荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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木﨑さんのオムライス
「こんにちはー!」
バターンと勢いよく扉を開けながら叫ぶと、ちょうど扉の前にいた烏丸くんがきょとりとした表情でこちらを見た。
「…蒼さんこんにちは、珍しいですね?」
「烏丸くん、レイジさんいるかな」
「ああ、レイジさんならキッチンに居ますよ」
「よし、お邪魔します!」
「はいどうぞ」
出掛けるらしい烏丸くんと入れ替わりに、玉狛支部の中へ侵入する。いや違う、許可は貰った。進入する。
建物内の構造は知っているので、記憶通りにすいすいキッチンへ向かえばこちらに背を向けて作業をしているレイジさんを発見した。
「レイジさん、こんにちはー」
「ん…?蒼か。どうした」
「オムライス作ってください!」
そう、今日わざわざ玉狛支部に来たのはレイジさんの作るオムライスが食べたくなったからだった。
一度ここで食べた時からその味が忘れられずに、用事がない時などにたまにご馳走して貰うのだが、今日もそれに違わず目的はオムライスだった。レイジさんのご飯がおいしいのが困る。
「ああ、いつものやつか」
「いつものやつです!」
わかった、と頷いたレイジさんが冷蔵庫から卵を取り出す傍ら、私は持ってきたバッグからマカロンの入った箱を取り出す。
「レイジさん、これお土産です」
「悪いな、ありがとう。あいつらが喜ぶ」
今日はマカロン、この前はケーキ。
レイジさんにご飯を作ってもらうときは、大体手土産に甘いものを持ってくることが多い。
どら焼きとかマカロンなどの甘いものは玉狛の人達に人気なのだ。
「今日はどうする?」
レイジさんが聞くそれは、たまごの加減のことだ。
今日は昔ながらの薄焼きたまごでくるりと楕円に巻かれたオムライスをお願いするのだ。前回のふわとろ系オムライスは、それはもう絶妙なふわとろ加減だったけれど今日は薄焼きがいい。
「薄焼きたまごがいいです!」
「薄焼きだな」
頷いたレイジさんがじゅう、とよく熱せられたフライパンに小さく切った鶏肉、にんじんを入れて炒める。少しして、玉ねぎも投入。
手際よく混ぜられるそれらをカウンターキッチンの反対側から見つめる。
火が通ってケチャップを投入されると、いい匂いがキッチンに広がってくうとお腹が鳴った。
「うー、いいにおい」
「もう2時だが、本部で食べてこなかったのか?」
お腹を抑えた私に、フライパンの中身をかき混ぜるレイジさんが聞くが、今日は10時から1時半まで任務だったのだ。
本当は終わったらすぐ本部の食堂に行って日替わり定食でもと思っていたのだけれども。
「お昼跨いで任務だったんですよ。その時交代しに来た蒼也さんのお昼ご飯がオムライスだったって聞いて、あ、今日はレイジさんのオムライスにしようと」
「連絡を寄越せば待たす事無く作っておくが」
「レイジさんの連絡先知りませんよ?」
「…そうだったか?」
「そうです。栞ちゃんと悠一のはありますけど」
毎回その2人に頼むのもアレですしと頬杖ついて言えば、徐にレイジさんがジーンズの後ろポケットから取り出した携帯を私に差し出した。
「適当に登録しておいていいぞ」
「わ、ありがとうございます」
フライパンにご飯を投入し、じゃっとフライパンを煽って具材とご飯を混ぜ合わせるレイジさんにお礼を言って手渡された携帯を開く。
電話帳を開いてぽちぽちレイジさんの携帯に私の連絡先を登録していく。それが済んだら私の携帯へ空メール送信、あとワン切り。
「入れておきました。次に来るときは連絡しますね」
「ああ」
レイジさんの携帯を目の前の棚に置いて自分の携帯はバッグへ戻す。
チキンライスはもう出来たようだった。チキンライスの乗ったフライパンを一旦横に置き、新しいフライパンを温め、油をそそぐ。
そしてよく溶いたたまごを流し入れ、薄く伸ばしていく。
「ふ、すぐ持っていくからテーブルで待ってろ」
「はあい」
たまごがふつふつと焼けていく様子をじいっと見ていたら、レイジさんに苦笑しつつそう言われてしまったので大人しくテーブルで待つことにする。
6人掛けのテーブルの、キッチンに一番近い椅子に座り込んで、オムライスの出来上がりを待つ。
「飲み物、オレンジジュースでいいな」
「はい!」
その言葉に振り返れば、レイジさんが真っ白いお皿に綺麗な楕円のオムライスとオレンジジュースをお盆に載せて近づいてきた。オレンジジュースに入った氷がカランと涼しげな音を立てた。丁寧に先の曲がった白いストローも刺さっている。
ことり、と置かれたオムライスはほくほくと湯気を立てて、辺りにいい匂いが漂った。
「ほら、ケチャップ」
「ありがとうございます」
続いて渡されたスプーンとケチャップを受け取る。
毎度毎度オムライスに仕上げのケチャップで何かしらを描いているのを知っているレイジさんは、オムライスには装飾を施さずに持ってきてくれる。
「今日は何を描くんだ?」
「今日はひまわりの気分です」
にゅうと出したケチャップで小さく円を描き、中をあみあみにする。ちょいちょいと花びらを作り、葉っぱを描いて完成。レイジさんのご飯の味を損なわないように、いつもケチャップは少し少なめ。
「よし、いただきます!」
「ああ」
ぱしーんと手を合わせて言った私の前の席に珈琲の入ったマグを持ってレイジさんが座る。
ご飯を作ってもらった時は前に座ることが多いので特に気にもせず、ケチャップで描いたひまわりを薄く広げてからスプーンをオムライスの端っこに突き立てると、チキンライスをしっかりと包むたまごにふつ、とスプーンの先が沈む。
「ん、む」
スプーンいっぱいに大きくすくったオムライスを頬張る。
もぐもぐ噛めば、お母さんが作ってくれたのと良く似た優しい味が口に広がる。
この優しい味が、今はもう食べることの出来ないお母さんの料理と酷似した優しさを持ち合わせているのも、私がレイジさんにご飯を作ってもらうことに繋がっている。
私がレイジさんのご飯にお母さんの面影を見ていることを話した事はないけれど、きっとレイジさんはお見通しなのだろう。私が黙々とご飯を食べている間、レイジさんも一言も喋らず優しい目でこちらを見ているだけなのはきっとそういう事だ。
「…」
「…」
静かな時間が流れる中で、スプーンがお皿に触れる音とオレンジジュースの氷がグラスにぶつかる音、それと私がオムライスを咀嚼、嚥下する音だけが聞こえる。
「ご馳走様でした」
しばらくして何も無くなったお皿にスプーンを置き、手を合わせて言う。
対面に座るレイジさんが私の言葉に頷いた。
「綺麗に食ったな」
「とっても美味しかったです」
たしかなまんぞく、と呟いて汗をかいたグラスからオレンジジュースを吸い上げる。
口の中に広がるケチャップの味が、酸味がきいたオレンジに変わっていく。
レイジさんが私を見つめるなか、オレンジジュースを飲んでいると、静かな足音がこちらに向かってくるのに気がついた。
「レイジさーん、なにこのいいにおい…あれ、蒼?」
「悠一。お邪魔してるよ」
「あ、いつものか」
「そー」
どうやら任務帰りらしい悠一がひょこりとキッチンに顔を出した。
私の顔を見て察した悠一が、私の横の椅子に座り込みながらレイジさんに言う。
「レイジさん、おれにもオムライス作ってよ」
「お前もか」
「実力派エリートさんは城戸さんに呼ばれて昼飯を食い逃したのさ」
「仕方ないな」
やれやれと立ち上がったレイジさんが、悠一の為にもう一度オムライスを作り始める。
玉狛支部はレイジさんのいるキッチンを中心に、いい匂いと共に笑顔や幸せも広がっているのだ。
玉狛支部独特のその幸せを噛み締めながら、オレンジジュースを飲み干した。
レイジさんのオムライス
玉狛支部にて昼食を
(蒼、ついでに晩御飯もどうだ)
(え、いいんですか)
(いいじゃん、蒼いたら小南も喜ぶよ)
オムライスをどれだけ美味しそうに書けるか挑戦した結果がこれだ
「こんにちはー!」
バターンと勢いよく扉を開けながら叫ぶと、ちょうど扉の前にいた烏丸くんがきょとりとした表情でこちらを見た。
「…蒼さんこんにちは、珍しいですね?」
「烏丸くん、レイジさんいるかな」
「ああ、レイジさんならキッチンに居ますよ」
「よし、お邪魔します!」
「はいどうぞ」
出掛けるらしい烏丸くんと入れ替わりに、玉狛支部の中へ侵入する。いや違う、許可は貰った。進入する。
建物内の構造は知っているので、記憶通りにすいすいキッチンへ向かえばこちらに背を向けて作業をしているレイジさんを発見した。
「レイジさん、こんにちはー」
「ん…?蒼か。どうした」
「オムライス作ってください!」
そう、今日わざわざ玉狛支部に来たのはレイジさんの作るオムライスが食べたくなったからだった。
一度ここで食べた時からその味が忘れられずに、用事がない時などにたまにご馳走して貰うのだが、今日もそれに違わず目的はオムライスだった。レイジさんのご飯がおいしいのが困る。
「ああ、いつものやつか」
「いつものやつです!」
わかった、と頷いたレイジさんが冷蔵庫から卵を取り出す傍ら、私は持ってきたバッグからマカロンの入った箱を取り出す。
「レイジさん、これお土産です」
「悪いな、ありがとう。あいつらが喜ぶ」
今日はマカロン、この前はケーキ。
レイジさんにご飯を作ってもらうときは、大体手土産に甘いものを持ってくることが多い。
どら焼きとかマカロンなどの甘いものは玉狛の人達に人気なのだ。
「今日はどうする?」
レイジさんが聞くそれは、たまごの加減のことだ。
今日は昔ながらの薄焼きたまごでくるりと楕円に巻かれたオムライスをお願いするのだ。前回のふわとろ系オムライスは、それはもう絶妙なふわとろ加減だったけれど今日は薄焼きがいい。
「薄焼きたまごがいいです!」
「薄焼きだな」
頷いたレイジさんがじゅう、とよく熱せられたフライパンに小さく切った鶏肉、にんじんを入れて炒める。少しして、玉ねぎも投入。
手際よく混ぜられるそれらをカウンターキッチンの反対側から見つめる。
火が通ってケチャップを投入されると、いい匂いがキッチンに広がってくうとお腹が鳴った。
「うー、いいにおい」
「もう2時だが、本部で食べてこなかったのか?」
お腹を抑えた私に、フライパンの中身をかき混ぜるレイジさんが聞くが、今日は10時から1時半まで任務だったのだ。
本当は終わったらすぐ本部の食堂に行って日替わり定食でもと思っていたのだけれども。
「お昼跨いで任務だったんですよ。その時交代しに来た蒼也さんのお昼ご飯がオムライスだったって聞いて、あ、今日はレイジさんのオムライスにしようと」
「連絡を寄越せば待たす事無く作っておくが」
「レイジさんの連絡先知りませんよ?」
「…そうだったか?」
「そうです。栞ちゃんと悠一のはありますけど」
毎回その2人に頼むのもアレですしと頬杖ついて言えば、徐にレイジさんがジーンズの後ろポケットから取り出した携帯を私に差し出した。
「適当に登録しておいていいぞ」
「わ、ありがとうございます」
フライパンにご飯を投入し、じゃっとフライパンを煽って具材とご飯を混ぜ合わせるレイジさんにお礼を言って手渡された携帯を開く。
電話帳を開いてぽちぽちレイジさんの携帯に私の連絡先を登録していく。それが済んだら私の携帯へ空メール送信、あとワン切り。
「入れておきました。次に来るときは連絡しますね」
「ああ」
レイジさんの携帯を目の前の棚に置いて自分の携帯はバッグへ戻す。
チキンライスはもう出来たようだった。チキンライスの乗ったフライパンを一旦横に置き、新しいフライパンを温め、油をそそぐ。
そしてよく溶いたたまごを流し入れ、薄く伸ばしていく。
「ふ、すぐ持っていくからテーブルで待ってろ」
「はあい」
たまごがふつふつと焼けていく様子をじいっと見ていたら、レイジさんに苦笑しつつそう言われてしまったので大人しくテーブルで待つことにする。
6人掛けのテーブルの、キッチンに一番近い椅子に座り込んで、オムライスの出来上がりを待つ。
「飲み物、オレンジジュースでいいな」
「はい!」
その言葉に振り返れば、レイジさんが真っ白いお皿に綺麗な楕円のオムライスとオレンジジュースをお盆に載せて近づいてきた。オレンジジュースに入った氷がカランと涼しげな音を立てた。丁寧に先の曲がった白いストローも刺さっている。
ことり、と置かれたオムライスはほくほくと湯気を立てて、辺りにいい匂いが漂った。
「ほら、ケチャップ」
「ありがとうございます」
続いて渡されたスプーンとケチャップを受け取る。
毎度毎度オムライスに仕上げのケチャップで何かしらを描いているのを知っているレイジさんは、オムライスには装飾を施さずに持ってきてくれる。
「今日は何を描くんだ?」
「今日はひまわりの気分です」
にゅうと出したケチャップで小さく円を描き、中をあみあみにする。ちょいちょいと花びらを作り、葉っぱを描いて完成。レイジさんのご飯の味を損なわないように、いつもケチャップは少し少なめ。
「よし、いただきます!」
「ああ」
ぱしーんと手を合わせて言った私の前の席に珈琲の入ったマグを持ってレイジさんが座る。
ご飯を作ってもらった時は前に座ることが多いので特に気にもせず、ケチャップで描いたひまわりを薄く広げてからスプーンをオムライスの端っこに突き立てると、チキンライスをしっかりと包むたまごにふつ、とスプーンの先が沈む。
「ん、む」
スプーンいっぱいに大きくすくったオムライスを頬張る。
もぐもぐ噛めば、お母さんが作ってくれたのと良く似た優しい味が口に広がる。
この優しい味が、今はもう食べることの出来ないお母さんの料理と酷似した優しさを持ち合わせているのも、私がレイジさんにご飯を作ってもらうことに繋がっている。
私がレイジさんのご飯にお母さんの面影を見ていることを話した事はないけれど、きっとレイジさんはお見通しなのだろう。私が黙々とご飯を食べている間、レイジさんも一言も喋らず優しい目でこちらを見ているだけなのはきっとそういう事だ。
「…」
「…」
静かな時間が流れる中で、スプーンがお皿に触れる音とオレンジジュースの氷がグラスにぶつかる音、それと私がオムライスを咀嚼、嚥下する音だけが聞こえる。
「ご馳走様でした」
しばらくして何も無くなったお皿にスプーンを置き、手を合わせて言う。
対面に座るレイジさんが私の言葉に頷いた。
「綺麗に食ったな」
「とっても美味しかったです」
たしかなまんぞく、と呟いて汗をかいたグラスからオレンジジュースを吸い上げる。
口の中に広がるケチャップの味が、酸味がきいたオレンジに変わっていく。
レイジさんが私を見つめるなか、オレンジジュースを飲んでいると、静かな足音がこちらに向かってくるのに気がついた。
「レイジさーん、なにこのいいにおい…あれ、蒼?」
「悠一。お邪魔してるよ」
「あ、いつものか」
「そー」
どうやら任務帰りらしい悠一がひょこりとキッチンに顔を出した。
私の顔を見て察した悠一が、私の横の椅子に座り込みながらレイジさんに言う。
「レイジさん、おれにもオムライス作ってよ」
「お前もか」
「実力派エリートさんは城戸さんに呼ばれて昼飯を食い逃したのさ」
「仕方ないな」
やれやれと立ち上がったレイジさんが、悠一の為にもう一度オムライスを作り始める。
玉狛支部はレイジさんのいるキッチンを中心に、いい匂いと共に笑顔や幸せも広がっているのだ。
玉狛支部独特のその幸せを噛み締めながら、オレンジジュースを飲み干した。
レイジさんのオムライス
玉狛支部にて昼食を
(蒼、ついでに晩御飯もどうだ)
(え、いいんですか)
(いいじゃん、蒼いたら小南も喜ぶよ)
オムライスをどれだけ美味しそうに書けるか挑戦した結果がこれだ