歩きながら換装して、右手に弧月を生成してぱしりと持った。人目につく場所なら注目の的になってしまうけれど、生憎ここは人気のない警戒区域そばだ。
「え、あれ、ちょっと待ってなんか視えてたのと違う展開になった」
「へーそれは大変だね、ッ!」
「わわ、トリガー解除!」
首を跳ね飛ばすつもりだったのに、悠一が換装を解いてしまったので勢いを付けていた弧月をぎりぎりで出したシールドで弾いた。
「あっぶなかった…!」
「なにしてんの、危ないから換装解かないでよ」
「いやいやだって本気だったでしょ」
「本気にさせたのは悠一ですけど?」
責任取ろうか、とにこにこする私に対して悠一がたらりと冷や汗を流した。悠一も珍しく本気で焦ってるなあ、なんて思いながらも弧月は首元から離さない。
「ごめんって、本当に悪かった!軽率でした!」
「へえ」
「今トリオン体破損しちゃうと、今夜の用事が出来なくて困る!いや困ります!」
「それで?」
にこにこする私と、生身の喉元に弧月を押し当てられて両手を上げて弁明する悠一。はたから見れば完全に私が加害者だ。
「どうにか許していただけませんか…」
「……ココア飲みたい」
「!」
じっとりとした視線に対して本気で謝ってる悠一に、ひとつため息を吐いて呟いた。私の言葉を拾った悠一がぱっと顔を上げる。
「それで今回は許す」
「!了解」
ここからさほど遠くないカフェのココアをリクエストすれば、悠一は「これ持ってて!」と傘を手渡して小雨の中を走って行く。
「はあ…」
換装してしまったので濡れた感触はとうに消えてしまっているが、このまま放置すれば確実に風邪をひくだろう。
ぱしゃん、と水たまりを一蹴りして歩き出す。先に行っても悠一はちゃんと追いつくだろうし。
「風邪引いたら怒られるのはこっちなんだぞ…」
万が一風邪をひいたりなんてしたら、荒船くんから「自己管理もできないなんて云々」なんてお話を賜ることになってしまう。それは避けたい。
「蒼!」
しばらく歩いていれば、後ろから掛かる声。振り向けば、悠一が濡れながらこちらへ走ってくるのが見えた。
「おかえり」
「はいこれ…!」
「ありがと」
私に暖かいココアを手渡し、悠一が大きく息を吐く。どうやら生身のまま走ってきたようで、だいぶ息が上がっている。
「運動不足じゃない?」
「ほんとにね…ちょっとレイジさんと一緒に走るかな…」
ふう、と息を整えた悠一が身体を伸ばし、濡れて乱れた髪をぐいっと掻き上げてから自分の分のカップに口を付けた。准はもちろんのことだけど、悠一は黙ってれば格好いいんだけどなあ。
「、ん…」
「…トリガー解除」
私も換装を解いてびしょ濡れの姿に戻る。濡れた服によって寒気が戻ってくるのを感じながらココアを喉に流し込んだ。
「おいしい」
「よかった。…貸して、傘持つよ」
「ん」
傘を悠一に手渡し、少し高くなった傘の中に二人で収まる。なんとなくこちらの方が傘に入るようにしてくれたので、お礼を言いながら歩きだす。
それから二人で雨音を聞きながら、本部まで歩いて行った。
ずぶ濡れの帰り道
悠一と相合傘
(そして次は刎ねる)
(肝に銘じておきます…)
この後風邪をひく迅さん