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それはきっと初恋でした

あちこちから立ち上る、灰色の砂煙。泣き叫ぶ声、爆発音。時々、血の匂い。そんな瓦礫まみれの町で私は一人、布団を頭からかぶっていた。
とうとう私の住む地域にも、毛狩り隊が来たのだ。

「…よし、だいたい処理したな」
「取りこぼしがいないか確認しろよ」

遠くで知らない大人たちの声がする。確か、布団の仲間たちがあわてて逃げていった方向だ。…そして、その直後にたくさんの羽毛が巻き上がっていた方向。

もしかして、皆はもう…。

それを意識した瞬間、みるみる滲む視界。
仲間と思っていたのは私だけで、実際はあからさまに軽蔑されていたのに。「布団のくせに人間を誰一人眠らせられない奴」というレッテルを貼られていたのに。それなのに、涙が溢れてくる。



その時だった。
気配を感じてふと顔を上げると、逆光でぼんやりと見える影。ぶかぶかの帽子をかぶり、右腕は途中から剣のように鋭い形をしている、私と同年代くらいの人間。彼が毛狩り隊だということに気付くまで、そう時間はかからなかった。思わず布団をぎゅっと握りしめる。

「泣いてるのか。答えろ」
「……」
「…答えなければ、殺すぞ」

その少年は剣の先をこちらに向けて、言い放つ。まっすぐな眼差し。きっと彼は自ら志願して毛狩り隊にいるのだろう…私と違い、周囲から存在を認められて。
そこまで考えると、私の中で急に何かが込み上げてきて。

「それなら、早くしてよ…布団として優秀な皆よりも、落ちこぼれの私がいなくなればよかったのに…っ!!」

気がつけば、そんな言葉を発していた。
それは半分が本心で、残りの半分はエゴだったと今になって思う。皆がいないのに私だけが生きるのは申し訳ないと思う気持ちと、それでも生きている私がそんなことを考えるほうが余程失礼だと思う気持ちと。相反する思いが私の中でぐるぐる回って、それでも敵の前で泣くことだけはしたくなかった、次の瞬間。

ざくり。

何かを切り裂いた音が耳元で響く。
反射的に閉じた目をゆっくりと開く…と、そこには、

「えっ…!?」

ふわふわ。
ひらひら。

そこには、白い羽根が舞い上がる光景。
そして、私の頭のすぐ横へ突き刺した右腕の剣を抜く、さっきの少年。今の音は私のかぶっていた布団を切り裂く音で、この羽根はその布団に入っていた物だったのだと、私はようやく理解する。

「…どうして、私を狙わないの」

私たちはお互いに向かい合っていたから、私のことを狙うのは簡単なはずだ。だけど私には新しい傷なんて一つも付いていない。つまり、彼はわざと外れた場所を勢いよく突いたことになる。
敵なのに、どうして。

「…勘違いするなよ。俺は帝国に反抗する者を処理するだけだ。それ以外の奴は興味無い」

逆光の中の影はそう言うと落ちてきた羽根を一つ掴み、私に背を向けてどこかへと歩いていった。

「処理完了、こちら異常無し」

しばらくしてから、遠くでそんな彼の声が聞こえた気がした。



……
……

………



「んん…、あれ?」

目を開けると、いつもの部屋。と言っても、私の部屋じゃないけれど。

「ようやく起きたか。また人のベッドを勝手に占領しやがって」
「ランバダ、様…」
「ほら、書類には目ぇ通しておいたから。まったく、最終チェック頼んどいて寝る奴なんかお前くらいだぞ」
「あ、あはは…すみません」

呆れたように言う彼は私の上司であり、この部屋の主。
そうだった、確か私はランバダ様に書類を提出しに来て、でもちょうど彼が部屋にいなかったから待っていようと思って、つい癖でうたた寝しちゃって、それで…
まだ毛狩り隊に入る前の、夢を見たんだ。

「レム」

さっきよりも少し優しげに、ランバダ様は私の名前を呼ぶ。その声に反応して顔を上げる、と、
ひらりふわり、舞い落ちる一枚の羽根。

「お前が寝てる間に、昔の物を整理してて出てきた奴だが…やるよ」

そう言ってこちらを向いている彼が、あの時の少年と重なって見えたのは、きっと気のせいなんかじゃなくて。

「…はい!」

私は元気良く返事をすると、舞い落ちるその羽根を優しく両手で包んだ。



fin.

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2012/03/22 公開
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