BO-BOBO

嘘つきidentity

僕は何者なんだろう。
OVER城の屋根の上、まだ蕾の多い桜の木を目下に眺めながら、中途半端な自分のルーツに思いを馳せる。

例えば敵から「貴様、何者だ!?」と訊かれればすかさず「必殺五忍衆の一人、無限蹴人!」と答えるし、その肩書きと名前に間違いはない。物心がついた時からこのOVER城で、OVER様の部下として暮らしてきた。
だけど、物心がつく前は?僕の両親は、血縁者は今どうしてる?

「…なんて、本当は薄々気付いてるけどね」

様々な戦力が拮抗している世の中だ。武力抗争も奇襲も多少理不尽な攻撃でさえ何でもありだから、家族を失ったり身寄りが無かったりする人は大勢いる。僕の両親もこの戦乱に巻き込まれた可能性が高いし、それは仕方のないことだとも思う。
でも、これはあくまでも予想で、真実は不明のまま。OVER様なら何か知っているのかもしれないけれど、今のところ積極的に教える気は無いらしく、何も触れずに平凡な日々が過ぎている。あるいはOVER様でも僕についての詳細は知らないのかもしれないが。

「蹴人」

まだ少し幼さの残るソプラノで僕の名前が呼ばれる。聞き慣れたその声に警戒心も持たずに振り返ると、そこには予想通り金髪の少女が立っていた。

「ルビーちゃん。寒くない?」
「ううん、このくらい平気」

彼女は上着を羽織ってきたが、下はいつものミニスカートのまま。日中は温かくなってきたものの、春の夜風はまだ冷える。屋根の上だから尚更だ。彼女はああ言うけれど、これはOVER様に見つかる前に城の中に入らなければ。女の子に風邪をひかせた、なんてことになったら大目玉を食らってしまう。いや、そもそもルビーちゃんが屋根の上にいる時点でOVER様に見つかったら即アウトか?僕らはこれでも忍者だから屋根の上なんて楽勝だし、ルビーちゃんも落ちることはないはずだけど、女の子を屋根に上げること自体咎められそうだ。
…なんてことを考えていると。

「蹴人、あのね、私…」

目を伏せてもじもじと、いかにも言いにくそうにルビーちゃんが言葉を発する。僕は手の動きで一旦隣に座るように促してから、次の言葉を待った。

「あのね…私、今日だけ無限ルビーになりました!」
「…へ?」

ぐらりと視界が傾く。身体に力が入らない。

「ちょっと蹴人、危ない!」

間一髪ルビーちゃんが手をとってくれたおかげで、僕は屋根から落ちずに済んだ。目に入ってきたのは夜空に浮かぶ月と星。もう日付が変わった頃…ということは。

「もしかしてエイプリルフール?」

思い付いた答えを口にすると、ルビーちゃんは無言で頷いた。今日はもう四月一日、嘘をついても良い日。当たり前だがさっきの発言はルビーちゃんの考えた嘘だった。実際彼女が僕と同じ一族だなんて初耳だし、もし嘘じゃないならもっと早くOVER様が教えてくれていただろう。
ただ、一つ疑問が残った。

「どうしてそんな嘘を?他の嘘もあるだろうに…例えばメソポタミアがOVER様に誉められたとか、インダスが饒舌になったとか、黄河が中性的になった…は普通のことか」

持ち前のバランス感覚で屋根の上に戻り、ルビーちゃんの隣に座り直すと、咄嗟に思い付いた嘘の例を挙げて尋ねる。確かに彼女の嘘もすぐにバレて後腐れのない類いのものだから不満はないけれど、その意図がふと気になった。

「それは…蹴人も大切な仲間だから。家族だから!だから同じ名字にしてみたのだ♪」

彼女は年相応の無邪気な笑顔で言い放つ。その様子は一見何も考えていないようだ…けれど、ハッとした。

本当は、気遣ってくれていたのかもしれない。

ルビーちゃんの得意な戦法は、そのあどけない容姿を武器に相手の懐に入り、一緒に遊んで油断したところを攻める、いわゆる「騙し討ち」だ。それゆえに、人の心の動きには誰よりも敏感でいる。きっと、度々一人になって考え事をする僕の様子を以前から知っていて、何か感じたのだろう。味方とはいえ侮れないな。

「ありがとう、ルビーちゃん」
「いえいえ♪」

頭を撫でるとうっとりしたように目を閉じて、僕の肩に体重を預けてきた。妹のように気を許してくれているのが嬉しい半面、意地悪してみたくもなったりして。

「でも、その嘘は僕だけにしたほうがいいかもね」
「えっ?」
「そうだ、結婚する?そうすれば本当に『無限ルビー』になれるよ」
「なっ何言ってるのよ蹴人!バカバカバカ!」
「あははっ、嘘だって」
「もう、許さないんだからぁ!!」

僕のからかいにも素直に応じてポカポカと叩いてくるルビーちゃん。それを無抵抗で受け止めて微笑ましく見ていると、春風がいつもより少し温かく感じられた。

…父さん、母さん。僕には今、こんなに大切な仲間がいるよ。



fin.

(この二人は兄と妹のような雰囲気が好き。仲間意識が勝ってて、お互いに恋にはまだ早いかな?という感じ。)

2015/04/01 公開
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