荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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菊地原くんと雷雨の中で
ガッシャーン!バリバリバリ…
「うあああ…!」
ざあざあと横殴りの雨が滝のように降り注ぐ中、私はひとり放棄された家の中で震えていた。
原因は、この雷だ。
「待って待って近い…!」
ドガッシャーン!!
近いところに落ちた雷の爆音にびくりと身体を震わせる。普段は雷なんて平気なのに、今日に限ってとんでもなく近くで雷がガンガン降ってきていた。
本能的な怯えなのかなんなのか、とにかく足が竦んだ私は近くの民家に逃げ込んだのだ。非番だからって外出しないで本部で模擬戦してれば良かった…!
「駄目だ…早く通り過ぎてくれ…!」
今日の天気予報では夕立がくるかも、と言っていたのでこれは確実に夕立だろう。夕立ならばさっさと通り過ぎろ…!と自分の身をかき抱いて夕立に呪いの念を送りながら家の中をうろうろする。
「うー…」
そわそわ、うろうろ。
近くに遠くに落ちる、身体の芯まで震わせるような爆音と衝撃に縮こまっていれば、一際大きな雷がすぐそばに突き刺さった。
ガッシャアアアン!!
「いやああああ…」
たまらず壁に背をつけてしゃがみこめば、すぐ近くの扉が開いて誰かの声が響いた。
「ねえ、そこに居るの誰?」
「…っ菊地原くん!」
「うわ、!?」
入ってきたのは風間隊に所属している後輩、菊地原くんだった。髪の毛から水滴を垂らしながら入ってきた彼に気付いて思わず彼の服の裾を引っ掴むと、驚いた表情の彼と目があった。
「ちょ、っと…え、蒼さん?…こんなとこで何してるんです?」
「雷怖くて動けない…!」
「ああ、そういうことですか…」
レーダーに映ってるから一般人でも紛れ込んでいるのかと思いましたよ、余計な仕事増やさないでくださいよねと零す菊地原くんが縋り付く私を放置して右手で耳についた通信機に触れた。
「…風間さん、家屋に映っていた人影は蒼さんでした。…ああ、雷が怖くてここにいたらしいです。…ああ、わかりました。はい」
通信相手の蒼也さんにそう伝えて通信を切った菊地原くんは私を見下ろして言った。
「風間さんが、雷止んだら一緒に帰って来いですって。やむまでそばにいますよ。ぼくにとっても雷はうるさすぎるんで助かりますし」
「うー良かった、ありがと…」
「というか蒼さん、雷ダメでしたっけ」
「い、や…普段は平気なんだけど、なんか今日の近くて…ッ!」
喋ってる途中で響いた轟音にびくっと身体を震わせると、同じ轟音に顔をしかめた菊地原くんが静かに換装を解いた。それに気づいて顔を上げると、菊地原くんが私を見下ろしながら口をとんでもないことを口にした。
「怖いなら抱きついてもいいですよ」
「え」
「隊服、結構濡れたんで。けど、こっちなら大丈夫ですから」
「う」
特別ですよと手を広げる菊地原くん。そう言われても、雷が怖いという理由で年下の男の子に抱きついてもいいものか、いや普通は駄目だろいやでも雷怖いと躊躇していれば窓の外で一際大きな轟音が鳴り響いた。
「っ!」
「ほら」
びくっと身体を竦ませた私の腕が引かれ、菊地原くんの胸の中に引き込まれた。慌てて離れようとした私の背に案外しっかりした腕が回って逃げ道を塞がれ、トドメとばかりに再び雷が轟音とともに降り注いで思わず彷徨っていた手で菊地原くんにしがみついた。
恥ずかしさやらなんやらで顔があげられない私をよそに、菊地原くんがため息を零した。
「最初からそうしたらいいんですよ」
「うう…、ごめんありがとちょっとだけ助けて…!」
「はいはいどーぞ」
近くで落ちる雷に開き直った私は菊地原くんにしがみつく。もうだめだ、これは開き直って助けてもらう事にする。
私より少し背が高い菊地原くんの肩に顎をすりつけるようにして轟音に耐える。
「うー…!」
「心臓、すごいですけど」
「いろいろ死にそうなんだよ…!」
「へー」
ばくばく音を立てている心臓は、サイドエフェクトなんて使わないでもわかるくらい暴れている。それを菊地原くんに指摘されるけれど本当にもう、死に掛けてるんだ。相変わらず近いところに雷が落ちていることとか、意外と菊地原くんの身体がしっかりしてることとかで。
「ぼくがついてますから、少しは落ち着いたらどうです」
「はい…」
ぶっきらぼうに言った菊地原くんに背中を軽く叩かれ、深呼吸する。とん、とん、と背中を叩かれるたびにゆっくりと安心感が広がってくる。
「うう…」
ぎゅう、と菊地原くんの背中に縋りつく。くっついている胸板からは、菊地原くんの心音が伝わってきている。どく、どく、と鼓動を刻む菊地原くんの心臓の鼓動はゆらぐ事無く一定のリズムで振動を伝えてくる。
「…落ち着きました?」
「ん、ありがと…」
菊地原くんの腕の中で落ち着きを取り戻していると、あれだけ散々鳴っていた雷もだんだんと遠くなっていく。
さいごにひとつ遠い所で雷が鳴って、窓の外からは日の光が差し込んできた。
「雨、あがりましたよ」
「うー、良かったあ…」
極限の恐怖状態から抜け出してみれば、誰もいない放棄地帯の家屋で年下男子と抱き合ってるという現実がふつふつと頭の中に戻ってくる。あれ待ってこれどのタイミングで離れればいいの?
「…菊地原くん、」
「はいはい離せばいいんでしょ」
心拍すごい勢いで跳ね上がってますよ、と指摘しながらゆっくりと菊地原くんの腕が身体から離れ、最後にうつむいたままの私の頭をぽんぽん叩いて止めを刺した。
「蒼さん、顔真っ赤」
「指摘しないで死にそうお手数おかけしました…!」
「いいえ」
ほら雨止んだんだから早く帰りましょ、と菊地原くんが私の手を引く。なすがまま菊地原くんに連れられて家の外に出れば、先ほどまでの豪雨はどこへやら、見上げた空には雲など見当たらなかった。
「菊地原くん、今日の話は他言無用でお願いします…主に抱きしめてくれた辺りを」
「えー」
「2人の秘密にして下さいなんでも奢ります」
「どうしようかなー」
菊地原くんに抱きしめられて雷をやりすごしました!なんて誰かに言われたら(多分蒼也さん辺りに話しちゃうと諏訪さん辺りから全力でからかわれる)生きていけない…!と焦る私とは裏腹に完全に楽しんでる菊地原くんに手を引かれ、水たまりをぱしゃぱしゃ鳴らしながら本部への帰路についた。
菊地原くんと雷
とある家屋にて内緒の雨宿り
(戻ったか)
(風間さん聞いて下さいよ蒼さんが)
(あああ蒼也さん聞かないで耳塞いでください!)
ガッシャーン!バリバリバリ…
「うあああ…!」
ざあざあと横殴りの雨が滝のように降り注ぐ中、私はひとり放棄された家の中で震えていた。
原因は、この雷だ。
「待って待って近い…!」
ドガッシャーン!!
近いところに落ちた雷の爆音にびくりと身体を震わせる。普段は雷なんて平気なのに、今日に限ってとんでもなく近くで雷がガンガン降ってきていた。
本能的な怯えなのかなんなのか、とにかく足が竦んだ私は近くの民家に逃げ込んだのだ。非番だからって外出しないで本部で模擬戦してれば良かった…!
「駄目だ…早く通り過ぎてくれ…!」
今日の天気予報では夕立がくるかも、と言っていたのでこれは確実に夕立だろう。夕立ならばさっさと通り過ぎろ…!と自分の身をかき抱いて夕立に呪いの念を送りながら家の中をうろうろする。
「うー…」
そわそわ、うろうろ。
近くに遠くに落ちる、身体の芯まで震わせるような爆音と衝撃に縮こまっていれば、一際大きな雷がすぐそばに突き刺さった。
ガッシャアアアン!!
「いやああああ…」
たまらず壁に背をつけてしゃがみこめば、すぐ近くの扉が開いて誰かの声が響いた。
「ねえ、そこに居るの誰?」
「…っ菊地原くん!」
「うわ、!?」
入ってきたのは風間隊に所属している後輩、菊地原くんだった。髪の毛から水滴を垂らしながら入ってきた彼に気付いて思わず彼の服の裾を引っ掴むと、驚いた表情の彼と目があった。
「ちょ、っと…え、蒼さん?…こんなとこで何してるんです?」
「雷怖くて動けない…!」
「ああ、そういうことですか…」
レーダーに映ってるから一般人でも紛れ込んでいるのかと思いましたよ、余計な仕事増やさないでくださいよねと零す菊地原くんが縋り付く私を放置して右手で耳についた通信機に触れた。
「…風間さん、家屋に映っていた人影は蒼さんでした。…ああ、雷が怖くてここにいたらしいです。…ああ、わかりました。はい」
通信相手の蒼也さんにそう伝えて通信を切った菊地原くんは私を見下ろして言った。
「風間さんが、雷止んだら一緒に帰って来いですって。やむまでそばにいますよ。ぼくにとっても雷はうるさすぎるんで助かりますし」
「うー良かった、ありがと…」
「というか蒼さん、雷ダメでしたっけ」
「い、や…普段は平気なんだけど、なんか今日の近くて…ッ!」
喋ってる途中で響いた轟音にびくっと身体を震わせると、同じ轟音に顔をしかめた菊地原くんが静かに換装を解いた。それに気づいて顔を上げると、菊地原くんが私を見下ろしながら口をとんでもないことを口にした。
「怖いなら抱きついてもいいですよ」
「え」
「隊服、結構濡れたんで。けど、こっちなら大丈夫ですから」
「う」
特別ですよと手を広げる菊地原くん。そう言われても、雷が怖いという理由で年下の男の子に抱きついてもいいものか、いや普通は駄目だろいやでも雷怖いと躊躇していれば窓の外で一際大きな轟音が鳴り響いた。
「っ!」
「ほら」
びくっと身体を竦ませた私の腕が引かれ、菊地原くんの胸の中に引き込まれた。慌てて離れようとした私の背に案外しっかりした腕が回って逃げ道を塞がれ、トドメとばかりに再び雷が轟音とともに降り注いで思わず彷徨っていた手で菊地原くんにしがみついた。
恥ずかしさやらなんやらで顔があげられない私をよそに、菊地原くんがため息を零した。
「最初からそうしたらいいんですよ」
「うう…、ごめんありがとちょっとだけ助けて…!」
「はいはいどーぞ」
近くで落ちる雷に開き直った私は菊地原くんにしがみつく。もうだめだ、これは開き直って助けてもらう事にする。
私より少し背が高い菊地原くんの肩に顎をすりつけるようにして轟音に耐える。
「うー…!」
「心臓、すごいですけど」
「いろいろ死にそうなんだよ…!」
「へー」
ばくばく音を立てている心臓は、サイドエフェクトなんて使わないでもわかるくらい暴れている。それを菊地原くんに指摘されるけれど本当にもう、死に掛けてるんだ。相変わらず近いところに雷が落ちていることとか、意外と菊地原くんの身体がしっかりしてることとかで。
「ぼくがついてますから、少しは落ち着いたらどうです」
「はい…」
ぶっきらぼうに言った菊地原くんに背中を軽く叩かれ、深呼吸する。とん、とん、と背中を叩かれるたびにゆっくりと安心感が広がってくる。
「うう…」
ぎゅう、と菊地原くんの背中に縋りつく。くっついている胸板からは、菊地原くんの心音が伝わってきている。どく、どく、と鼓動を刻む菊地原くんの心臓の鼓動はゆらぐ事無く一定のリズムで振動を伝えてくる。
「…落ち着きました?」
「ん、ありがと…」
菊地原くんの腕の中で落ち着きを取り戻していると、あれだけ散々鳴っていた雷もだんだんと遠くなっていく。
さいごにひとつ遠い所で雷が鳴って、窓の外からは日の光が差し込んできた。
「雨、あがりましたよ」
「うー、良かったあ…」
極限の恐怖状態から抜け出してみれば、誰もいない放棄地帯の家屋で年下男子と抱き合ってるという現実がふつふつと頭の中に戻ってくる。あれ待ってこれどのタイミングで離れればいいの?
「…菊地原くん、」
「はいはい離せばいいんでしょ」
心拍すごい勢いで跳ね上がってますよ、と指摘しながらゆっくりと菊地原くんの腕が身体から離れ、最後にうつむいたままの私の頭をぽんぽん叩いて止めを刺した。
「蒼さん、顔真っ赤」
「指摘しないで死にそうお手数おかけしました…!」
「いいえ」
ほら雨止んだんだから早く帰りましょ、と菊地原くんが私の手を引く。なすがまま菊地原くんに連れられて家の外に出れば、先ほどまでの豪雨はどこへやら、見上げた空には雲など見当たらなかった。
「菊地原くん、今日の話は他言無用でお願いします…主に抱きしめてくれた辺りを」
「えー」
「2人の秘密にして下さいなんでも奢ります」
「どうしようかなー」
菊地原くんに抱きしめられて雷をやりすごしました!なんて誰かに言われたら(多分蒼也さん辺りに話しちゃうと諏訪さん辺りから全力でからかわれる)生きていけない…!と焦る私とは裏腹に完全に楽しんでる菊地原くんに手を引かれ、水たまりをぱしゃぱしゃ鳴らしながら本部への帰路についた。
菊地原くんと雷
とある家屋にて内緒の雨宿り
(戻ったか)
(風間さん聞いて下さいよ蒼さんが)
(あああ蒼也さん聞かないで耳塞いでください!)