Phi-Brain

あの日のパズルを

「ノノハ、これ解けるか?」

レイツェルとジン、そしてオルペウスの件が片付き、俺たちには日常が戻ってきた。ノノハは今日も日課のように俺の部屋に来て、彼女の定位置となったベッドの上に座り、近くにあったパズルをいじっている。もっとも、手持ち無沙汰だから適当なパズルに触っているというだけで解けてはいない。
そんなノノハに、ふと思い立ってばらばらと渡したのは組み木パズルのピース。パズルが解けない、と自他共に認めている彼女はそれだけであからさまに戸惑いの表情を浮かべた。

「えーっ…カイト、どうやるの?」
「じゃあヒントな。最初の組み方はこう」

ノノハの右隣に腰を降ろすと、二つのピースを選んで組み合わせる。二つだけではぐらぐらと不安定なパズルを左手で押さえて、その指の様子まで見せてから同じようにノノハに持たせた。ノノハはまだピンと来ていない様子で、残りのピースも俺のヒントに従って組み合わせた。三つ、四つ、五つ…。
すると。

「あれ、このパズル…」

小さく呟き顔を上げたノノハの目は、さっきまでのヒントを促す視線とはまるで違う。少し時間はかかったものの、どうやら解き終わる前に気付いたようだ。俺は彼女の記憶力を信じて言葉をかける。

「ノノハの思った通りに解いてみるか。間違えてたらその時は俺が指摘するから」
「…うん!」

明るい返事の中に少しだけ不安の色を滲ませながら。ノノハは忘れていた記憶を探るように、一つずつ丁寧にピースを組み上げていく。かちり、かちり。いつかオルペウスの幻影の中で見た、ノノハにとっては「思い出した」、懐かしい形が姿を現す。
最後に、くるり。このパズルでいちばん面白い動きをするピースをはめると、ノノハはあの頃と同じく瞳をきらきらと輝かせた。

「できた…!できたよっ、カイト!」
「…あぁ。そうだな」

初めてパズルが解けた時を思い出しながら、ではあるけれど。それでも肝心な最後のギミックのところはノノハ一人で、解いてくれた。そのパズルは、かつて俺が教えてノノハが解いた組み木パズル。
きっとオルペウスの件が無ければノノハの中では忘れたままになっていた記憶を、今は確実に思い出してくれた。それを、パズルを解くことで証明してくれた。
その事実が嬉しくて、俺はノノハの希望に溢れた笑顔をいつまでも優しく見守っていた。



fin.

(スキボタンが押されたお礼に載せていたもの。公開日を調べるために遡ったけど分からず…他のジャンルと一緒に公開で2018/08/05か、もしくはそれ以前から…?)

2022/07/31 収納
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