Phi-Brain

スーパーステップ

カイトのことを天才だと思ったことはない。
それは幼馴染みで身近すぎるせいなのか。確かにカイトはパズルが大得意だけど、他の人より少し優れているくらいだと思っていた。

事実、今でもカイトはただのパズルバカで、パズルは解けても学校の勉強は苦手で、ワッフルが好きでネギが嫌いで、朝は起こしにいかなければいつまでも寝ていて、夜は夕食に誘わなければ間違いなく時間も忘れてパズルを続けていそうな、そんなただの男子高校生。放っておくと遅刻常習犯で食事のバランスも生活習慣も乱れそうだから、私はお目付け役としてカイトの面倒を見ている。賢者のパズルや愚者のパズルに関わるようになってからは尚更、無茶しかねないカイトを放っておくわけにはいかなかった。
カイトが望もうとも望まずとも。
…けれど、最近はその認識も変わりつつあって。

「ノノハー、来週の土曜か日曜空いてるか?ルークから愚者のパズルの解放依頼が来たんだけど」

携帯の画面を見せるようにひらひらと振りながら、カイトはリビングから呼びかけた。台所で夕食の後片付けをしていた私は、記憶をたどりながら言葉を返す。

「来週かぁ…土曜日の午前は女子サッカー部の試合の助っ人頼まれてたっけ」
「そっか、じゃあパズルタイムは日曜な」

そう言うと、ルーク君への返信を打つため再び画面に向き直るカイト。その姿はあまりにも普通で、自然で、…だけど。

「カイト、変わったわよね」
「えっ?」

つい口に出してしまうと、カイトは怪訝そうな顔で訊き返してきた。どうやら私の言葉を否定的に捉えてしまったらしい。違う違う、と切り出して私は簡単に説明する。

「そうじゃないの、悪い意味じゃなくて。…アナと出会ったばかりの頃なんて、私の予定が合わなくても解きに行ってたなぁって」

あの時のカイトは、私がついていく前提で話していると心底迷惑そうにしていた。実際、後から聞いた話では画家に関するアナの知識が無ければ解けないパズルで、私じゃ役に立たなかっただろうけど、当時はそんなこと知らないからすごく気になってモヤモヤして「ノノハ離れ」という言葉でごまかした。
でも、今のカイトは違う。

「…ノノハの記憶力にはかなわねぇな」

カイトは少し苦笑いしてから、挑発するように言う。

「だって、一緒に行かなきゃ気が済まねぇんだろ?」

言葉とは裏腹に優しい目で私を見る今のカイトは、天才なんかじゃない。

「…うん!」

今のカイトは、私を気にかけて守って笑顔にしてくれる、ヒーローだよ。



fin.

(題名は2期EDから。)

2014/03/27 公開
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