四字熟語シリーズ

 うららかな春の日差しをレースカーテンを通してオレンジとブロンドの頭に受ける。ポカポカした陽気は眠気を誘い、薄まる瞼は意味もなくいじっていたスマートフォンを眺めている。もたれかかった先の一回り小さな身体はしっかりと自分を支え、同じくだらだらとスマートフォンでなにかを見つめていた。
「何見てるん?翔陽くん」
 思いのほか砂糖菓子のようにとろり、甘い猫撫で声が出たけど、そんなことも気にせずに朗らかな声が返ってくる。
「実家で最近犬を飼いだしたみたいなんですけど、夏が写真を送ってくれるんです。柴でまだ小さいんですけど、可愛いんですよ」
 ほら、と肩越しに差し出された画面をスワイプしていく。日向の実家には何度か行ったことがあるが、その雰囲気のまま子犬の柴犬を中心とした写真がずらりと送られていた。その存在は義両親や、夏の満面の笑みを見るにアイドルのように可愛がられているのがよくわかる。隣のその存在も、この位置からでは顔こそ見えないが朗らかに笑うその声はとても嬉しそうだ。つられて口元が緩むとその気配が伝わったのか日向がこちらを向く。
「侑さん?」
 肩にもたれていたものだから、振り返ってきた日向のまろい頬と柔らかなくせ毛が触れる。距離が近すぎるもんだから表情は読み取れなくて。でもその触れたあたたかと声色だけでどんな顔をしているか、連れ添ってきた歳月が判断させた。会話をする前から自然と繋いでいた指先をなぞり、無機質なそれを辿る。掬い取って、何度もブリーチを重ねて痛んだ髪へ誘導するとその絡まった毛を解くように差し入れた。
「なあ今日の昼、パスタにしよ。この間作ってくれたの、うまかったし」
「この間…ああ、桜エビとしらすの入ったペペロンチーノですね!あれは会心の出来でした。まだ材料あったかな…?」
 ゆったりと撫でつける手は止めずに冷蔵庫のある方向へ顔を向ける。心当たりがあったようで、ぽんぽんとリズミカルに後頭部を優しく叩かれると預けていた全体重を解き、立ち上がった日向の顔を今日、久しぶりに見る。それは想像していた通り愛おしそうに侑を映し、にかりと笑う日向は手を差し伸べた。その手を取って、立ち上がる。
「買い物行きましょう!行きは走って、ちょっと遠くのパン屋さんに行って…」
「バタールか、フランスパン?」
 今度は見下げた顔がきょとりと大きな瞳をさらに開き、ふはっと下げた眦が近づいてくる。すぐに離れた唇を追いかけて愛を注いだ。
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