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愚かな恋の始まり

「…カイトは、外国から来たんだよね」
「うん、そうだよ」

顔を上げないまま答えるカイト。僕の作ったパズルを解きながら話しているためだ。他のことをしながらでもパズルを解いてくれる、そんなカイトは素敵だと思う、けど。

「向こうにも…今の僕たちみたいにいつも一緒に過ごしてた子、いたの?」

そう尋ねた瞬間、カイトはパズルを解く手を止める。
そして、顔を上げて…満面の笑顔で、僕に言った。

「あぁ!ノノハって奴でさ、パズルは苦手だけどよく二人で遊んでたんだ!」





…あの会話から約十年。
僕は今、カイトを迎えに√学園へ来ていた。

表向きは「クロスフィールド学院への短期留学が決まったカイトの説得と迎え」。もちろん、今の僕の立場や計画については一切カイトに話していない。
だからだろうか、久しぶりの再会に大喜びのカイトは平気な顔で僕を食堂のテラスまで連れてきた。カイトいわく、通称「天才テラス」。いきなりの部外者の訪問に、当然、周りの空気は凍りつく。あからさまに不服そうな態度をとるエジソン、居心地の悪そうなガリレオ、何か言いたげなダ・ヴィンチ。
だが、これが今回の狙いでもある。

カイトをファイ・ブレインにする、そのためには倫理・常識・感情のすべてを捨てさせなければならない。
それには、解道バロンが才能を見出だしたという他のファイ・ブレインの候補者は不必要なのだ。特に今のような馴れ合いの関係は障害でしかない。だから、そこに僕が入ることでカイトを障害から引き離す。
そして事態はまさに思惑通り進んでいた、はずだったのに。



「…そうだ!ねぇルーク君、これ解いてみせて!」

そう言って知恵の輪を差し出してきたのは、POGの間でもパズル能力が皆無で問題外とみなされている女。

「おいノノハ、ルークは作る専門だぞ。いきなり話振られて困ってんじゃねぇか」
「えー、でもパズルを作れるってことは解くほうもできるってことでしょ?それにほら、カイトの友達は大抵パズル得意じゃん!」
「…その理屈が通ったら、お前は俺の友達から外れることになるぞ」
「あっ…でも平気、私はカイトのお目付け役だから」
「だからその保護者みたいな言い方やめろよなー…ルーク、ノノハのことは気にしなくていいからな」
「何よそれ、ひっどーい!」

酷いと言いながらも本気ではないようで、笑顔の彼女。一方、カイトもこの関係が気楽なようで、わざと呆れた表情をしたり、憎まれ口を叩いたり。単純に笑顔の数だけ見ると、僕と接する時のほうがカイトはよく笑っているけれど…彼女には様々な顔を見せている。
そうか。この女が、昔カイトが言っていた…。

「知恵の輪くらい簡単だけど…どうして僕に頼むの?」

先ほど差し出されたそれを受け取りながら、気が付けば僕はそんな質問を投げかけていた。こんなこと、まったく聞く予定も興味も無かったのに。
だが僕の気持ちなど知るよしもない彼女は、微笑みながら答える。

「んー…ルーク君とも仲良くなりたいから、かな」
「…僕がどんな性格で、何を考えているかも知らないのに?」
「うん。知らないからこそ知りたいって思うわけだし…それに、カイトの友達なら絶対いい子だってわかるから。キューちゃんやアナやギャモン君がそうであるようにね」

…なんて短絡的で愚かなんだ。
「カイトの友達なら」を免罪符のように用いて根拠を求めない彼女も…それに言い返せないでいる僕も。

「おい、ギャモンが俺の友達に含まれるっておかしいだろ!こんな奴と友達になった覚えはねぇ!」
「はぁ!?バカの友達なんてこっちこそお断りだバカイト!」

かちゃり、かちゃり。手の中の知恵の輪が音を立てる。カイトの言い争う声が耳に届く。
…だが、それらはどれも遠くに聞こえる。実際の音源はこんなに近くにあるのに。

「…はい、解けた」
「うわぁ、さすがルーク君!私全然解けなくてさぁ」

作り物の笑顔で応対しているのに、彼女は離れた知恵の輪を見て感嘆の声をあげる。
どうして、どうして。

「…どうして、そんなに簡単に信じられるんだい」
「えっ…ルーク君?」
「君はカイトを信用しすぎだ」

それは、せめてもの忠告。

なぜそんなことを言ってしまったのか、その時の僕にわかるはずもなかったけれど。
素直すぎる彼女へ、これから始まる計画に向けての忠告が口をついて出たのだった。
あぁ、なんて愚かなんだ。



fin.

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2012/02/08 公開
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