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二人の平和な日曜日

一週間の疲れをすべて拭い去るべく二度寝を満喫していると、ピンポンピンポンピンポーン、と我が家のインターホンがしつこいほど鳴り響いた。
そして聞こえる、幼馴染みの声。

「カイト、起きてるー?鍵開いてるよね。入るよ、カイトってばー」

入る、と言いながらも俺がドアを開けるまで待っているのは、ノノハの癖であり彼女なりの気遣いだろう。欲を言えば、あまり大声を出さずにおとなしく待ってもらいたいものだが。

「朝からうるせぇな、一回呼べば分かるっつーの」
「でもカイト、一回だと絶対また寝るでしょ。それにほら、ちゃんと朝ご飯も作ってきたんだから!」

ドアを開けると早速差し出された、ノノハ手作りの朝食。ノノハスイーツはまだ体が拒否するけれど、普通の食事なら何事もなく食べることができる。むしろ一人暮らしで毎日自炊は結構厳しいから、なんだかんだで彼女の料理にはお世話になっていた。

「げっ、またネギが入ってる…」
「だって、こうでもしないとカイトの好き嫌いは治らないじゃない」
「…ナイチンゲールとか言われてる割に荒療治だよな」
「カイト、何か言った?」
「いや、別に」

料理の乗った皿を手にして思わず素直じゃない感想を言えば、靴を脱ぎながらもこちらに視線を向けるノノハ。からかいすぎると本気で技をかけてくるから見極めが肝心だけど、どうしても待ちきれずにちょっかいを出したくなるのだ。
まぁそんな微妙な心情を説明したところで彼女が理解できるかは分からないから、言わないけどな。

…なんてことを考えているうちにノノハは部屋に入ってパズルをよせて机の上を布巾で拭いて、あっという間に俺の食事スペースを確保する。続いてベッドメイキング、こちらはノノハ自身の座るスペースを作るため。
一人暮らしの狭い部屋、しかもパズルや本が乱雑に置かれたままでお世辞にも片付いているとは言えない部屋だから、俺が机でご飯を食べる間ノノハが後ろのベッドで待っている、というのはもはや慣れっこ…なのだけれど。

ノノハは、これでいいのだろうか。

彼女に朝食をとったか聞けば、間違いなく肯定の返事が返ってくるはずだ。
しかし、普通ならなるべく一緒に食べたいとか思っているんじゃないだろうか。

「…よし、これで綺麗になった♪」

俺の疑問と裏腹にいつも通りのノノハは早くもベッドメイキングを終えたらしく、今度は整ったベッドの上で横になりながらパズルとにらめっこ。全く気にしていないように見える…が、あくまでも「見える」だけであって本心は分からない。アイツは、特にマイナスの感情はあまり表に出さないところがあるから。
だから…

「ノノハ、今日…折り畳めるようなテーブルでも買いに行くか」

思い切って提案してみると、突然のことに驚いたようなノノハの表情。

「えっ、どうして?」
「どうしてって…今までは一人暮らしだから机で十分って思ってたけど、こうもノノハが頻繁に来たら逆に不便だろ。…飯も結局バラバラに食ってるし」

彼女のほうを振り返らずにそこまで言うと、彼女もようやく真意を理解したらしく…

次の瞬間、急に笑い出した。

「あははっ、カイトそんなこと気にしてたの?」
「うるせぇよ、笑うな!っつーか、何がおかしいんだよ」

尚も笑うノノハを思わず睨むと、ごめんごめんと謝った彼女は理由を述べる。

「だって、一緒に食べるなら私の家で事足りるし…それに私、カイトの布団が好きなんだ」

…は?
前者は納得できるが後者は理解できない。俺の布団が好きなこととテーブルを購入することに、一体何の関係があるというのか。
すると、俺が必死に考えている様子を見かねたノノハはぽつりぽつりと言葉を続ける。

「こうしてカイトの布団に寝転がると、カイトの匂いがするの。私はそれがすごく落ち着くんだけど…テーブルを用意したら、その機会も減っちゃうでしょ?だったら無いほうがいいかなぁって」

にこりと微笑む彼女の頬がほんのり赤いのは、気のせいか自惚れか、それとも真実か。
その答えは、今の俺にはまだ分からないけれど。

「…ありがとな、ノノハ」
「どういたしまして」

もうしばらくは今の生活がいいかもしれない…ノノハにとっても、俺にとっても。

ふと目線を下に向けると、ネギだけが残った皿。苦手だと知っていながらも彼女がこれを入れるのは、俺がいつか克服できると信じているからだろう。…それなら、俺はノノハを喜ばせるしかない。ひっそりと決意して、それらを口に全て掻き込む。
そして綺麗になった皿を見ながら、今日は二人でどう過ごそうかと考えるのだった。



fin.

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2012/03/12 公開
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