荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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菊地原くんと隠密行動
風間隊を抜けて、しばらく行っていなかった隠密行動の復習をしようと思ったのが始まりだった。
「トリガー、オン」
消さなかったトリオン体設定の、久し振りの風間隊の青い隊服に換装する。
S級になってチームを外れた今、この隊服でうろついていれば問題視されるだろうが、隠密行動でずっとカメレオンを起動させているから見つかる事もないだろうし、隠密行動をするなら補助機能のついているこの隊服が勝手が良いのだ。まあ、着たかったという私欲も少なからず入っているけれど。
「ま、見つからなきゃ問題ないさ」
カメレオンを起動する。
すっと風景に溶け込んだ自身の身体を見下ろし、よしと呟いて部屋の外へ出た。
◆
ということで、私は今ラウンジにいる。
行きかう人たちをひょいひょい避けるのも訓練の一環にして、のんびり一周しようとしたら出水くんたちを見つけたので、ちょっと会話を立ち聞きし始めた所だ。
「最後の模擬戦、オレ超格好良かったと思わねえ!?」
「よねやん先輩がトドメさされたトコ?」
「ちっげえよ緑川!そのちょい前にオレがこう槍ぶん回してさ!そうここ!」
「それ隙だらけだったからな槍バカ」
「うっせえ弾バカ!」
「ちょっとよねやん先輩!画面見えないー!」
一つのテーブルで騒いでいたのは出水くんと、緑川くんと米屋くん。
A級の三馬鹿トリオと呼ばれるその面子は、先ほどまで行っていたという模擬戦の録画を手元の媒体で見ながら論争している。
「あ、弾バカのこの場面さあ、蒼さんみたいな飛ばし方だったよなー」
「そりゃ、蒼さんおれの師匠だし」
(おお、私の話題だ)
自分の知らない所で自分の話題が出たら気になってしまうのは仕方ないと思う。
時折通り過ぎる人にぶつからないようちょいちょい移動して、三人の後ろの席が空いたのでそこまで移動し、後ろから画面を覗き込む。
「まあ、蒼さんだったらもっと緻密な攻撃だろうけどなー」
「とんでもねーよなー」
「オレ最近蒼さんと模擬戦してないー。ねーいずみん先輩、蒼さんに模擬戦したいって言っといてよー」
「お、じゃあオレの分も!」
「ふざけんな自分で頼め」
「弾バカつめたい」
やいやい言いながら覗く画面には、確かに出水くんにしてはよく練られた緻密な攻撃が映っている。
(はー、この攻撃パターン見たこと無いな…)
そこからこう動くのか、これは初見だと騙されそうだな。
なんて考えていれば、出水くんが口を開いた。
「これな、蒼さんには見せてねえんだ。精度上げて、蒼さんから一本もぎ取る予定」
「「おおー」」
(おお…)
やっちまった…!ごめん出水くん、聞いてしまった…!
やり場の無い罪悪感にぐうっと拳を握りしめ、八つ当たりでばしっと前の座席に打ち付けた。
「!?っと、なんだ?」
「ん?どーした?」
「今、後ろから叩かれたような…?」
「誰もいないよ?」
「だよなあ…」
こちらを向いて不思議そうにする三人の前には、これまたやってしまったと硬直する私。
つい叩いちゃったし、これじゃ隠密行動っていえない…
それにこのままではメンタル的にいけない気がする。うん、駄目だ移動しよう…
(ほんとごめん、お邪魔しました…)
三人には見えないだろうけれど、ごめんと顔の前で手を合わせ、ラウンジを抜ける為に通路を歩く。
ひょいひょい人波を抜け、ラウンジの出口へ差し掛かった時にふうと一息吐く。
『…蒼さん、なにやってるんですか』
「!」
突如流れてきた通信にびっくりしてラウンジの中を振り返る。
振り返った先には、ひとつのテーブルに集まる風間隊。その中に居る菊地原くんが、頬杖を付きながら私のほうを見ていた。菊地原くんのサイドエフェクトに拾われたか。
『…ばれた?』
秘匿通信で飛んでくる声に同じく秘匿通信で問えば、テーブルに居た菊地原くんが椅子から立ち上がった。
「風間さん、ぼくちょっと外にいます」
「ああ、わかった」
一言かけた菊地原くんに、蒼也さんが頷く。
そうして真っ直ぐこちらに歩いてきた菊地原くんが、秘匿通信で話しかけてくる。
『何してるか知りませんけど、人気の無いほうがいいんでしょう。行きますよ』
そう言ってすいすい先を行く菊地原くんに通信で話しかける。
聞くのはやはり、隠密行動がばれたきっかけだ。
『やっぱり椅子叩いたのが駄目だった?』
『まあ、それが決定的でしたけど』
『だよねえ』
『入口の所で溜め息吐いたでしょう、それで蒼さんだって気づきました』
ラウンジから少し離れた人気の無い通路へ出る。
自販機の近くで足を止めた菊地原くんが、横にある長椅子の右端へ座り込んだ。
そして私の居る方へ顔をむけて聞いた。
「座らないんですか」
『あ、座る!ありがと』
せっかく勧めてくれたのだから、ありがたく隣に座り込んだ。
が、菊地原くんはカメレオンを起動したまま秘匿通信で話す私に不思議そうな顔をして短く言う。
「…出てこないんですか?」
『あ、ごめん。風間隊の隊服着てるから見られたらマズいんだ』
「…え?」
『隠密行動するの、やっぱこれが一番しっくりくるんだよね。機能的にも心意気的にも』
「は?」
そう言えば、菊地原くんの目が驚きに染まる。
まあそうだろう、自分の隊を抜けたのに隊服を着ていたら驚くよなあと思案していると、菊地原君が私の顔の辺りを凝視しているのに気付いた。
『ん、なになに』
「…ほんとにうちの隊服着てるんですか」
『着てますとも。最近隠密行動訓練してなかったから、自主トレ中』
尚も疑問の篭った視線を投げかけてくる菊地原君に、通路に誰も居ない事を確認して一瞬だけ姿を現した。
ほんとだ…。と呟く菊地原くんの声を聞いた後、すぐにカメレオンを再起動して空間に溶け込むと、菊地原くんが思いがけない事を口走った。
「…その自主トレ、付き合います」
『え、菊地原くん忙しくないの?』
「この後どうせ風間さんが誰かと模擬戦するのを見るだけですし。…風間さん、ぼくですけど」
あれ、めんどくさがりの彼が珍しい申し出をするなあ。と思っている内に菊地原くんはさっさと蒼也さんに通信を入れ、あっという間に許可を貰ってしまった。仕事早い。
「せっかくぼくが付き合ってあげるんですから気合い入れてくださいよ」
『あ、うん』
そう言ってポケットから取り出したゴムで普段は耳を隠す様にしている長い髪を括り始める。
あれ、随分やる気に満ち溢れてるような…と思っていれば、髪を括り終えた菊地原くんが再び通信機に手を当てる。
「三上、いまどこ?」
『作戦室で休憩中ですよ』
「ぼくの聴覚情報、蒼さんとリンクさせて」
『あ、了解です。少し待ってください』
『菊地原くん本気モードだ…』
「こっちの方が練習になるでしょ」
菊地原くんにじろりという視線を投げられた時、ピピ、と音がして私の耳に歌歩ちゃんの声が聞こえてくる。
『蒼さん、こんにちは。今から聴覚情報を共有させますね』
『こんにちは、ごめんね休憩中に。お願いします』
『いいえ、任せて下さい』
歌歩ちゃんの声に応えながら、なんだかやる気に満ちている菊地原くんを見ていると耳が一気に多くの物音を拾い始めた。
『完了しました』
「うん、切る時はまた連絡する」
『了解です』
歌歩ちゃんの声が途切れ、廊下が静かになる。
静かになったが、菊地原くんの強化聴力をリンクさせているので小さな物音までしっかりと聞き取れるようになった。
ここから離れたラウンジの喧騒、廊下を歩く足音、そして目の前の菊地原くんの心臓の鼓動。
『この感覚久し振りだなあ』
「…蒼さんがぼくたちのチームに居た時に戻ったみたいですね」
そう言って菊地原くんがカメレオンを起動し、風景に溶け込む。
確かに、前はよくこうして隠密行動訓練したなあ。その時は、4人で誰にも気付かれないように本部3周とかよくやったもんだ。
菊地原くんの強化聴力を4人でリンクさせて、足音や息遣いに細心の注意を払って行う風間隊独自の隠密訓練が懐かしいなと思って菊地原くんに訊く。
『じゃあ、久々に本部周回する?』
『最初からそのつもりです』
『ふふ、よろしくお願いします』
『こちらこそ』
透明なまま頷きあって、そっと本部の廊下を進み始める。
行きかう人達を避け、菊地原くんと互いの注意点を指摘する久々の感覚に笑みがこぼれたのは、私だけではないと信じたい。
また今度、誘ったら一緒に訓練してくれるかな。
隠密行動
風間隊流訓練!
(次は風間さん達も誘いますか)
(乗ってくれるかなあ)
(蒼さんとならやるでしょ)
菊地原くんて三上ちゃんのことなんて呼んでるんだ
後で変更するかも、です…
風間隊を抜けて、しばらく行っていなかった隠密行動の復習をしようと思ったのが始まりだった。
「トリガー、オン」
消さなかったトリオン体設定の、久し振りの風間隊の青い隊服に換装する。
S級になってチームを外れた今、この隊服でうろついていれば問題視されるだろうが、隠密行動でずっとカメレオンを起動させているから見つかる事もないだろうし、隠密行動をするなら補助機能のついているこの隊服が勝手が良いのだ。まあ、着たかったという私欲も少なからず入っているけれど。
「ま、見つからなきゃ問題ないさ」
カメレオンを起動する。
すっと風景に溶け込んだ自身の身体を見下ろし、よしと呟いて部屋の外へ出た。
◆
ということで、私は今ラウンジにいる。
行きかう人たちをひょいひょい避けるのも訓練の一環にして、のんびり一周しようとしたら出水くんたちを見つけたので、ちょっと会話を立ち聞きし始めた所だ。
「最後の模擬戦、オレ超格好良かったと思わねえ!?」
「よねやん先輩がトドメさされたトコ?」
「ちっげえよ緑川!そのちょい前にオレがこう槍ぶん回してさ!そうここ!」
「それ隙だらけだったからな槍バカ」
「うっせえ弾バカ!」
「ちょっとよねやん先輩!画面見えないー!」
一つのテーブルで騒いでいたのは出水くんと、緑川くんと米屋くん。
A級の三馬鹿トリオと呼ばれるその面子は、先ほどまで行っていたという模擬戦の録画を手元の媒体で見ながら論争している。
「あ、弾バカのこの場面さあ、蒼さんみたいな飛ばし方だったよなー」
「そりゃ、蒼さんおれの師匠だし」
(おお、私の話題だ)
自分の知らない所で自分の話題が出たら気になってしまうのは仕方ないと思う。
時折通り過ぎる人にぶつからないようちょいちょい移動して、三人の後ろの席が空いたのでそこまで移動し、後ろから画面を覗き込む。
「まあ、蒼さんだったらもっと緻密な攻撃だろうけどなー」
「とんでもねーよなー」
「オレ最近蒼さんと模擬戦してないー。ねーいずみん先輩、蒼さんに模擬戦したいって言っといてよー」
「お、じゃあオレの分も!」
「ふざけんな自分で頼め」
「弾バカつめたい」
やいやい言いながら覗く画面には、確かに出水くんにしてはよく練られた緻密な攻撃が映っている。
(はー、この攻撃パターン見たこと無いな…)
そこからこう動くのか、これは初見だと騙されそうだな。
なんて考えていれば、出水くんが口を開いた。
「これな、蒼さんには見せてねえんだ。精度上げて、蒼さんから一本もぎ取る予定」
「「おおー」」
(おお…)
やっちまった…!ごめん出水くん、聞いてしまった…!
やり場の無い罪悪感にぐうっと拳を握りしめ、八つ当たりでばしっと前の座席に打ち付けた。
「!?っと、なんだ?」
「ん?どーした?」
「今、後ろから叩かれたような…?」
「誰もいないよ?」
「だよなあ…」
こちらを向いて不思議そうにする三人の前には、これまたやってしまったと硬直する私。
つい叩いちゃったし、これじゃ隠密行動っていえない…
それにこのままではメンタル的にいけない気がする。うん、駄目だ移動しよう…
(ほんとごめん、お邪魔しました…)
三人には見えないだろうけれど、ごめんと顔の前で手を合わせ、ラウンジを抜ける為に通路を歩く。
ひょいひょい人波を抜け、ラウンジの出口へ差し掛かった時にふうと一息吐く。
『…蒼さん、なにやってるんですか』
「!」
突如流れてきた通信にびっくりしてラウンジの中を振り返る。
振り返った先には、ひとつのテーブルに集まる風間隊。その中に居る菊地原くんが、頬杖を付きながら私のほうを見ていた。菊地原くんのサイドエフェクトに拾われたか。
『…ばれた?』
秘匿通信で飛んでくる声に同じく秘匿通信で問えば、テーブルに居た菊地原くんが椅子から立ち上がった。
「風間さん、ぼくちょっと外にいます」
「ああ、わかった」
一言かけた菊地原くんに、蒼也さんが頷く。
そうして真っ直ぐこちらに歩いてきた菊地原くんが、秘匿通信で話しかけてくる。
『何してるか知りませんけど、人気の無いほうがいいんでしょう。行きますよ』
そう言ってすいすい先を行く菊地原くんに通信で話しかける。
聞くのはやはり、隠密行動がばれたきっかけだ。
『やっぱり椅子叩いたのが駄目だった?』
『まあ、それが決定的でしたけど』
『だよねえ』
『入口の所で溜め息吐いたでしょう、それで蒼さんだって気づきました』
ラウンジから少し離れた人気の無い通路へ出る。
自販機の近くで足を止めた菊地原くんが、横にある長椅子の右端へ座り込んだ。
そして私の居る方へ顔をむけて聞いた。
「座らないんですか」
『あ、座る!ありがと』
せっかく勧めてくれたのだから、ありがたく隣に座り込んだ。
が、菊地原くんはカメレオンを起動したまま秘匿通信で話す私に不思議そうな顔をして短く言う。
「…出てこないんですか?」
『あ、ごめん。風間隊の隊服着てるから見られたらマズいんだ』
「…え?」
『隠密行動するの、やっぱこれが一番しっくりくるんだよね。機能的にも心意気的にも』
「は?」
そう言えば、菊地原くんの目が驚きに染まる。
まあそうだろう、自分の隊を抜けたのに隊服を着ていたら驚くよなあと思案していると、菊地原君が私の顔の辺りを凝視しているのに気付いた。
『ん、なになに』
「…ほんとにうちの隊服着てるんですか」
『着てますとも。最近隠密行動訓練してなかったから、自主トレ中』
尚も疑問の篭った視線を投げかけてくる菊地原君に、通路に誰も居ない事を確認して一瞬だけ姿を現した。
ほんとだ…。と呟く菊地原くんの声を聞いた後、すぐにカメレオンを再起動して空間に溶け込むと、菊地原くんが思いがけない事を口走った。
「…その自主トレ、付き合います」
『え、菊地原くん忙しくないの?』
「この後どうせ風間さんが誰かと模擬戦するのを見るだけですし。…風間さん、ぼくですけど」
あれ、めんどくさがりの彼が珍しい申し出をするなあ。と思っている内に菊地原くんはさっさと蒼也さんに通信を入れ、あっという間に許可を貰ってしまった。仕事早い。
「せっかくぼくが付き合ってあげるんですから気合い入れてくださいよ」
『あ、うん』
そう言ってポケットから取り出したゴムで普段は耳を隠す様にしている長い髪を括り始める。
あれ、随分やる気に満ち溢れてるような…と思っていれば、髪を括り終えた菊地原くんが再び通信機に手を当てる。
「三上、いまどこ?」
『作戦室で休憩中ですよ』
「ぼくの聴覚情報、蒼さんとリンクさせて」
『あ、了解です。少し待ってください』
『菊地原くん本気モードだ…』
「こっちの方が練習になるでしょ」
菊地原くんにじろりという視線を投げられた時、ピピ、と音がして私の耳に歌歩ちゃんの声が聞こえてくる。
『蒼さん、こんにちは。今から聴覚情報を共有させますね』
『こんにちは、ごめんね休憩中に。お願いします』
『いいえ、任せて下さい』
歌歩ちゃんの声に応えながら、なんだかやる気に満ちている菊地原くんを見ていると耳が一気に多くの物音を拾い始めた。
『完了しました』
「うん、切る時はまた連絡する」
『了解です』
歌歩ちゃんの声が途切れ、廊下が静かになる。
静かになったが、菊地原くんの強化聴力をリンクさせているので小さな物音までしっかりと聞き取れるようになった。
ここから離れたラウンジの喧騒、廊下を歩く足音、そして目の前の菊地原くんの心臓の鼓動。
『この感覚久し振りだなあ』
「…蒼さんがぼくたちのチームに居た時に戻ったみたいですね」
そう言って菊地原くんがカメレオンを起動し、風景に溶け込む。
確かに、前はよくこうして隠密行動訓練したなあ。その時は、4人で誰にも気付かれないように本部3周とかよくやったもんだ。
菊地原くんの強化聴力を4人でリンクさせて、足音や息遣いに細心の注意を払って行う風間隊独自の隠密訓練が懐かしいなと思って菊地原くんに訊く。
『じゃあ、久々に本部周回する?』
『最初からそのつもりです』
『ふふ、よろしくお願いします』
『こちらこそ』
透明なまま頷きあって、そっと本部の廊下を進み始める。
行きかう人達を避け、菊地原くんと互いの注意点を指摘する久々の感覚に笑みがこぼれたのは、私だけではないと信じたい。
また今度、誘ったら一緒に訓練してくれるかな。
隠密行動
風間隊流訓練!
(次は風間さん達も誘いますか)
(乗ってくれるかなあ)
(蒼さんとならやるでしょ)
菊地原くんて三上ちゃんのことなんて呼んでるんだ
後で変更するかも、です…