荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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村上くんと逃避行
「ああ、もうしつっこいなあ!」
私は今、追われている。
ボーダー本部のだだっ広い通路、やり過ごせるような場所も無い中を走ってると前方から見知った人影がこちらへ向かってくるのに気付いた。
「村上くん良い所に助けて匿って!」
「蒼さん?」
「私は居ないと言って!」
「?はい」
前からやってきたのは来馬隊の村上くん。小声で助けを求め、頷いた村上くんの後ろへ回ってカメレオンを起動する。
奴は近くに居る筈だ。村上くんの腰の辺りをぎゅうと掴む。
「村上」
「太刀川さん」
角からふらっと現れた太刀川慶。それこそが今現在、私を追いかけまわす奴だった。
「蒼見てないか?」
「蒼さんでしたら、ここの階段下りて行きましたよ。随分慌てていましたけど、何したんですか」
「ああ、ちょっとな」
村上くんの後ろで二人の会話を聞く。
慶が相手だと下手に動けばカメレオンを起動していても変なカンで見つかる事があるから、じっとたまま待機する。
上手く村上くんが慶に嘘を教えてくれたので、逃げ切れるかなととりあえず安堵する。
「…」
「太刀川さん?」
静かになった廊下にシュン、と音がした。
嫌な予感がして村上くんの後ろから音の発生源らしい慶の手元を覗けば、レーダーが起動していた。
表示された円の中には、赤い点が3つ。この通路には慶と村上くんと、透明になった私しかいない。
「…村上ィ」
「エスクード!」
じろりと村上くんを見た慶に対し、カメレオンを解いて村上くんと慶の間にエスクードを出現させ、通路を遮断する。
たまたま玉狛行った時に借りてきていてよかった!
「蒼みっけ」
「村上くんこっち!」
壁に隠れる瞬間に私を視認して、慶が心底楽しそうに目を細めて笑い、弧月を引き抜く。
エスクードで稼げる時間も少ないだろうと村上くんの手を引いて階段を飛び降りる。村上くんもトリオン体だったし、これくらいなら問題無い。
「慶、なんでそこでレーダー使うかな!村上くんバッグワーム持ってる?」
「いえ」
「じゃあ私のを貸そう!」
ばたばたと階段を下りながらバッグワームのトリガーが入ったホルダーを村上くんへ手渡す。
自分の分も取り出して、バッグワームを起動する。
背後に幾つかエスクードを発動させて通路を遮り、そのまま階段から飛び出して目についた資料室へ飛び込んだ。
「はー、よし…ここでちょっとやりすごせるかな…」
「あの、蒼さん」
「ん?あっ、ごめん!村上くん連れてきちゃった…」
整然と並ぶ本棚の陰に二人してしゃがみ込んだ所で、村上くんを思いっきり巻き込んだことに気付いた。つい連れて逃げてしまった。
謝る私に村上くんはゆるく首を振り、疑問を飛ばしてきた。
「ごめん巻き込んだ…」
「いえ、いいですけど…何してるんですか」
「えーと、厳密に言えば鬼ごっこ」
「鬼ごっこ…」
「30分の間逃げないとまずいことになるというオプションが付いてまして」
二人で暇だったから始めたこの鬼ごっこ、勝者には『一日の間、なんでも言う事聞く』というオプションが付いている。逃げれば天国、捕まれば地獄。
相手はあの慶だ、面倒な事を命令されるに違いない。
と言うことで絶賛逃走中だったのだ、と村上くんに説明する。
「ああ、それで鬼気迫る感じだったんですね」
「私がじゃんけんに勝って逃げる方になったのが問題だった。追えれば勝ちはほぼ確定だったのに」
「多分、太刀川さんも同じこと考えてるんじゃないですかね」
「だと思う」
ぽそぽそ話しながらも資料室の外を警戒する。
慶は運良くここには気付いていないようで、起動したレーダーには慶と思われる赤い点が遠ざかっていく。
「ふう」
「蒼さんは、勝ったら何をしてもらうんですか」
「今のところは今日のお昼と晩ご飯を奢って貰うのは確定だけど、他はまだ考えてない」
「堅実ですね」
「せっかくだから美味しいもの食べに連れてってもらうんだ。村上くんも巻き込んじゃったし、勝ったら一緒にいく?」
「良いんですか」
「もちろん」
二人で資料室の奥に設置されている簡易ベンチに腰掛け、静かに喋りながら時間が過ぎるのを待つ。
いよいよ残り5分を切った所で、資料室の扉が開いた。
起動しっぱなしのレーダーには、点が映っていない。
「!」
「…こんなところにいたのか、蒼」
バッグワームを装備した慶が、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「逃げてください、蒼さん」
「おっけ」
静かに言った村上くんに促され、後ろにある扉を開いて廊下へ飛び出すと、続いて村上くんも廊下へ飛び出してくる。
「蒼さんは先に行って下さい」
「村上くんは?」
「オレが太刀川さんを足止めします」
「なんだ村上、邪魔するのか。斬るぞ」
「蒼さん、早く」
「、ありがとう!」
弧月を構える慶に対し、私を守るように向き直ってレイガストを起動させる村上くんに促されて走り出す。
刃の交差する音が幾度か聞こえたが、終了を知らせるベルが鳴り響くまで慶は私の前に現れることはなかった。
逃避行
村上くんと逃げる
(村上くんのお蔭だよ、ありがとう!ご飯一緒にいこ!)
(お役に立てて良かったです)
(蒼、次は勝つからな)
「ああ、もうしつっこいなあ!」
私は今、追われている。
ボーダー本部のだだっ広い通路、やり過ごせるような場所も無い中を走ってると前方から見知った人影がこちらへ向かってくるのに気付いた。
「村上くん良い所に助けて匿って!」
「蒼さん?」
「私は居ないと言って!」
「?はい」
前からやってきたのは来馬隊の村上くん。小声で助けを求め、頷いた村上くんの後ろへ回ってカメレオンを起動する。
奴は近くに居る筈だ。村上くんの腰の辺りをぎゅうと掴む。
「村上」
「太刀川さん」
角からふらっと現れた太刀川慶。それこそが今現在、私を追いかけまわす奴だった。
「蒼見てないか?」
「蒼さんでしたら、ここの階段下りて行きましたよ。随分慌てていましたけど、何したんですか」
「ああ、ちょっとな」
村上くんの後ろで二人の会話を聞く。
慶が相手だと下手に動けばカメレオンを起動していても変なカンで見つかる事があるから、じっとたまま待機する。
上手く村上くんが慶に嘘を教えてくれたので、逃げ切れるかなととりあえず安堵する。
「…」
「太刀川さん?」
静かになった廊下にシュン、と音がした。
嫌な予感がして村上くんの後ろから音の発生源らしい慶の手元を覗けば、レーダーが起動していた。
表示された円の中には、赤い点が3つ。この通路には慶と村上くんと、透明になった私しかいない。
「…村上ィ」
「エスクード!」
じろりと村上くんを見た慶に対し、カメレオンを解いて村上くんと慶の間にエスクードを出現させ、通路を遮断する。
たまたま玉狛行った時に借りてきていてよかった!
「蒼みっけ」
「村上くんこっち!」
壁に隠れる瞬間に私を視認して、慶が心底楽しそうに目を細めて笑い、弧月を引き抜く。
エスクードで稼げる時間も少ないだろうと村上くんの手を引いて階段を飛び降りる。村上くんもトリオン体だったし、これくらいなら問題無い。
「慶、なんでそこでレーダー使うかな!村上くんバッグワーム持ってる?」
「いえ」
「じゃあ私のを貸そう!」
ばたばたと階段を下りながらバッグワームのトリガーが入ったホルダーを村上くんへ手渡す。
自分の分も取り出して、バッグワームを起動する。
背後に幾つかエスクードを発動させて通路を遮り、そのまま階段から飛び出して目についた資料室へ飛び込んだ。
「はー、よし…ここでちょっとやりすごせるかな…」
「あの、蒼さん」
「ん?あっ、ごめん!村上くん連れてきちゃった…」
整然と並ぶ本棚の陰に二人してしゃがみ込んだ所で、村上くんを思いっきり巻き込んだことに気付いた。つい連れて逃げてしまった。
謝る私に村上くんはゆるく首を振り、疑問を飛ばしてきた。
「ごめん巻き込んだ…」
「いえ、いいですけど…何してるんですか」
「えーと、厳密に言えば鬼ごっこ」
「鬼ごっこ…」
「30分の間逃げないとまずいことになるというオプションが付いてまして」
二人で暇だったから始めたこの鬼ごっこ、勝者には『一日の間、なんでも言う事聞く』というオプションが付いている。逃げれば天国、捕まれば地獄。
相手はあの慶だ、面倒な事を命令されるに違いない。
と言うことで絶賛逃走中だったのだ、と村上くんに説明する。
「ああ、それで鬼気迫る感じだったんですね」
「私がじゃんけんに勝って逃げる方になったのが問題だった。追えれば勝ちはほぼ確定だったのに」
「多分、太刀川さんも同じこと考えてるんじゃないですかね」
「だと思う」
ぽそぽそ話しながらも資料室の外を警戒する。
慶は運良くここには気付いていないようで、起動したレーダーには慶と思われる赤い点が遠ざかっていく。
「ふう」
「蒼さんは、勝ったら何をしてもらうんですか」
「今のところは今日のお昼と晩ご飯を奢って貰うのは確定だけど、他はまだ考えてない」
「堅実ですね」
「せっかくだから美味しいもの食べに連れてってもらうんだ。村上くんも巻き込んじゃったし、勝ったら一緒にいく?」
「良いんですか」
「もちろん」
二人で資料室の奥に設置されている簡易ベンチに腰掛け、静かに喋りながら時間が過ぎるのを待つ。
いよいよ残り5分を切った所で、資料室の扉が開いた。
起動しっぱなしのレーダーには、点が映っていない。
「!」
「…こんなところにいたのか、蒼」
バッグワームを装備した慶が、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「逃げてください、蒼さん」
「おっけ」
静かに言った村上くんに促され、後ろにある扉を開いて廊下へ飛び出すと、続いて村上くんも廊下へ飛び出してくる。
「蒼さんは先に行って下さい」
「村上くんは?」
「オレが太刀川さんを足止めします」
「なんだ村上、邪魔するのか。斬るぞ」
「蒼さん、早く」
「、ありがとう!」
弧月を構える慶に対し、私を守るように向き直ってレイガストを起動させる村上くんに促されて走り出す。
刃の交差する音が幾度か聞こえたが、終了を知らせるベルが鳴り響くまで慶は私の前に現れることはなかった。
逃避行
村上くんと逃げる
(村上くんのお蔭だよ、ありがとう!ご飯一緒にいこ!)
(お役に立てて良かったです)
(蒼、次は勝つからな)