Phi-Brain

過去を重ねて

カイトがアナちゃんと賢者のパズルを解いた、次の日の昼休み。

「カイト、食堂行こう!」

昨日のことは気にせず、普段通りにカイトに声をかける。正直、私がいない間にあんなに可愛い子と何があったのか、あれだけ賢者のパズルに対して嫌悪感を示していたのにどうして昨日は晴れ晴れとした表情だったのか、気にならないわけはないけれど。
しかし返ってきたのは「あー…先に行ってろ」なんて素っ気ない言葉。そして当の本人はそのまま教室に残るわけでもなく、むしろ足早に教室を出ていってしまう。この方向はもしかして…

「…第二美術室に行くの?」
「ノノハには関係ねぇ」

第二美術室というのは、旧校舎にあるアナちゃん専用の教室だ。入学以来授業にも出ていないという噂だし、部活の助っ人などでそれなりに人脈のある私でも先週初めて見たくらいだから、きっと四六時中彼女はそこにいる。
否定しないってことは、やっぱりカイトはアナちゃんに会いに行くのかも…。

「なら、私も行く!」
「はぁ!?なんでだよ。食堂にはギャモンやキュービックもいるからそこで待ってろ。時間かかるかもしれないし」
「じゃあ、カイトこそなんでアナちゃんに会いに行くのよ?昨日何かあった?」

勢いのままにそう尋ねると、カイトは急に真面目な顔になって呟いた。

「…アイツ、ずっと一人で美術室に閉じこもっていたんだよな。本人は鳥とか猫の友達がいるから平気そうだけど…ずっと、一人で」

その声はいつもの突っぱねるものとは違って、大人しくてどこか寂しそうで。今目の前にいるカイトは高校生で昔よりもずっと大人びたはずなのに、何かを考えて沈むその表情は幼い頃に見た横顔の記憶と重なる。
…そうか。カイトはアナちゃんが可愛くて美人さんだからって理由じゃなく、ただ純粋に…。



「…それなら、早く行こう!第二美術室!」

言いながらカイトよりも一歩先に出て振り向くと、カイトはあからさまに驚いたような表情。だから、続けて言ってあげる。

「一人でいる寂しさをよくわかっているのは、カイトなんでしょ?」

昔のカイトも、パズルは身近にあって、それはアナちゃんにとっての鳥や猫と同じ存在だっただろうけど…やっぱり、寂しかったから。
両親を失って、異国の地で過ごして、心細い時があったはずだから。
その経験があるからこそ、カイトはアナちゃんを気に掛けているんだ。

…なーんだ。変に勘ぐっていた私がバカみたい。
確かにカイトと仲が良すぎるのはちょっと困るけど、せっかくだから私も仲良くしよう。女の子がいれば何かと心強いしね!

「ほら、早く早く!」
「ちょっ、おい待てよノノハ!」

肩の荷が降りたような感覚で、軽い足取りで、私は階段を駆け下りた。







…ちなみにその直後、私たちはアナが男だという事実を目の当たりにすることになる。



fin.

(アナに対してちゃん付けなのは、その時はまだノノハがアナを女の子だと思っているため。屋敷から帰る時、ノノハがアナに「アナちゃんは楽しかった?」と聞いていたので、男だと知らない頃はちゃん付け、分かってからは呼び捨てかな?)

2011/11/15 公開
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