荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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18歳組とお祭り
事の発端は、たまたま行き会った任務帰りの慶に今日の夕方から警戒区域のそばでお祭りがあるらしいという事を聞いて、行きたいなあと呟いたことだった。
「で、なんでこうなったのかな」
「お祭り行きたいっつったの蒼さんだって聞きましたよ?」
「祭りとか久々だなー」
「蒼さん1人じゃ心配だそうです、荒船が」
「まあ、人数は多い方がいいよねえ」
「つーか、ホント過保護だよなァ」
「鋼、お前蒼さんの傍から離れるなよ」
「ああ」
お囃子の音が聞こえてくる中、川沿いの道を歩いている私は18歳男子たちに囲まれていた。
事の発端となった私の一言を、たまたま近くに居たらしい穂刈くんが拾って荒船くんに伝え、私が一人で出歩かない様に18歳組の面々に召集を掛けて任務帰りの私を捕まえたらしい。影浦くんの言う通り、本当に過保護だ。
お祭り来れたのはいいけど、と荒船くん達に厳重に警備されつつ、祭り会場である神社へ向かって行った。
◆
「あれ?…はぐれたかな」
「はぐれましたねー」
「見事に誰もいないねー」
ぽつりと呟く私の声に、2人分ののんびりとした声が答えた。
とりあえずはお参りだろ、とぞろぞろお参りに行って、北添くんと犬飼くんとおみくじ引いてたらいつの間にかはぐれたらしい。早すぎる。
「荒船くんに殺されるかなあ」
「流石にはぐれただけじゃ大丈夫じゃないですか?」
「普段どんな教育されてんすか」
俺らが居るから大丈夫でしょと笑う犬飼くん、おみくじを結んできた北添くんと辺りを見回してみるが、目印になる背の高い当真くんの頭も見えない。
これは駄目だなと諦めて、とりあえずお祭り会場を歩き出した。はぐれちゃったけど、楽しまなきゃ損だ。
「お、りんご飴だ」
「食べます?」
「ちっちゃいの食べたい」
「よし、ゾエ俺おっきいやつな」
「あれれ、ゾエさんが買う流れ?」
「ご馳走様でーす」
りんご飴の屋台の前で足を止めれば、北添くんが犬飼くんに唆されてりんご飴を買いに行ってくれた。
差し出されたりんご飴をお礼を言いながら貰って、3人で真っ赤な飴を齧りながら歩く。
「あまーい」
「やっぱりんご飴って定番っすよねー」
「ねー」
「見て見て~、ゾエさんの舌!」
「わ、真っ赤だ」
「それを言ったら俺らも真っ赤っしょ」
べー、と互いに舌を見せて笑いあう。飴のコーティングをがりがり齧って剥がして、中のりんごに齧りつく。私のは一番小さい姫りんごの飴、北添くんと犬飼くんは一番おっきなサイズのりんご飴を齧っている。
「おいしかった!」
「あ、ゴミ捨ててきますよー」
「ありがと」
「ゾエ、お前蒼さんの傍にいろよ」
「りょーかい」
犬飼くんが割り箸を捨てに行ってくれている間、北添くんと近くのわたあめの出店を見ていると、北添くんにどんっと誰かがぶつかってきた。
「っわ、」
「平気?」
すこしだけよろけた北添くんに声を掛ければ、平気ですよと笑顔が返ってくる。安心したのもつかの間、ぶつかってきた相手が文句を言ってきた。
「オイ大丈夫か?」
「あーだめだわ腕折れたわ!こりゃ慰謝料貰わないとなあ!」
「ふっ」
「あ、駄目ですよ蒼さん。いくら古典的だからって吹き出しちゃ」
「ふふっご、ごめ、んふふ、」
まさか古典的チンピラの様な台詞を地で言ってくる人がいるとは思わなかったもんで、盛大にツボに入ってしまった。ぱしりと口を掌で覆う。
そんな私を3人のチンピラさん達から庇うように、北添くんが前に出る。
「とりあえず有り金全部出せや、な?痛い目見たくねえだろ?」
「ふ、っふふ、」
古典的過ぎるだろ、と堪え切れない笑いが口から溢れてしまう。それを心配そうに見てくる北添くんには悪いけれど、これはどうしようもない。
犬飼くんが居ればこうはならなかったかもしれないけれど、彼はいまゴミ捨てという重大任務に就いている。
「蒼さん、1人にして悪いんですけど先に逃げてもらえます?」
「っふ、了解」
確実にチンピラ達の怒りゲージを上げに入っている私を遠ざけるように北添くんがそっと呟く。
それに応えて、彼の背中に隠れるようにしながら雑踏の中へ紛れ込んだ。
◆
「はー…いやいや、あんな人もいるんだなあ…」
とりあえずは犬飼くんと合流しようと歩いていれば、少し遠くの店でどよめきが上がった。
その声に釣られてそちらを見れば、背の高いリーゼントヘア。当真くんだ。
「当真くん!」
「あ、蒼さん!なあ、蒼さん見っけたぞ」
「叩くな、当真」
狙いにくいだろうと文句を言うのは、穂刈くんだ。スナイパーの血が騒ぐのだろうか、2人が居るのは射的の屋台だった。
すでに二人の周りには獲得したと思われる景品たちがずらりと並んでいる。どよめきはこれらを次々と撃ち落とす彼らによるものか。狙いを定めた穂刈くんが軽い音を立ててコルクの弾を発射させれば、それは綺麗に箱のお菓子を弾き落した。
「蒼さん、何か欲しいのあります?」
「え、取ってくれるの?」
「大丈夫そうです、ここにあるのなら」
「そそ、任せてください」
にんまり笑う彼らの好意に甘えて、何か目を引く物が無いか景品を物色する。
ぬいぐるみ、お菓子、小物が並ぶ中、ひとつの置物が目を引いた。
「あ、あれがいいな」
「どれっすか?」
「イルカの置物ですか、右上の」
「そうそれ!」
二頭のイルカが波に乗っているような置物がいいなと言えば、すっと玩具の銃にコルク弾を装填した穂刈くんが狙いを定める。
ぱんっと良い音を立てて発射された弾は、置き物の波の部分に当たったけれど少しずれただけで落ちては来なかった。
「う、惜しい」
「狙うトコが違えだろ、貸してみ」
「ああ」
当真くんが穂刈くんから銃を受け取って小さいコルク弾を再装填、それからおもむろに銃を構えて引き金を引いた。
当真くんが撃ち出した弾は右側のイルカの口先に当たり、勢いよく仰け反った置物が半回転しながら後ろへ倒れ込んでいった。
「おおー!」
「ま、こんなもんっすよね」
「流石だな、スナイパー1位は」
当真くんは穂刈くんに銃を返し、店主から置物を受け取った。それを笑顔で私に手渡してくれる。
「はいどーぞ、蒼さん」
「ありがとう!大事にする!」
もらった置物が万が一にも破損しないように大事にバッグの中へ仕舞い込み、穂刈くんは残っていた2発の弾を消費するように、正確に箱物のお菓子を撃ち落した。
穂刈くんはそれらの戦利品たちを袋につめてもらい、それを担ぐように持ってこちらを振り向いて首をかしげた。
「どうしました?他の人達は」
「犬飼くんと北添くんが一緒に居たんだけど、犬飼くんはゴミ捨てという重大任務に、その間に北添くんは悪の犠牲になりました」
「悪の犠牲…」
「ゾエなにしたww」
笑う当真くんに北添くんは大丈夫だろうと伝えてから、それよりもと口を開く。
「当真くんたちも荒船くん達とはぐれたの?」
「いや、最初は蒼さんを探してましたよ」
「ちゃんと探してました、当真がここの出店を見つけるまでは」
「なんだよ、お前だって楽しんでたろ」
「それのお蔭ではぐれたがな」
「やっぱりはぐれたのか」
じゃあ、荒船くんの現在地もわからないよなあ。
でもとりあえずは背の高い2人にくっついていれば、その内合流できるだろうと考え直した。
「一緒についてってもいい?」
「何言ってんすか、蒼さん1人にするわけないでしょ」
「荒船に殺されます、俺たちが」
ほら行きましょー、と言う当真くんと穂刈くんに挟まれるように歩き出す。この2人なら遠くからでも目立つし、はぐれてしまった犬飼くんや北添くん、荒船くん達からもすぐに見つけてもらえるだろうと一安心した。
◆
「あ、金魚」
当真くんと穂刈くん、その2人とから揚げを食べたりしながら人ごみの中を歩いていたら金魚すくいの出店を見つけた。
照明の下でひらひら泳ぐ赤い金魚たちをちらりと見て、近くに居る2人に声を掛けようと前を向いた。
「ねえ、2人とも………あれ」
一緒に歩いていた当真くんと穂刈くんの姿が見えない。慌てて辺りを見回すも、2人の姿は何処にも見えなかった。
「うそでしょ」
不注意だった。さっき当真くんに「またはぐれないように手でも繋ぎましょうか」と笑いながら言われたのを冗談だと思って流さなければよかった。
とりあえず金魚の出店の横へ向かって、人があまりいないそこで手早く荒船くんに現在地の連絡を入れる。というか最初から携帯で連絡すればよかった。着信27件という文字は見なかったことにする。
「これは絶対怒られるなあ…」
目線を落とした携帯からは、早くも荒船くんからの返信が届いている。『そこから絶対に、一歩も動かないで下さい。絶対に』というメッセージからは怒りが滲み出ている気がするから、大人しく金魚を見て待つことにした。
「――…あーいたいた」
しばらく待っていれば、聞き覚えのある声が聞こえてきた。その声に釣られるように顔を上げれば、影浦くんがこちらへやってくるところだった。
「影浦くん」
「おー。迎えに来てやったぜ」
「良かったー、ありがとう」
荒船くんから派遣されてきたであろう影浦くんは、1人のしのしと歩いてきて私が見ていた出店を覗き込んだ。
「金魚か」
「うん。あの子綺麗だなーって見てた」
「あ?どれだ?」
「そこの…端っこにいる尾びれだけ白い子」
私が見ていた金魚を指差すと、「あれか」と視認した影浦くんが後ろポケットに入れていた財布を引っ張りだした。
そこから何枚かのコインを取り出し、それと交換で出店のおじさんからポイを受け取った。
「やるの?」
「アイツ欲しいんだろ?」
「え、どうしてもと欲しいと言うわけでは」
「うっせえ、もう金払っちまったし。いいからそこで見てろ」
そう言った影浦くんは、軽く腕まくりをして金魚の入ったケースの前にしゃがみ込んだ。半分破れたポイを持ったちびっこが興味深そうに影浦くんを見る。
影浦くんはそれに興味を示さず、左手で近くを浮いてる空のお椀を引っ掴んで適当に水を満たし、ポイをくるりと回した。
「…影浦くん、金魚すくえるの?」
「多分いけんだろ」
「へえ」
同じようにしゃがみこんだ私の、珍しいものを見るような視線についてはノーコメントで影浦くんは私が綺麗と言った金魚が水面に浮上するのを待っている。
私はそんな影浦くんを見ながら、ぽつりと零す。
「どっちかというと、影浦くんはサメ釣りとかしてそうだけど」
「あー、ちいせェ頃やったな」
出店の前に置かれた一畳ほどの籠の中に、口に番号の書かれた棒を突っ込まれてこれでもかと入っているサメのフィギュア(だったか)を専用の竿で釣り上げるのを思い出しながら言えば、金魚から目を離さないまま影浦くんが頷いた。
「…」
静かになった影浦くんが、金魚に狙いを定める。さながら獲物を狙う肉食獣のようだな、と思いながらポイを握る影浦くんの手元をじっと見た。
「…、」
すいっ、と尾びれを翻した金魚の行く手を遮るように、影浦くんが水面に対して斜めにポイを差し込む。滑るようにポイの上に乗った金魚を、余計な水が乗って紙が破れないように気をつけながら素早く待機させていたお椀の中へ放り込んだ。
「すごい!」
「あーハイハイ、次はどいつにすんだ?」
「私としては、その子すくってくれただけで大満足なんだけど」
「じゃあテキトーにすくっちまうぞ」
「うん」
影浦くんが持つお椀の中で金魚が泳ぐ。本当に掬っちゃったよ、影浦くんすごい!という私のきらきらした視線から逃れるように顔を背けた影浦くんは、そのまま適当に狙いを定めた金魚に向かってポイを突っ込んだ。
◆
影浦くんが3匹目の金魚に狙いを定めた時、それは突然降って来た。
「お前等、なにしてる」
祭りの喧噪のなか、地を這う様な声が後ろから聞こえて私たちは揃って肩をびくりと竦ませた。
その際、影浦くんが掬おうとしていた大きな金魚がぱしゃりと跳ねてポイに大きな穴を開けて水槽へ戻っていった。
「カゲ…迎えに行ってさっさと戻ってこいっつったよな?」
「あー…悪ィ」
破れたポイを一瞥してもう使えないと判断した影浦くんが、荒船くんに軽く謝りながら店主にポイとお椀を渡した。
店主は特に動じる事も無く、にこにこしながら手早く金魚を袋に詰めて行く。金魚に夢中で母親にしかられる子供をよく見ているからだろうかと考えていれば、金魚を受け取った私にも鋭い声が飛んでくる。
「蒼さんもですよ」
「そりゃ俺たちも悪ぶふっ」
「ごめんなさ、っふ、ちょ、待って村上くん!?」
「はい」
影浦くんと謝ろうと後ろを向いたら、仁王立ちで怒りのオーラを滲ませる荒船くんの横には赤い猫のお面をかぶった長身の人物がいた。村上くんの思いもしなかった格好に思わず2人で噴出してしまった。
「何それ何かぶってるのw」
「じばにゃんです」
「じばにゃんww」
「まじかよww」
いつもの静かな声でじばにゃんだと言う村上くんに、影浦くんが爆笑する。
村上くんは笑う私達に対してお面を外さないまま軽く頭が揺れる。あ、これは村上くんも笑ってるな。
「…」
「っ…申し訳ありませんでした」
「…悪ィ」
影浦くんのサイドエフェクトが無くてもわかるほどのざっっくりと刺さる視線を受け、影浦くんと瞬時に笑いを殺して2人で荒船くんに向き直って謝る。
私でこれなんだから、影浦くんはもっとひどい事になっているのだろう、なんて思う間もなく頭にばしっと衝撃が走った。
「っわ」
「散々心配させて」
「あっちょ、待って待って!」
「人がどれだけ心配したかわかってるんですか」
「ごめ、ごめん待って髪が大変な事に!」
頭に走った衝撃は、荒船くんが私の頭に手を置いたもので。それから文句を言いいながら勢いよく、かつ力強く私の髪の毛を掻き混ぜ始めた。
「今度ははぐれないでください」
「了解…!」
怒気を含んだ声の荒船くんに対し、諦めて大人しく撫で回される。これははぐれたことに対する戒めだ…!私の横では村上くんがじばにゃんのお面をかぶったまま両手を猫耳に見立てて猫っぽいポーズを取っていて、それを見て影浦くんが堪え切れずに噴出すというカオスな光景になっている。
「見つけたぞ、やっと」
「おーよかった、今度は一緒にいるな」
頭がずいぶんとぐしゃぐしゃになった頃、お囃子の音の合間から声が聞こえてきた。目だけをそちらに向ければ、当真くんと穂刈くんの二人がやってくるのが見えた。
「先程はご迷惑をおかけしました…!」
「いーっすいーっす」
「悪かったんです、こちらも。すみませんでした、目を離して」
二人に向かって深々と頭を下げれば、二人からは笑顔が返ってくる。当真くんはついでに乱れまくった私の髪を手櫛で軽く整えてくれた。
「蒼さん、随分派手にやられましたねー」
「はい…」
「当真、それ直さなくていいぞ」
「そういうわけにもいかないだろー」
「金魚ですか、持ってるの」
「そう、影浦くんが取ってくれたの」
穂刈くんに持っていた金魚を見せれば、もの珍しそうに影浦くんに視線を移した。影浦くんは引き続き村上くんに笑っていたが、穂刈くんの視線を受けてぴくりと反応した。
「なんだよ」
「珍しい事もあるもんだと思ってな、カゲにしては」
「おい穂刈手前、その視線止めろ」
嫌な感じの視線を受けたらしい影浦くんが、がしがし頭を掻く。その様子を見ていれば、人波をかき分けて犬飼くんが姿を現した。その後ろには人波に揉まれつつも北添くんが付いてきている。
「やーっと見っけた!戻ったらゾエしかいないし、探しましたよー」
「本当にごめんね…!北添くんは大丈夫だった?」
「換装してたんでノーダメージでした」
いくら殴ってもびくともしないし、先に向こうが飽きて帰りましたよ。なんてにこにこしている北添くんを見て安堵する。こういうとき、トリガーは本当に役に立つと思う。いや、普通はこんな使い方しないけど。
そう思っていれば、後ろに立つ荒船くんが私に声を掛けた。
「全員そろったし、早く行かないと花火始まりますよ」
「え、花火あるの?」
「向こうに席を取ってあります」
「わ、本当?」
荒船くんの言葉に行こう!と答えれば、影浦くんが後ろから言う。
「じゃあ出店で食いモン調達しながら行こうぜ、腹減った」
「あ、迷惑かけたし私がご馳走するよ。好きなの買って」
「本当ですか」
「ゾエさんも?」
「良いんですか蒼さん。ゾエ、結構食いますよ?」
犬飼くんにお財布事情を心配されるが、私は一応S級隊員なのだ。この子達よりもお給料をもらっているし、たまには後輩たちにご飯を奢ってあげたい。
「大丈夫、食べ盛りの男子高校生7人のご飯を奢れるくらいの給料は貰ってるから心配しないで」
「おおー」
「ご馳走様です」
さっすがS級っすねなんて笑う当真くんに、ぺこりと頭を下げる村上くん。
じゃあまずはそこの焼きそばからっすね、と先頭きって歩き出した犬飼くんとそれに続く一行の間でがっつりとガードされながら花火を見るために夜店の中を歩き出した。
18歳組とお祭り
大波乱のお祭り道中
(花火綺麗!)
(また来年来ましょうか)
事の発端は、たまたま行き会った任務帰りの慶に今日の夕方から警戒区域のそばでお祭りがあるらしいという事を聞いて、行きたいなあと呟いたことだった。
「で、なんでこうなったのかな」
「お祭り行きたいっつったの蒼さんだって聞きましたよ?」
「祭りとか久々だなー」
「蒼さん1人じゃ心配だそうです、荒船が」
「まあ、人数は多い方がいいよねえ」
「つーか、ホント過保護だよなァ」
「鋼、お前蒼さんの傍から離れるなよ」
「ああ」
お囃子の音が聞こえてくる中、川沿いの道を歩いている私は18歳男子たちに囲まれていた。
事の発端となった私の一言を、たまたま近くに居たらしい穂刈くんが拾って荒船くんに伝え、私が一人で出歩かない様に18歳組の面々に召集を掛けて任務帰りの私を捕まえたらしい。影浦くんの言う通り、本当に過保護だ。
お祭り来れたのはいいけど、と荒船くん達に厳重に警備されつつ、祭り会場である神社へ向かって行った。
◆
「あれ?…はぐれたかな」
「はぐれましたねー」
「見事に誰もいないねー」
ぽつりと呟く私の声に、2人分ののんびりとした声が答えた。
とりあえずはお参りだろ、とぞろぞろお参りに行って、北添くんと犬飼くんとおみくじ引いてたらいつの間にかはぐれたらしい。早すぎる。
「荒船くんに殺されるかなあ」
「流石にはぐれただけじゃ大丈夫じゃないですか?」
「普段どんな教育されてんすか」
俺らが居るから大丈夫でしょと笑う犬飼くん、おみくじを結んできた北添くんと辺りを見回してみるが、目印になる背の高い当真くんの頭も見えない。
これは駄目だなと諦めて、とりあえずお祭り会場を歩き出した。はぐれちゃったけど、楽しまなきゃ損だ。
「お、りんご飴だ」
「食べます?」
「ちっちゃいの食べたい」
「よし、ゾエ俺おっきいやつな」
「あれれ、ゾエさんが買う流れ?」
「ご馳走様でーす」
りんご飴の屋台の前で足を止めれば、北添くんが犬飼くんに唆されてりんご飴を買いに行ってくれた。
差し出されたりんご飴をお礼を言いながら貰って、3人で真っ赤な飴を齧りながら歩く。
「あまーい」
「やっぱりんご飴って定番っすよねー」
「ねー」
「見て見て~、ゾエさんの舌!」
「わ、真っ赤だ」
「それを言ったら俺らも真っ赤っしょ」
べー、と互いに舌を見せて笑いあう。飴のコーティングをがりがり齧って剥がして、中のりんごに齧りつく。私のは一番小さい姫りんごの飴、北添くんと犬飼くんは一番おっきなサイズのりんご飴を齧っている。
「おいしかった!」
「あ、ゴミ捨ててきますよー」
「ありがと」
「ゾエ、お前蒼さんの傍にいろよ」
「りょーかい」
犬飼くんが割り箸を捨てに行ってくれている間、北添くんと近くのわたあめの出店を見ていると、北添くんにどんっと誰かがぶつかってきた。
「っわ、」
「平気?」
すこしだけよろけた北添くんに声を掛ければ、平気ですよと笑顔が返ってくる。安心したのもつかの間、ぶつかってきた相手が文句を言ってきた。
「オイ大丈夫か?」
「あーだめだわ腕折れたわ!こりゃ慰謝料貰わないとなあ!」
「ふっ」
「あ、駄目ですよ蒼さん。いくら古典的だからって吹き出しちゃ」
「ふふっご、ごめ、んふふ、」
まさか古典的チンピラの様な台詞を地で言ってくる人がいるとは思わなかったもんで、盛大にツボに入ってしまった。ぱしりと口を掌で覆う。
そんな私を3人のチンピラさん達から庇うように、北添くんが前に出る。
「とりあえず有り金全部出せや、な?痛い目見たくねえだろ?」
「ふ、っふふ、」
古典的過ぎるだろ、と堪え切れない笑いが口から溢れてしまう。それを心配そうに見てくる北添くんには悪いけれど、これはどうしようもない。
犬飼くんが居ればこうはならなかったかもしれないけれど、彼はいまゴミ捨てという重大任務に就いている。
「蒼さん、1人にして悪いんですけど先に逃げてもらえます?」
「っふ、了解」
確実にチンピラ達の怒りゲージを上げに入っている私を遠ざけるように北添くんがそっと呟く。
それに応えて、彼の背中に隠れるようにしながら雑踏の中へ紛れ込んだ。
◆
「はー…いやいや、あんな人もいるんだなあ…」
とりあえずは犬飼くんと合流しようと歩いていれば、少し遠くの店でどよめきが上がった。
その声に釣られてそちらを見れば、背の高いリーゼントヘア。当真くんだ。
「当真くん!」
「あ、蒼さん!なあ、蒼さん見っけたぞ」
「叩くな、当真」
狙いにくいだろうと文句を言うのは、穂刈くんだ。スナイパーの血が騒ぐのだろうか、2人が居るのは射的の屋台だった。
すでに二人の周りには獲得したと思われる景品たちがずらりと並んでいる。どよめきはこれらを次々と撃ち落とす彼らによるものか。狙いを定めた穂刈くんが軽い音を立ててコルクの弾を発射させれば、それは綺麗に箱のお菓子を弾き落した。
「蒼さん、何か欲しいのあります?」
「え、取ってくれるの?」
「大丈夫そうです、ここにあるのなら」
「そそ、任せてください」
にんまり笑う彼らの好意に甘えて、何か目を引く物が無いか景品を物色する。
ぬいぐるみ、お菓子、小物が並ぶ中、ひとつの置物が目を引いた。
「あ、あれがいいな」
「どれっすか?」
「イルカの置物ですか、右上の」
「そうそれ!」
二頭のイルカが波に乗っているような置物がいいなと言えば、すっと玩具の銃にコルク弾を装填した穂刈くんが狙いを定める。
ぱんっと良い音を立てて発射された弾は、置き物の波の部分に当たったけれど少しずれただけで落ちては来なかった。
「う、惜しい」
「狙うトコが違えだろ、貸してみ」
「ああ」
当真くんが穂刈くんから銃を受け取って小さいコルク弾を再装填、それからおもむろに銃を構えて引き金を引いた。
当真くんが撃ち出した弾は右側のイルカの口先に当たり、勢いよく仰け反った置物が半回転しながら後ろへ倒れ込んでいった。
「おおー!」
「ま、こんなもんっすよね」
「流石だな、スナイパー1位は」
当真くんは穂刈くんに銃を返し、店主から置物を受け取った。それを笑顔で私に手渡してくれる。
「はいどーぞ、蒼さん」
「ありがとう!大事にする!」
もらった置物が万が一にも破損しないように大事にバッグの中へ仕舞い込み、穂刈くんは残っていた2発の弾を消費するように、正確に箱物のお菓子を撃ち落した。
穂刈くんはそれらの戦利品たちを袋につめてもらい、それを担ぐように持ってこちらを振り向いて首をかしげた。
「どうしました?他の人達は」
「犬飼くんと北添くんが一緒に居たんだけど、犬飼くんはゴミ捨てという重大任務に、その間に北添くんは悪の犠牲になりました」
「悪の犠牲…」
「ゾエなにしたww」
笑う当真くんに北添くんは大丈夫だろうと伝えてから、それよりもと口を開く。
「当真くんたちも荒船くん達とはぐれたの?」
「いや、最初は蒼さんを探してましたよ」
「ちゃんと探してました、当真がここの出店を見つけるまでは」
「なんだよ、お前だって楽しんでたろ」
「それのお蔭ではぐれたがな」
「やっぱりはぐれたのか」
じゃあ、荒船くんの現在地もわからないよなあ。
でもとりあえずは背の高い2人にくっついていれば、その内合流できるだろうと考え直した。
「一緒についてってもいい?」
「何言ってんすか、蒼さん1人にするわけないでしょ」
「荒船に殺されます、俺たちが」
ほら行きましょー、と言う当真くんと穂刈くんに挟まれるように歩き出す。この2人なら遠くからでも目立つし、はぐれてしまった犬飼くんや北添くん、荒船くん達からもすぐに見つけてもらえるだろうと一安心した。
◆
「あ、金魚」
当真くんと穂刈くん、その2人とから揚げを食べたりしながら人ごみの中を歩いていたら金魚すくいの出店を見つけた。
照明の下でひらひら泳ぐ赤い金魚たちをちらりと見て、近くに居る2人に声を掛けようと前を向いた。
「ねえ、2人とも………あれ」
一緒に歩いていた当真くんと穂刈くんの姿が見えない。慌てて辺りを見回すも、2人の姿は何処にも見えなかった。
「うそでしょ」
不注意だった。さっき当真くんに「またはぐれないように手でも繋ぎましょうか」と笑いながら言われたのを冗談だと思って流さなければよかった。
とりあえず金魚の出店の横へ向かって、人があまりいないそこで手早く荒船くんに現在地の連絡を入れる。というか最初から携帯で連絡すればよかった。着信27件という文字は見なかったことにする。
「これは絶対怒られるなあ…」
目線を落とした携帯からは、早くも荒船くんからの返信が届いている。『そこから絶対に、一歩も動かないで下さい。絶対に』というメッセージからは怒りが滲み出ている気がするから、大人しく金魚を見て待つことにした。
「――…あーいたいた」
しばらく待っていれば、聞き覚えのある声が聞こえてきた。その声に釣られるように顔を上げれば、影浦くんがこちらへやってくるところだった。
「影浦くん」
「おー。迎えに来てやったぜ」
「良かったー、ありがとう」
荒船くんから派遣されてきたであろう影浦くんは、1人のしのしと歩いてきて私が見ていた出店を覗き込んだ。
「金魚か」
「うん。あの子綺麗だなーって見てた」
「あ?どれだ?」
「そこの…端っこにいる尾びれだけ白い子」
私が見ていた金魚を指差すと、「あれか」と視認した影浦くんが後ろポケットに入れていた財布を引っ張りだした。
そこから何枚かのコインを取り出し、それと交換で出店のおじさんからポイを受け取った。
「やるの?」
「アイツ欲しいんだろ?」
「え、どうしてもと欲しいと言うわけでは」
「うっせえ、もう金払っちまったし。いいからそこで見てろ」
そう言った影浦くんは、軽く腕まくりをして金魚の入ったケースの前にしゃがみ込んだ。半分破れたポイを持ったちびっこが興味深そうに影浦くんを見る。
影浦くんはそれに興味を示さず、左手で近くを浮いてる空のお椀を引っ掴んで適当に水を満たし、ポイをくるりと回した。
「…影浦くん、金魚すくえるの?」
「多分いけんだろ」
「へえ」
同じようにしゃがみこんだ私の、珍しいものを見るような視線についてはノーコメントで影浦くんは私が綺麗と言った金魚が水面に浮上するのを待っている。
私はそんな影浦くんを見ながら、ぽつりと零す。
「どっちかというと、影浦くんはサメ釣りとかしてそうだけど」
「あー、ちいせェ頃やったな」
出店の前に置かれた一畳ほどの籠の中に、口に番号の書かれた棒を突っ込まれてこれでもかと入っているサメのフィギュア(だったか)を専用の竿で釣り上げるのを思い出しながら言えば、金魚から目を離さないまま影浦くんが頷いた。
「…」
静かになった影浦くんが、金魚に狙いを定める。さながら獲物を狙う肉食獣のようだな、と思いながらポイを握る影浦くんの手元をじっと見た。
「…、」
すいっ、と尾びれを翻した金魚の行く手を遮るように、影浦くんが水面に対して斜めにポイを差し込む。滑るようにポイの上に乗った金魚を、余計な水が乗って紙が破れないように気をつけながら素早く待機させていたお椀の中へ放り込んだ。
「すごい!」
「あーハイハイ、次はどいつにすんだ?」
「私としては、その子すくってくれただけで大満足なんだけど」
「じゃあテキトーにすくっちまうぞ」
「うん」
影浦くんが持つお椀の中で金魚が泳ぐ。本当に掬っちゃったよ、影浦くんすごい!という私のきらきらした視線から逃れるように顔を背けた影浦くんは、そのまま適当に狙いを定めた金魚に向かってポイを突っ込んだ。
◆
影浦くんが3匹目の金魚に狙いを定めた時、それは突然降って来た。
「お前等、なにしてる」
祭りの喧噪のなか、地を這う様な声が後ろから聞こえて私たちは揃って肩をびくりと竦ませた。
その際、影浦くんが掬おうとしていた大きな金魚がぱしゃりと跳ねてポイに大きな穴を開けて水槽へ戻っていった。
「カゲ…迎えに行ってさっさと戻ってこいっつったよな?」
「あー…悪ィ」
破れたポイを一瞥してもう使えないと判断した影浦くんが、荒船くんに軽く謝りながら店主にポイとお椀を渡した。
店主は特に動じる事も無く、にこにこしながら手早く金魚を袋に詰めて行く。金魚に夢中で母親にしかられる子供をよく見ているからだろうかと考えていれば、金魚を受け取った私にも鋭い声が飛んでくる。
「蒼さんもですよ」
「そりゃ俺たちも悪ぶふっ」
「ごめんなさ、っふ、ちょ、待って村上くん!?」
「はい」
影浦くんと謝ろうと後ろを向いたら、仁王立ちで怒りのオーラを滲ませる荒船くんの横には赤い猫のお面をかぶった長身の人物がいた。村上くんの思いもしなかった格好に思わず2人で噴出してしまった。
「何それ何かぶってるのw」
「じばにゃんです」
「じばにゃんww」
「まじかよww」
いつもの静かな声でじばにゃんだと言う村上くんに、影浦くんが爆笑する。
村上くんは笑う私達に対してお面を外さないまま軽く頭が揺れる。あ、これは村上くんも笑ってるな。
「…」
「っ…申し訳ありませんでした」
「…悪ィ」
影浦くんのサイドエフェクトが無くてもわかるほどのざっっくりと刺さる視線を受け、影浦くんと瞬時に笑いを殺して2人で荒船くんに向き直って謝る。
私でこれなんだから、影浦くんはもっとひどい事になっているのだろう、なんて思う間もなく頭にばしっと衝撃が走った。
「っわ」
「散々心配させて」
「あっちょ、待って待って!」
「人がどれだけ心配したかわかってるんですか」
「ごめ、ごめん待って髪が大変な事に!」
頭に走った衝撃は、荒船くんが私の頭に手を置いたもので。それから文句を言いいながら勢いよく、かつ力強く私の髪の毛を掻き混ぜ始めた。
「今度ははぐれないでください」
「了解…!」
怒気を含んだ声の荒船くんに対し、諦めて大人しく撫で回される。これははぐれたことに対する戒めだ…!私の横では村上くんがじばにゃんのお面をかぶったまま両手を猫耳に見立てて猫っぽいポーズを取っていて、それを見て影浦くんが堪え切れずに噴出すというカオスな光景になっている。
「見つけたぞ、やっと」
「おーよかった、今度は一緒にいるな」
頭がずいぶんとぐしゃぐしゃになった頃、お囃子の音の合間から声が聞こえてきた。目だけをそちらに向ければ、当真くんと穂刈くんの二人がやってくるのが見えた。
「先程はご迷惑をおかけしました…!」
「いーっすいーっす」
「悪かったんです、こちらも。すみませんでした、目を離して」
二人に向かって深々と頭を下げれば、二人からは笑顔が返ってくる。当真くんはついでに乱れまくった私の髪を手櫛で軽く整えてくれた。
「蒼さん、随分派手にやられましたねー」
「はい…」
「当真、それ直さなくていいぞ」
「そういうわけにもいかないだろー」
「金魚ですか、持ってるの」
「そう、影浦くんが取ってくれたの」
穂刈くんに持っていた金魚を見せれば、もの珍しそうに影浦くんに視線を移した。影浦くんは引き続き村上くんに笑っていたが、穂刈くんの視線を受けてぴくりと反応した。
「なんだよ」
「珍しい事もあるもんだと思ってな、カゲにしては」
「おい穂刈手前、その視線止めろ」
嫌な感じの視線を受けたらしい影浦くんが、がしがし頭を掻く。その様子を見ていれば、人波をかき分けて犬飼くんが姿を現した。その後ろには人波に揉まれつつも北添くんが付いてきている。
「やーっと見っけた!戻ったらゾエしかいないし、探しましたよー」
「本当にごめんね…!北添くんは大丈夫だった?」
「換装してたんでノーダメージでした」
いくら殴ってもびくともしないし、先に向こうが飽きて帰りましたよ。なんてにこにこしている北添くんを見て安堵する。こういうとき、トリガーは本当に役に立つと思う。いや、普通はこんな使い方しないけど。
そう思っていれば、後ろに立つ荒船くんが私に声を掛けた。
「全員そろったし、早く行かないと花火始まりますよ」
「え、花火あるの?」
「向こうに席を取ってあります」
「わ、本当?」
荒船くんの言葉に行こう!と答えれば、影浦くんが後ろから言う。
「じゃあ出店で食いモン調達しながら行こうぜ、腹減った」
「あ、迷惑かけたし私がご馳走するよ。好きなの買って」
「本当ですか」
「ゾエさんも?」
「良いんですか蒼さん。ゾエ、結構食いますよ?」
犬飼くんにお財布事情を心配されるが、私は一応S級隊員なのだ。この子達よりもお給料をもらっているし、たまには後輩たちにご飯を奢ってあげたい。
「大丈夫、食べ盛りの男子高校生7人のご飯を奢れるくらいの給料は貰ってるから心配しないで」
「おおー」
「ご馳走様です」
さっすがS級っすねなんて笑う当真くんに、ぺこりと頭を下げる村上くん。
じゃあまずはそこの焼きそばからっすね、と先頭きって歩き出した犬飼くんとそれに続く一行の間でがっつりとガードされながら花火を見るために夜店の中を歩き出した。
18歳組とお祭り
大波乱のお祭り道中
(花火綺麗!)
(また来年来ましょうか)