BO-BOBO

未年の最後の日に

「…よし、これで全部買ったか?」
「お餅、飲み物、そば、おせち、おでんの材料…。はい、全部です」

レムは持ってきた買い物メモを確認すると、満足そうに頷いた。今日は大晦日。毛狩り隊も新年を迎える準備の真っ最中である。大掃除に精を出す者、門松を飾る者、正月らしい遊び道具を引っ張り出してくる者。そして俺とレムは買い出し担当というわけだ。二つに分けられた買い物袋のうち、重そうなものを選んで左手に提げる。

「ランバダ様、重くないですか?やっぱりハンペン様も連れてきて、三つに分ければよかったかしら…」
「これくらい平気だ」

確かに荷物は多いが、年末年始は故郷に戻ったり家族と過ごしたりする連中もいる。だから買ったものも隊員全員分よりはずっと少ない。二人でじゅうぶん持てる量だ。

「それに、ハンペンは大掃除で張り切っていただろう。待っているだろうし行くぞ」
「ふふ、それもそうですね」

店の出口へ向かって歩き出すと、レムももう一つの袋を提げて隣に並ぶ。今更何ということもない、いつもの距離感。
年末だからか、店内には家族連れが多い。夕飯を皆で一緒に選ぶ家庭、予約したものを受け取りに来た家庭、大人がご馳走を考えている間子どもたちはお菓子を真剣に選んでいる家庭。しかしそれほど混んでいるわけでもなく、むしろ店側にとっては明日の初売が本番だろう。棚には明日から売られる福袋が既にずらりと並んでいる。この光景だけを見ると平和な世の中だ。

「…なぁ、レム。家族ってのも、案外悪くないかもな」

言ってしまってから、急に気恥ずかしくなって目線を逸らした。家族に嫌な思い出のある彼女だが、そんなのは特殊なケースで、本来はそうじゃないと伝えたかった、ただそれだけなのに。
しかし…

「…レム?」

待てども反応が無い。小声で聞こえなかったか、独り言と判断されたか。
意を決して斜め下にある彼女の表情を盗み見ると、キラキラとした目でどこか遠くを見つめている。
その視線の先には…

「…ワゴンセール?」
「あっ、いえ、なんでもないです!」

今度は独り言なのにしっかり聞こえたらしく、レムはぶんぶんと首を振る。なぜそんなに必死なのか気になってよく見ると、『歳末売り尽くし』の貼り紙がされたワゴンの中には羊のクッション。羊のモチーフの雑貨なんて年中売られているのに、明日から申年だからか、パステルカラーの羊が行儀よく並んでいた。

「欲しいのか?」
「いえっ、そういうわけでは!…ただ、かわいそうだなぁって思って…」

そう言う彼女が少し寂しそうに見えたのは、俺だけだろうか。
だが、そうだとしても。

「…さすがに全部連れて帰るのは無理だから、どれか一つにしろよ」

照れ隠しに空いた右手でレムの頭をぽんぽんと撫でてやると、彼女は一瞬驚いてから、すぐに嬉しそうな顔を見せた。

「…っ、はい!ありがとうございます!」

お礼を言う時の満面の笑みと、その後どれにするかじっくりと吟味する姿は、まるで子どものように無邪気で。
家族と言ってもコイツはまだ子ども役だな、なんて考えたら気恥ずかしくなる必要はやっぱりなかったのかもしれない。



…やがて。

「ランバダ様、決めました!この子にします!」

そう言ってレムが大切そうに抱えてきたのは、薄紫色の羊のクッション。その色を選んだのは無意識か、それとも確信犯なのか。
尚もニコニコとして俺の様子を窺うレムが子憎たらしく思えて、今度は頭をグシャグシャとしてやった。

「さっさと買って帰るぞ。そろそろ大掃除も終わっている頃だろ」
「はい、ランバダ様!」
「お年玉代わりに買ってやるんだから、大切にしろよ」
「はいっ、この子を家族だと思って過ごしますね!」
「お前、さっきのやっぱり聞こえてたのかよ!?あー、その、あれはそういう意味じゃなくてだな…!」
「え?そういう意味って…?」
「…いや、いい。気にするな」

…願わくば、来年もコイツと笑って過ごせるように。



fin.

(一緒に買い物に行き羊のものを買うランレム。しかし途中のランバダのセリフがなぜかプロポーズっぽくなり、完成したのは小悪魔なレムと振り回されるランバダ。)

2015/12/31 公開
29/40ページ