荒船と出水の師匠シリーズ
荒船と出水の師匠シリーズ・短編詰め
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荒船くんから逃げ惑う
(荒船くん、今日はなんで怒ってるんだろうか)
「あ?蒼さんいねえな…、此処にいると思ったんだが」
(ビンゴ、いますよ目の前に。言わないけど)
いつものラウンジ奥の定位置、観葉植物の陰に隠れたソファ。
目の前には荒船くんが私を探してきょろきょろしてる。
ここに向かってくる荒船くんがなんだかご機嫌ナナメのようだったので、咄嗟にカメレオンを発動させてしまった。
最近荒船くんによく怒られてるからもはや反射だ。パブロフの犬状態だ。
私が怒られる理由があるのもいけないが、今回のは心当たりがない。
「何処いるんだ全く…」
くるりと踵を返した荒船くんを見て、ふうと息を吐く。
荒船くんがラウンジから出て行くのを見てカメレオンを解けば、近くのソファにもたれる様に座って小説を読んでいた諏訪さんがこちらを見た。
「オイ蒼、何したんだ?」
「何もしてない筈ですけど。荒船くん怒ってるみたいだったんでつい隠れちゃいました」
「全く、どっちが年上だよ」
「ほんとですよねー」
諏訪さんに適当に相槌を打ちながら考える。
とりあえず暫く戻ってくることは無いと思うが、一応ここから離れていた方がいいだろう。
「諏訪さん、私の事は見なかった事にして下さい」
「あー?」
「危なそうなんで逃げます、荒船くんにはくれぐれも内緒でお願いします」
「あーハイハイりょーかい」
まったりモードの諏訪さんは暫く動かないだろう。もしも荒船くんが戻って来て聞かれた時に言わない様に口止めしておくついでに、諏訪さんのいるテーブルに飴を数個置く。
「はいこれ口止め料です」
「…安いなオイ」
「今それしか手持ち無いんですー」
仕方ねえな、次はもっと良いの寄越せよーという諏訪さんに手を振ってラウンジを抜け出す。
とりあえず本部は危険だ。と言う事は並行して本部内にある私の部屋も危険だ。ならば逃げるは外にしよう。
今日はもう任務はないし、荒船くんが帰るまで警戒区域内をうろうろしていよう。
「…おっと」
そう言えば玉狛にも暫く遊びに行ってないな、とか考えながら玄関ホールへ向かえば、丁度荒船くんが反対からやってくるところだった。
「危ない危ない」
ひょいっと壁に隠れ、荒船くんの動向を伺う。
…どうしようなんだかさっきより怒ってる気がする。眼光が鋭い。
「…チッ、ここにもいねえ」
荒船くんは周りを見渡しながら反対側の通路へ去って行った。
舌打ちしてたよ怒りゲージ上がってるじゃんか。
「…今の内に行こう」
すっと玄関まで移動し、外へ出る。
よしよし、玉狛でしばし匿ってもらおう、栞ちゃんのやしゃまるシリーズも暫く戦ってないなと歩き出せば、前から見覚えのある緑の隊服がやってきた。
「あ、村上くん」
「蒼さん、こんにちは」
「こんにちは。模擬戦しに来たの?」
「はい、そのつもりだったんですけど」
「?」
そのつもりだった?何かに邪魔されたのかなと首を傾げれば、村上くんは私をまっすぐ射抜くように見つめながら通信機に手を当てた。あれ、まさか。
「…荒船、蒼さんいたぞ。玄関前」
「カメレオン起動」
「あ」
荒船くん、私が外に逃げる事を予測して村上くんにも手回ししておくなんてやるな!
カメレオンを起動して走り出せば、後ろから村上くんが追ってくるのが見えた。その後ろ、玄関からは飛び出してくる荒船くんも。
「今、カメレオンで隠れた。2時方向」
「わかった」
頷く荒船くんと村上くんがレーダーを起動させる。
カメレオンだとレーダーに映るから、適当な所でバッグワームに切り替えないと。
「あの二人を同時に相手するのはキツいし、怖い!」
ちょっと見えるかも知れないけど、一瞬だ一瞬!
2人の視線から逃れる様に建物の影に入った場所でカメレオンを解除、グラスホッパーをクラウチングスタートに使うスターティングブロックの様に斜めに出し、それを踏みしめて飛ぶように加速する。1枚、2枚、3枚。
「、移動速度が速くなった」
「グラスホッパー使ってんだろ、見失うなよ」
「ああ」
後ろから追ってくる二人も私がグラスホッパーを使って逃げるのはわかるのだろう。
びゅんびゅん撹乱するように住宅街をじぐざぐに抜け、彼らから距離を稼ぐ。もうレーダーの範囲から外れただろうか、途中でバッグワームを起動させて走る。
「…ここならどうだ」
走っている途中で見つけた住宅の庭にある柳の影に滑り込んで息を潜める。
多分、荒船くんは屋根の上から、村上くんは地上から私を探すはず。このあたりの地形はどうなってるんだったっけな、と考えていた時。
ざりっ、
「!」
壁を1枚隔てた場所で砂が鳴く。
足音は1つ、村上くんか。結構速く逃げたつもりだったんだけど、追って来るの速いし正確だな全く…。
「…見失った」
「バッグワームを起動したならそんなに遠くに行ってない。蒼さんは隠密行動が得意だし、どこか隠れられそうな場所に潜んでいるんだろう」
道路を挟んだ反対側の家の屋根の方から荒船くんの声。
ああさすが、よくわかってらっしゃる。この師弟ほんと怖い。早くどっか行ってくれ。
「俺はそこのビルの上から探す、鋼は民家の影を見てくれ」
「了解」
そんな声とともに足音が少しずつ遠ざかっていく。
レーダーを起動してみれば、赤い点がふたつ15時と12時方向へ向かっていく。
近くのビルは12時方向だから、そっちが荒船くんか。
「…荒船くんが上に着くまでに移動したいんだけどなー」
組み上げられた石壁の隙間から見れば、まだゆっくりと周囲を警戒する村上くんが居る。
うーん、そのままそっちの角曲がってくれないかな。
今出たら見えそうなんだよなあ。ちょっと隠れていたほうが…いやいや荒船くんが上に着いたら逃げられないわ。出よう今出よう。
「…」
バッグワームは外せない。
そろっと民家の庭から出る。村上くんは運良く角を曲がって見えなくなった。
「よし、ちょっと2,3本道ずらして…ビルの死角通って、レーダーの範囲から外れたいな」
民家を背に静かに移動する。荒船くんはそろそろビルの屋上に着いた頃だろうか。
グラスホッパーもバレるだろうから使えない。村上くんがこちらに来る可能性もあるし、上からは荒船くんが目を光らせている中を掻い潜って移動しないといけないなんて、これどんな鬼畜ゲーだ。
「そもそも追われる理由がわかりませんけど…」
物音に耳を集中させ、レーダーを駆使して2人の位置を確かめながら移動する。荒船くんの視界に入らない様に極力壁を背にし、道路の横断は迅速に。
「…よし、消えた」
ある程度離れるとレーダーからは2人の姿が消えた。
ここまでくれば本部まで逃げた方がいいな、と玉狛に行く予定を消して本部へ向かって道を何本か変えながら走り出した。
◆
「…なんてこと」
本部に程近い民家の影。
視線の先、帰ってきた本部の玄関ホール前には村上くんが居た。私が帰るの見越して先に来たのか、レーダーを使いながら辺りを見回している。
荒船くんの視線を警戒して慎重になっていたのが裏目に出た。
(ああ困った、帰れない)
カメレオンではレーダーに映るし、正面突破なんか以ての外。
バッグワームを着てしゃがみ込んだまま、村上くんの視界に入らぬ様民家の影でじっとしている他無かった。
「…」
仕方ない、裏に回ってグラスホッパー使って開いてる所から入ろ…と身を起こそうと壁に手を伸ばすと、壁につく前にその手が何かに掴まれて壁に押し付けられた。
「っ!?」
振り返れば、何も無い空間。
しかし壁に縫い留められた私の手は全く動かない。ああ、これは。
「…やられた」
荒船くんか、と呟けば、目の前の景色が歪んでゆっくりと荒船くんが姿を現した。え、ちょっと思ったより近いし、か、壁ドン…!
「やっと捕まえましたよ…蒼さん」
日の光に照らされた荒船くんの鋭い目がぎらりと煌いた。
ずるい、カメレオン使うなんて聞いてないぞなんて思いながら、降参の意思を示す為にバッグワームを解除する。
「なんで逃げたんスか」
「荒船くん怒ってる様に見えたからつい…」
「別に蒼さんに対して怒っている訳じゃないんすけど」
「うげ、そうだったの…ごめん」
「ああ、やっと捕まえたのか」
「村上くん…」
「鋼、付き合わせて悪かったな」
「いや…それより、」
鋭い眼光から目を逸らしながら受け答えしていると、こちらに気付いた村上くんが近寄ってきた。依然壁に押し付けられたままの私を見て、村上くんが表情を崩さずに言う。
「そろそろ手を離してやったらどうだ」
「…」
「、逃げないよ」
じっと私を見てから、荒船くんは手を離して立ち上がった。
服に付いた埃を払ってから今度こそ私も立ち上がるが、荒船くんは不機嫌そうに私を見るだけで口を開こうとはしない。
「荒船は、」
「あ、うん」
「蒼さんに稽古つけて貰おうと思って探してたんですよ」
「おい鋼、」
助け舟を出すかのように村上くんが言った言葉。
ああ、誰かに負けて機嫌が悪かったのかな。そう推測した私の表情を見て、村上くんが荒船くんに告げる。
「じゃあ、オレは先に模擬戦してくる」
「…ああ、悪かったな」
「蒼さん、今度オレとも模擬戦して下さい」
「うん、いつでもおいで」
ひらりと手を振って本部へ入っていく村上くん。
残された私が荒船くんを見上げれば、すっと視線を合わせた彼が口を開いた。
「今日、あいつと模擬戦して改めて思ったんスけど」
「村上くんと?」
聞けば、はい、と頷く荒船くん。
ようやく私が捕まったからか、怒りゲージは静かに下降傾向にあるようだ。
「回数重ねる分、やっぱ分が悪いんで、蒼さんにカメレオン使った奇襲でも教えて貰おうと思って探してたんですよ」
「それでカメレオン持ってたのね…いいよ、勿論教えるよ」
今から行く?と聞けば、荒船くんはため息を吐いて言う。
「これから任務です」
「うげ」
「帰ってきたら教えてください」
「あ、もちろん」
「6時半には戻ります」
「じゃあご飯一緒にいこ。奢るよ」
「いいんすか」
「良いよ、手間取らせちゃったし」
そう伝えれば荒船くんはわかりました、と頷いた。
手間取らせちゃったのは本当だし、村上くんの対策するならじっくり話せるほうがいいもんね。
「じゃあ、ちょっと行ってきます」
「了解、気をつけてね」
「はい」
約束を取り付けた荒船くんは、本部の中へと早足に戻っていった。
その後姿を見送り、荒船くんに教えるメニューを考えるべく私も本部へと向かって歩き出した。
逃げ惑う
勘違いからの逃亡劇
(戻りました)
(お帰り、お疲れ様。よし、ご飯行こうか)
(はい)
.
(荒船くん、今日はなんで怒ってるんだろうか)
「あ?蒼さんいねえな…、此処にいると思ったんだが」
(ビンゴ、いますよ目の前に。言わないけど)
いつものラウンジ奥の定位置、観葉植物の陰に隠れたソファ。
目の前には荒船くんが私を探してきょろきょろしてる。
ここに向かってくる荒船くんがなんだかご機嫌ナナメのようだったので、咄嗟にカメレオンを発動させてしまった。
最近荒船くんによく怒られてるからもはや反射だ。パブロフの犬状態だ。
私が怒られる理由があるのもいけないが、今回のは心当たりがない。
「何処いるんだ全く…」
くるりと踵を返した荒船くんを見て、ふうと息を吐く。
荒船くんがラウンジから出て行くのを見てカメレオンを解けば、近くのソファにもたれる様に座って小説を読んでいた諏訪さんがこちらを見た。
「オイ蒼、何したんだ?」
「何もしてない筈ですけど。荒船くん怒ってるみたいだったんでつい隠れちゃいました」
「全く、どっちが年上だよ」
「ほんとですよねー」
諏訪さんに適当に相槌を打ちながら考える。
とりあえず暫く戻ってくることは無いと思うが、一応ここから離れていた方がいいだろう。
「諏訪さん、私の事は見なかった事にして下さい」
「あー?」
「危なそうなんで逃げます、荒船くんにはくれぐれも内緒でお願いします」
「あーハイハイりょーかい」
まったりモードの諏訪さんは暫く動かないだろう。もしも荒船くんが戻って来て聞かれた時に言わない様に口止めしておくついでに、諏訪さんのいるテーブルに飴を数個置く。
「はいこれ口止め料です」
「…安いなオイ」
「今それしか手持ち無いんですー」
仕方ねえな、次はもっと良いの寄越せよーという諏訪さんに手を振ってラウンジを抜け出す。
とりあえず本部は危険だ。と言う事は並行して本部内にある私の部屋も危険だ。ならば逃げるは外にしよう。
今日はもう任務はないし、荒船くんが帰るまで警戒区域内をうろうろしていよう。
「…おっと」
そう言えば玉狛にも暫く遊びに行ってないな、とか考えながら玄関ホールへ向かえば、丁度荒船くんが反対からやってくるところだった。
「危ない危ない」
ひょいっと壁に隠れ、荒船くんの動向を伺う。
…どうしようなんだかさっきより怒ってる気がする。眼光が鋭い。
「…チッ、ここにもいねえ」
荒船くんは周りを見渡しながら反対側の通路へ去って行った。
舌打ちしてたよ怒りゲージ上がってるじゃんか。
「…今の内に行こう」
すっと玄関まで移動し、外へ出る。
よしよし、玉狛でしばし匿ってもらおう、栞ちゃんのやしゃまるシリーズも暫く戦ってないなと歩き出せば、前から見覚えのある緑の隊服がやってきた。
「あ、村上くん」
「蒼さん、こんにちは」
「こんにちは。模擬戦しに来たの?」
「はい、そのつもりだったんですけど」
「?」
そのつもりだった?何かに邪魔されたのかなと首を傾げれば、村上くんは私をまっすぐ射抜くように見つめながら通信機に手を当てた。あれ、まさか。
「…荒船、蒼さんいたぞ。玄関前」
「カメレオン起動」
「あ」
荒船くん、私が外に逃げる事を予測して村上くんにも手回ししておくなんてやるな!
カメレオンを起動して走り出せば、後ろから村上くんが追ってくるのが見えた。その後ろ、玄関からは飛び出してくる荒船くんも。
「今、カメレオンで隠れた。2時方向」
「わかった」
頷く荒船くんと村上くんがレーダーを起動させる。
カメレオンだとレーダーに映るから、適当な所でバッグワームに切り替えないと。
「あの二人を同時に相手するのはキツいし、怖い!」
ちょっと見えるかも知れないけど、一瞬だ一瞬!
2人の視線から逃れる様に建物の影に入った場所でカメレオンを解除、グラスホッパーをクラウチングスタートに使うスターティングブロックの様に斜めに出し、それを踏みしめて飛ぶように加速する。1枚、2枚、3枚。
「、移動速度が速くなった」
「グラスホッパー使ってんだろ、見失うなよ」
「ああ」
後ろから追ってくる二人も私がグラスホッパーを使って逃げるのはわかるのだろう。
びゅんびゅん撹乱するように住宅街をじぐざぐに抜け、彼らから距離を稼ぐ。もうレーダーの範囲から外れただろうか、途中でバッグワームを起動させて走る。
「…ここならどうだ」
走っている途中で見つけた住宅の庭にある柳の影に滑り込んで息を潜める。
多分、荒船くんは屋根の上から、村上くんは地上から私を探すはず。このあたりの地形はどうなってるんだったっけな、と考えていた時。
ざりっ、
「!」
壁を1枚隔てた場所で砂が鳴く。
足音は1つ、村上くんか。結構速く逃げたつもりだったんだけど、追って来るの速いし正確だな全く…。
「…見失った」
「バッグワームを起動したならそんなに遠くに行ってない。蒼さんは隠密行動が得意だし、どこか隠れられそうな場所に潜んでいるんだろう」
道路を挟んだ反対側の家の屋根の方から荒船くんの声。
ああさすが、よくわかってらっしゃる。この師弟ほんと怖い。早くどっか行ってくれ。
「俺はそこのビルの上から探す、鋼は民家の影を見てくれ」
「了解」
そんな声とともに足音が少しずつ遠ざかっていく。
レーダーを起動してみれば、赤い点がふたつ15時と12時方向へ向かっていく。
近くのビルは12時方向だから、そっちが荒船くんか。
「…荒船くんが上に着くまでに移動したいんだけどなー」
組み上げられた石壁の隙間から見れば、まだゆっくりと周囲を警戒する村上くんが居る。
うーん、そのままそっちの角曲がってくれないかな。
今出たら見えそうなんだよなあ。ちょっと隠れていたほうが…いやいや荒船くんが上に着いたら逃げられないわ。出よう今出よう。
「…」
バッグワームは外せない。
そろっと民家の庭から出る。村上くんは運良く角を曲がって見えなくなった。
「よし、ちょっと2,3本道ずらして…ビルの死角通って、レーダーの範囲から外れたいな」
民家を背に静かに移動する。荒船くんはそろそろビルの屋上に着いた頃だろうか。
グラスホッパーもバレるだろうから使えない。村上くんがこちらに来る可能性もあるし、上からは荒船くんが目を光らせている中を掻い潜って移動しないといけないなんて、これどんな鬼畜ゲーだ。
「そもそも追われる理由がわかりませんけど…」
物音に耳を集中させ、レーダーを駆使して2人の位置を確かめながら移動する。荒船くんの視界に入らない様に極力壁を背にし、道路の横断は迅速に。
「…よし、消えた」
ある程度離れるとレーダーからは2人の姿が消えた。
ここまでくれば本部まで逃げた方がいいな、と玉狛に行く予定を消して本部へ向かって道を何本か変えながら走り出した。
◆
「…なんてこと」
本部に程近い民家の影。
視線の先、帰ってきた本部の玄関ホール前には村上くんが居た。私が帰るの見越して先に来たのか、レーダーを使いながら辺りを見回している。
荒船くんの視線を警戒して慎重になっていたのが裏目に出た。
(ああ困った、帰れない)
カメレオンではレーダーに映るし、正面突破なんか以ての外。
バッグワームを着てしゃがみ込んだまま、村上くんの視界に入らぬ様民家の影でじっとしている他無かった。
「…」
仕方ない、裏に回ってグラスホッパー使って開いてる所から入ろ…と身を起こそうと壁に手を伸ばすと、壁につく前にその手が何かに掴まれて壁に押し付けられた。
「っ!?」
振り返れば、何も無い空間。
しかし壁に縫い留められた私の手は全く動かない。ああ、これは。
「…やられた」
荒船くんか、と呟けば、目の前の景色が歪んでゆっくりと荒船くんが姿を現した。え、ちょっと思ったより近いし、か、壁ドン…!
「やっと捕まえましたよ…蒼さん」
日の光に照らされた荒船くんの鋭い目がぎらりと煌いた。
ずるい、カメレオン使うなんて聞いてないぞなんて思いながら、降参の意思を示す為にバッグワームを解除する。
「なんで逃げたんスか」
「荒船くん怒ってる様に見えたからつい…」
「別に蒼さんに対して怒っている訳じゃないんすけど」
「うげ、そうだったの…ごめん」
「ああ、やっと捕まえたのか」
「村上くん…」
「鋼、付き合わせて悪かったな」
「いや…それより、」
鋭い眼光から目を逸らしながら受け答えしていると、こちらに気付いた村上くんが近寄ってきた。依然壁に押し付けられたままの私を見て、村上くんが表情を崩さずに言う。
「そろそろ手を離してやったらどうだ」
「…」
「、逃げないよ」
じっと私を見てから、荒船くんは手を離して立ち上がった。
服に付いた埃を払ってから今度こそ私も立ち上がるが、荒船くんは不機嫌そうに私を見るだけで口を開こうとはしない。
「荒船は、」
「あ、うん」
「蒼さんに稽古つけて貰おうと思って探してたんですよ」
「おい鋼、」
助け舟を出すかのように村上くんが言った言葉。
ああ、誰かに負けて機嫌が悪かったのかな。そう推測した私の表情を見て、村上くんが荒船くんに告げる。
「じゃあ、オレは先に模擬戦してくる」
「…ああ、悪かったな」
「蒼さん、今度オレとも模擬戦して下さい」
「うん、いつでもおいで」
ひらりと手を振って本部へ入っていく村上くん。
残された私が荒船くんを見上げれば、すっと視線を合わせた彼が口を開いた。
「今日、あいつと模擬戦して改めて思ったんスけど」
「村上くんと?」
聞けば、はい、と頷く荒船くん。
ようやく私が捕まったからか、怒りゲージは静かに下降傾向にあるようだ。
「回数重ねる分、やっぱ分が悪いんで、蒼さんにカメレオン使った奇襲でも教えて貰おうと思って探してたんですよ」
「それでカメレオン持ってたのね…いいよ、勿論教えるよ」
今から行く?と聞けば、荒船くんはため息を吐いて言う。
「これから任務です」
「うげ」
「帰ってきたら教えてください」
「あ、もちろん」
「6時半には戻ります」
「じゃあご飯一緒にいこ。奢るよ」
「いいんすか」
「良いよ、手間取らせちゃったし」
そう伝えれば荒船くんはわかりました、と頷いた。
手間取らせちゃったのは本当だし、村上くんの対策するならじっくり話せるほうがいいもんね。
「じゃあ、ちょっと行ってきます」
「了解、気をつけてね」
「はい」
約束を取り付けた荒船くんは、本部の中へと早足に戻っていった。
その後姿を見送り、荒船くんに教えるメニューを考えるべく私も本部へと向かって歩き出した。
逃げ惑う
勘違いからの逃亡劇
(戻りました)
(お帰り、お疲れ様。よし、ご飯行こうか)
(はい)
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