荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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諏訪隊と模擬戦
「…蒼さん、見つけましたよ」
「ああ、笹森くん。助けてくれるとうれしいな」
エマージェンシー、エマージェンシー。ただいま私は木にぶら下がっております。
大木の途中の枝にブーツの紐が引っかかってバランス崩して真っ逆さま、あっという間に地上2メートルほどの高さで宙吊り状態に至る。
「悪いですけど、助けません」
「だよねえ」
逆さまになった視界の中で、弧月をしゅっと構えた笹森くんが私に向かって1歩踏み出した。実はただいま諏訪隊と3対1で模擬戦の真っ最中。諏訪さんと堤さんは先に緊急脱出しているので、残りは笹森くん1人だ。
近づいてくる笹森くんは完全に罠だろうと警戒している。
「諏訪さん、最後に良い仕事してくれました」
「うん、私もそう思うよ」
笹森くんが言う通り、この逆さま状態は緊急脱出寸前の諏訪さんに撃ちこまれたメテオラに吹っ飛ばされて起こったのだ。メテオラ自体はシールド張って無事だったけどこの有様。軽く足を揺するも、変に絡まってしまった紐は取れる気配がない。
「困ったな」
「そうやって弱って見せて、反撃狙ってるんでしょう?」
「お、わかってるね」
勿論狙ってるよと逆さまで笑う私に対し、じりじり近づいてくる笹森くん。煽るだけ煽るけど、このままではもうすぐ彼の斬撃の間合いに入ってしまう。
ぶらりと下げたままの右手に持った弧月をくっと握り直すと、揺れた弧月に笹森くんの視線が突き刺さった。
「笹森くん」
「…なんです」
「足元見ないと危ないよ」
「騙されませんよ…うわあっ!?」
ゆらゆら弧月を揺らしながら近づく笹森くんへ忠告したのとほぼ同時に、彼の身体が勢いよく空中に跳ね飛ばされる。空高く跳ね上げられた笹森くんがばっと地面を見て叫んだ。
「っグラスホッパー!?」
「言ったでしょ?足元見ないと危ないよ、って」
笹森くんが足を置くだろう場所にグラスホッパーを発動させたのだ。私に気を取られてそれを踏み抜いた彼が飛んでしまえばこっちのもの。笹森くんはガンナー用トリガーを持っていない。
「シールド!」
「バイパー」
弧月を口にくわえ、宙吊りのまま両手にいっぱいのバイパーを生成。それを視界の下方で滞空している笹森くんへ向けて撃ち出す。シールドを避けて回り込んだバイパーに穴だらけにされた彼が悔しそうな表情で緊急脱出した。
◆
「ひどいです」
「ちゃんと忠告したよ」
模擬戦終了後、ラウンジで諏訪さんに勝利のカフェオレを奢って貰った私は諏訪隊の人達とテーブルを囲んでいた。ちなみに諏訪隊の小佐野ちゃんや笹森くん、堤さんに至ってもお疲れ的な飲み物を諏訪さんに買ってもらっている。なんだかんだ諏訪さんは面倒見が良い。
「うーん、確かに七草は忠告したからなあ」
「ありゃあ釣られた日佐人が悪ィだろ。あのまま斬り込めばいけたかもしれねえのによ」
堤さんが頷き、凹んでいる笹森くんの頭をぐしゃっと撫でた諏訪さんに対し、私の隣に座っている小佐野ちゃんは厳しく言った。
「いや、つつみんと諏訪さんが先にやられたのがいけないでしょ」
「申し訳ない」
「仕方ねえだろ、こいつ上手いこと日佐人を盾に近づいてくるんだもんよ」
カフェオレを飲みつつ諏訪隊の反省会に耳を傾ける。
私にとっては攻撃力の高い諏訪さんと堤さんが固まって攻撃してくるのが1番危ないから、前に出ている笹森くんを盾にしながら近づくのが手っ取り早くて安全なのだ。笹森くん相手なら間合いの外から削ればいいし。
「あえて日佐人を下がらせて、カメレオンで七草の背後を取るのはどうです?」
「駄目だな」
「なんで?」
堤さんの提案に諏訪さんが即答する。それに疑問を飛ばした小佐野ちゃんと首を傾げる笹森くんに、諏訪さんが私を見ながら口を開いた。
「蒼、相手がカメレオン使うと自分も消えて攪乱してくるぞ」
「諏訪さんの所は笹森くん巻き添えに攻撃するからしませんよ。スタアメーカーもあるし」
「ならメテオラだろ」
「そうですね、レーダーに映った辺りを更地にするのが手っ取り早くていいかなあ」
諏訪さんの言葉に頷けば笹森くんがうげ、と悲鳴を上げた。それに対し堤さんが腕を組んで口を開く。
「ずっとこっちに気をとらせておければいいんですけどね」
「その方法を今から考えるんだよ」
「あ、じゃあ私その辺歩いてますよ。作戦決まったら声かけて下さい」
「りょーかいです」
「悪ィな」
もともと諏訪隊とは何戦かする予定だけど、作戦まで聞いてしまってはいけないと席を立つ。小佐野ちゃんたちに手を振ってテーブルを離れて歩き出す。
諏訪隊なら15分くらいで作戦を決めてくるだろうから、それまでのんびりしていようと飲み終えたカフェオレのカップを捨てるためにゴミ箱へ近づく。
「蒼さん」
「ん?」
ぽいっとカップを捨てたときに後ろから声が掛かった。振り返れば、笹森くんが近くに立っていた。
「あれ、作戦会議は?」
「諏訪さんたちが決めています。時間をもらったので、その間に1戦だけ相手してもらえませんか」
「リベンジ?」
「ええ」
私の前に立つ笹森くんは依然強い瞳で私を射抜いている。闘争心が燃えているなら大歓迎。向上心のある子は大好きだ。
「いいよ、1戦やろうか」
「!ありがとうございます」
頭を下げた笹森くんを連れて近くのブースに分かれ、笹森くんが対戦を申し込んでくるのを待つ。
あの表情から見るに、さっきの1戦でなにか掴んだんだろう、面白い手を使ってくるかもしれない。
「何してくるかなー」
ぴこっと画面に対戦申込みの通知が浮かぶ。
それでも、簡単には負けてやらないぞと笑みをこぼしながら、その受諾ボタンを押した。
諏訪隊と模擬戦!
笹森くんと一騎打ち
(お、日佐人どうだった?)
(…勉強になりました)
(凹んでないで作戦覚えろ、リベンジするぞ)
(今度は全員でな)